【セミナー】業界交流イベント「Flyers’ Lab #4」をレポート…「3Dアート」だからこそ成しえる表現法とは

 
グリー<3632>のアプリ開発スタジオ「Wright Flyer Studios」は、2月26日、業界交流イベント「Flyers' Lab(フライヤーズ ラボ)#4」を開催した。
 
第4回目となる「3Dアート編」では、NHN PlayArtで『#コンパス 戦闘摂理解析システム』(以下、『#コンパス』)のアートディレクターを務める藤田大介氏を招いて、Wright Flyer Studiosの『釣り★スタVR』、『武器よさらば』のリード3Dアーティストであるルイス パオリーノ氏と共に、ゲームの世界観を最大限に表現する「3Dアート」について講演を行った。
 

 
本稿では、当日の講演の模様をレポートしていく。
 
■「Flyers’ Lab」とは
Flyers(飛行士)たちが、ものづくりにおいて、大空高く離陸するのを夢見て、議論、いじりあい、試行錯誤するLab(実験室)のような場所であってほしい、という想いから命名。あらゆる垣根を超えた学びの場を実現することで、ゲーム業界全体を盛り上げていくことを目的とした業界交流イベントである。

 
●NHN PlayArt

 
まずは、NHN PlayArtの藤田大介氏が登壇し、「新しい表現を目指す為の3Dキャラクターメイキング」と題した講演をスタート。
 
始めに藤田氏は、本日の講演で共有したいこととして下記の2点を挙げた。
 
・スマホ向け新規性を獲得する3Dアートの初期設計とは
・3Dを活用して個性を生み出すキャラクターメイキング
 

▲NHN PlayArtの藤田大介氏。2015年末の『#コンパス』立ち上げからアートディレクターとして参加しており、全体のアートディレクションやコンテ、カメラなどの演出周りを中心に担っている。
 
続いて、『#コンパス』がどのようなゲームであるかを紹介。
 
本作は、NHN PlayArtとドワンゴの共同ゲームプロジェクトで、2016年12月よりiOS/Androidにてサービスを開始している。「1バトル3分間」で仲間とチームを組み、他プレイヤーのチームと3x3のバトルで、ステージに配置された拠点を奪い合うリアルタイム対戦ゲームだ。また、スキルカードを集めて、組み合わせによる多彩な戦略で最強のデッキを作り、対戦に備えることができる。アクションゲーム、戦略ゲーム、カードゲームの要素を、1バトル3分に凝縮して詰め込んだ、全く新しいジャンルの対戦ゲームとなっている。
 
 


そして、ここからはキャラメインキングを軸に、スマホにおける新規3Dプロジェクトをどういった考えで設計していたかという工程を説明していく。
 
1.ビジュアルを決める
競合に埋もれない新規性の高い3Dアートとは
 
2015年秋に企画が発足したという『#コンパス』だが、当時、市場は既に高品質なゲームアプリが多数配信されており飽和状態にあった。そこで藤田氏らは、新規IPを作るにあたってアートワークをどのようなアプローチにするか、立ち上げ時にチームで課題を話し合ったという。
 
「高品質」「3D」は当たり前となっていたことから、その点のみをウリにするには厳しく、品質を上げても”差別化”ができなければ埋没してしまう状態にあったと藤田氏は話す。また、開発費が高騰していたことから業界全体としても短期間高品質達成のためにトレンドのアプリを参考にクオリティラインを引いてリスクを回避する傾向が見られたという。そこで、まずは一目で『#コンパス』だと分かるビジュアルを目指すことを決めたとの話だ。
 
そうして、そのために新規性とは矛盾する項目を洗い出し、まずは「やらないこと」、次に「やること」を下記のように決めていった。
 

▲他タイトルとの差別化を図るため、採用されやすい項目を排除することから埋没しない道を模索したようだ。
 

▲当時(2015年)の段階では、端末スペック的に空気感や光を演出することは難しかったが、配信まで開発期間が1年あることを考えてこのような方針に決定したとのこと。また、セルルックについては、他のスマホゲームでウリにしているタイトルがなかったことが決め手となった。
 
2.キャラクターメイキング
~ヒーロー誕生~
 
次に、藤田氏はキャラメイキングにおいてポイントとなる点を紹介したのだが、何よりも下記の言葉が重要になると述べた。
 
「我々はデータを作っているのではない。ヒーローを誕生させているんだ」
 
藤田氏によると、『#コンパス』では1体のキャラメイキングにかけられる時間は2ヶ月ほど。その中でキャラに個性を持たせるため、協業しているドワンゴが運営するニコニコ動画の文化をアートワークに取り入れたいと考えたという。
 
この考えから「発想を重視して作家性を削らない」、「絵柄を強制したり統一したりしない」、「癖を含めて味として残す」という方針に至る。開発側で制限をかけるのではなく、個性を活かす方向で間口を広くしてユーザーの参加しやすいアートワークを目指すことに。
 
その中でも、ゲームデザインを守るために設けたのが下記の3つの項目となる。

・シルエットが明確であること(塗りつぶして分かるくらい)
・テーマカラーが明確に分かること
・セクシー、イケメン、慈愛などワンフレーズで分かるテーマがデザインに反映されていること  

激しいアクションや混戦時にも明確に自キャラを認識できることはゲーム体験に関わるほか、シンプルで明確なキャラデザインの方がユーザーへの記憶定着も良く、二次創作をするにも書きやすい、愛着が湧きやすいというメリットがあると説明した。
 
では、モバイルサイズのゲームで認識しやすいディティールとはどのようなものか。藤田氏は、デザイナーに下記のような例を挙げて紹介した。
 

 
これらの事項を踏まえて、キーワードや技術的な注意点をまとめた資料を絵師の方々に渡しているという。その後、上がってきたラフをもとに絵師とやり取りを行い、よりキャラを練り上げていくのだと解説した。
 

 
続いて「ヒーローの特徴を考える」工程を紹介。イメージソースをチームで共有しながら、玩具の武器を使って実際に演じてみたり、動きやクセの特徴を案として出し合いながらヒーロー像を積み上げているという。また、案出しにはニコニコ動画のダンサーに参加し、その後のモーションキャプチャーでもアクターを務めてもらうなど、ここでもニコニコ動画の文化を取り入れた試みが行われている。
 
ただし、このワークフローは共通化によるコストカットができるという3Dの旨味の部分を捨てた工程でもあるため、全てのゲームに対して最適な手法ではないことを付け加えた。『#コンパス』では、ユーザーから世界で1体だけのヒーローが望まれており複製やコピーが望まれていないため、短期的なコスト削減より長期的な運営を考えて、モーションやエフェクト(共通を除く)は、全てワンオフで作っているという。藤田氏は、自分たちが一体何を目指しているのかを考えてワークフローを選択するべきだとコメントした。
 

▲そうして出来上がった事例として、今回の講演ではキャラパーソナリティーの面から「グスタフ」と「テスラ」という2体のキャラが比較として紹介された。
 
キャラ追加の際には、対象となる相手が存在することでさらに魅力が引き立つとの話。また、その際は見た目だけでなく性格などパーソナリティの部分にも関わってくることが重要であるとのこと。演出するにあたって以下の対象的な違いを定義した。
 
・グスタフは大人。テスラは子供。
・グスタフはコンプレックスがある。テスラは自信がある。
・グスタフは人に愛されずに育った。テスラは人に愛されて育った。
 
このように、『#コンパス』では全てのヒーローガ互いに持っていないものを補完することでそれぞれが魅力的になるように設計しているという。
 
また、カメラワークにもパーソナリティを引き出すための工夫が施されており、例えばグスタフは暗い運命に抗い何かを求め続けているので主に下手から上手に向かったカメラで演出している。一方、テスラは姉妹の寵愛を受け自信家で上から目線のため上手から下手に向かうカメラで主に演出している、と藤田氏は明かした。
 

▲演出時はLUTも変更して印象を切り替えている。キャラの個性をカメラでも演出し表現することでプレイ中にもユーザーがヒーローの性格を認知できる。
 

▲そのほか、ヒーローに触れることで5種のリアクションが返ってきたり、画面遷移時にはパッと消えずに遠ざかるような演出を取り入れるなどして”実在感”を演出している。藤田氏は、3Dという空間を認識して利用することで広げられる世界もあると述べた。
 
なお、『#コンパス』ではUIや演出についてはなるべく目新しいものを取り入れるようにしているが、機能については「ガチャ」や「デッキ」などオーソドックスなものを採用している。この理由について藤田氏は、新しいものが多いとユーザーが学習に疲れて離脱してしまう恐れがあるため、新しいことをする際には、オーソドックスなものと新しいものの配分に気を付けたいと語った。
 
最後に藤田氏は、モバイルゲームに3D技術が採用されるようになり数年が経過し、今後は3Dの利点を活かした目新しいゲームを生み出す必要があると話す。3Dを単なるアセットではなく、表現の柱として利用することで広がりが生まれてくるのではないかとまとめた。
 
●Wright Flyer Studios

 
続いて、Wright Flyer Studiosのルイス パオリーノ氏が登壇。3Dゲームの開発を10年以上続けてきたというルイス氏は、GREE VR Studioの3Dチームマネージャーやリード3Dアーティスト、プロジェクトによるアートディレクターを担当している。
 

▲Wright Flyer Studiosで『釣り★スタVR』や『武器よさらば』のリード3Dアーティストを務めるルイス パオリーノ氏。
 

▲現在は、VRタイトル1本、スマートフォンタイトル2本、コンソールタイトル1本と計4タイトルの開発に携わっている。
 
そんなルイス氏は今回、『武器よさらば』と『釣り★スタVR』の事例から講演を行った。
 
●『武器よさらば』
『武器よさらば』では、キャラと背景についての事例を紹介した。
 

▲こちらは、『武器よさらば』開発時に使用しているツール。
 
まずルイス氏は、キャラ設定は下記のような資料を企画担当が用意し、名前・身長・年齢・キーポイントなどをまとめてからコンセプトアートや三面図を描き上げていると制作の流れを話した。
 
 
 
その後、揺れものやジョイントについての資料も公開。『武器よさらば』では、揺れものは1キャラにつき4箇所まで採用、ジョイントは男女2種類のパターンが用意されているという。
 
 
 
また、背景はコンセプトアートを基に必要なパーツを3Dモデルで作成している。
 
 
 
そこに朝・昼・夜と3種のライトや、雨や雪といった環境エフェクトを用意して表現のバリエーションを豊かにしている。
 
 
 
結果として、ゲーム画面をコンセプトアートに近付けて公開できたことがユーザーから好評を得られた要因にも繋がったと分析した。
 
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●『釣り★スタVR』

 
『釣り★スタVR』では、キャラのほか、魚や竿の作成手順についても公開した。
 

▲こちらは、『釣り★スタVR』開発時に使用しているツール。
 
キャラ作成の際に特徴的なのは表情の変化があることで、こちらは”ブレンドシェイプ”というアニメーション手法を採用することで実現している。
 

 
また、魚の口にはアンカーが仕込まれており、そこに釣り糸が繋がるように設定することで魚を釣り上げたときに魚が引っ張られている様を表現しているという。
 

 
▲魚は姿が見えるものを左側の写真にあるものの2~3倍を実装しているほか、水の上から見える魚影として右側の写真にあるようなローポリで黒い影のものを用意している。
 

▲魚と同じく竿のフックの部分にもアンカーが仕込まれており、先ほど紹介した魚の口と連動するようになっている。
 
そんな『釣り★スタ』は、2018年内にNintendo Switch向けにグローバル配信されるとのこと。

 
両者の講演後は、モデレーターとしてWright Flyer Studiosの下田翔大氏が登壇して座談会が行われた。
 
座談会では、「スマホやVRだからこそできる3D表現」や「費用やスケジュール制限がある中でクオリティ上限をどう設定しているか」などのテーマで話が展開された。
 
また、「ゲームグラフィックの今後」というテーマでは、下田氏が2人に「これからスマホゲームは3Dゲームが主力になってくると考えていますか?」という疑問をぶつけた。これに対して藤田氏は「2Dアニメーションソフトの台頭や企業ごとの得意・不得意のジャンルもあるので、3Dは主力になり得るが表現法のひとつに留まるのではないか」と、今後も2Dゲームは残り続けるであると予測。一方でルイス氏は、ドット絵のような2Dは味も含めそれが価値となるが、それ以外のものは3Dを使用した技術で2Dのように見せることも可能なのではというような見解を述べた。
 
 
▲単に3Dを採用するだけでなく、自分のゲームで何がやりたいかを見つめ直し、そこに合う表現法を選択することが重要との話も。
 
なお、「Flyers’ Lab」は第5回の開催も予定されている。日程や登壇者については未定となっているが、決まり次第、下記のページにて情報が公開されるとのことなので、興味がある方はチェックしておこう。
 

Flyers' Lab「Peatix」


(取材・文 編集部:山岡広樹)
NHN PlayArt株式会社
http://www.nhn-playart.com/

会社情報

会社名
NHN PlayArt株式会社
設立
2015年10月
代表者
代表取締役社長 丁 佑鎭
決算期
12月
企業データを見る
株式会社WFS
https://www.wfs.games/

会社情報

会社名
株式会社WFS
設立
2014年2月
代表者
代表取締役社長 柳原 陽太
企業データを見る