【年始企画】求められているのは“新しい驚き”、2018年はグローバルへ展開…Wright Flyer Studios代表取締役 荒木英士氏が語るビジョンとは

2017年におけるスマートフォンアプリ業界の総決算として、前年から2018年に至るまでの市場動向を総まとめする年始恒例企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2017-2018」。
 
今回取り上げるのは、第1作目にして現在900万ダウンロードを記録した『消滅都市』シリーズを筆頭に、『アナザーエデン 時空を超える猫』(以下、『アナザーエデン』)や『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~メモリア・フレーゼ~』(以下、『ダンメモ』)など、オリジナル・IP作品を問わず多くの作品でヒットを飛ばし、現在まで快進撃を続ける「Wright Flyer Studios」。その代表取締役である、荒木英士氏がインタビューに答えてくれた。2014年にグリーの子会社として産声を上げ、現在まで成長を続けてきたWright Flyer Studiosは、2018年のアプリ市場に何を見るのだろうか。
 
なお、Social Game InfoではWright Flyer Studiosの特集記事として全6回の連続インタビュー(関連記事)も実施している。設立から現在に至るまでの経緯についてもまとめているので、2017年までのWFSの歩みを知りたい人は、そちらも併読することをお勧めする。
 
 
 

海外に広がるアプリ市場。国内企業の希望となるか

 
――:2017年のスマホアプリ市場を振り返ってみて、どういった印象でしたでしょうか。
 
荒木英士氏(以下、荒木):まず、大きな流れとして大型IPを扱った高品質なタイトルが多く登場しましたね。そうした動きは、成熟期の市場においては予想しうる動向なので、既定路線と言って良いでしょう。
 
ですが、必ずしも「大型IP作品だけがヒットする」という固着した状況ではありません。オリジナルIP作品のハードルが上がり続けていることは事実だと思いますが、新たな作品を受け入れる土壌は確実に存在しています。弊社の『アナザーエデン』や、グループ会社のポケラボが配信している『SINoALICE ‐シノアリス‐』といったオリジナルIP作品が成功したのは、そうした流れが絶たれていない証左だと考えています。

 
――:今年から大きく変わった部分や、特に気になる変化はありましたか?
 
荒木:気になるといえば、国内における中韓製タイトルの存在感の拡大でしょうか。特に2017年は『リネージュ2 レボリューション』や『アズールレーン』の参入により、とうとうメジャー感が出てきたというか、一般化が大きく進行しましたね。
 
中でも『アズールレーン』は”日本企業の土俵”で勝利を収めつつある海外作品ということで、単なるヒット作以上の意味合いがあるタイトルだと思っています。これは、イラストやゲーム部分のクオリティを高レベルでまとめつつ、擬人化モチーフとゲームデザインのリスペクト元である『艦隊これくしょん-艦これ-』(以下『艦これ』)を徹底的に分析し、スマホ向けに改善したことが大きな要因だと思います。ブラッシュアップを重ねることで”単なるフォロワー”以上の存在になったわけですね。

 
――:改めて伺うと、2017年は幅広い分野からヒット作が生まれた年になりますね。
 
荒木:オリジナル作品、大型IP、海外の各作品ですね。そして、2017年末には『どうぶつタワーバトル』で、インディーズからもヒットが生まれてきました。ゲームにはまだまだ探求する余地が沢山ある、と実感させられました。
 
 
――:様々なヒット作が生まれると、ゲーム製作の焦点を絞るのは難しくなってきますよね。現在、市場ではどんなゲームが求められているのだと考えていますか?
 
荒木:ユーザーが求めているモノは単一じゃないので、焦点をひとつに定める必要はありません。あえて言うなら、Wright Flyer Studiosのビジョンである「新しい驚き」を与え続けることが答えだと思っています。
 
そういった意味では、『どうぶつタワーバトル』はまさに”新しい驚き”を提供した結果がヒットに繋がった作品ですよね。
 
どのような切り口であれ、新しい驚きを提供すること。それが、作り手である我々が考えるべきことであり、市場に求められているものではないでしょうか。……もちろん、ベースクオリティが規定ラインに達しているのは大前提での話ですが。

 
――:独立した自社のブランドを作るのは重要ですが、同時に非常に難しいことだと理解しています。オリジナルIPの製作において、大切なことは何だと思いますか?
 
荒木:潜在的にファンが存在するカテゴリやジャンルを見極めつつ、そこに向けて得意なクリエイターに活躍してもらうのが何より大切です。IPを創出できる人材というのは本当に希少なので、そういった才能が活躍できる組織や文化をいかに育むか、という点に腐心しています。
 
――:IPを創出できる人材とは、どういった才能を持っているのでしょうか。
 
荒木:原作を作るということなので、まずは自分の中に世界を持っている人ですよね。子供の頃からずっと世界観を考え続けて、かつそれをユーザの心を掴むアウトプットにできる人というイメージですが、これができるのはクリエイターの中でも極一部だと思います。
 
もちろん、マーケティング的な思考で世の中に受け入れられるものを考えることも大事です。その客観的な思考と、自ら世界を生み出すという極めて内省的な思考、これらを高度なバランスで両立させるのが良いクリエイターなのだと思います。

 

――:2017年の出来事で荒木さんが驚いた事柄などがあれば教えてください。
 
荒木:Nintendo Switchの『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』には驚きました。過去20年以上欧米で積み上げられてきたゲームデザインの進化を取り込んだ上で、そのすべてを大幅に上回った作品になっていました。
 
――:コンシューマーといえば、2017年は任天堂やソニーの子会社であるフォワードワークスなど、家庭用ゲーム事業を先導していた企業がアプリ市場に本格参入し、成功例も出始めました。その辺りの印象についてはいかがでしょうか。
 
荒木:長年に渡って培ってきた豊富なIPや、開発における地力を活かして参入されているので、素晴らしいタイトルを送り出されていると思います。我々も、フォワードワークスさんとは『ワイルドアームズ』でプロジェクトをご一緒させていただいており、長年積み上げてきたブランドやファンに向けて作品を届けるというところで協力できることがあると思っていますし、今後も積極的に挑戦していきたいと思います(関連記事)。
 
――:2017年を経て、現在のスマホアプリ市場はどういった状況にあると感じていますか?
 
荒木:日本のモバイルゲーム市場は1兆円規模に達し、新たなゲームジャンルもどんどん生まれています。成長率こそ鈍化していますが、全体としては希望が持てる状況だと思いますよ。
 
――:希望が持てる要素というと、ほかにはどういった物がありますでしょうか。
 
荒木:海外市場が大きくなってきているのが、特に大きな希望です。未だ国内企業が手を出し切れていない裾野があるということは、さらに成長できる余地が残っているということでもあります。しっかりと高品質なタイトルを作るだけでなく、それをグローバル展開して売り上げを作れるか否かが、今後の収益性を大きく変えていくでしょう。
 
――:日本のタイトルが海外で人気を得るためには、どういった物が求められるでしょうか。
 
荒木:色々な地域に向けて配信をするためには、まずはQAやローカライズなど足回りをしっかりしていく力が必要です。また、国ごとに法制度が異なるので、コーポレート機能を含めた整備も必要になります。その上で、展開するタイトルごとにどの地域にどれだけファンが存在しているのかというリサーチを行い、そのファンに対して精度高く届けるというマーケティング活動を行っていかなければ、人気を得ることは難しいと思います。
 
 

■VR事業は成長段階。2019年初頭3世代が勝負時

 
――:2018年以降、国内のスマホアプリ市場はどのように変化していくと予想されていますか?
 
荒木:マクロな視点で言えば、業界にとって幸せな状況がしばらく続くでしょう。一方で、各企業の視点からは段々と状況が厳しくなっていきます。
 
――:といいますと?
 
荒木:タイトルをひとつ作るのに必要な予算規模が大きくなってきているので、今後は”チャレンジをする権利”を有する企業が段々と減っていきます。先ほどお話した『アズールレーン』もそうですが、国内企業の独壇場だった土俵にも海外作品が進出している現在、個々の企業が生き延びるのは難しい状況になってくるでしょう。
 
――:海外展開への取り組みも含め、Wright Flyer Studiosの2018年以降の展開についてお聞かせください。
 
荒木:まず、2017年には日本発のグローバル展開作品における成功例を作ることができました。これを礎として、我々のビジョンである”新しい驚きを世界中の人へ”を現実のものとするため、2018年はグローバル展開を積極的に行う予定です。現行タイトルの海外版のリリースは、すでにプロジェクトが進行中のほか、現在作っている新タイトルの多くはグローバル展開を前提に製作中です。
 
 
荒木:また、グリー全体としては、「エンジン」・「IP」・「グローバル」という3つの軸で戦略を策定しています。ゲーム「エンジン」の強化を図りカテゴリリーダーを目指した上で、自社・共同原作・他社と多岐にわたる「IP」をバランス良く組み合わせ、先程もお話した「グローバル」展開していきたいと考えています。
 
――:その他、現在取り組んでいる新しい試みなどについて教えていただけますか?
 
荒木:VR事業をはじめとして、モバイル以外のプラットフォームへの進出も、積極的に行おうと考えています。対応プラットフォームが拡大すると、単純にユーザーとの接点を広げることができます。より多くの方に作品を提供できるよう、現在は施策を巡らせているところです。
 
――:最近ではタイトルごとの生放送なども、目にする機会が増えました。そういった取り組みも、ゲーム外への進出の一環なのでしょうか。
 
荒木:その通りです。目的としては、自社IPの育成にあたる部分ですね。ユーザーがより作品に触れる機会を増やすため、今後も生放送やをリアルイベントなどを積極的に行っていきます。
 
――:VRの話題が出ましたが、 御社の今年のVR事業はいかがでしたでしょうか?
 
荒木:今年は多くのコンテンツをリリースすることができたので、お客さまからのフィードバックを得ることができ、大変実りのある1年でした。家庭用VR機器向けのゲームに加え、子ども用にアーケード向けのオリジナルの筐体の製作も行ない、幅広くノウハウを蓄積できたと思っています。
 
――:業界全体としてはいかがでしょうか。
 
荒木:非常に順調に伸びていますね。VR元年と言われた2016年初頭に、アメリカの大手投資銀行であるゴールドマン・サックスが立てたVR市場成長予想に対し、実態は上回っているんですよ。メディア的には既に落ち着いてしまった印象のあるVRですが、着実にシェアを伸ばしています。
 
――:最初の盛り上がりが落ち着いただけで、まだ伸びは止まらないと。
 
荒木:ええ、現行で普及しているVR機器は第1世代で、2017年の秋~冬ごろから第2世代の機器の情報が出始めています。そこからもう1世代先、2018年末から2019年前半にかけて第3世代が発表されることになると思いますが、その頃には軽量化・低価格化がかなり進みますので、その時期が勝負時になるでしょう。
 
現状は慌てず、着実にノウハウを蓄積する段階です。スマートフォンも、第1世代が発売されてすぐに世の中に普及したわけではありません。新しいデバイスが一般に浸透するのは、世代進化が進んでからの話だと考えています。

 
――:最後に、読者の皆さんに向けてメッセージをいただけますか。
 
荒木:2017年に引き続き、2018年も”新しい驚きを、世界中の人へ”届けていきたいと思います。ぜひ、ご期待下さい。
 
――:本日はありがとうございました。
 
 
(取材・文:編集部 山岡広樹)
株式会社WFS
https://www.wfs.games/

会社情報

会社名
株式会社WFS
設立
2014年2月
代表者
代表取締役社長 柳原 陽太
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