【CEDEC+KYUSHU 2018】レベルファイブ流のアート制作術を伝授…ゼロから生み出すキャラクター&世界観デザイン


CEDEC+KYUSHU 2018実行委員会は、12月1日、九州産業大学1号館(福岡市)にて、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2018」を開催した。

本稿では、当日に実施されたセッション「レベルファイブ アート制作術~ゼロからイチのアイディアを生み出す秘訣~」のレポートをお届けしていく。

こちらのセッションには、レベルファイブでアートクリエイティブ統括部 執行役員/ゼネラルマネージャーを務める梁井信之氏と、アートクリエイティブ統括部 アートチームでセクションリーダーを務める長野拓造氏が登壇。作品のベースとなる世界観を生み出すためのコツや手法、常識にとらわれずゼロから「イチ」を生み出す過程など、アート制作におけるアイディア着想の秘訣について実例を交えながら話を展開した。
 

▲レベルファイブの梁井信之氏(写真右)と長野拓造氏(写真左)。梁井氏は『白騎士物語』や『二ノ国』シリーズ、『妖怪ウォッチ』シリーズなどでアートディレクターとして背景を中心とした世界観設定を担当してきた。一方、長野氏は『レイトン教授』『イナズマイレブン』『妖怪ウォッチ』『スナックワールド』など、各シリーズでキャラクターデザインを担当してきた。
 
今年で設立20年を迎えたレベルファイブは、これまでに多くのヒットタイトルを生み出している。以下はリリースしてきたタイトルの一部。
 

 
では、こうした作品の個性を司るキャラクターや世界観のアートワークはどのようにして生まれるのか。まずは社内で企画や基礎設定のやり取りがどのように行われているかを紹介した。
 

▲日野氏が立案した企画や物語設定を基に、梁井氏と長野氏がイメージを共有して、キャラクターや世界を構築し、作品の個性を作り上げることが多いという。
 
ここで、梁井氏はその実例としていくつかの具体例を紹介した。




▲ひとつひとつの要素を形にして作品性を生み出している。
 
作品を生み出すためには何から始めるのが良いか。まずはキャラクターデザインについて、ゼロからイチのアイディアを生み出す秘訣をテーマに長野氏が話を展開。
 
最初に長野氏は、キャラクターデザインを行ううえではまず「ターゲットを意識すること」が大前提であると語る。「僕らの描いたものは最終的にゲームやアニメになるが、その先で見てくれる人を意識しないと売れない」と述べた。
 

▲例えば、『レイトン教授』シリーズであれば「子供から大人まで、幅広くの層にナゾ解きを遊んでもらいたい」という狙いがある。そこから、このような頭の体操を好むユーザーはどのような人物かを想像し、親しみやすいヨーロッパ風のキャラクターを作り上げた。
 

▲小学生男子をターゲットにした『イナズマイレブン』では、昭和世代の「週刊少年ジャンプ」の熱いイメージから、自身が読んでいた頃を重ねてキャラクターを作ったという。
 

▲ギャグの要素も取り入れた『スナックワールド』では、さらに低年齢層を意識して「コロコロコミック」のようなものを意識していたとか。そのため、キャラの等身は低いながらも表情は豊かにアニメーションするようになっている。
 
ここからはより具体的に、どのようにしてキャラクターを作り上げてきたかを説明した。
 
例えば、『レイトン教授』シリーズなどでは、四角や丸など、図形からキャラクターの性格やシルエットをイメージして作り上げたることもあるそうだ。全身のシルエットを四角や丸にしたりすることもあれば、顔だけ四角くしたり、目を四角にするなど、身体の一部に図形が用いられることもあるとか。


▲また長野氏は、主人公のイメージカラーを決めた後、被らないように周りのキャラクターにも色を当てはめていくと説明した。『妖怪ウォッチ』で主人公の色を赤に決めたのは、元気で明るい感じを出したかったためとのこと。ぼやけた色を当てはめてしまうとモブのように存在感が薄くなってしまう危惧があるため、周りもはっきりとした色を当てはめていったという。
 

▲自分の発想にはないところからキャラクターをデザインする手法。壁に付いたガムテープの跡が「顔に見える」というところからキャラクターを作り上げている。長野氏は、時にはゆるく考えることも秘訣のひとつであると話した。
 
さらに、ここからは最近取り組んでいる手法として「要素の分解と構築」を紹介。これにより、自分の中でぼんやりとしていたものを明確にすることを意識しているとのこと。
 
今回の講演では、『妖怪ウォッチ』に登場する「夜叉エンマ」が事例として挙げられた。夜叉エンマを作る際には、「妖怪」「王子」「かっこいい」というキーワードが挙げられたという。この中で「かっこいい」は、人それぞれに感じ方が違う部分で、色々な形の「かっこいい」が想像できてしまうと長野氏は言及する。そこで、まずは「かっこいい」を分解することに。続いて、その中から「妖怪」と「王子」に反する項目を消去していった。
 

 
そうして残った要素が再構築されて完成したキャラクターが以下のデザインである。
 

▲長野氏は、「かっこいい」というイメージをスライドさせていくことでキャラクターを作り上げ、他の組み合わせとの兼ね合いでまとまっていれば良いと述べた。
 
ここで梁井氏から苦労を問われた長野氏は「ネタ切れすること」と回答。アイディアがなくなったからこそ、今このように分解と再構築による新しい取り組みをしていると話した。一例として、空の雲を見たとき、「かっこいい」「怖い」「悲しい」など、”何故、自分はそう感じるのか”をしっかりと見つめることで、その形や色がそう感じさせるのだと分かると話をまとめた。
 


講演の後半は梁井氏が世界観デザインについて、ゼロからイチのアイディアを生み出す秘訣を伝授。まず梁井氏は、世界観をデザインするうえで「わくわく感」や「説得力」、「分かりやすさ」を大切にしていると話す。それぞれの理由として、楽しそうだと思える世界観にするため「わくわく感」を意識し、架空の世界を描いているので嘘っぽくならないように「説得力」が必要となる。そして、レベルファイブには子供向けタイトルが多いということもあり、難解なものにならないよう「分かりやすさ」を心掛けていると説明した。
 
続いて梁井氏は、個性的な世界観デザインを生み出す秘訣として「対照」と「ミックス」という2つのポイントを挙げた。
 
「対照」の事例として挙げられた『妖怪ウォッチ』では、「妖怪」と「人間」という対照的な存在を描いている。そして、さらに妖怪を引き立てるため、妖怪のイメージとはかけ離れた「普通の日常」を描いているのだと解説した。
 

 
では、普通の日常を作り上げていくためにはどのようにすればよいのか。梁井氏はまず、如何に実在しそうな町を作り上げるかということを考え、情報を洗い出したうえで自然に見えるような構成を考えたと当時を振り返った。
 

▲「川の近くに町がある」、「町があるなら駅がある」というように想像を膨らませて、観光地図のようなものを作った。そこから、各所の参考写真を並べて町の全体像が想像できるように情報整理をしていたという。また、画像左に見られる地図は十字が多く見られるが、「操作のしやすさ」や「東西南北の分かりやすさ」などを意識しているなど、ゲームならではのポイントも聞けた。
 

▲初期スケッチは日常の一コマを思い浮かべながら絵にしているとのこと。
 

▲こちらは町全体の初期スケッチ。この頃は、よりとっつきやすさを意識していたためコミカルな表現になっていると梁井氏は述べた。
 


▲最初は背景の個性が強くキャラクターが埋もれてしまっていたため、ライティングや影の落ち方まで自然に見えるように描いたとのこと。

さらに、町のエリアにも対照的な要素が含まれていると梁井氏は話す。



▲近代的な「新興住宅地」の隣に「古い住宅地」。近代的な商業地区である「シティ区」の横には「古い商店街」を置くなど、新しいものと古いもので対照を表現。常にお互いを引き立てる関係にしている。
 
ここまでの話で梁井氏は、「対照的にすることでそれぞれの個性がより強調される」とひとつ目のポイントをまとめた。
 
ポイントの2つ目は「ミックス」について。こちらは妖怪たちの世界を事例として紹介。妖怪の世界と聞くと、既に金字塔として『ゲゲゲの鬼太郎』が存在しているため、『妖怪ウォッチ』では「墓場」や「火の玉」といったシリアスなものを登場させず、「愉快な世界観にしたい」をコンセプトに作り上げたと梁井氏は説明した。
 

▲ここでは、長野氏と同じく要素の分解から発想を展開したとのこと。自分なりのアイディアソースを考え、それらをミックスすることで妖怪たちの世界を描いた。
 

▲江戸の街並みやお祭りっぽい賑やかさをイメージして作り上げた初期スケッチ。長野氏の「空の色が独特ですね」とのコメントに対して梁井氏は「妖怪の世界は人間界と違って、朝や夜など時間変化があるのかも分からない超越した世界にしたかった」と理由を答えてくれた。
 
こうして完成した初期スケッチだが、梁井氏は「まだ見ていても面白くない」と述べる。意外性がないと感じたため、建物に対照的な要素を加えてみることに。
 


▲「人体」×「現代的街並み」を取り入れた完成イメージがこちら。舗装された道路や建物に目玉を付けるなど、一目見て「楽しそう」と思える世界を作り上げた。
 
そのほか、ミックスした事例として『二ノ国』に登場した「建物」×「動物」で作ったイラストや、『白騎士物語』に登場した「植物」や「モンスター」の要素を取り入れた建物をいくつか紹介した。

『二ノ国』




『白騎士物語』




こうしたところから、実在する建物の中にも、現地のものから着想を得てデザインしているものがあるのではないかと梁井氏は語る。だからこそ、リアリティや説得力が生まれるのだと思っていると話した。そして、対照要素をミックスすることで意外性のあるアイディアを生み出していると自身の秘訣をまとめた。
 
最後に梁井氏は、こうしたゼロからイチのアイディアを生み出す秘訣は、はじめは無意識的にやっていたことだが、だんだん意識的にできるようになってきたと振り返る。これまで何気なくやってきたことが大事であることを伝えるために、今回のテーマに選択したと述べて講演の締めとした。

 
(取材・文 編集部:山岡広樹) 



■関連サイト
 

CEDEC+KYUSHU 2018

株式会社レベルファイブ
http://www.level5.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社レベルファイブ
設立
1998年10月
代表者
代表者 日野 晃博
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