【CEDEC2016】『追憶の青』開発が教える、違和感のない2Dアニメーションの作り方…作業を効率化してクオリティアップに繋げる方法論も

 
一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が、8月24日~26日の期間、パシフィコ横浜にて開催した、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2016」(CEDEC 2016)。
 
本稿では、8月25日に実施された講演「横スクロールARPG「追憶の青」における 2Dキャラクターアニメーション~2Dアニメの注意点とテクニック~」についてのレポートをお届けしていく。
 
本セッションでは、グリーの清田徹氏が登壇。Wright Flyer Studiosが開発中のスマートフォン向け横スクロールアクションRPG『追憶の青』を題材に、キャラクターがどのような関節構造、仕様で作られているかなど、2Dアニメーションならではのノウハウを紹介した。
 

▲グリー X Production部 TechArt and Animationチーム アニメーションディレクターの清田徹氏。『聖戦ケルベロス』、『絶対防衛レヴィアタン』、『ドラゴンズパーティ』などのアニメーション部分のプログラミング、キャラクターモーション、エフェクトの担当を経て、現在は新規プロダクト『追憶の青』でアニメーションの実制作や監修を担当している。
 


 
まず清田氏は、『追憶の青』の紹介としてPVを公開。
 
【追憶の青】『運命の幕開け』

 
『追憶の青』は、大きく3つの派閥に分かれた戦乱の時代を生き抜くべく、世界を股に掛けて旅するアクションRPG。片手持ちで遊べる、縦画面表示のベルトスクロールアクションという点が最大の特徴となっており、リアルタイム通信で最大3人のパーティを結成し、マルチプレイでクエストに挑むことも可能。また、メインビジュアルを手掛けた天野喜孝氏をはじめ、サウンドにベイシスケイプの岩田匡治氏、シナリオには『テイルズ オブ』シリーズを担当したことでも知られるRomanceworkの田中豪氏や松元弘毅氏といった豪華クリエイター陣が集結していることでも注目を集めている。
 



▲清田氏は本作を、2Dアニメに力を入れた作品で、アクション、ストーリー演出ともにキャラクターモーションを多用していると紹介した。
 
なお、本作は現在、事前登録受付中で、8月31日時点で登録者数が50万人を突破している。
 
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ここからは、プレイヤーキャラモーションの仕様解説へ。
 
■使用ソフト

▲『追憶の青』制作時に使われている「SpriteStudio」の利点を紹介。主に、製作しているWebTechnologyが国内の企業なのでサポートが丁寧かつ迅速であること、親子付けによる関節構造が可能であることなどを挙げた。
 
■スプライトシート

▲1024×1024pxのスプライトシートを使用。ひとつひとつの画像を切り出し、SpriteStudio上で組み合わせてアニメーションを動かしているとのこと。
 
また、素体をジョブごとに用意しているため、スプライトシートの画像を差し替えることで様々なキャラクターでモーションを共有できるのだという。
 

 
■フレームレート

 
ゲーム自体は60fpsとなっているが、アニメーションのフレームレートは30fpsを採用している。その理由として、作業量の軽減や容量の縮小化といった要因が挙げられると説明。ただし、短い動きを作る際には何らかの工夫がないと分かり辛くなってしまうなど、デメリットについても言及した。
 
■パーツ構成・関節構造
 
▲『追憶の青』のキャラクターは、約40個のパーツから成っている。さらに、その中でも体部位17パーツ、揺れもの類19パーツに分類できるという。
 

▲上腕、頭、腰など、多数の部位が親子付けされており、可動できるようになっている。
 
また、清田氏は、親子付け関節構造について、「関節の中心点(回転軸)の設定が重要である」と語る。回転するたびに腕の根元にあたる位置がズレてしまうような設計では、後々にかかる工数が非常に多くなってしまうというのだ。
 

 
ベストな中心点(回転軸)はパーツやキャラクターによってケースバイケースであるため、セットアップの時点で念入りに確認しながら進めた方が良いとのこと。なお、その際に左右反転した場合でも座標の調整が必要ない位置に考慮できることが効率化において非常に重要なポイントになるとコメントした。
 
続いて、数々のパーツを親子付けしている中で「足首だけは親子付けせず独立させている」ことを名言。足首が繋がっている状態では、キャラクターを動かす際に足の先端が地面から離れてしまうため、位置を修正する作業が必要になってしまう。
 
それに対して、足首が独立していればポーズを変えても接地位置が変わらないため、そこに足首から上のパーツを持ってくるだけで済み、作業が捗るとの話だった。
 

 
揺れもの類については、上下2パーツに分割されており、分割されたパーツに接合点が打ってあることが明かされた。この接合点がずれないよう、頂点変形などを利用してアニメーションを作成しているとのこと。
 
 
 
 
▲上と下のマントの画像を切り替えるタイミングをずらすことで、ひるがえりを表現している。
 

■パーツのバリエーション

▲『追憶の青』では、3面分の立ち姿が作れるよう素材を用意している。ただし、全てのパーツが3種類あるわけではなく、中には2種類しかないものを上手く流用しているケースもあるという。
 
さらに、左右反転を利用することで6面分の立ち姿が表現可能になると紹介。このとき、左右非対称のデザインになっていると制限を生んでしまうと注意を促す。また、これについては、一部のパーツのみ左右分を用意することで解決していると作業工程を明かした。
 
 
 



そして、実際現場でアニメーションを制作しているスタッフに対して、どういった風に手直しをかけているかという具体例を紹介。なお、ここではより普遍的な話になるよう、パーツ切り替えなしで手直しする方法について言及している。
 
●手直し その1:足と地面の関係
 
▲足が地面を突き抜けたり、設置位置が横に滑ってしまう場合、パントマイムの「壁」の原理を使い、地面に想定したラインを越えない、横滑りしないよう修正することで、あたかもそこに地面があるかのような錯覚を起こさせる。
 
足と地面の関係をスッキリさせると、地面の存在を感じさせることができ、その地面にキャラクターが乗っている、キャラクターが「そこにいる感」が増すのだという。
 
●手直し その2:動きのメリハリ

▲まず大事な場面、例に挙げられたケースでは「振り上げ」と「振り下げ」の部分にタメを作る。
 

▲さらに、動きに粘りを付けるべく、剣を振り下ろした後、足に体重がかかっていることを想像し、足が地面から離れるのを遅らせる。
 

動きを一定速度にせず、偏り(タメ・ツメ)を作ることで大事な場面が強調され、何をしている動作なのかが理解しやすくなるとのこと。
 
●手直し その3:ポージング

▲タメを作ったことでその瞬間の動きが強調され、ポーズの悪さが際立ってしまうように。
 
そこでまず、振り上げのポーズの際に「肩の動き」と「全身の伸び上がり」を加えるよう修正。
 

 
清田氏いわく、肩の表現は非常に重要なもので、位置を上げることで緊張感のある表現が可能になるという。逆に、リラックスした表現を作りたい場合は肩の位置を下げると良いとのこと。
 
 

 
次に、振り下ろしの際に発生する「うつむく時とのけぞる時の表現」。
 

▲回転だけを使用すると、うつむくほど胴体が手前にねじれて見えてしまう。
 
そこで、胸を菱形に変形することで胴体の向きを維持して、胴体の向きが自然に見えるよう修正。さらに、頭の角度を胴体に合わせてしまうと意志のない人形のように見えてしまうので、「視線」を意識して頭の角度を変更する。
 
 
 
キャラクターの感情や意志をポージングで表現。キャラクターに命を吹き込む。
 
 
 
●手直し その4:全体のシルエット
 
仕上げとして、動きの大小が付くほど勢いが増して見えるため、キャラクター全体のシルエットを大きく変化させ、より迫力がでるように修正。ディテールにこだわっていると、全体の迫力や印象のことを忘れてしまいがちになるので、最後に確認するとの話だった。
 

▲振り上げの際は、さらにシルエットが縦に伸びるよう腰を前に倒し、剣が上を向くように調整。振り下げの際は、足の着地位置を開き、横のシルエットを極端に表現。
 
最後に、手直しの際のポイントをまとめた。
 


 
ここからは、『追憶の青』のようにパーツのバリエーションがある場合に使えるテクニックの話へ。
 

▲パーツの向きをバラバラにして体の「ひねり」を表現することで立体的なアニメーションが可能となり、より人間的に見えるようになる。
 
また、清田氏はパーツ切り替えが入るアニメーションを作る際に気を付けていることとして、パーツの切り替えが目立たないような工夫をしていると話す。
 
  
▲それぞれのパーツが切り替わる直前に次のパーツのシルエットに近くなるように変形をかけていくことで違和感を除去している。
 
そのほか、体の向きを変えるための作業に時間を取られないよう、6方向分のキーフレームを用意し、必要な向きのキーフレームをまとめてコピーすれば作業の効率化が図れることを紹介した。
 

 
本講演のまとめとして清田氏は、2Dアニメーションを作る際には、目の前のパーツとばかり向き合っていると、どんどんと2Dの制約に縛られてしまうので、頭の中で立体的に動きをイメージし、どうすれば表現できるかを考えて作ることが重要であると語った。実際に、道具や鏡を使って自分の体でモーションを確認することもあるという。
 
最後に、体を使ってモーションを確認する際のポイントを紹介して本講演の締めとした。
 


 
(取材・文:編集部 山岡広樹)


 
■関連サイト
 

公式サイト

 

 
グリー株式会社
http://www.gree.co.jp/

会社情報

会社名
グリー株式会社
設立
2004年12月
代表者
代表取締役会長兼社長 田中 良和
決算期
6月
直近業績
売上高613億900万円、営業利益59億8100万円、経常利益71億2300万円、最終利益46億3000万円(2024年6月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3632
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