スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2014年の市場動向と2015年のトレンドを読み解く特別企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2014-2015」。
gumi< 3903>といえば、2014年の年末に新規上場を果たしたモバイルゲーム企業大手だが、同社ほど毀誉褒貶の激しい会社も珍しい。2013年4月期にネイティブシフトと海外での子会社展開などで11億円程度の経常損失を計上して話題を集めたかと思えば、子会社エイリムの提供する『ブレイブ フロンティア』が国内だけでなく、海外版も北米やタイ、台湾、韓国などで大ヒットを記録し、国内モバイルゲーム企業の最大手の1社となった。今回、國光宏尚社長にインタビューを行い、2014年の市場動向と同社の取り組み、そして、2015年の見通しと同社の戦略を聞いた。
■2014年の市場成長は続く 新ジャンルの作品に脚光
株式会社 gumi
代表取締役社長
國光宏尚 氏
――:本日はよろしくお願いします。はじめに、2014年のスマホゲーム市場についてどうみられていますか。
2014年のアプリ市場は引き続き順調に伸びてきました。マーケットでは、アプリの開発費がますます大きくなってくるとともに、アプリストアの各種ランキングの上位に入ることの難易度が高くなってきました。またその一方で、IPタイトルが底堅かったのもひとつの特徴です。
ランキング上位に入ることが難しくなったことについては、開発費の高騰に伴い進んできた面があります。リリースされる新作ゲームをみると、製作規模が大きくなっていることが伺えます。しっかり作りこんだ市場ではないとヒットしない状況になっています。
2015年は、この傾向がより明確となり、勝ち組と負け組の差が顕著になるのではないでしょうか。お客様からアプリに求められる水準も2014年とは比べ物にならないくらい上がってくると考えています。今年リリースされたヒットタイトルの水準を最低線に設定して、それを上回るものでないと土俵にも登れない、ということになるかもしれません。
――:気になったタイトルやジャンルはありますか。
やはり今年は、Machine Zoneさんの『Game of War』と、マーベラスさんとAimingさんの『剣と魔法のログレス』を挙げたいですね。いままで国内でヒットしたタイトルは、カードバトルゲームから世界観やストーリー、ゲームのコアとなる要素を進化させた作品が多く、両タイトルのゲームモデルが日本でも流行するのか、半信半疑だった人が多いかと思います。
▲『Game of War』
▲『剣と魔法のログレス いにしえの女神』
来年はジャンルが一挙に多様化すると思います。カードバトルゲームからの進化型については高品質化が求められるでしょう。同時に、新しいジャンルのタイトルが多く出てきて、そこからヒット作品が出てくると見ています。両タイトルのヒットは、来年出てくるであろう、トレンドの兆候といえるのではないでしょうか。
■gumiの展開…グミノミクスに一定の成果
――:私も『Game of War』のヒットは意外でした。御社の展開を伺いたいのですが。
まず、海外についてはこれまでに世界8拠点を展開しました。従業員が連結で840名で、国内と海外が半々となりました。売り上げも国内と海外が半々といったところです。世界展開の準備が十二分に整い、次の展開が見えてきただけでなく、実績も伴った1年かなと思います。
パブリッシングビジネスについては準備が整ってきました。『ブレイブ フロンティア』に続き、セガネットワークスさん『チェインクロニクル』、アカツキさん『サウザンドメモリーズ』のパブリッシングを行います。こちらもご注目いただきたいと思います。
内製ゲームに関しては、いわゆるネイティブシフトを引き続き行いました。まず、ネイティブアプリ版『ドラゴンジェネシス -聖戦の絆-』を出しました。ブラウザゲームの影響が残るリアルタイムバトルゲームですが、それなりの運営成績になっています。
もうひとつはgumiと株式会社フジ・スタートアップ・ベンチャーズにより設立された株式会社Fuji & gumi Gamesの開発した『ファントムオブキル』と、バンダイナムコゲームスさんとの共同開発作品である『ソードアート・オンライン コード・レジスタ』もリリースされました。両タイトルともに順調な出足です。
―――:いずれもアプリストアのセールスランキングでも良い順位にはきていますよね。『ファントムオブキル』も、先ほどおっしゃった新ジャンルのひとつともいえるんじゃないですか。
そういわれるとそうですね。自社ゲームなので抑え気味にしました(笑)。いままでのスマートフォンゲームでは、1回のアクセスで5~10分のプレイが最適といわれてきましたが、『ファントムオブキル』は、1度のプレイで長時間遊ぶようなタイトルになっています。2015年に向けた準備も整ってきましたので、こちらもご期待ください。
▲『ファントムオブキル』
――:しかし、ネイティブシフトと海外展開を同時に進めたわけですよね。相当大変だったのではないでしょうか。
極めて大変でした。「目論見書」などをご覧になるとわかるか思いますが、2013年4月期は経常損益が11億円を超える赤字を出しました。当時、為替が1ドル=80円台でしたから、いまの水準だったらもっと赤字が膨らんだはずです。先行投資が一段落した段階で、円安が進むとともに海外の収益が出るようになりました。いろいろな意味で運が良かったのではないかと思います。
【gumiの経常利益の推移(単位:百万円)】
※12年4月期までは単独決算。15年4月期は予想(会社発表)※グラフは有価証券届出書および会社側発表資料より作成
――:これだけ赤字を出したら、普通の経営者だとビビって、目先の数字をとりにいってしまうと思います。うまくいくという確信はあったんですか。
当社は、GREEを中心にブラウザゲームを展開しましたが、3年ほど前からネイティブシフトと海外展開のための先行投資に一気に行いました。ネイティブアプリは、モバイルゲームの中心になることは明らかでしたし、iOSとAndroidを搭載したスマートフォンが世界的に普及するとなれば、海外市場もそう遠くないうちに立ち上がると考えていました。
こうした予測は、そんなに特殊なものではありません。スマートフォンは国内だけでなく海外でも広がるわけですから、市場はどんどん右肩上がりで伸びていきます。そういう市場の中で、競合に比べて相対的に優位なポジションをとり続ければ、その市場で勝ち続けることができると考えていました。ですから戦略や方向性への自信は揺らぎませんでした。
戦略や目指す方向性をステークホルダーに理解し共感してもらえれば、多少の赤字が出ても揺らぎません。私はもちろん、役員や従業員も割と平然としていました。過去3度の倒産の危機を乗り越えた経験がありますから(笑)、「頑張れば何とかできる」と良い意味で楽観していました。
――:ネイティブシフトも『ドラゴンジェネシス』もストアのランキングでも上位に入ることが珍しくないですよね。
そうですね。結構なヒット率ですよね(笑)。ネイティブシフトを続けてきて、苦労してきた分、ここにきて開発・運営力が向上し、地力がついてきたと思います。国内400名ほどの従業員がいますが、ようやくネイティブシフトが完了したと言えます。
既存の開発スタッフに勉強してもらい、ネイティブアプリの開発技術やノウハウを身につけてもらいつつ、家庭用ゲームソフトで十分な経験を積んだ開発者にも入ってもらい、ネイティブゲームの開発力の引き上げを行ってきました。
例えば、ゲーム開発子会社のFenrisは、もともと家庭用ゲームソフトを数多く手がけてきたネバーランドカンパニーの開発チームに入ってもらったもので、いま頑張って開発を続けています。
■2015年の展望…中国と欧米が熱い市場に、CGCや録画機能にも注目
――:2015年の市場についてはどうお考えでしょうか。
2015年については、日本市場は引き続き順調に伸びていくでしょうが、海外は日本以上のペースで伸びていくと見ています。市場として熱くなりそうなのが、中国と欧米で、市場として本格的に立ち上がってくると思います。その裏では、東南アジアや中南米、ロシアなどの新興国が成長の兆しを見せてくるのではないかと思います。
――:2015年で注目しているジャンルは。これまで流行していないジャンルの作品が流行るとのことでしたが。
もうひとつは、リアルタイムでのつながりがより注目されてくるでしょう。『Game of War』は、その意味で一つの答えで、基本は1人で遊べるけど、より深く楽しもうとすればギルドに入って協力する必要がある、といった形です。リアルタイムでずっとつながっているのはプレイヤー側でもしんどい部分があるでしょうから。
さらに来年、兆候として出そうなのが、『Minecraft』にみられるようなユーザーがジェネレートする要素です。ユーザー自身がゲーム内でマップやステージなどを作って、他のユーザーがそれに挑戦する、といったものです。そして、その模様をKamcodeやLobiなどを使って録画してソーシャルメディアでシェアして楽しむといった遊び方ですね。遊び方やコミュニケーションのループがゲームの中だけで完結せず、広がりがでてくると見ています。
もうひとつはアクション系のゲームですね。スキルインボルブ型のゲームが増えるでしょう。いままでのソーシャルゲームではお金と時間をかければ強くなるものでしたが、プレイして徐々にうまくなってクリアできる楽しさがあります。課金じゃなくて自分が頑張ることで上達してうまくなる。それを録画してシェアする、といったこともあります。
――:後ろの2つは新しい遊び方として注目されそうですね。
はい。来年は1年間、いままでなかったゲームや遊び方が花盛りになるでしょうね。特にUGC要素と録画については、『リーグ・オブ・レジェンド』などPCゲームでは行われてきましたが、今後はよりカジュアルなスマートフォンで行われると思います。
■gumiの取り組み…海外展開・パブリッシング・自社開発を引き続き強化
――:スマートフォンならではの新しい遊び方と言えそうですね。先ほど触れましたが、2015年の御社の取り組みを教えて下さい。
2014年までの取り組みを継続していくことになります。グローバルな拠点展開を2014年以上に進めていきます。8カ所の拠点からさらに加速していきます。またパブリッシングビジネスの強化も図ります。
自社のタイトルに関しては、RPGについては他社を圧倒するクオリティのゲームを作っていくとともに、新しいジャンルのゲームアプリの開発を行っていくことになります。この分野は、色々なゲームがでていてお客様の求める水準が上がっています。よく出来たゲームというだけでは不十分で、新しい遊びや驚きを提供することが重要です。
――:もうひとつの新しいジャンルのタイトルも気になりますね。
色々と考えられます。スポーツゲームはまだ十分再発明されていませんし、様々なジャンルのスポーツ、レーシングゲーム、アクションゲーム、そしてMMORPGなど、スマートフォンアプリとしては試行錯誤している段階で、まだ再発明されているとは言いがたい状況にあると考えています。海外ではFPSなども同様です。さらにUGC的な要素とゲーム動画の作成、ソーシャルメディアでのシェアしてもらう仕組みをより意識的に組み込んでいきます。
次の期に向けて仕込んでいるタイトルは質量ともに充実し、みなさん驚くと思います。色々なジャンルのタイトルもやっています。王道RPGはクオリティが非常に高いものになりますし、新しいジャンルも「こんなのがあるのか」と思ってもらえるはずです。ご期待ください。
■海外展開のコツは日本人を送らないこと 信頼できるトップを採用する
――:日本のモバイルゲーム会社が海外子会社を設立しても、あまりうまくいっていないケースが多いようです。こうしたなか、御社はなぜうまくいっているのでしょうか。
いま当社グループでは「Think Global, Act Local」をスローガンに掲げています。グローバルに物事を考えて、徹底的に現地化を進める、というローカルで強い企業を作ることをまず徹底してきました。他の会社に比べてうまくいっているのは、このあたりが要因ではないかと思います。
日本企業のグローバル展開というと、つい日本からスタッフを送り込んで日本流を導入しがちです。しかし、現地の子会社が戦うのはあくまで現地企業です。そして勝つためには、現地市場や戦い方のことをよく知っていて人材が必要になります。例えば、日本市場で勝とうとしたら、中国や韓国から送り込んだスタッフだけで勝てるでしょうか?
2015年の海外展開の課題ですが、強いローカル企業となるだけでなく、グローバルの会社としての強みを出していくことです。世界各地に点在するローカル企業同士が協調・協力していくことです。つまり、「Think Global」といった側面を強化していきたいと考えています。
――:現地の優秀なトップを中心とする強いローカル企業を作ることが大切ということですか。日本からあえてスタッフを送り込まないというのは興味深いですね。現地の優秀なトップ人材を採用することが重要と。
優秀な人材にきてもらおうとすると、良い報酬を出すだけでなく、ビジョンや夢を共有できることが第一です。そして成功した暁には、しっかりとした報酬を出すことです。私も直接、「世界一を獲ろう!」などと伝えて考えや夢を共有しつつ、現地の競合よりも魅力的な報酬を出しています。
ビジョンの共有は口で言うのは簡単ですが、実際にやるとなると本当に大変です。外国人相手に何度も何度も話すのはエネルギーを要します。日本人に向けてビジョンを話すことの方がはるかに楽です。このしんどい仕事を心を折れずにやり続けることが大切です。
――:夢やビジョンの共有には相当時間をかけたのですか。
採用前の段階でも相当時間を費やしましたし、入社後も同じです。ネットが発達してビデオ会議やメールでのやりとりができるようになっていても、やはり直接顔を合わせて話をしないと十分伝わらない、と感じました。移動時間がもったいないと思っても、私が会いに行ったり、逆に向こうから来てもらったりして、話をして考えを一致させつつ、お互いの信頼関係を醸成するように努めました。
――:御社の海外売上が大きいのは、こうした地道でしんどい仕事を先駆けて行ってきたことが大きいんですね。昨今の円安もありますし、これから日本企業が出て行って同じことをやろうとすると大変そうです。これから海外展開をやろうとする会社は御社と組むのもいいのかもしれませんね。
日本国内では競合ですが、海外市場にでれば仲間です。日本のモバイルゲームの会社は、世界的にも独創的で優れた作品を作れますので、当社の海外展開の能力を組み合わせることで世界市場でも十分勝負していけると考えています。日本国内の様々な会社とご一緒させていただき、Win-Winの関係を築きあげたいと考えています。
――:本日はありがとうございました。
(編集部 木村英彦)
■gumi
■関連サイト
©2014 川原 礫/アスキー・メディアワークス刊/SAOⅡ Project
©BANDAI NAMCO Games Inc.
© 2014 Fuji&gumi Games, Inc. All Rights Reserved.
© Machine Zone Inc.
©MarvelousAQL Inc. Aiming Inc.
会社情報
- 会社名
- 株式会社gumi
- 設立
- 2007年6月
- 代表者
- 川本 寛之
- 決算期
- 4月
- 直近業績
- 売上高160億0900万円、営業利益4億4700万円、経常損益1900万円の赤字、最終利益4億4500万円(2023年4月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3903