【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第32回 Zoomから始まったノーミーツの2年間の軌跡、劇団から物語集団への脱皮

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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劇団ノーミーツ(ノーMeets、NO密、濃密)という洒落のような集団がYouTubeを席捲していた当時を振り返る。まさにそれはWithコロナ時代の幕開けとともに始まったタイミングであり、これまでの我々のエンタメ形式をガラリと変えないと生き残れないと冷や汗をかくような瞬間として私は刮目した。あれから2年、それなりに演劇もミュージカルもライブも始まっているが、いまだ2年前の喧騒は戻らぬままだ。「表現すること」に革新をもたらしたノーミーツがどのように立ち上がり、いまどんなことを考えているのかを取材した。
 

 

■若手クリエイター達のフルスイング。緊急事態宣言2日後にリモート劇団結成、Zoom演劇発表 

――:自己紹介からお願い致します。

広屋佑規(ひろやゆうき)と申します。ストーリーレーベル「ノーミーツ」を主宰しております。ちょうどコロナによって一度目の緊急事態宣言が発令された2020年4月に立ち上げて、現在2年経ったところです。当初は稽古から上演まで一度も会わずに活動するフルリモート集団「劇団ノーミーツ」と謳っていて、現在はストーリーをつくるレーベル「ノーミーツ」と名乗っております。


――:Zoom演劇で一躍有名になりましたよね。Twitterで1,000万回再生された「ダルい上司の打合せ回避する方法考えた。」というのはバズっていて、僕もその時に拝見しました。

自分自身はライブエンタメ業界にいたのですが、コロナが始まり、今までの仕事が全部飛んでしまったなかで、何か自粛する中でもやりたいねという話を、もともと交流があった林健太郎(現在映画会社でプロデューサーをやりながら広屋とともにノーミーツ主宰)に声をかけました。意気投合してすぐ始めようとしたのですが、2人とも企画とプロデュースが軸だから脚本や物語を作れる人がいないとダメだよねと林が声をかけたのが当時松竹にいた小御門優一郎でした。4月5日に初めて3人でZoom上で話をして(2日後の4月7日に一度目の緊急事態宣言が発令)、劇団として結成したのが4月9日でした。

 
――:おそるべきスピードですね。広屋さんと小御門さんは初対面で、しかも林さん小御門さんは普通に企業で働いていらっしゃる状態ですもんね。そして最初の作品があげられたのがその2日後の4月9日。さらには最初の長編作品「門外不出モラトリアム」は1か月後の5月23日に上演されてます。しかもほぼ全員副業のなかでよくこんなスピード感が実現できましたね。

このスピード感でできるメンバーがたまたま揃ったのもありますが、正直ほとんどのメンバーが本業でもそれぞれの会社やチームで「創っている」人たちでした。ただ、まだ若手で裁量が少なかったり、業界のしがらみが多かったりと悩んでいるなかで、劇団ノーミーツとして集まった時に「こんな時だからこそ無邪気に、自分たちがやりたいと思うことにフルスイングしよう」というのを1つの目標にしていました。

当時は皆、夜18時以降と週末を使って創作していましたが、しがらみがなく、純粋に作品作りだけに没頭したら、実はこのくらいのスピード感で出来てしまうんですよね。


――:分かります。大きな組織で守られている部分もありますが、逆にいうと大きさゆえにチャンスも少ないということもあるんでしょうね。そもそも広屋さんは、いつごろから「演劇」をやってきたんですか?

僕はもともと演劇畑ではなく、役者もやったことはありません。基本的には企画・プロデュースを生業にしており、昔からテレビが好きで、中高生のときは「めちゃ2イケてるッ! (通称:めちゃイケ)」とか「世界まる見え! テレビ特捜部」のドッキリ映像みたいなものをみて、自分も人を楽しませたり、笑わせたりするエンタメを作りたいなと漠然と考えていました。

そして大学2年のときに、世界一のドッキリ集団『ImproveEverywhere』(190万人登録のチャンネルをもつ、今や20年の歴史をもつニューヨークのイマーシブ企画集団)の企画をYoutube上で見て衝撃を受けました。テレビだけでなく自分たちで自由に仕掛けて、人を楽しまえることができるのかと。そしてこれなら自分にもできるんじゃないかと思いました。


――:大学時代に劇団どぶねずみに所属されて、渋谷でサプライズ企画されてたんですよね。

『ImproveEverywhere』みたいな活動をできるところがないかを探したら、まさに同じコンセプトで活動している「劇団どぶねずみ」というチームがありました。

すぐに連絡して「Time Stop at Shinjuku」という企画に初めて参加したのですが、自分たちで日常の中に非日常な空間が突如創り上げ、その現象にたまたま出くわした一般の方が笑ってくれる。そしてその様子や感想を、当時出始めたTwitterに投稿する。

この一連の流れの中がとても楽しくて、テレビ以外でも自分で企画して、人を笑わせることができるのかと止まりながら、感動していました。その日の終わりには「運営側に入らせてくれないか」と連絡して、入団していましたね。
 

<劇団どぶねずみ時代の企画(一部)>
Time Stop at Shinjuku(2012年) 

:100人以上の参加者がじっと動かずに5分間静止する企画
Banana Phone(2012年秋) :渋谷で集団が同時にバナナで電話をかけたり“画面操作"する、日常の中に非日常をひそませる企画(広屋氏のデビュー企画。この時の初心を忘れないために、今でもプロフィール画面にはバナナを持つ姿がある)
モテボタン(2015年) :バレンタインの日に、誰しもがモテる体験をしてもらいたい一心で、押すだけでモテるボタンを発明



――:「どぶねずみ」は就職してからも続けて、その後ご自分で団体を立ち上げられるんですよね。正直劇団だけで生計をたてるのは難しい、、とは思いますが。

卒業してから2年間は広告業界で働きながら、どぶねずみの活動も続けていました。でもプロとしてのプロジェクトの進め方は多くを学べた一方、多忙な中だんだん両立することが立ち行かなくなってました。自分が好きな、日常の中へ非日常が生まれる瞬間、そして表現へ寛容な社会を実現するためには、中途半端に続けるよりは、と思いきって独立して自分でプロジェクトを立ち上げたいと思うようになりました。そして思い切って会社を退職し、フリーランスでのイベントプロデューサーとして経験を積みながら、数年後には没入型ライブエンタメカンパニー「Out Of Theater」を立ち上げました。
 

<Out Of Theater時代の企画(一部)>
サムライ&忍者サファリ(2016年)
インバウンド向けに、JTB旅行企画として浅草で運行していたエンターテインメントバスツアー。移動型劇場バスが浅草を周遊していると、向かう先々で忍者とサムライの演劇が市中を使って展開されていく
STREET THE MUSICAL(2018年)
横浜元町にある全長500mのショッピングストリートを舞台に全て見立て、60分間のミュージカルショーを上演。道を歩いていると目の前にミュージカルの世界観が広がる。2020年のコロナ前まで半年に1度のペースで上演。
喰種レストラン(2019年):映画「東京喰種2」のプロモーション企画として約1ヶ月半の間上演したイマーシブシアター。銀座某所に現れた4万本の薔薇を敷き詰めた「喰種レストラン」内で、喰種と共に味わうことができる究極の血液料理をふるまう。コースを楽しんでいただくと、次第に喰種達の様子が変わっていき…。




――:喰種レストラン面白そうですね

ありがとうございます。これは東京喰種の世界がリアルにあったら、というテーマの中で、作中に登場する喰種たちが人間を食べるレストラン「喰種レストラン」を実際に再現して演出しました。

銀座のとある街角を集合場所にして、当日そこに向かうと数名の喰種達が仮面をつけながら待ち構えています。秘密の場所に案内すると言われ実際に銀座の街なかを歩きはじめ、いくつか細い路地裏を抜けた先にある殺風景なビルの裏口に入ると、そこには4万本の薔薇が敷き詰められたレストランがあり、その他の喰種達も迎え入れてくれてくれ、体験が始まっていきます。

そこでふるまわれる究極の血液料理を楽しみながら喰種達との会話を楽しんでいると、だんだん雲行きが怪しくなり…(笑)。評判もかなりよく、約1ヶ月半のロングランとなる企画だったのですが、チケットも即完となるイマーシブシアターを作ることができました。

 
――:こういったOut Of Theater時代に企画されていたものが、コロナでダメージを受けるわけですね。

喰種レストランなど、所謂イマーシブシアターと言われていたエンターテインメントは、三密が売りとしてまして(笑) 世界的にもイマーシブシアター形式のエンタメが流行りつつあるなかで、その流れに乗るためにも2020年4月にはOut Of Theaterの法人化を計画していました。

準備していたエンタメ業界のIP作品とのコラボ公演なども、コロナで全て白紙になってしまい、いっときは途方にくれていました…。ただそこからすぐに切り替えて、自宅で自粛するだけではなく、今できることを見つけていきたいと、様々な企画を立てたなかでたどり着いたのが、劇団ノーミーツでした。

 

■賞総ナメ、遂には“演劇界の芥川賞"岸田國士戯曲賞ノミネートまで

――:劇団ノーミーツはこの2年で短編長編あわせて50作品を手掛け、また同時にこの画期性によって演劇界やエンタメ業界の様々な受賞対象にもなります。

 

<劇団ノーミーツ時代の企画>
20作以上の「短編Zoom演劇作品」では累計再生数3,000万回」突破
1.第1回長編公演「門外不出モラトリアム」(2020年5月;2,500円×約5,000人が観劇):「もしもこの生活が、あと4年続いたら。」をキャッチコピーに、Zoom上で展開される演劇作品。入学から卒業まで一度も会わずに過ごした5人の大学生を描いた。
2. 第2回長編公演「むこうのくに」(2020年7月:2,800円×約7,000人が観劇):「世界はひとつになった。はずだった。」をキャッチコピーに、AIの友達を探す主人公・マナブの成長物語を架空のSNS「Helvetica」を舞台に描いた。劇伴をパソコン音楽クラブ、主題歌をYOASOBIが担当。
3. 第3回長編公演「それでも笑えれば」(2020年12月:3,000円×4.000人):人生の"選択"をテーマにした2020年を締めくくる物語をテーマに、女性お笑いコンビの2020年の出来事を描く。観客の選択が物語の行末を左右する"観客選択式演劇"という形式で、オンライン劇場「ZA」のこけら落とし公演として上演。劇伴をodol、主題歌を羊文学が担当。
4. コラボ公演「VIVA LA VALENTINE」(2021年2月:3,800円×5,000人):サンリオピューロランドでの共催企画として上演。閉館後のピューロランドを舞台に、ワンカットの生配信演劇を実現。ノーミーツとして初めて、「会って物語を届ける」形式への挑戦。
5. コラボ公演「HKT48、劇団はじめます。」(2021年3月:2,800円+α×10,000人):HKT48との共催企画として上演。通称 #劇はじ は、企画・プロデュース・脚本・演出・衣装・美術・音響・映像・配信・広報・出演を全てメンバー自身が担い、オンライン演劇をつくる前代未聞のプロジェクト。その様子をドキュメンタリーとしての過程を発信し、2チームに分かれての上演を実現。
6. コラボ公演「あの夜を覚えている」(2022年3月:4,200円+α×約24,000人):ニッポン放送との共催企画として上演。オールナイトニッポン55周年記念公演として、ニッポン放送の実際の館内から届ける生配信舞台演劇ドラマ作品として実施。W主演に千葉雄大、髙橋ひかる。総合演出にテレビディレクター佐久間宣行、主題歌をYOASOBI×Creepy Nutsの描き下ろしコラボ楽曲が実現。

<劇団ノーミーツ時代の受賞>
第24回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門優秀賞
第26回AMD Awards '20 優秀賞
60th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSクリエイティブイノベーション部門 ACCゴールド

――:ノーミーツの作品性だと思うのですが「口コミで伸びる」部分が特徴的だなと。『門外不出モラトリアム』は初日1,000人だったものが公演中に伸びて最終的には4日間で5,000人。演劇自体がオンライン上で上演され、SNSもフル活用しているだけに、そのままスムーズに面白さが拡散され、あとからあとから広がりますね。

そうですね、それが配信での興行の特徴だと思います。オンラインだと、全員がSS席で観ることができます。演者さんの表情をより近くで観れる一方、早く買った方が良い席で観れるという形ではなくなるため、興味は持っていても、チケットを購入するのは当日、というケースが一番多いんです。これは今までの全公演に当てはまるので、不変な行動態度だなと。そして、口コミによって評判がついてくれば、後から更に券売数が伸びていく。事前の宣伝施策も大切ですが、作品自体の評判でその後の伸びも変わるので、作品の中身勝負でもありますね…! 毎回不安だらけですが、今は評価してもらえることも多くて嬉しいです。


――:ZOOM演劇では競合は出てこなかったのでしょうか?ほかの劇団もどんどん真似していったりしないのでしょうか?

それが、あまりなかったんですよね。僕たちもZoom演劇という形が広がった方が良いなと思い、ノウハウもすべて公開したりしました。「オンライン劇場ZA」という専用のプラットフォームもつくって、皆が使えるようにしていったり。新しい流れになるかなと思ったのですが「技術的になかなか真似できないよ、ノーミーツだからできるんだよ」という声も多く、配信という形態は今でも残っていますが、実際にノーミーツのように、配信に特化した形で作品創りをし続けた劇団はほとんどいなかったと思います。


――:ちょっと驚くのは「劇団」とつきながら、実は演劇をやってきた人たちではないんですよね?

今26人のメンバーがいますが、もともと演劇業界に携わっていたメンバーは数名しかいません。ノーミーツ立ち上げ当時から、新たなエンタメの形式や表現の形を面白がってくれた同世代の若手が集ったチームで、エンタメ業界はもちろん、広告業界、IT業界、テック業界と幅広い出自から集っています。Meetsという会社も立ち上げているのですが、いわゆる定給をもらって雇用状態にある社員は4人、ほかはみな業務委託ベースで、半分が会社員をしながら複業形式、残り半分はフリーランスという状態です。

そのため、演劇をつくる上でも「演劇とはこうであるべきだ! 」という固定概念がなく、むしろ他業種の視点から改めて演劇と向き合ったとき、それぞれが企画はもちろん、物語のアイディアを持ち寄り議論してきました。今振り返るとその環境が通常の芝居作りとは異なるアプローチだったからこそ、常識にとらわれることなくオンライン演劇を作れた1つの要因かもしれません。


――:そしてついには「演劇界の芥川賞」と言われる岸田國士戯曲賞にも『それでも笑えれば』がノミネートされます。これはホントに凄いですね!

自分達が一番驚きましたし、脚本・演出を担当している小御門が1年間、オンライン演劇に向き合い続けた結果だと思います。旗揚げ1年も経過していない劇団が岸田國士戯曲賞最終選考にノミネートとなった瞬間、演劇業界の方々からは「それは違うのでは…! 」と少したたかれた部分もありましたが(笑)、僕たちとしては「お客さんが楽しんでくれたこと」が一番重要だと思っていて、そこに向き合い続けた結果や、ノーミーツの作品自体の時代性を評価してもらえたのならそんなに嬉しいことはありません。


――:そもそも最初に「劇団」と名乗ったのはなぜなんですか?

「劇団」と名乗ることが、自分たちでもまだ正解が分かっていない未確定な形を始めるときに、一番理解されやすいと思ったのかもしれません。「オンライン上で芝居をつくる」という実験的に試みに対して「劇団なんです」というと、ああ、なるほどそういうチームね、と理解してもらいやすくなる。ただそれゆえ、これからもずっと劇団として演劇を創り続けるの?と質問されることも多いのですが、自分たちは「まだ見ぬ形で、新しい物語を生み出すチーム」だと思っていて。参加者を物語の中に巻き込んでいくためには、「演劇」という形式だけでなく、ドラマや漫画、ゲームだって、ほかの手段でも取り組んでみたいなと。


――:たしかにサンリオさんなどの企業との協同企画なども増えてきており、「劇団」という枠からずいぶんはみ出してますよね。

まさに「Viva la valentine」は初めてZoomを飛び出して、閉館後のピューロランドからワンカット生配信で演劇を上演した試みでした。ピューロランドさんと共に、オンライン演劇の新たな形として挑戦したのですが、この形式が実はエンタメ業界内でもとても好評だったんです。今までのzoom演劇だとなかなか協業などは出来なそうな印象だったかもしれないのですが、この作品を観たエンタメ業界の皆さんから「この形式ならコラボできそうだね! 」と反響がたくさんありました。

その中でいくつか話が進んでいくなかで、“生ドラマ"のような感覚でインタラクティブにユーザーを巻き込みながら物語が進むというコンテンツ形式が定まっていき、それがニッポン放送さんとの「あの夜を覚えている」という作品にも繋がりました。

 

■オールナイトニッポン55周年記念公演「あの夜を覚えている」がみせたラジオとノーミーツの接合点

――:こちらの取材にあたって、中山も拝見しました。拝見というよりは「その場に居合わせた」みたいな感覚で。前回見た人が“前回と読んでいるリスナーの手紙が違う! "とか、“え、ホントにアドリブなの! ?前回より迫る演技で震える"みたいなコメントを続々とコメントとTwitterに書き込んでいて。僕は何回も見れていないので、そこは判断つかなかったのですが、、、

実は今回は2公演のみの上演でした。観ていただいたように、カメラがニッポン放送の館内やスタジオを縦横無尽に移動して、様々なフロアに場面も入れ替わるので、ニッポン放送の社内中を、ふんだんに使わせていただきました。ニッポン放送さん側が、まず柔軟に受け入れてくださらないと実現しなかったですし、当然こんなことができる時間は限られているため、3月20日と3月27日、いずれも日曜でしたが20時からの2時間で、2回だけ上演することになりました。


――:普通に作る手間や集客コストなどを考えて、演劇なら2週間で10~15回といった公演をこなすのが普通ですよね。採算の面でもリスクありますし、2回だけというのは大変だったのではないでしょうか?

そうですね、オールナイトニッポンさんの55周年企画ということもあり、1年以上かけてプロデューサーの小野寺を中心に企画を詰めていきました。

ノーミーツの今までのノウハウを詰め込み、ニッポン放送さんと共に、どうプロジェクトを展開すると、2回の上演で興行としても成立させながら、多くの方々に作品を届けることができるか議論し続けました。詳細は小野寺の終演後noteに詳しく書いてあるので、ぜひこちらも読んでいただきたいのですが、結果的には作品の口コミが口コミを呼び、当初の想定よりも多い24,000人のお客様に観てもらうことができたのは本当に嬉しかったです。

普通の演劇で考えると、1回で1万人を呼べる箱自体がほとんど存在しませんし、その意味でも新しい挑戦をすることができたのかなと思います。

 
――:録画のようにみえて、その場でどこか違う場所で演劇が進行していて、しかも自分の送ったメッセージが今その瞬間の演劇に影響を与える。すごく斬新でした。

公演のテーマの1つに「リスナーの声が物語に影響を及ぼす作品」にしようというものがありました。それはラジオというものが、本来パーソナリティとリスナーの関係性によって成り立っている場だから、その魅力や良さを再発見できるようにしようと。そう考えたとき、公演の視聴者が本番中にパーソナリティにメールを送り、それを実際にパーソナリティが読み上げることで、物語が変化するインタラクティブな演出を導入しようというアイディアが企画の初期段階からありました。

そのアイディアを起点に、SNSの公式アカウントと連動してみたらどうだろう、出演者のSNSが本番中は演じる役として投稿してくれたらどうだろう、有名なハガキ職人さんも公演に参加できる仕組みを入れられないか、といった展開案もでてきて、最終的にオンラインを駆使した物語体験を届けることができました。

55周年の記念として、コロナ禍だけど何かお祭りを仕掛けたい。そのノーミーツとニッポン放送さんの想いや熱量がラジオリスナーの皆さんにも伝播して、自分たちの物語だと感じてもらえたことが嬉しかったですね。#あの夜 だけでなく、#ラジオ好き という指定してないハッシュタグまでTwitterでトレンド入りしたことは驚きました…!


――:確かに視聴しながら、投稿もできるし、フィードにコメントもかけるし、そのコメントその場で演技しているはずの演者も読んでいるし、ECにつながって関連グッズまで売っていましたよね。これ、ノーミーツさんが作ったオリジナルなんですか! ?

脚本、演出はノーミーツの小御門が務め、企画と制作はニッポン放送さんと共同で進めてきました。ただ最終的にはノーミーツの2年間のノウハウがすべて集約された、集大成のような作品となったと思います。

僕たちだけの力では当然ここまでの結果にはたどり着かず、ニッポン放送の石井玄プロデューサーと作り、オールナイトニッポン0の水曜日のパーソナリティでもある元テレビ東京のプロデューサーの佐久間さんにも総合演出として入っていただきました。

できるだけオールナイトニッポンに携わる方々を巻き込んだお祭りにしたかったので、W主演にも既にANNでのパーソナリティ経験のあるラジオが大好きな千葉雄大さんと髙橋ひかるさん、金曜日のオールナイトニッポン0のパーソナリティの三四郎の相田さんにも出演して頂きました。

更に、主題歌には以前から何度かお仕事させてもらっているご縁もあり、火曜日のオールナイトニッポンXを担当していたYOASOBIさん、そしてオールナイトニッポン0を担当されていたCreepy Nutsさんにもご相談して、本公演の主題歌として『ばかまじめ』という素晴らしい楽曲も描き下ろしていただきました。まさに記念公演にふさわしいお祭り感がありましたし、その制作過程もライブ感ある形で公開していくことで、一緒にリスナーの方と本番に向けて盛り上げていくことができました。


――:このライブ感のなかでユーザーを巻き込むってそもそもラジオがやってきたことでしたし、ラジオはノーミーツが実現したい世界をずっと前から作ってきたメディアなんだなって思いました。

そうなんですよ。そもそもラジオコミュニティの強さって、ラジオのパーソナリティを中心にリスナー同士で同じ時間を共有し、パーソナリティと1対1の状態で語り掛けられていることで深めた“絆"から生まれると思っているんですよね。この仲間意識とか一致団結感は、まさにノーミーツが2年間で創り上げた作品の中で、観てくださったお客さんと繋いできた関係性と近いものを感じました。


――:配信だから役者さんの演技を接写でみれるし、なにより本当は録画でも見れてしまうこのツールを使いながら「いま、まさにこの瞬間行われているんだ」というリアリティとその演技の凄さを見たとき(藤尾涼太役の千葉さんが、アドリブ苦手だったトラウマを抱えた主人公が2年ぶりにラジオに立った緊張感を現した唇の震えや涙は、とても演技には思えませんでした。)、ぞわっと体中鳥肌たつような瞬間でした。

  

■ノーミーツ第二章、エンタメ型ギルド集団「まだ出会ったことのない、新しい物語を生み出すレーベル」

――:2年間で短編長編あわせて50作品ほど作られてきました。でも個人的には「もったいない」とも思いました。これだけ画期的なものがそろっていて、2万人も凄いんですが、「演劇」じゃなければもっと何十万人も感動するものが作れるとは思うんです。毎回毎回新しい企画を考えて、それでも数回その場に立ち会えた人だけで終わってしまう。まるで線香花火のようなはかなさを感じます。

まさに僕たちもそこが課題であり、次に挑戦したいことでもあります。演劇のライブ性や一度きりのはかなさは魅力でもありますし、そこは得意な部分でもあり自分たちも毎回面白がってプロデュースしているのですが、一方でこういったチームを持続していく難しさも感じています。毎回コアとなる物語をゼロイチで創り続ける挑戦はしていきますが、それを継続して広げていくためにいかに一つの物語をスケールさせていくか。そこを念頭においた作品創りもしていこうと考えています。


――:21年秋に劇団ノーミーツを改名して、ストーリーレーベル「ノーミーツ」となりました。ここにノーミーツの方向性を今後は変えていこうという意気込みが入っているんですよね。

はい。今日お話してきた通り、ノーミーツとして立ち上げた当時大切にしていた「会わずにつくる」という方針も2年目で自ら取り払い、新たな配信演劇という形態を挑戦したり、演劇という形式にもとらわれず、ドラマやバラエティ、インタラクティブなゲーム作品なども手掛けていくなかで「劇団」という枠があることが逆に自分たちの活動の幅を狭めてしまうと感じていました。

そこで改めて自分たちの価値を見つめ直したとき、新しい表現への無邪気な挑戦と、時代にそった物語を創ることが強みであり、これからも活動し続けたい方針だと話し合うことができたんですよね。そこで、ノーミーツを「まだ出会ったことのない、新しい物語を生み出すレーベル」であると再定義することにしました。業界構造や表現媒体がこれからも更にスピード感をまして変化し続ける現代において、自分たちはコアとなる「物語」づくりを、これからも軸に創り続けていきたいと思っています。


――:企業とのコラボ案件も増やされてますよね。

そうですね、こちらからの提案も多いですが、サンリオピューロランドさん、HKT48さん、ニッポン放送さんはじめ、、フジテレビさん、SHOWROOMさん、松竹さん、東宝さん、SCRAPさん、吉本興業さんなど多くのエンタメ会社の皆さんとこの2年間でご一緒させていただきました。

またノーミーツと何かやりたいと持ち掛けていただくケースもありがたいことに増えています。なぜノーミーツに声をかけてくれたのかと話を聞くと面白いのは、皆さん各会社の中でしがらみや制約が多く、大きな会社であればあるほどスピード感が持ちづらい中で、「ノーミーツとならスピード感をもって何か新しい挑戦をできるのでは! 」と期待してくださっているんです。

そういった期待を持ってくださることが嬉しいですし、僕たちもその期待に応えるために、想像の上を超す企画を更に逆提案することも多いので、実施するために動かなければいけないことが結局想定よりも多かったですとよく言われます(笑)

ただ、新しいことに挑戦する上では当然必要な過程ですし、ご依頼いただいた方もだんだんとノーミーツの熱量に慣れてきて、更にこんなのどうですか! ?とでアイディアを追加で持ってきてくれるようになるのも、もしかするとノーミーツの1つの強みや特徴なのかなと思います。

 
――:今はどんな新しい取り組みを検討されているんですか?

自社のオリジナルでいうと、例えば新しいボードゲームつくりに挑戦しています。ストーリーゲームレーベル「POLARIS」を立ち上げて、第一弾で『RED LINE』という中国で今絶大な人気を誇っているマーダーミステリーというジャンルを軸にした物語体験ができるゲームを作りました。


――:拝見しました! いま中国で1,000億越える市場になっているジャンルですよね。ストーリーゲームというのはどういうものなのですか?

ストーリーゲームとは、簡単にいうとプレイヤーの皆さんに物語の登場人物になってもらい、与えられた役割やキャラクター設定のもと、物語の世界に没入してもらい、みんなで議論したり、推理したり、ときには騙し合ったりしながら、1つの結末を紡いでいく新感覚の体験型ゲームです。

こう説明されてもなかなかどんな体験ができるかピンと来ないと思うのですが、リアル脱出ゲームや人狼とかの体験に近いかもしれません。ただ、僕たちがこのゲームが大好きなのは、なによりも終わった後に一緒に遊んだプレイヤー達と仲良くなるんです(笑) 最後まで登場人物として役割があるので、例えば謎解きのスキルなども関係ないですし、騙し合うだけでなく、なぜ騙す必要があったのか、行動全ての背景に物語があるので、終わった後の感想戦がなによりも楽しいです。

お陰様で出展したゲームマーケットでも完売したりと1作品目から好評頂いてます。なかなか人と人の繋がりが希薄になってしまった現代において、コミュニケーションをするきっかけとなるゲームとして楽しんでもらえたら嬉しいなと思っています。先日第2作目の『インサイドブルー』も販売開始したので、こちらもぜひチェックしてみてください。

――:ほかにはどんなジャンルに挑戦されてますか?

ほかにも、物語づくりをするチームとして、物語をIPととらえた新たな領域での作品創りも挑戦したいと思っていて、それこそWebtoonやNFTやweb3を活かしたエンタメ創りも各社にご提案しています。こういった新しい領域でのエンタメ創りを考えている方は、僕たちも創りながら学んでいきたいのでもっとお話させていただきたいですね。


――:人材も募集されているんでしょうか?

もちろんです! 常に一緒に活動できる仲間は募集してます(笑) 演劇畑の人に限らず、エンタメ業界や広告業界、IT業界で働く人たちで今日お話した内容に少しでもピンときた方、そしてノーミーツと一緒に新たな物語つくりに挑戦してみたいと思ってくれた方は大歓迎です。特に新たな物語創りに挑戦したい作家の方、そしてプロデューサーの方を見つけたいと思っていますね。既存の形式のなかで創るより、ジャンルになっていないところでつくっていきたい、新しい表現づくりを面白がりたいという気持ちがある方が向いているチームかなと思います。

自分としてはエンタメ業界のハブとなるような組織にしていきたいんです。1つの会社でしか作品がつくれない、1つの業界でしか作品が作れないといった時代でもないと思うのですよね。会社や業界の垣根を超えて、ゆるやかに繋がりながら、プロジェクト型で物語をつくれるチームがあってもよい。そこから世界中の人にも楽しんでもらい、応援し続けてもらえるような物語が生まれたら、そんなに楽しく、幸せなことはありません。

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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