【UNREAL FEST EAST 2017】水口哲也氏「僕らは仲間を探している」 『Rez Infinite』の制作秘話と今後の展望をお届け

Epic Games Japanは、10月8日、Unreal Engineに関する大型勉強会「UNREAL FEST EAST 2017」をパシフィコ横浜で開催した。

その中では、Enhance社 代表の水口哲也氏の講演「Rez Infiniteはいかにして生まれたか - 我々が目指すシナスタジア(共感覚)表現の未来」の内容を紹介する。



■Enhance社の誕生、自由に創作するためのステップとは
 

▲Enhance社 代表 水口哲也氏
 
講演開始直後、「本日はテクニカルな話はなく、コンセプチャルな話になります。もし技術的な話を期待している方は他のセッションへお願いします」と、会場の笑いを誘った水口氏。

同氏はまず、シナスタジアという言葉の意味とEnhance社の成り立ちについて説明した。

シナスタジアは古くから使われている言葉で、100年程前のアーティストたちが使っていた言葉で、共感覚的な表現、そんな意味を持っている。

表現方法がキャンバスを使った一枚の絵や演劇での表現しかなかった、そんな時代の話だ。その中でも有名なのがカンディンスキーという画家で、彼は音のインスピレーションを元にその一生を以って絵を書き続けた人で、水口氏に大きな影響を与えている。

2001年に『Rez』を開発していた際には様々なイメージがあるのに結局4:3の平面的なディスプレイに絵を押し込めることが非常にフラストレーションだったという。

現代ではキャンバスの代わりにVRとUEのような制作ツールが出てきて、表現の幅が広がっている。

水口氏は、そんな中で唯一無二の忘れがたいような、表現体験ができる共感覚的な事を作っていきたいと熱く語った。
 

▲唯一無二の忘れがたいような、表現体験ができるものを共感覚的につくたい。
VR/AR/MRの力を心底信じている。
未来を現在に出現させたい。

そんなシナスタジアを追求するために水口氏はどんな形態を取ったのだろうか。それはアメリカで会社を建てることから始まっている。

水口氏が代表を務めるEnhance社は設立当初3人でスタートし、現在ではIPの企画開発・プロデュース・資金調達・マーケティング・パブリッシングなど、10名程度のスタッフがグローバルに働いている。

いろいろなスタジオやクリエイターとアライアンスを組み、開発を直接行うわけではなく企画を立案するのがメインで、映画業界でいう配給会社やプロデューサーカンパニーのようなスタイルをとっている。

実際に『Rez Infinite』の開発はMonstars Inc.やレゾネアという会社が行っており、Monstars Inc.の代表 小寺攻氏は水口氏とセガ時代から一緒に仕事していた仲だという。

また音楽やアートを担当するレゾネアは、水口氏が代表を務めており、同タイトルはこの3社で開発している。

『Rez Infinite』の開発にあたっては借金をして開発したと水口氏は明かしており、その後Enhance社で資金調達を行い、マーケティングをしてリリースしたそうだ。
 

▲「僕、楽しそうに見えますよね?」と会場に訪ねる水口氏
 
借金までして自分の理想とする体験をこの世に生み出すことを選んだ水口氏だが、「ゲーム業界に27年いて今が最高に楽しい」と嬉しそうに話していた。

楽しい原因として、"本当に自分が好きなことができている" 、"パブリッシャーである"、"UnrealEngineという開発エンジンの重要性"というのが、その理由だ。

パブリッシャーになって楽しくなった理由として、昔であれば会社に所属して、会社で売ってもらうしか方法が無く、そこにたどり着くのまでの過程、「お願い」「プレゼン」「予算調達」「販売」というサイクルの時代が続いており、水口氏にとってそのスタイルには違和感を感じていたという。

「なぜ、映画業界のように自由でダイナミックにならないのか?」というのが水口氏が強調していたポイントだ。

今ではデジタル配信ができるようになってパッケージを作って売る必要がなくなったこと、これは本当に大きいことだと水口氏は語った。

もちろんデジタルダウンロードとパッケージを比較すると、片方だけでは無視できない販売数があった。パッケージの売上はデジタル配信の同等かそれ以上だったという。

Enhance社はそういう意味では半分以上のロスがあるものの、「自分達で思うようにマーケティングをして、販売出来る事は非常に自由でヘルシーさを実感している」とその胸の内を明かした。
 

またすごく大事な事として挙げたのが、UnrealEngine(以下、UE)を始めとする開発エンジンの重要性だ。開発エンジンがなかった時代はどのメーカでも自社製のエンジンを作ってゲームを作っており、それが当たり前だった。

だんだん開発エンジンが出てくるようになって、そのレべルが上がり、様々なプロットフォーム向けの出力と色々な表現ができるように進化を遂げた歴史がある。

これらの条件が揃って、初めて今、自由で楽しい雰囲気、そういう時代を実感しているのだという。


■『Rez Infinite』で酔いが少なかった理由、教えます
 

話は『Rez Infinite』の開発にあたってなぜUEを使ったのかに移る。UEを使った理由としてパーティクル(粒子)を使って立体的に見るような表現にしたかったからだという。
 

同タイトルには初期の『Rez』も含まれているが、実際にUEが使用されたのは「AreaX」で、次回作に向けたプロローグとして作ったそうだ。

リリースは既にPlayStation 4、PC(Steam、Oculus)で配信しており、現在GoogleのモバイルVRプラットフォーム向けであるDayDream向けも開発中だ。
 

▲英国のゲーム雑誌「EGDE」。水口氏が尊敬している雑誌でもあり、2017年のThe Greatest VideoGames に『Rez Infinite』が18位にランクインした。
「色んな賞をもらうよりも嬉しい、今まで何万本というゲームが作られたが、その中での18位は身が震える思いです。」と嬉しさを爆発させていた。
 

VRと言えば、酔いの問題が必ず付きまとう。特に水口氏がイメージする体験は"とても気持ちのよい体験"を提供するというもので、酔いは致命的な問題となってしまう。

そのためリリースぎりぎりまでチューニングを重ね、その結果数値的に見れば随分少なく抑えることができたという。

なぜ抑えることができたかという点に関しても言及している。

VRは重いし疲れる。体験としてはそもそもマイナスの面が多いプラットフォームで、開発当初はVRを付けてのプレイは15分が限界だろうと想定していた。

だが逆転の発想とも言うべきか、30分の体験でも気持ち良いのであれば問題ないとし、どうすれば気持ちよくなるかを考えたそうだ。

『Rez Infinite』のシナスタジア体験は、自分のアクションした際の効果音が音楽的に再生する。

体験者に音楽感がなくても、「自分がイケてる」ような気がする。演奏感が出てきてノリノリになる。やがてその音楽が映像と反応し、その反応を目で見るような体験、そういったことを積み重ねるようにしていったという。
 

ただし決定的に気持ちの悪い瞬間は残ってしまったようだ。AreaXはパーティクルがあるが、ディメンションとか面がない。

水口氏の持論としては「人間の脳は、ディメンションや面を感じた時にキャリブレーションする」とのことだ。

例えば床だけではなく壁のあるところや、ゲームでは蛇のようなオブジェクトが出てくる。パーティクルから、面が張られたようにソリッドな状態でそばにくると、体験者はクラっときてしまうそうだ。

パーティクルの表現は最後まで貫いたが、あまりパーティクルを増やしすぎて、その塊や群れが面に感じる瞬間が来ると、脳が調整をはじめて酔いを起こすのではないかと言うのが結論だ。

それを踏まえて適正な数のパーティクルで表示したときには凄く気持ち良さが出たという。

また演出的に面を透けさせることでパーティクルを散らす瞬間があると脳への負担が少ないのではないかと付け加えた。
 

話は今後の展望に移る。現在Enhance社では、Monstars Inc. と共同でUE上で動作するシナスタジア・エンジンを開発していると水口氏は言った。

共感覚的な気持ち良さを作り出すモジュール部分をUE上で展開しており、もっと凄いおしっこちびるような体験・経験をVR/AR/MRを使って作っていきたいのだという。

更に今後はゲームだけではなく、ゲーム以外のプロジェクトも進めていきたいとその展望を明かした。

ジャンルとして"メディアアート"、"空間的な何か"、などゲームだけでないエンターテインメントを広く見て、色んな新しい体験・経験を作りたいとのことだ。
 

それにあたって、水口氏はシナスタジアラボを作ることも発表した。所謂、シナスタジア的な表現や実験をもっと積極的にやっていくという。

またそのプロジェクトはEnhance社だけでなくて、他社や他のアーティストたちとアライアンスを組む可能性もあるとのことだ。

最後に「僕らは仲間を探しています。」と水口氏は言い、「シナスタジアの表現に興味ある方、ここで繋がってコミュニティを作っておけば、今後もっと凄い表現ができるようになると思う」として、仲間の募集をして講演を締めくくった。


10月17日14時43分
本文において一部文言の修正を行っております。