オーストラリア第二の都市、メルボルン。毎年11月の第1火曜日に開催される、競馬のメルボルンカップで世界的に有名だ。その一方で11月の第1週はゲーム業界にとっても一年で最も重要な時期に数えられる。ゲーム関係のイベントが集中する「メルボルン国際ゲームウィーク」が開催されるからだ。そのハイライトが「オーストラリアゲームデベロッパーズアワード」で、今年も11月2日に業界関係者を集めて盛大に開催された。
筆者も昨年に続いて取材をしたが、会場も参加者も倍以上に拡大したのには驚かされた。本イベントは文字通り、年間を通してオーストラリアで開発された秀逸なゲームやクリイエイターを顕彰すると共に、互いの交流を深めるというもの。会場にはメルボルン、ブリスベン、シドニーなどの主要都市以外に、タスマニアやニュージーランドの開発者も参加し、着実にオセアニア地域のゲーム産業が拡大していることを予感させた。
本地域のゲームの特徴として、ベテランと若手が融合したユニークで高品質なインディゲーム開発があげられる。ファミコン時代からゲーム開発の歴史をもつ一方で、外資系大手がリーマンショックで撤退したため、高い技術力をもったベテラン開発者とゲーム開発のノウハウが地元のインディに吸収されたのだ。そのためスマホゲームの初期から秀作が登場し、PCゲームと共に世界的なヒット作を次々に生み出してきた。
本年度もポイント&クリック型の脱出系アドベンチャー「Agent A – 偽装のパズル」が年間最優秀賞を含む三冠に輝いたのをはじめ、さまざまなスマホゲーム・PCゲームが顕彰された。特に「Agent A」は日本語ローカライズが丁寧に行われており、日本でもなじみ深いタイトルの一つあろう。海外ゲームという認識はあっても、オーストラリアのタイトルだと知らなかったユーザーも多かったのではないだろうか。
Agent A – 偽装のパズル (モバイル)
Excellence in Art(グラフィック)
Excellence in Audio(オーディオ)
Game Of The Year(年間最優秀)
ゲーム概要
女スパイ、ルビー・ラ・ルージュのアジトを探索し、彼女をとらえることが目的の脱出系アドベンチャーゲーム。1960年代風の世界観が特徴で、部屋にはさまざまな謎や仕掛けが散りばめられている。各々のパズルには制限時間がなく、難易度もそこまで高くない。基本的にゲームオーバーがなく、手詰まりに見えても必ず先に進むことができるなど、総じて親切な作りになっている。
開発スタジオ、YAK&COの面々
受賞理由
ART:2Dと3Dのグラフィックが絶妙に融合しており、素晴らしい雰囲気を演出している。全体的に無駄がなく、しっかりとしたデザインで、非常に洗練されている。
AUDIO:ゲーム内容に音楽がしっかりと適合しており、ゴージャスな雰囲気で気持ちがかき立てられる。ゲームプレイのペースにしっかりと適合し、雰囲気を盛り上げるすばらしいサウンドデザインになっている。
Game Of The Year:各々のパズルが無用のフラストレーションをためることがないように注意が払われており、種類も豊富で飽きさせない。すべての要素で非常に無駄がなく、磨き抜かれており、スタイリッシュで、互いにからみあっている。
Tennis Bits (モバイル)
Excellence in Design(ゲームデザイン)
ゲーム概要
キューブ型のキャラクターを操作するテニスゲーム。画面に表示されるボールの落下地点を参考して移動しながら、ボレー・ロブ・スマッシュなどの技を繰り出して試合を進めていく。サーブやラリー中に5回パーフェクトを出すとハイパーモードに突入し、一定時間キャラクターの能力値がアップする。ビジネスモデルはF2Pで、ガチャでテニスラケットやヘッドバンドなどを入手すれば、キャラクターを強化していける。
開発スタジオ、PLAYSIDE STUDIOSの代表者
受賞理由
非常にしっかりとデザインされており、中でもチュートアリルの完成度が高い。隙間時間に少しずつ遊ぶカジュアルゲームの中で、新しいスタイルを提示した。
Assault Android Cactus (PC)
Technical Excellence(技術)
ゲーム概要
アンドロイド娘の自機を操作して、四方八方から迫り来るロボット軍団を破壊していく2D見下ろし型シューター。プレイヤーは総勢9体のアンドロイド娘から1人を選んで,宇宙船の中で大暴れしているロボット軍団と戦っていく。ゲーム中にバッテリーゲージがゼロになるとミスで、敵にノックダウンさせられると急激に減るが、アイテムで復活させられる。最大4人でのローカルプレイにも対応している。
開発スタジオ、Witch Beamの代表者
受賞理由
ツインスティックシューター(左スティックで移動、右スティックで狙いをつける2Dの見下ろし型シューター)として非常にシンプルでミニマルかつ、それ以上の内容に仕上がっている。本ジャンルのゲームの中でも、飛び抜けて素晴らしい内容になっている。
Killing Time At Lightspeed: Enhanced Edition (PC)
Innovation award(革新性)
Representation Award(表現)
ゲーム概要
亜光速宇宙船で地球から離れつつある主人公と、地球に残された友人達との、SNSでのやり取りをモチーフにしたアドベンチャーゲーム。ゲームプレイの大半は投降やニュース記事を読むことで費やされるが、実時間でほんの数分のできごとでも、返事が届く間に地球では1年半が経過している。ゲームが進むにつれて、地球でどんどん世情が不安定になっていく中、何もできないもどかしさが独特のプレイ感をもたらしている。
開発スタジオ、Gritfishの代表者
受賞理由
Innovation:断片的にメッセージが提示されるSNSスタイルのナラティブアドベンチャーで、まるで玉ねぎの皮をむくように、永遠に終わりのない物語世界をプレイヤーに提示してくれる。
Representation:SNSにおける社会問題がテーマになっており、ゲーム内の登場キャラクターたちの行動を通して、ゲームの表現と多様性について多くの問題提起を行っている。
TANGENT (モバイル)
Accessibility award(プレイヤーの多様性)
ゲーム概要
円運動と直線運動を繰り返しながら自機を操作し、ゴール地点まで到達することが目的のアクションパズル。惑星の自転を思わせるような移動が特徴的で、自機の移動中に障害物に衝突するとミスになる。ミニマルなグラフィック、環境音に限りなく近いサウンド、タップだけで遊べるシンプルな操作、思わずコンティニューしてしまう適度な難易度と、さまざまな要素がきれいに融合している。
開発スタジオ、Lampshade Gamesの代表者
受賞理由
ゲームスピードの変更設定、グラフィックの高コンストラストモード設定、静止カメラモード設定、これらが可能なゲームは数少ない。しかし本作ではこれらがすべて可能で、しかも各々が融合して新しい効果を生み出している。
また年間を通してもっとも業界の発展に貢献した「STUDIO OF THE YEAR」部門では、ぐにゃぐにゃの人間を操るレスリング風ゲーム「Push Me Pull You」などで知られるLEAGUE OF GEAKSが受賞した。壇上でディレクター兼共同設立者のTrent氏は「オーストラリアを離れなくて良かった。その答えが今日得られた」とコメントし、来場者から多くの拍手を受けていた。
LEAGUE OF GEAKS
STUDIO OF THE YEAR(年間最優秀スタジオ)
スタジオの面々
Push me pull you(PC、PS4)
ゲーム概要
ぐねぐねと体が伸びるキャラクターを操作してボールを運び、相手方のゴールに押しこんで得点する「友情・レスリング・サッカー」ゲーム。キャラクターは体の両端に二つの頭があり、それぞれの頭を動かすことで体をくねらせ、ボールを運んでいく仕組みだ。二人で一つのキャラクターを操作し、最大4人で楽しむこともできる。PCだけでなくPS4でもリリースされている。
受賞者に盛大な拍手を送る参加者たち
インディの出展で盛り上がるPAX AUSと2つの可能性
PAX AUS.
翌日から開催された一般ユーザー向けのゲーム見本市「PAX AUS」でも、数々のインディゲームがデモされていた。「Agent A – 偽装のパズル」も昨年のPAX AUSで試遊展示されていたタイトルの一つで、来年はこの会場の中から再び顕彰されるタイトルが登場するのでは・・・と期待させられた。アワードの存在はゲームの品質向上に大きく寄与する。日本でも同種の取り組みがもっと活性化することを期待したいところだ。
アワードではPCゲームとモバイルゲームが賞を分け合ったが、PAX AUSのインディコーナーでは8割方がPCゲームで、モバイルゲームは少数派だった。これにはモバイルゲーム市場の大半がF2Pゲームで占められている一方で、インディゲーム開発者には運営型のゲームビジネスに対する負荷が高く、売り切り型ゲームに流れがちだという背景がある。その結果、Steamなどで配信されるPCゲームにタイトルが集まるのだ。
もっとも、オーストラリアでブレイクしたゲームのほとんどは、F2Pのモバイルゲームだという点も事実だ。2015年に登場し、一斉を風靡した「クロッシーロード」はその好例。「AGENT A」はモバイルゲームでも売り切り型の例だが、ヒットが水もののため、継続的なスタジオの成長につながりにくい。これに対してF2Pはある程度ヒットすれば収益の見込みが立てやすい側面がある。
これに対してPCでは、売り切り型ゲームの市場がSteamを筆頭に、まだしっかりと残されている。最近増えている家庭用ゲームでのインディゲーム配信でも同様だ。PCの売り切り型ゲームか、モバイルのF2Pゲームか、オーストラリアのインディゲーム開発者にとって、今が一つの分岐点なのかもしれない・・・会場を回りながら、そのように感じさせせられた。月並みだが、今から来年のアワードに期待したい。
(取材・文:ライター 小野憲史)