【連載】岩野Pの「なれる!プロデューサー」 - 第5回「失敗の新体験が成長のチャンス」


『乖離性ミリオンアーサー』や『アリスオーダー』など、数々のスマホゲームを手掛けてきた、スクウェア・エニックスのプロデューサー・岩野弘明氏。同社に勤務してから10年以上もの歳月が経っているが、そんな彼にも新人時代があった。上司や先輩に教わったこと、成功や失敗から得たこと、様々な経験を経て今がある。この連載は、岩野氏がプロデューサーになるまでの道のり、その後に直面する幾多もの気付きを形にしてくれた、自叙伝。


 

■第5回「失敗の新体験が成長のチャンス」


こんにちは! 9月はTGSがありましたね。今年はVR関連の出展が多かったですが、かくいううちの部署からも『乖離性ミリオンアーサーVR』を出展してご好評をいただきました。VRは一般ユーザーからはちょっと敷居が高くゲーム分野でどこまで盛り上がるかなかなか想像しづらいのが正直なところですが、何事も新しい事に挑戦していくのが大事ですからね!

さて、今回は2009年のお話です。

<2009年>
iPhoneのゲームを企画する。既にiPodのゲームをプロデュースされていた安藤さん(現・株式会社シシララ 代表取締役 安藤武博氏)のお手伝いをしつつ、iPhoneのゲームについて勉強しながら企画を進める。この頃から現DeNAの渡部さん(渡部辰城氏)の部下に。しかしとある大きな失敗をし、立ちあがっていた企画のプロデューサーを外されることに…。
アシスタントで関わったタイトル:『ソングサマナー』『クリスタルディフェンダーズ』『国破れて山河あり』『ケイオスリングス』『ムーンダイバー』


 

■新しいことをやる意味


冒頭でVRの話をしましたが、2009年はスマホ(この頃はiPhoneのみ)で遊べるゲームを作って売るという事がとっても新しい時代でした。多くの人が「売れるのそれ?」という感じでしたので、基本的にお金をかけることができず低予算で作っていました。前回の記事(関連記事)でも書きましたが、僕が初めて立ち上げたプロジェクトの予算は500万円です。このころ一部を除く大体のスマホゲームは1000万円台ぐらいで作られていたんじゃないかと思います。

当時はカジュアルなゲームの売り切りビジネスが主体だったのですが、5億10億とかかるようになった現状とは比較にならない低予算ですね(苦笑)。

そんなスマホ黎明期も振り返りつつ、新しいことをやる意味について考えますと、やはりうまいこといけば大きな先行者利益を得られるという事ですね。でもこれ、うまくいかないことの方が多いです。なので、狙いはそれだけではありません。

新しい市場に対する経験やノウハウを得るというのが現実的な狙いです。これらを得ることで、たとえ最初にうまくいかずとも2回目以降でのヒットを狙いやすくなります。また、失敗してもそこから学べることも多いです。そういう狙いがあるので、うまくいかないこともあるということを踏まえつつ、多少プロデュースの経験はなくともやる気や見どころがある人間に任せたいです。
 

最近だとVRやAR市場が新市場。VRについては我々もやってますが、スマホの時と比べて結構予算がかかりがちです。でも部内で誰よりも詳しいしやる気もあるので新卒3年目の人間に任せてます。もちろん、うまくいくにこしたことはないので十分にサポートをした上でですが、経験が少なくとも任せるのは、ここで得るものは大きく今後成長していってくれるだろうという期待があるからです。

それにしてもスマホゲーム黎明期は低予算で色々チャレンジできたからすごくいい時期でした…。低予算で開発できたので、様々な会社が挑戦できました。こんな時期は今後なかなかないんじゃないかと思うので、今後そういうチャンスが来たら全力で突っ込んだ方がいいですね!


 

■失敗はどんどんすべき。でも…


上記で「失敗してもそこから学べることも多い」と書きましたが、なぜ失敗から学べることが多いのかというと、失敗すると悔しかったり恥ずかしかったりといった嫌な感情を体感できるからです。何事も聞いて教わるより経験した方が身に付きやすいですよね。あれと同じです。体感することが大事。

さらに、体感するのが嫌な感情というのも重要でして、二度とあんな思いをしたくないという思いから、それらの体験やその反省は忘れにくくなります。僕もこの時期大きな失敗をしたのですが、ずっと忘れず覚えています。

逆に失敗してもそういった思いにならず何度も同じ失敗を繰り返す人間は成長しづらいんじゃないでしょうか。挑戦して新たな失敗をすることは悪い事ではありませんが、同じ失敗を繰り返すのは最悪です。失敗を活かせてなくて成長のチャンスを逃しているだけですからね。

失敗しても反省して、それを活かしてまた挑戦する。そこで新たに失敗してもまたそれが成長の糧となる。昔から言われている基本的なことですが、実際体感しないとわからないことなので、まずはやってみる。何度も言いますが体感することが大事です。

また、逆に人間褒められればうれしくなって舞い上がってしまうこともありますが、上には上がいるのでそれで天狗になってはいけません。いつまでも謙虚であるべきです。その上で、うまくいった事に対してはちゃんと自信を持つ。それが継続して成長するための心構えなんじゃないかと思います。

新しいことにチャレンジすると、失敗も成功もすさまじい勢いで経験できます。人を育てる意味でも非常に意義があることなので、常に新しい事にはチャレンジしていくべきだと思います。 ではでは今日はこの辺で!


P.S.
「シン・ゴジラ」では第二形態の通称・蒲田くんが一番好きです。
 

■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。新作は超能力×ミリタリーRPG『ALICE ORDER /アリスオーダー』。

岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki


■バックナンバー

第4回「どうしたら企画が通るの?」

第3回「ゲーム開発、内製と外注どっちがいいの?」

第2回「いまいち今の仕事が好きになれないあなたに」

第1回「2006年4月、スクエニ入社」

 
株式会社スクウェア・エニックス
https://www.jp.square-enix.com/

会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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