【インタビュー】新作発表の裏にある仕掛けとこだわりとは…スマホゲームにおけるマーケティングの変化とKLabGamesの挑戦

KLab<3656>は、去る5月10日、平成30年12月期の第1四半期累計(1~3月)の決算を発表し、売上高79億2700万円(前年同期比51.0%増)、営業利益13億4500万円(前年同期比43.8%増)、経常利益12億2900万円(前年同期比16.4%増)、最終利益8億500万円(前年同期比16.9%増)と2ケタ超の大幅増収増益となった(関連記事)。
 
昨年6月にリリースした『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』と同じく8月にリリースした『うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live』の売り上げが寄与したほか、『BLEACH Brave Souls』の売上も増加し、海外売上高も前四半期から64.0%増という驚異的な伸びを記録している。
 
また同社では、第1四半期期間にて「AnimeJapan 2018」にて出展も行い、新規タイトルの発表を行った。発表では様々な情報公開が行われ、ライブなどのステージイベントも実施するなど、新作にかける姿勢が印象的であった。
 
本稿では、KLab株式会社の専務取締役CCOの森田 英克氏にインタビューを実施。ゲーム事業の振り返りとともに、『禍つヴァールハイト』『ラピスリライツ ~この世界のアイドルは魔法が使える~』を中心とした今後の展望について語ってもらった。
 

◼︎マーケティング手法の転換…「興味を持ってもらう火を起こす」


KLab株式会社
専務取締役 CCO
森田 英克
 
――はじめに、今年に入ってから現在までのゲーム事業を振り返ってみていかがでしたか?
 
新しいプロジェクトがいくつかスタートしまして、グローバル展開では『うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live』を海外でリリースできたのと、新作タイトルの『禍つヴァールハイト』『ラピスリライツ ~この世界のアイドルは魔法が使える~』の最新情報を発表しまして、新しいことを形にできたのは良かったことだと思います。昨年より、Japanese IPsとGlobal GrowthとOriginal Creationという3つのコンセプトを掲げていて、結果としてこの3つに合致した取り組みをお見せすることができました。
 
既存タイトルでは、周年記念イベントが4月から始まり、その準備にも動いていました。『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』が5周年、『天空のクラフトフリート』が4周年、『BLEACH Brave Souls』は7月で3周年を迎えます。周年イベントを各タイトルを盛り上げる山に設定していて、そこに向けて準備をしています。
 
――「AnimeJapan 2018」での展開は特に印象的でしたが、どういった経緯で出展することになったのでしょう。
 
KLabGamesというブランドをしっかりお客様に認知してもらうことが大きな目的です。今、私たちがやっているのはIPタイトルとオリジナルタイトルの展開なのですが、どちらにも共通するのが、「KLabGamesが携わった作品ならば面白い、期待できる」といった安心感や信頼感を、時間をかけて作っていくことが大切だと考えています。「東京ゲームショウ」と「AnimeJapan」はその一環ですね。
 

今後も目立つ形で継続的に行っていくつもりで、続けていくことでKLabGamesというブランドをお客様に覚えていただけると考えています。加えて、開発中のタイトルのメディアミックス展開を発表するタイミングとしても良かったので、「AnimeJapan 2018」では特に大規模に展開して、アピールしていこうと思いました。
 
――世に多くの作品がある中では、最初に目立つことはたしかに大切ですからね。
 
正直、「KLabGamesのオリジナルタイトルってどんなレベルの作品なのか?」という疑問符が付くところがスタートだと思うんです。ユーザーさんがKLabGamesのオリジナル作品のクオリティについてイメージがしづらい状態で、少しずつ情報を出すとか、ネット上のみで発表するなど行っても、あまり話題になりにくく局地的になってしまい、多くの方に興味を持ってもらうことが難しいです。

まずはいろいろな人にそれぞれの作品を見てもらう、そして、KLabGamesのブランドの元で作られるオリジナル作品のクオリティを知ってもらうことが目的で、「Anime Japan 2018」で大きく展開しました。

 
――発表の内容も、かなりボリュームが多くて驚きました。
 
私たちはまだまだオリジナルタイトルを作る会社・ブランドのイメージがありません。「やっているんだよ」ということを広くアピールをするために、発表の内容も濃くしていきました。
 
「大規模過ぎないか」「お金をかけすぎじゃないか」という声もなくはなかったのですが、今のモバイルオンラインゲームのマーケティングは変化が起きていると考えておりまして、ただ事前登録してストアに置くだけでは、ユーザーさんに興味を持ってもらえない状況になっていると実感しています。

知名度や話題性でユーザーさんが集まるので、まずは、作品自体が面白そうだ、と思っていただけ、それを多くの人に伝えられるよう、火をおこすことに注力したのです。

 

――ユーザーの目に止まらないというのは各社が抱える問題としてあると思います。
 
スマホアプリ市場がまだブルーオーシャンと呼ばれていたころは、ゲームの供給が少なかったのでユーザーさんがたくさんのゲームに触れてくれました。しかし現在はSNSやネット上で話題になっているもの、友達が良いと言っていたものしか触ってもらえないですからね。
 
――確かに、ただ横並びに立つだけでは埋もれてしまうのが現状です。
 
そういった背景もあり、「AnimeJapan 2018」でのステージ展開は、既にKLabGamesの作品に興味を持っていただいている方やゲームをプレイしていただいているユーザーさんに楽しんでもらうのはもちろん、そのステージを通して、はじめてKLabGamesの作品を知る方、まだゲームをプレイしていない方、離れてしまっている方、原作コンテンツファンの方、などにも情報を届けられるように意識しています。

また、「AnimeJapan 2018」の展示やステージのコンセプトは、「見出し2行ですべてを表現できる」ようにしています。SNSやメディアさん経由で情報が拡散していく際、いろいろな施策をやっていても、これはという注目度の高い情報がないとバズらないじゃないですか。「これはバズる」という、インパクトがあってシンプルでわかりやすい情報に絞り込んで、それを軸に拡散させていく、そして、興味を持ってもらえたら、より深い情報にもアクセスしてもらう、といった流れを作りました。

 
 

◼︎世界が広がる仕掛けを…KLabGamesオリジナルタイトルの特色とは



 
 ――オリジナルの新作である『禍つヴァールハイト』『ラピスリライツ ~この世界のアイドルは魔法が使える~』(以下「ラピスリライツ」)はどんな特色を持っているのでしょうか。
 
『禍つヴァールハイト』に関しては、リッチなグラフィックの本格的なモバイルオンラインRPGを目指して開発しています。全くの新規IPのため、それだけではユーザーさんに興味を持っていただくことは難しいので、興味をもってもらえるようなフックになるように、今回はバーチャルYouTuberの電脳少女シロちゃんとコラボさせていただきました。
 
――『禍つヴァールハイト』はアニメーション化プロジェクトも決定していますが、オンラインRPGでアニメになるのは珍しいケースですよね。
 
最初の段階から決めていたわけではなく、開発する中でアニメ化の企画が生まれてきました。IPとして良いものになっている手応えがあったので、ゲームとは違う形でも、コンテンツを紹介していったほうが良いと考えています。
 
『禍つヴァールハイト』は世界観や物語に力を入れることは開発初期から決めていて、今の時代だからこそできる、現在進行形の作品を目指して開発を進めてきました。『禍つヴァールハイト』のクオリティであれば、アニメ作品としても十分戦えると感じ、ゲームだけではなくアニメとメディアミックスしていくことで、作品そのものが深みを増し、より多くのお客様に興味を持っていただき、ファンになっていただけると考え、進めることにしました。


 
加えて、世界的に動画配信のPFが変化してきて、アジアや欧米でもアニメが流通しやすくなってきていますので、海外においても、ゲームだけでなくアニメを通しても作品を知ってもらえる道筋が出来てきたのも追い風でした。
 
――一つの世界観をもとに、それぞれのメディアを、点ではなく線でつないでいくイメージですね。
 
恐らく、『禍つヴァールハイト』も『ラピスリライツ』も、アニメとゲームは違うストーリー展開になると思います。アニメを見てゲームに入って、同じ話を体験するよりも、両方を体験すると世界が広がるような仕掛けを作りたいですね。
 
――『ラピスリライツ』のほうもメディアミックス展開が早々に発表されています。
 
ゲーム以外にもアニメ、コミック、ライトノベル、ライブとさまざまな展開を予定しています。『ラピスリライツ』を好きになってもらったら、ファンの方が1年中コンテンツのことを考えているような形になると思います。


1年を通してずっと『ラピスリライツ』に触れられるコンテンツ作りを目指していて、ライブだけでも年に数回行いたいですしゲームの大型アップデートも年に数回実施します。コミックやライトノベルも2、3ヶ月に1冊のペースで刊行できるといいなと思っています。子供のころに月刊雑誌を毎月わくわくしながら楽しみにしていたあのときの感覚を、再現したいと思っています。
 
――それぞれが上手く作用すれば、本当に大きな盛り上がりが生まれると。
 
上手く行けばの話であって、上手く行かせることが大変であることも認識しています。メディアミックスを同時に行うリスクもあるとは思いますが、それぞれのチャネルを単体で勝負させて、すべてで成功をおさめる方がより難しいので、すべてを総合的にマーケティングすることで熱が生まれると思いますし、コンテンツのスタートに、大きな熱を産み出すのは重要なことだと考えています。
 
それに、オリジナルタイトルはあくまでもポートフォリオの一部であって、収益をオリジナルタイトルに投資している形です。会社方針として、投資には上限を決めています。

 
――博打ではなく、健全な挑戦だと。
 
そうですね。きちんと見据えた中での挑戦と言えます。
 
 

◼︎KLabGamesの取り組みすべてを楽しみにしてくれるようなゲーム作りを

 

――「AnimeJapan 2018」の話しに戻りますが、メディアやユーザーからの反響はいかがでしたか?
 
ひとつひとつの意見はまだ確認できていませんが、動画の視聴数は順調な推移を見せています。特に『禍つヴァールハイト』の数字は驚くほどで、これは大成功と言っていいのではないでしょうか。メディアさんの掲載数も過去に例を見ないほどで、私としても嬉しく思っています。
 
――『禍つヴァールハイト』は具体的に、どのような点が評価されたと見ていますか?
 
シロちゃんとのコラボのインパクトがうまく働いたと考えています。シロちゃんがきっかけになってくれて、その次にゲームのコンセプトや概要にも触れてくれました。そちらも非常に反響がよかったので安心しています。

グラフィックは家庭用のゲームと遜色ない出来にしようと努力していて、市場が求めているクオリティがどれだけのものかをチーム全体で考えて、乗り越えていくよう挑戦をしています。

 
――ゲームシステムなどで、注目してもらいたいポイントはありますか?
 
『禍つヴァールハイト』はストーリーも良くできていて、「この世界に入りたい」と思わせるゲームになっています。プレイヤーは最初にジョブを選ぶことになっているんですけど、ストーリーとしては機動兵団の中で自分が入りたい部隊に入隊するところから始まります。その部隊の上司にウォーリアやウィザードといったジョブが設定されていて、どの上司と一緒に戦いたいかがジョブ選択になるのです。ただ単にジョブを決めるだけでなく、それすらもストーリーの一環になっているわけです。
 
――ジョブを選ぶところはシステマチックになっているゲームがほとんどの中で、珍しい切り口ですね。
 
これは開発チームが考案したことで、「ジョブを選ぶのではなく上司を選ぶんです」と言われたときは、みんな不思議な顔をしていました。しかし話を聞いてみると、ストーリーの背景も練り込まれていて、ユーザーさんの没入感も高くなると感じました。
 

SNSが普及した現在は、周りに共感してくれる人がいなくても、インターネットを通して共感する仲間と繋がれます。これまでとはアイデンティティの生まれ方が変わってきて、「こんな社会でも、自分と価値観の合う仲間と巡り会える」ことを表現しています。上司を自分自身で選択できますし、彼らの立ち位置や考え方にも共感できると思います。
 
――なるほど。『ラピスリライツ』のほうは、まだゲームシステムを発表していないですよね。
 
『ラピスリライツ』はストーリーパートの画面をいくつかお見せしています。既存のゲームのストーリーパートは、いわゆる紙芝居をイメージする方が多いと思います。本作では一歩踏み込んで、アニメーションを演出に組み込んで、会話のシーンでもしっかりとキャラクターやカメラワークが動く工夫を施しています。ユーザーさんにはアニメを見ているような感覚を味わってもらいたいと思っています。ユーザーさんが求めているものって、まったく新しいバトルシステムではなく、常に触れる部分がしっくり来るかだと思うんです。
 
――それがゲームの体験に繋がりますからね。
 
なので『ラピスリライツ』は、女の子をどれだけかわいく見せるかにこだわっています。3Dのグラフィックはもちろん、演出、ストーリーのすべてがポイントですね。
 
――今後の展望、構想などがあれば教えてください。
 
『禍つヴァールハイト』はシロちゃんとのコラボ番組を作るところまでが決まっていて、まずはそこを楽しみに待ってもらえると嬉しいです。私たちはもちろん、シロちゃんからも面白いことを仕掛けてくれると期待しています。

『ラピスリライツ』は今後のマイルストーンを調整しているところで、リリース前の段階から大きな発表を行えるように進めています。既存の事前登録キャンペーンで終わらせるのではなく、ユーザーさんが楽しみにしてもらえるようなマイルストーンを作って、さまざまな角度から盛り上げていきたいです。

 
――ゲームだけでなく、仕掛けの数々にも注目ですね。
 
ゲームを軸にしつつも、様々なコンテンツ展開を仕掛けていきますので、KLabGamesの取り組みすべてを楽しみにしていただけるようにしていきたいですね。
 
 

◼︎面白いゲームを作り、世の中に面白く伝えていくKLabGamesを目指す

 

――従来のゲーム会社はゲームを作るだけでしたが、今後はそれを取り巻く体験を作っていくことが求められていると感じます。
 
それがパブリッシャーの役割だと思います。デベロッパーは面白いゲームを作ることで、パブリッシャーはそれを魅力的に世の中に伝えていくことです。ゲームの前後、周辺を含めて考えなければならず、資金を出すだけという時代は終わりましたね。
 
――KLabGamesはパブリッシャーとデベロッパーの両方を備えていますが、どういった組織に成長させたいですか?
 
デベロッパーとしてのベースはありますが、優秀なクリエイターをさらに増やしていきたいです。それにプラスしてパブリッシャーとして、自分たちのやっていることを国内外で伝え、メディア展開していく人材は必要だと感じています。なので、他業種の方でも活躍できる業界になってきたと常々考えています。
 
――具体的に、どんな人物が御社に合うと考えていますか?
 
自分でやりたいこと、やるべきことをイメージできて、提案型で動ける人ですね。また会社としてもやりたいことは日々変わっていくので、新しい切り口を持ち込める人は活躍できます。私たちも模索しながら展開を考えていて、それをリードできる人は会社にとってプラスになると思います。
 
――最後に、読者に向けて一言お願いします。
 
スマホゲーム業界自体、競争が激しくなり、参入するリスクも高まっています。その中で、3PILLARS(①Japanese IP’s ②Global Growth ③Original Creation)という独自のアプローチで市場を切り開いていこうと考えています。共感できる方、一緒に取り組んでみたい方がいたら私たちとしても共に働きたいですし、応援していただけるとありがたいです。
 
――ありがとうございました。
 
 
 
 

KLab 採用情報

 
(C)KLabGames / KADOKAWA
 
KLab株式会社
http://www.klab.com/jp/

会社情報

会社名
KLab株式会社
設立
2000年8月
代表者
代表取締役社長CEO 森田 英克/代表取締役副会長 五十嵐 洋介
決算期
12月
直近業績
売上高107億1700万円、営業損益11億2700万円の赤字、経常損益7億6100万円の赤字、最終損益17億2800万円の赤字(2023年12月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3656
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