【連載】岩野Pの「なれる!プロデューサー」 - 第9回「プロジェクト成功のための第一歩とは」


『乖離性ミリオンアーサー』など、数々のスマホゲームを手掛けてきた、スクウェア・エニックスのプロデューサー・岩野弘明氏。同社に勤務してから10年以上もの歳月が経っているが、そんな彼にも新人時代があった。上司や先輩に教わったこと、成功や失敗から得たこと、様々な経験を経て今がある。この連載は、岩野氏がプロデューサーになるまでの道のり、その後に直面する幾多もの気付きを形にしてくれた、自叙伝。
 

■第9回「プロジェクト成功のための第一歩とは」


『けものフレンズ』の勢いがすごいですね!まさかこんな流行るなんて予想だにしていませんでしたが、見てみたら確かに癒されるというかなんとも言えない中毒性があります。ゲームの方はアニメ開始前に終了されていましたが、もし続いていたらどんな影響が出ていたんでしょうか。サービス再開の可能性を否定、新作も予定なし、という内容のネクソンさんの決算発表の記事を読みましたが、今後IPとしてどうなっていくのか、動向が気になります!

というわけで、今回は2012年のお話をしたいと思います。

<2012年>
元スクエニ、現株式会社シシララ代表取締役社長の安藤さんが部長となり「特モバイル二部(現第10ビジネス・ディビジョン」が発足。部発足後初のタイトルとして4月に「拡散性ミリオンアーサー」をリリース。思いがけずヒットして嬉しいものの運営が大変で四苦八苦。さらにリリース後10ヶ月くらいのタイミングで行った大型アップデートが見事に不発。リリース当初から開発スタッフが抜けたり、それでなかなかアプデができなかったりな中、無理やりスケジュールを合わせようとしたつけが回りました。その後『拡散性ミリオンアーサー』は下降気味に。この年には『乖離性ミリオンアーサー』『唯一性ミリオンアーサー』『オカルトメイデン』の他、開発中止となったプロジェクトもいくつか立ち上げました。
 

■ゲーム開発はバランスが大事

 
『拡散性』のヒットがあり、それに続けとばかりに部では大量にプロジェクトを立ち上げました。一時期は僕の受け持つプロジェクト数はプラットフォームや地域違いを含めると10を超えるほどになりました。

ただ、開発するチームに丸投げできるならいいのですが、当時はまだまだスマホのF2Pゲーム開発に慣れたチームが少ない状況で、しかもより際立ったタイトルにするにはプロデュースもしっかりしないと売れません。当然一つ一つにかけられる力は分散し、散々な結果となりました。(今にして思えば、調子に乗って立ち上げすぎてしまったことを大いに反省しています…)

少なくとも日本の現市場においては、スマホF2Pゲームの開発にプロデュース機能がないとちゃんと売れるものは作れません。プロデューサーがいないとダメというよりは、チームにすべての機能がそろってないと売れません。直観やセンスといった感覚の力も必要だし、様々な分析を行いその結果を読み取る力も必要です。


複数タイトルを作る際は、各プロジェクトにそういった機能が最低限揃い、開発・運営できる算段が立ってないと無謀です。

ただ、なかなかそういった機能を完全に揃えることが難しいのも事実。現に、いまだに僕の所属する部署でも十分ではありません。だから少なくとも一部の機能が「まったくないという状況」は避けたいところです。
 

■開発と運営は別の能力


ガラケーのF2Pが流行っていた時代やスマホのF2Pゲームの黎明期にかけては、初期開発チームがそのまま運営も行うということが多かったように思います。『拡散性』を作っていた頃の僕もそうでした。

ただ、厳密には初期開発と運営とでは求められる能力が違います。元々オンラインゲームの運営業務から入り、『拡散性』の運営をやっていた僕も、得意としているのは断然初期開発の方です。だから、部内では主に「初期開発をするプロデューサー」として仕事をしています。

もちろん、リリース後スパッと運営プロデューサーに投げることはできないので半年くらい一緒に運営しますが、緩やかにバトンタッチしたらまた別のタイトルを立ち上げ、別プロジェクトの開発をするという感じです。餅は餅屋ということですね。

そういった体制が取れないようならどちらもできるプロデューサーがずっとそのタイトルを面倒見ていくしかないと思います。別のタイトルも掛け持ちすると共倒れの危機です。

 

■会社や作り手のカラーにあったものを


この頃はまだヒット作のゲーム性やUIを踏襲した「どこか見たことあるようなゲーム」が通用していた時代。当時のヒット作はカジュアルな見た目で手に取りやすく、遊ぶとなかなか奥が深い、という感じのものが多かったように思います。

上記よりさらに前、スマホゲーム黎明期で売り切りのゲームが大多数だった時代、スクエニでも様々なカジュアルゲームを作ってきましたがなかなか苦戦。その結果行き着いたのが、「スクエニファンはスクエニにカジュアルなゲームを求めていないのでは」ということでした。

もちろん、完成度の違いで売れたり売れなかったりするだろうし、必ずしもスクエニのカジュアルなゲームが売れないとは限らないのですが、僕がいちスクエニファンとしてスクエニに求めるのは、個性的な世界観とクオリティの高いグラフィック、そしてそれを存分に楽しめるゲーム性により新しく見えるゲーム。

なので、自分のプロデュースするものもそうあるべきと考えました。その路線で当時立ち上げ世に出たのが、『拡散性ミリオンアーサー』『乖離性ミリオンアーサー』『オカルトメイデン』です。

結果、『拡散性』『乖離性』はヒットしましたが、『オカルトメイデン』は運営中止となりました。『オカルトメイデン』は初期の登録者数は『拡散性』を超える勢いで集まったものの、ゲーム性とマネタイズがうまく連動しておらず、課金したいと思えるものにはなっていませんでした。

 

当たり外れはあったものの、いずれも多くの方に興味を持っていただいたという結果から見るに、やはりスクエニに求められるのはこういうものなんだと、自分のなかで一つの答えを見つけました。

これはスクエニに限った話ではなく、様々な会社や作り手も同様だと思います。例えば、Happy Elementsさんの場合はとても温かみのあるポップな2Dアートが魅力ですし、リベルさんの場合は女性プレイヤーに響く世界観やゲーム作りを得意とされています。そういった開発としてのカラーがあれば自ずとその開発のファンが増えますし、それがその後のタイトルをリリースする際のプロモーション効果を大きくします。

なので、新しいことにチャレンジすることは当然大事ですが、その会社やチームの色というか得意な部分を十分に発揮した上でのものである方が勝機がありますし、有意義だと思います。その見極めもまたプロデューサーの仕事の一つなので、最初の企画段階からチームや会社の色を出すということを意識したいですね。

長々と書きましたが、ここで記事のタイトルである「プロジェクト成功のための第一歩とは」の続きを書きますと、「求められていることと自分(自分のチーム)の能力を把握する事」でした。孫氏曰く『彼を知り己を知らば、百戦殆うからず。彼を知らずして己を知らば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆うし』というやつですね!

…とはいえ、僕も十分できてないのでまだまだ日々精進といったところです。 ではでは今日はこの辺で!



P.S.
「孫氏曰く」って言ってみたかったんです。

 

■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。

岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki


■バックナンバー


第8回「プレゼンが苦手な人にオススメなプレゼン方法」

第7回「IPタイトルプロデュースで大切なこと」

第6回「オリジナルのゲーム作りで大切なこと」

第5回「失敗の新体験が成功のチャンス」

第4回「どうしたら企画が通るの?」

第3回「ゲーム開発、内製と外注どっちがいいの?」

第2回「いまいち今の仕事が好きになれないあなたに」

第1回「2006年4月、スクエニ入社」
 
株式会社スクウェア・エニックス
https://www.jp.square-enix.com/

会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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