【先行レビュー】“世界最後の電話”が涙を誘う――『シュレディンガーズ・コール』は誰かに伝えられなかった想いを救う物語


集英社ゲームズが2026年5月28日に発売を予定している『シュレディンガーズ・コール』は、“死にきれない魂”を電話で救うノベルアドベンチャーゲームだ。Nintendo Switch/Steam向けに展開される本作は、独創的な世界観と感情を揺さぶるシナリオで発売前から注目を集めている。

開発を手掛けるのは、京都を拠点に活動する3人組クリエイターチーム「アクロバティックチリメンジャコ」。「ゲームクリエイターズ CAMP GAME BBQ vol.1」で大賞を受賞した実力派チームとしても知られる。



配信されていた体験版も高い評価を得ており、『シュレディンガーズ・コール』への期待は発売前から高かった。今回は製品版をプレイし、“なぜ本作が心に残るのか”をレビュー形式でお届けする。


▲5月22日時点で「圧倒的に好評」を得ている。

■「世界はあと21ナノ秒で終わる」――忘れられない幕開け

プレイを始めてまず心を掴まれたのは、あまりにも突飛で、それでいて妙に惹き込まれる導入だ。



主人公の少女・メアリが目を覚ました場所は、見知らぬ部屋。そして彼女は、自身の記憶を失っている。状況を飲み込めないまま戸惑うメアリへ告げられたのは、「世界はあと21ナノ秒で終わる」という衝撃的な事実だった。


▲ちなみに筆者もこの時点では状況を掴みきれず困惑していた。把握できないまま放り込まれる感覚は、メアリと不思議なほどシンクロする。

しかも、それを伝えてくるのは一匹の猫。名はハムレット。信じていいのかも分からない。だが、メアリにとっても、プレイヤーにとっても、今起きていることを受け入れて進むしかない。

この“何も分からない状態”から物語が始まる導入が実に巧みだ。プレイヤーは記憶喪失のメアリと同じ目線に立ち、彼女とともに少しずつ世界の輪郭を知っていくことになる。

  • ●メアリ

    記憶を失った状態で目を覚ました本作の主人公。戸惑いながらも現実から目を背けず、“死にきれない魂”たちと向き合っていく。素直で優しい性格と、時折見せる芯の強さが印象的だ。彼女自身の過去もまた、大きな謎に包まれている。

  • ●ハムレット

    神出鬼没に現れては意味深な言葉を残す、不思議な猫。軽妙なやり取りで場を和ませる一方、その存在は物語の核心に触れているようにも感じられる、掴みどころのないキャラクターだ。

■電話で魂を救う――唯一無二のゲーム体験

本作の軸となるのは、死にきれない未練を抱えた魂たちとの電話だ。

メアリは不思議な黒電話を介して、現世に心残りを抱えた魂たちと繋がり、彼らの最後の話し相手となる。そして、その想いに寄り添い、救済へと導いていく。



ゲームの流れは、単なるノベルゲームに留まらない。まずメアリ自身の信念や価値観を選び取ることで、その想いに共鳴した魂が現れる。続いて、本人や関係者に電話をかけながら情報を集め、何が彼らをこの世に縛り付けているのか、その“心残り”の正体を探っていく。

この調査パートが非常に面白い。関係者の証言、本人の言葉、断片的な情報、そして「人生最後の通話」と呼ばれる記録――世界が終わる直前、彼らが誰と何を話していたのかを辿っていくうちに、少しずつ真実が見えてくる。



「なぜ、あの時そんな言葉を口にしたのか」

「なぜ、こんなすれ違いが起きてしまったのか」

断片が線になっていく感覚は、まるで安楽椅子探偵のようだ。プレイヤー自身が椅子に座ったまま、人の心の事件を解き明かしていく。その手触りが心地良い。

さらに、集めた情報がメアリの手帳に整理されていく演出も秀逸で、自らの手で調査している実感を強く与えてくれる。



■動物の姿をした登場人物たちが生む、不思議な距離感

本作の登場人物たちは、人間ではなく動物の姿で描かれている。それが現実にそう見えているのか、メアリの空想なのか、それともこの世界ならではの理なのか、明確には語られない。しかし、この曖昧さこそが作品の魅力だ。

現実的なドラマでありながら、どこか童話のようでもある。優しさと残酷さ、温もりと喪失感が同居する独特の空気感を、このビジュアル表現が見事に支えている。



中でもハムレットの存在感は抜群だ。正式には「イキルカ・シヌカ・ハムレット」という印象的すぎる名前を持ち、神出鬼没でメアリの前に現れては消える。敵なのか味方なのか、何者なのかも分からない。それでも、どこか憎めず、気づけば彼(彼女?)の登場を待ってしまう。

メアリとの掛け合いも軽妙で、重くなりがちな物語の中にユーモアと呼吸をもたらしている。


▲ハムレットの姿が見えない時間が続くと、メアリも「早く戻ってこないかな」と不安げな様子を見せる場面も。プレイヤー側も同じ気持ちになっており、またしても心情が重なる。

■知れば知るほど、救いたくなる

本作が巧みなのは、プレイヤーに「この人を助けたい」と自然に思わせる構造にある。

調査を進める中で、登場人物たちの言葉に矛盾が見つかったり、見えていた人物像が少しずつ変化していったりする。最初は他人だったはずの相手に、いつしか感情移入している自分に気づく。

そして、その人が抱えていた後悔や苦しみの本質に触れた時、こちらの気持ちも大きく揺さぶられる。

誰かを理解するとは、表面の言葉だけでは辿り着けない。その奥にある、言えなかった本音や、飲み込んだ感情まで想像することなのだと、本作は静かに伝えてくる。


▲言葉にできなかった想いは、時に取り返しのつかない形で残り続ける。本作は、そんな“伝えられなかった感情”に静かに向き合っていく。他人の物語のはずなのに、どこか自分の記憶と重なってしまう――。

章の後半では、登場人物たちが見たくなかった真実と向き合い、“心残り”に囚われてしまう場面(思考解放パート)も描かれる。救済目前で突きつけられる現実に、プレイヤーも焦りを覚えるだろう。

加えて印象的だったのが、この思考解放パートで流れる楽曲だ。本作全体はしっとりと感情に寄り添う音作りが多い中、この場面では珍しくアップテンポな楽曲が鳴り響く。緊迫感と高揚感を同時に煽るそのサウンドが実に格好良く、思わずいつまでも聴いていたくなるほど強く印象に残った。



だからこそ、その先に待つ浄化のシーンが深く胸に響く。メアリが「人生最後の通話」の続きを演じ、その人が本当に欲しかった言葉を届ける。そこで初めて相手の心がほどけ、感謝とともに旅立っていく姿には、思わず涙がこぼれた。

ただ悲しいから泣けるのではない。救われたからこそ泣ける。そこに本作ならではの強さがある。



■特に印象深かったヴァイオレット編

数あるエピソードの中でも、特に印象に残ったのがヴァイオレット編だ。

真実の愛を信じ、運命の相手と結婚した彼女。だが、幸せの絶頂にいたはずのその直後、相手は姿を消してしまう。



設定だけを見ればミステリーにも思えるが、本章の本質は“失われた未来”にある。

「もしあの時、別の言葉をかけていたら。」
「もし、もう少し相手を信じられていたら。」
「もし、あの日が続いていたなら。」

誰しも一度は抱いたことのある“たられば”が、切実な痛みとして突きつけられるエピソードだった。


▲5月22日~24日に京都で開催された日本最大級のインディーゲームの祭典「BitSummit」には、ヴァイオレット編の体験版を出展。12台用意された試遊台は初日から満席となり、待機列ができるほどの盛況ぶりを見せていた。プレイ後には、感動して涙を流す来場者もいたという。

そしてこの辺りから、物語は個別エピソードの感動だけでなく、世界全体の謎やメアリ自身の記憶にも大きく踏み込み始める。一話完結の連作短編だと思っていたプレイヤーほど、ここから一気に引き込まれていくはずだ。



■メアリという主人公の魅力

メアリ自身も非常に魅力的な主人公だ。

序盤こそ記憶喪失ゆえに戸惑いと緊張を抱えているが、物語が進むにつれ、彼女の人柄や感情が少しずつ見えてくる。手帳に描かれるイラストは可愛らしく、時折見せるユーモラスな反応も愛嬌がある。

だが、彼女の本質は優しさだけではない。誰かの痛みに向き合い続ける強さ。知らない他人の後悔を受け止める覚悟。そして、自分自身の過去にも向き合わなければならない宿命。

気づけばプレイヤーは、魂たちだけでなく、メアリ自身が救われる瞬間を願うようになっている。



■“感情”の細部を描く作品

本作を遊んで強く感じたのは、人間の感情の細部にフォーカスした作品だということだ。

言葉にしなければ伝わらない想い。

本当は謝りたかった気持ち。

些細なすれ違いから生まれる後悔。

もう一度だけ会いたかったという願い。

誰かに感謝されることの嬉しさ。

そうした誰もが抱いたことのある感情を、決して大げさではなく、丁寧に掬い上げている。

また、ダイヤル式の黒電話というモチーフも秀逸だ。どこか懐かしく、温度のあるその存在が、作品全体にノスタルジーを与えている。便利な現代の通信機器ではなく、あえて黒電話だからこそ、“声を届けること”の重みが際立っているのだろう。


▲ダイヤルを回すのはプレイヤー自身。その一手ごとに、“声を届ける”という行為の重みが、指先からじわりと伝わってくる。ただボタンを押すのではない。ダイヤルを回すという動作そのものが、“誰かに繋がる瞬間”を特別なものにしている。

▲「BitSummit」会場に設置された『シュレディンガーズ・コール』ブース。巨大な黒電話のオブジェやメアリのビジュアルを大胆にあしらい、まるで作品世界へ入り込んだかのような空間で来場者の視線を集めていた。

■10~15時間で味わえる、濃密な物語体験

プレイ時間は10~15時間ほどで、比較的遊びやすい長さだ。

ただし、ライトに遊べるからといって内容まで軽いわけではない。推理要素こそあるものの、本作の本質は人の心に触れる体験にある。



テーマも構成も一貫しており、作品が伝えたいものは明確だ。プレイ後にはきっと、自分が過去に言えなかった言葉や、伝えそびれた想いを思い返すことになるだろう。

各章ごとの感動はもちろん、物語全体を通じて積み上げられていく真実と、その先に待つ展開も見事だった。そして率直に言えば、この内容で2480円は安すぎる。

■誰かに伝えられなかった想いがある人へ

『シュレディンガーズ・コール』は、派手なアクションがある作品ではない。大きな駆け引きや刺激を前面に押し出したゲームでもない。だが、人と人との間に確かに存在する感情を、ここまで真っ直ぐ描いた作品はそう多くない。

もし、あの時ちゃんと伝えていれば。

もし、もう一度だけ話せるなら。

そんな記憶が胸のどこかに残っている人ほど、本作は深く刺さるはずだ。



メアリとは何者なのか。
この世界は何なのか。
そして、彼女自身は救われるのか。

その答えは、ぜひ自身の手で確かめてほしい。きっと、誰かに伝えられなかった想いを思い出すはずだ。


本作のレビューを経て、開発陣へのインタビューも実施。“世界最後の話し相手”というコンセプトや、「救われたからこそ泣ける」物語がどのように生まれたのか、その背景について詳しく話を伺った。

なぜ“電話”というモチーフだったのか。なぜ動物として描いたのか。少人数開発だからこそ実現できた演出と感情の一体感など、本作の核心にも迫っている。

インタビュー記事は本日(5月25日)13:00公開予定。ぜひあわせて読んでいただきたい。



(文・編集部:山岡広樹)



■『シュレディンガーズ・コール』


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集英社ゲームズ
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会社情報

会社名
集英社ゲームズ
設立
2022年3月
代表者
廣野眞一
決算期
3月
直近業績
家庭用ゲームソフトの企画・開発・制作・販売
上場区分
未上場
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