【インタビュー】世界規模でのユーザーコミュニケーションで築いた過去最高益とIP創出プロジェクトの始動…KLab森田氏に聞くその背景と今後の挑戦

KLab<3656>は、去る11月9日、平成29年12月期の第3四半期累計(7~9月)の決算を発表し、売上高73億1400万円(前年同期比28.9%増)、営業利益12億3800万円(前年同期比19.8%増)、経常利益15億8200万円(前年同期比40.0%増)、最終利益11億3300万円(前年同期比48.1%増)と大幅な増収増益となった(関連記事)。
 
『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』(以下、『キャプテン翼』)がこの四半期はフル寄与したことに加え、『うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live』(以下、『うたの☆プリンスさまっ♪』)が約1ヶ月分上乗せされたことが大きく、海外売上高もこの第3四半期期間にて過去最高を記録したようだ。
 
また同社では、第3四半期期間にて東京ゲームショウへの出展、新規タイトルの発表やゲーム事業の人員拡大と様々な展開をみせていた。本稿では、KLabの専務取締役CGOの森田 英克氏にインタビューを実施。ゲーム事業の振り返りとともに、今後の展望について語ってもらった。
 
 

◼︎世界規模でのユーザーコミュニケーションで築き上げた過去最高益


KLab株式会社
専務取締役 CGO
森田 英克
 
—はじめにこの第3四半期のゲーム事業を振り返るといかがだったでしょうか?
 
前四半期と比べても好調で過去最高益も出せました。要因としては『キャプテン翼』がこの第3四半期では大きく寄与したこと、あとは『BLEACH Brave Souls』(以下『ブレソル』)も2周年記念イベントが好評で、日本版、グローバル版いずれも大きく寄与しました。『キャプテン翼』についてはもう少し控えめの動きを想定していたのですが、予想を上回る動きでした。
 
 
—海外の売り上げも最高益を記録したようですが、その要因をどうみていますか。

▲KLab社決算説明資料より抜粋
 
『ブレソル』の2周年記念では海外からの流入が大きく伸びて、通常時の倍以上のDAUになりました。まだ、我々もきちんと解析をしきれたわけではないので、仮説にはなりますが、SNSやYouTubeを通じて、海外向けに情報発信をしっかりできたことが要因と考えています。
 
その一環で「KLab Games Station」という生放送を海外のお客様向けに放送しています。

 
 
ここで発信した情報が拡散し、BLEACHファンにリーチすることで2周年記念にて大きなリターンがあったのかなと思います。結果として、海外向けのお客様とのコミュニケーションが上手くできたのかなと考えています。
 
 
—海外ユーザーに向けた情報発信は他ではまだあまり見ないですね。
 
SNSが発達したからこそ、このようなバイラルマーケティングが世界的にも可能になったのかなと思います。「KLabGames Station」の視聴者数は約2万人くらいになります。数としてはそこまで大きいわけではないですが、その放送を見た人がFacebook、Twitter等で拡散してくれることで、さらに多くの方が二次的に情報を受け取っていただけたのだと思います。
 
結果としてはDAUが倍以上となったので、私たちも驚いていますね。本当に予想を超えたアクセスがありました。『ブレソル』は現在、英語圏はもちろんのことフランス語にも対応しているのですが、情報発信もフランス語でも行っているんです。

 
 
—海外の中でも多面的に展開されているのですね。
 
弊社のフランス出身のマーケティングスタッフが、フランス語での放送を週に一回行っています。母国語での放送なので、フランスのお客様も盛り上がり、売上にも大きく寄与していると考えています。フランス語対応前後では、その地域の売上が倍近くに違いましたね。
 
かつては弊社も、海外拠点を構えて、現地の人にマーケティングを行ってもらうという方針をとっていました。そのメリットとしては、その時その場所で流行っているアドソリューションの情報を仕入れてくるという点があります。ただ、そこをしっかりやれても、結局やってみて実感したことはリアルタイムで生の情報を届けていく方が効果としては高いということです。
 
新しいアドソリューションを探して、CPIを厳密に追及してお客様の動きを細かく分析するテクニカルなことを突き詰めるよりは、しっかりとお客様に向き合い、情報を伝えることを重視する方が弊社には合っているのかなと感じました。
 

あとは、情報が広まっていく経路がアドソリューションでなく、CtoCになってきていると思います。これはどの国でも、CtoCで広がるエコシステムのようなものが築かれてきたのかなと思います。確証とは言えないですが、その片鱗は感じられました。例えば、熱心な海外視聴者を東京ゲームショウにも招待させていただいたのですが、海外版『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』のお客様の中に、海外のお客様からの寄せ書きを作っていただいた方がいたんですよ。50ヶ国、500件以上のお客様からの寄せ書きでした。
 
ロイヤリティの高いお客様が増えてきていると思います。テクニカルではなく、泥臭くコミュニケーションをとっていくのが良いのだなと実感しました。今後は海外向けのマーケターの人員も強化をして、様々な言語や地域で展開していきたいですね。

 
 

◼︎「繋がり」を意識した東京ゲームショウと新規プロジェクト


 
—東京ゲームショウの話が出ましたが、こちらの出展経緯や狙いはいかがでしょうか。
 
東京ゲームショウの出展は以前からやりたいとは思っていました。というのも、お客様に「KLabGames」という名前も覚えてもらうことが、今後5年10年続けていくには大事だと思ったからです。ゲームを作ってアプリマーケットにリリースするだけでなく、ブランド買いと言いますか、パブリッシャーとしての信用や付加価値で弊社のゲームを手に取っていただくことが、長くゲーム事業を続けていく上では必要です。
 
その為には、多くの方に注目してもらえる場所に出て行き、印象付けることも大切です。今年はリリースタイトルも揃ってきたので、まず第一歩としてTGSに出展したという経緯ですね。

 
 
—御社のブースは、ほとんどが体験型コンテンツであり、独特な印象でした。関連記事
 
元々、東京ゲームショウは家庭用ゲームの見本市という立ち位置だったこともあり、家庭用メーカーさんが多いじゃないですか。その場所に、モバイル専業の弊社が大きく展開したとしても印象は残らないと思うんですね。だからコンセプトとしてはユーザー参加型にして、お客様が楽しめるブースにしようというのが根幹にありました。
 
なので、『キャプテン翼』はVRを用いたアトラクション、『うたの☆プリンスさまっ♪』は体験型コンテンツにし、メインステージでは常時何かしら催しを行い、生放送も並行して期間中は休みなく行うなど、常に動きのあるブースにするようにしました。お客様がいつ見ても新鮮に感じて飽きないようにできればと考えていました。
 
この手の大規模なリアルイベントは費用対効果が難しいと言われますが、結果として多くのお客様やメディアで話題に挙げていただき、良い取り組みだったと言えます。

 
 
—東京ゲームショウでは新規プロジェクトも発表されました。『Project PARALLEL』についてお聞かせいただけますか。
 

元々IPを創出したいという意向があった中、KADOKAWAさんとご縁があって、実現しました。その中でアイドル物をやりたいという方向性が一致していたというのもあります。ただ、これから普通のアイドル物をやっても特に目新しくないので、特徴のある形を考えた結果、「アイドル×魔法」というコンセプトが生まれました。
 
 
—両社とも「アイドル」をキーテーマに挙げたのはどういった理由でしょう。
 
やはり、メディアミックスプロジェクトとして様々な展開がやりやすいからだと考えています。KADOKAWAさんと弊社のこれまでの経験も存分に活かしていきたいですね。
 
 
—『禍つヴァールハイト』ではまた違った世界観ですが、こちらはいかがでしょうか。

 
「RPGを作りたい」という意向がまずあって、コツコツ構想を考えてきた中、今回発表させていただきました。世界観やクリエイティブは少し尖った内容にして、日本だけでなく海外にも受け入れられるような内容にしています。
 
また、昨今のアニメやライトノベルのトレンドも取り入れています。RPGというジャンルは正統派過ぎると特徴が出しにくいので、、違った切り口にしています。
 
色んなクリエイターさんと話をすることで、世界観にも深みが出ています。弊社では外部のクリエイターさんと一緒に手がけることが少なかったので、新鮮な分、面白いものが出せると思います。

 
 
—生田美和氏をはじめとしたクリエイター陣にオファーした際はどういったリアクションでしたか。
 
すごく前向きに取り組んでいただけましたね。最初に弊社から出した企画はまだ正統派なRPGといった内容だったのですが、シナリオを担当いただく生田氏からも「もっと尖っていきましょう」と積極的なご意見をいただきました。なので、すでに当初とは違った世界観になっています(笑)。
 
弊社も「やるからには」ということで共感し、意気投合して制作を進めていますね。細かい世界観はまだ明かされていませんが、今後は随時発表していきます。かなり特徴的な作品になりますので期待していただきたいですね。

 
 
—ユーザーにはどういったように楽しんでいただきたいとお考えですか。
 
まずは世界観など作品を純粋に楽しんでいただきたいです。また、ゲーム部分に関しても気持ち良くかつ長く遊べるように工夫しています。ゲームだけがメインというわけでなく、IPという形で様々な形で提供していければと考えています。
 

両作とも、ゲーム単体でコンテンツが完結しないようにしています。一年を通して、ゲーム以外の分野でも定期的に、話題性のある出来事が起こるようにしたいです。その出来事とスマートフォンでいつでも遊べるゲームが連動し、よりコンテンツを楽しんでもらえるようにできればと思います。

それぞれのメディア展開を点で行っていくのではなく、線で繋がっているようなイメージですね。繋がりをデザインしています。弊社では、これまで他社様のIPをゲームでご一緒してきたという実績があるので、どういったことを行えばお客様からポジティブな反応があるのか等の知見も多少はあります。そのノウハウも活かしていけると思います。

 
 

◼︎モバイルゲーム業界は今こそチャンス…挑戦できる環境

 
—御社の話を聞くと、ゲームのどの分野においても多様性・多面性が必要になってきていると感じます。そんな中で、御社ではどういった人材を求めていますか。
 
新しい取り組みですと、コンテンツそのものを開発できるようにならないといけないと考えているので、まずは、コンテンツプロデューサーと言える人でしょうか。あとは、今後はより立体的なマーケティングが必要になってくるので、動画やリアルイベントなどもすべて絡めたマーケティングができるようにしていきたいです。こちらは、各コンテンツに適したマーケティング、コンテンツにコミットしたマーケターと言えますね。
 
そしてもちろんですが、引き続き良いゲームを作っていけるように、ゲームクリエイターも是非入ってきていただきたいです。他社様の大型IPゲームの開発も引き続き行っていきますし、自社IPのオリジナルゲームにも力を入れていきます。大きなプロジェクト、挑戦的なプロジェクトばかりですし、提案していただければご自身が考えていらっしゃる企画も前向きに検討していきます。
 
共通して言えるのは、ご自身で意思決定ができる人や、しっかりやりたいことや可能性を伝えられる人ですね。「自分でコンテンツを作りたい」という人にはすごく良い環境だと思います。海外配信にも手応えや体制が築けてきたので、ご自身の作品を世界的にも挑戦することができます。

 
 
—やりたいことが「やれる」「試せる」環境があると。
 
個人的な考えにもなりますが、弊社のような会社がゲームを作り続けて成功するには、「これをやりたい」「こんなゲームを作りたい」という人が多くいる環境にすることだと思います。ですので、働きたくなるような環境は用意していきたいです。
 
もちろんヒットが出ることもあれば、ヒットしない時もあると思います。ただ、やり続けることで必ずヒットは出ると思うんですよ。それが多くの人で取り組めたら良いサイクルが生まれるはずなんですね。その為に「ここで働きたいな」「ここなら実現できる」という環境を用意し続けていきたいですし、今弊社では様々なことに挑戦できる環境があると思います。
 
もちろん会社として理解していただきたいことや守っていただきたいといけないことはあります。ただそれは、モバイルオンラインゲームのお作法の部分ぐらいであったりします。提供する品質として世間一般の水準をクリアしているかどうか、くらいです。作るコンテンツが良いかどうかは任せていますね。今年の東京ゲームショウをご覧いただければおわかり頂けるかと思います(笑)。各々のスタッフがやりたいことをやってもらい、独特なブースになっていたと思います。
 

スーパークリエイターという存在がいると心強いとは思いますが、その方がいなくなると、その会社はゲームが作れなくなります。そうではなくて、積み重ねから多くの才能や良き作品が生まれてくるような環境にしていくべきだと思います。
 
 
—最後に読者に向けて一言お願いできますか。
 
市場として成熟したとも言われることもありますが、グローバルで見ると、モバイルゲーム業界は今すごくチャンスだと思います。モバイルゲームだけでなく、家庭用ゲーム、アニメ、音楽、イベント等、様々なコンテンツが、よりタイムラグなく、海外にリーチ出来るようになりました。世界中で日本のコンテンツを受け入れる土壌が整備され、良い作品を作ることができれば世界中で評価される時代です。

そこに、ゲーム単体としての展開だけではなく、他のメディアを絡めた様々な動きができるようになったのは大きいです。まだまだやれることがあり、特に日本のクリエイター、ゲームメーカーは今すごいチャンスだと思います。
 
もちろんすぐに成果が見えるものでもなく、弊社でも5年後10年後の布石も打っております。引き続き泥臭く動いていきますので、共感できる方は是非ご一緒していきたいですね。

 
—ありがとうございました。
 
 
 

KLab 採用情報

 
(C)KLabGames / KADOKAWA
 
KLab株式会社
http://www.klab.com/jp/

会社情報

会社名
KLab株式会社
設立
2000年8月
代表者
代表取締役社長CEO 森田 英克/代表取締役副会長 五十嵐 洋介
決算期
12月
直近業績
売上高107億1700万円、営業損益11億2700万円の赤字、経常損益7億6100万円の赤字、最終損益17億2800万円の赤字(2023年12月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3656
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