【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」


ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。現在同氏は、DeNAのスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任している。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。

 

■第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

 
前回、前々回と、コロプラ馬場功淳社長のお話をおうかがいしました。

・素直であることが大切
・ゲームに対して、熱くなった経験が重要
 
といったようなことが、話題に上っていました。
それに加えて、これまでの活人研で語ってきました、
 
・諦めない心

が大事だと思います。この3つを、「ゲーム業界・活人研 第一原理」としましょうかw
 
【活人研 第一原理】~ゲーム業界に就職するうえで大事な3つのこと~
1、諦めない心 (自身の想いのたけを「伝えきる」信念)
2、素直であること (他者の指摘をいったん受け入れる余裕、客観性)
3、ゲームに対する情熱 (一瞬でもいいので、深く熱くなった経験)

 
これから、ゲーム業界を目指してくる学生さん、また逆に、ゲーム業界で採用をしている皆さん、この原理をあらためて見つめ直していただいて、
 
学生さん → 特に1を強化してください!
企業さん → 1,2,3、を網羅的に見られて、技術もですがこれら経験とマインドをご覧頂けるとよいかと…思います!
 

さて、今回ですが…この1年ほど、たくさんの学校を訪問させていただき、講演させていただくと同時に、たくさんの学生さんたちとお話させていただきました。
 
・ゲーム業界に憧れを抱き、夢を実現したいと願う学生さん
→ゲームを学び、それを将来の仕事に活かしたい!と思っておられる学生さんたち。主に、ゲーム系の専修学校(専門学校)の皆さんや、ゲームを学ぶことのできる一部大学の学生さん

・自身の知見をゲームをはじめ、エンタメ系の仕事でも活かせるかのでは?と考える学生さん
→こちらは、周辺領域なので、工学系と芸術系と様々なところにいろんな可能性を秘めた学生さんがいらっしゃいます
 
前者のことをわたしは、「ゲーム王道(以後、「王道」)」、後者のことを「ゲーム覇道(以後、「覇道」)」と呼んで定義しております。まあ、名称はなんでもいいんですが、分類して話して、接触の仕方やお話させていただく内容の密度と入口を変えたほうが興味関心をもっていただけると考えているからです。

そもそも、わたしが就職活動をしていた20年近く前には学校でゲームを学ぶことができる場所はそれほど多くありませんでした。わたし自身も、学生時代は、人間工学やヒューマンインタフェースといったものの研究をわずかにかじり(決して、まじめでも、優秀な学生でもなかったので、先生には多大なご迷惑をおかけいたしました。恩師・福田忠彦先生 この場をお借りして、お詫びさせてくださいw)その時の知見や数多くの実験に臨席できたことが、今となって、ボディブローのように効いてくるとは思ってもいませんでした。
 
ゲームは、他者に、自己の考えたもの、イメージしたものを「伝える」ことが根幹にあります。

上記した、第一原理の3つの条項に更に加えるとするならば、間違いなく、この「伝える」能力と意思です。第一原理 その1の、諦めない心は、まさに、この「伝える」ことを諦めない心です。自分とは異なる人生を20年以上送った人間に、自己のイメージを一度言葉にしたくらいで、100%伝わるほど言葉というやつも、人間というやつも、甘くはありません。ネイティヴで言葉を駆使する我々は、ともすれば、日本語だから「わかった気」になってしまいがちです。

発信者は、伝えた気になっているし、受信者は、わかった気になる

でも、伝わってなくて、齟齬がのちのち発生する。これは、最初は仕方がないことだと思います。まあ、進んでいても、手戻りするので、結果的にはあまりよくないことになるんですが…。問題は、伝わってないことがわかったときや、そもそも、相手が「わからない」と言った場合、つまりは、「伝わらなかった」ときです。以前のコラムで『いやー、僕「は」面白いと思いますよ」の話をしました。ここで気を付けないと、まさに、この「は」がでてきてしまうのです。

これは、王道系学生であれば、「ゲーム自体のコンセプトを明確にして、ユーザにどんな感情を味わってもらいたいのか?」を初期定義するところが弱いことによって起きることが多いです。ゲームの概要を論じることではなく、プレイしていただいたユーザさんがなにをどう感じるのか? 極論、伝えたいのはシステムではないはずなんです。システムはゲームが用意したルートであり、枠組みでしかなく、一番大事なのは、そのゲームをプレイして、

・面白いと感じるか?
・どう面白いと、どういう感情を、どういうコンテクストで受けてそう思うのか?

 
です。ですが、ともすれば、「○○が、■■をして、その結果、成長して、△△するゲームです。」のような説明をよくうけます。で?だから、そのゲームはなんなの?という感じで、結果、どう面白いのか?を一意に相手に伝えられていないことに気づかないのです。

もちろんテクニックとして、故意にミスリードされるように情報を提供して、のちに、どんでん返しの逆転を発生させてユーザさんの気持ちをグッとゲームにむけさせて「つかむ」というのもありますが、まず学生のうちは、そういった2つも3つも上のテクニックを駆使したチャレンジをするのではなく、そもそもの基礎にある丁寧に、ステップ踏んで、感情を伝える、をやっていただきたいと思います。

覇道系学生であれば、目的を設定、仮説を設定して、研究、実験ができているか? というところになるかと思います。ものを作る系の学校であれば、プロトタイプ作成を推奨しすぎることです。誤解していただきたくないのは、プロトタイプを作ろう!ということを推奨することがNGなのではありません!

とりあえず動くもの、とりあえず実験することは、まったくもってして悪いことではないと思いますし、どちらかというと、自分で考えて行動することは非常に貴重な経験であると思っています。ですが、それは、第一段階の学生さんにおいて、の話です。

すでに、何度か「とりあえず、まずは、やってみる!」をやってきている優秀で、アグレッシヴな学生さんは次なるステップにいっていただきたいと思うのです。とりあえず、動いちゃうから楽しいのは、よーくわかりますがw、最終的に自身のエゴを吐き出しているだけではゴールできません。

何のために、この研究や実験、制作をしているのか? どんな仮説を検証しようとしているのか? の定義、設定をできるだけ曖昧ではなく、明文化して事前に設定しておいてからできるといいと思います。実験や研究もクリエイティヴな行動であるとわたしは考えます。好奇心旺盛に、さまざまなことに関心をもって、ゴールに向かって、それこそ、諦めずに推進できるか? が大切で、これができれば、ゲームを学生時代につくっていなくても、

他者に対して発信し
他者に伝えきることを諦めずに推進し
仮説、目的を達成する

 
これがゲームと何が違うのか?と考えるからです。ここに、あとはエンターテインメントの要素を組み込むことができれば、何の問題もないわけです。活人研 第一原理 その3の「ゲームに対する情熱」、これを持っていれば、ここは突破できると考えております。
 
次に、まさに王道・覇道問わず、お会いする学生さんによくいただくのが、
 
「今のうちに、学生のうちにやっておいたほうがいいことってなんですか?」

という質問です。


もちろん、正解なんてないです。もしあるとするならば、行動すること、です。でも、これでは、さすがにヒントもなさすぎますし、禅問答のようで今日からの努力に活かすこともできませんw いくつかポイントはあるのですが、今回は、その根幹にあたるものを1つご紹介したいと思います。

伝えるために言葉を駆使するのがうまいことは、たしかに大切なことかもしれません。でも、口下手な人でも、相手が汲み取ってくれることは、たくさんあります。では、なぜ、その人たちは伝えることができているのでしょう?
1つには、その人の溢れる人間性かもしれません。魅力的な人間が語ることは多少おかしなことでも傾聴しようと思わせるものがあるということです。

もう1つは、人間性を魅力的にするメタな要素かもしれませんが、その人の知見や想いが自身の中に積もりに積もっていて、その人という器を越えて溢れ出てきているところがあるのではないでしょうか?
 

 
つまり、他者にある事象(特に論理の外にあるものほど)を伝えようとした時は、自身にその要素を数多くインプットしまくって、溢れ出る程になった時にはじめて説得力のある、魅力的な(ひょっとしたらそのレベルまでいったら、そこに論理が生まれるのかもしれません)話、伝達ができるようになるのではないか?と考えています。ですので、学生さんには、
 
学生のうちに、なんでもいいので、100やりましょう!
 
という話をしています。「たくさんインプットしましょう」でもいいんですけど、なんかふわっとしているんですよねw 数字を言うことで、明確にして、あとは、本来は締切を切りたい。なので、「学生のうちに」と、ややアバウトではあるものの期限を設定してるわけですね。

実際問題、100もやらなくても、20、30積み重ねていくと、いろんなものが見えてきます。なぜならば、狭いカテゴリの中で知見が、蓄積していっているからですね。そうなると自ずと、人間は比較検証したくなりますし、且つ、いまであれば、それらをSNSなどで発信したくなるものです。発信するとなると、そこに工夫をしてオリジナリティある要素を1つでも組み込みたくなると思います。これって、上記している、ゲームにおいて、他者に、なにかを伝える、とそれほど差異のないモデルだと思います。

100も継続するには、やはりなにか「好きなこと」「関心あること」がいいと思います。私自身はなにをしてるのか? という質問も受けますw 学生さんは、なかなか挑戦的なんですよ!!w わたし自身は、以前に書きました宝塚歌劇を見ることを趣味の1つとしておりますが、こちらは、まだまだ2年目の初心者もいいところなので、ここでは語れません。長期で継続していることといえば、
 
①9年ほど、馬に乗っている!
→馬術大会にも出場してます。まあ、高いレベルの競技内容ではないですが…


②600軒以上、カレー屋を食べ歩いている!
→カレーは、国民食で、「どこか美味しい店知りませんか?」「■■ってカレー屋行ったことあります?」「何風カレーが好きなんですか?」とか会話にいとまがありません。確かに、欧風、インド風、タイ風、洋食風、などなど種別も多々あります。出張や、今であれば、いろんな学校さんをまわったときの学食のカレーも楽しみです!w 辛さ、旨さ、後味、香り、お店の雰囲気、コストパフォーマンスなどなど、評価点をいくつか設けて比較するとかもできますからね。この評価の切り口も自身で考えると面白いと思います!
 
前者は、確かに面白いですし、30人以上体験乗馬にもお連れいたしました。

わたしの想いが伝わり「一回くらいは乗ってみてもいいかな」と思うところまで、皆さんに思っていただけた、ということですね(笑) ただ、実際に誰しもが簡単に継続できるわけではないですし、乗馬クラブがそんなに簡単に近くにあるわけでもありません。やや、おすすめには不向きかな…と。

後者は、逆に誰でもそれほどコストをかけず、楽しんでやることもできると思います。東京工科大の岸本先生は、オムライス食べ歩きの大家として知られています。なにかジャンルを狭めて、ほっていくことで比較検証もしやすくなると思います。まあ、普通に楽しんで味わっていただければいいと思います!なので、まずは…
 
なんでもいいので、学生のうちに「100」好きなことを継続してみましょう!
 
これを今回のメッセージとして、終了したいと思います!
今回は、これまで。
 


■著者 : 馬場保仁
DeNA プロデューサー 兼 採用担当。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。DeNA入社後は、スマホアプリの開発にプロデューサーとして従事。現在は、プロデューサーとしてゲーム開発を行うと同時に、人事も兼任し、ゲーム業界の人材育成のためにも尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。


■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」

 
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
https://dena.com/jp/

会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1349億1400万円、営業利益42億0200万円、税引前利益135億9500万円、最終利益88億5700万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
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