【イベントレポート】感情を引き出せるのはエンタメにとって最高の評価 バンダイナムコアミューズメントが考えるVRの可能性とは
リード エグジビション ジャパンが主催の「コンテンツ東京2018」で様々なセミナープログラムを行った。
本稿では4月4日に行われたセミナー「娯楽を解放しよう!VR ZONEで見えてきたVRの可能性」についてレポートをお届けする。本セミナーでは株式会社バンダイナムアミューズメントの小山順一郎氏(コヤ所長)と田宮幸治氏(タミヤ室長)が登壇、エンターテインメント施設「VR ZONE」を運営していく中で培ってきた知見を紹介した。
バンダイナムコアミューズメント(以下、BNAM)は、ナムコの商号を変更、従来より展開するアミューズメント施設の企画運営に加え、バンダイナムコエンターテインメントのアミューズメント機器事業部門も引き継いでいる。VRへの知見はナムコ時代から含めると1990年代から今に至るまで25年にも及ぶ知見と技術と接客のノウハウがあり、まさにリアルエンターテインメントユニットの主幹会社といえる。
ここ数年では、2016年のお台場「VR ZONE」や2017年にオープンした「VR ZONE SHINJUKU」は一部のアーリーアダプタが楽しんでいたVRを、より幅広い層が楽しめる上質なエンターテインメント施設として、体験の普及に大きく貢献することとなった。
そんな同社が、「VRがエンターテインメントにもたらしたもの」として挙げたのが以下の2つだ。
・インタフェースにおける2つの技術革新
・従来のエンタメコンテンツとの違い
まずはインターフェースだ。VRでの体験の際のインタフェースの1つとして、VRヘッドマウントディスプレイ(以下、VR HMD)がある。1990年代にあったものと比べて大きく性能が上がり、時間・空間・虚実を超えて本当にその場にいるかのような体験ができるようになった。視覚的なインパクトもあり非常にわかりやすい点だろう。
ただ同社がより注目したのはもう1つの「ハンドコントローラー」だったそうだ。今までゲーム機で使っていた両手で1つのコントローラー持つスタイルとは異なり、実際に手を動かし物を掴んでいるような感覚で操作は、格段に進歩した点だったという。これは既存のゲームと異なり説明せずとも直感的な操作ができる点で、小山氏曰く、「”体験”そのものができるようになった」ということだ。
現実の世界同様、世界の中で体験したことから、さらに創造の余地が生まれるようになり、その結果みることができる。そんな体験をデジタルで表現できるようになったのが非常に大きいのだという。
ではVRと従来のエンタメコンテンツとの違いはなんだろうか。TV番組でハワイの特集が多いが、番組を見たとしても行きたいという気持ちには変わりがない。「そこには共感と実感の近いがあるからではないか」というのがその見解だ。TV越しで体験するエンターテインメントは、TVの向こうの人の感情に自分が共感する。ただ「共感」よりも「実感」するほうが感動も大きく、その図式はゲームとVRの違いがそのまま当てはまる。
従来の客観エンターテインメント(映画、演技、アニメなど)は物語を取り入れることで主人公に自分の気持ちを置き換えて感情移入をしている。しかし、これが主観になると途端に今までのルールが通じなくなってしまう。そのため今までとは異なる新たな様式を生み出す必要性が出てきたのが現在の状況だ。ただこの部分に関してはどのクリエイターも苦労している部分でもあるようだ。
では、VRを活かすエンターテインメントはどのように作っていけばいいだろうか。BNAMが挙げた重要な点は3つある。1つ目は「テーマ選び」だ。VR HMDを装着した体験は、他人にはなかなか魅力が伝わりにくく、やらないとわからないという点がある。その状態から体験したいと思わせるには非常に難しい。このトピックに対して田宮氏は「VRエンターテインメントはテーマ選びで勝負は決まる」ことを強調した。例として1つのビジュアル、1キャッチコピー、プレーする人の姿、これだけで体験したいと思わせることができないと開発がしにくいとのことだ。
そのため実際に開発するものは設定の振り幅が極端な内容を選ぶ事が多いのだとか。開発にあたってまずはVRかどうかを脇におき、説明をするだけでやってみたいと思うかどうかを重要なポイントとして挙げていた。
2点目は「パフォーマンス開発」だ。VRでの体験では期待通り予想以上というの体験が生まれる。やってみたいという期待を裏切らず、その体験をやってみたらわかった発見があるかという点だ。例えば、エヴァンゲリオンの監督である庵野秀明氏が『エヴァンゲリオンVR The 魂の座』を体験した際に、エヴァのコクピットから見た光景は、エヴァの腕の長さなど、コックピットに乗った体験をすることでしか実感できない内容が多くあったそうだ。これがまさに予想以上というポイントだ。想像した通りの体験をしているが、そこに予想以上の情報が上乗せされる。本当に体験したその感動がVRでは大事で、BNAMはその部分を突き詰めているとのことだ。
3点目は「さあ取り乱せ」だ。施設のテーマでもある「さあ取り乱せ」だが、なぜ体験中に悲鳴が上がるのか。その理由として、人を叫ばせるような結果にすることでリアリティを感じ、リアリティが凄いから叫ぶわけではないのだそう。
例えば最初に本物の体験だと信じさせるのは、身体に訴えかけてから脳に知覚させるという方法をとる。VRは主観で体験となるので、今までの実経験などから身体が先に反応し、その後に感情が理屈をつけるという見解を持っているそうだ。そのため、VR体験の際には予めネタバレをしていくことで安心してスリルや恐怖を感じることができる。またそういう経験をするんだという前知識がリアリティを産む仕組みなのだそうだ。
殺人鬼におそわれるかもしれないというネタバレによる恐怖の植え付けがあれば、暗闇を進んでいくことで身構えるようになるというのも、その一例だろう。VRだから所詮仮想空間だと脳が判断する前に反射行動を引き起こしておけば、後は開発者のやりたい放題になるという。一回信じることで、その場に居るという実感の質が全く異なってくるというのも非常におもしろい点だ。
さらなる例として当初「ハネチャリ」というVRアクティビティで空を自由に飛べるようになる仕様にしたが、体験としてつまらなかったのだという。なぜつまらないかを掘り下げていった際に「空を飛びたい」というのは顕在化していることで、そこには潜在ニーズとして「飛べないので空を飛びたい」という想いがあるのではないかと考えた。そして人は飛べないので、その認識をVRでは大事にする必要があると気付いたという。
そのため「ハネチャリ」では地上を走らせた後に一回落ちるような仕組みを取り入れている。このことで人間は飛べないと身体を反応させることで、ちょっと風が吹いてフワッと浮くだけど感情を取り乱すようになったとのことだ。
ゲームを作る際には、色々なルールを提供したくなるがそれをこらえ実在感が高まりそうなテーマにフォーカスし、その要点をまず体験者に伝えて反射行動を引き起こすことが重要であるとした。そしてそれがVRとしてのリアリティを生む仕組みになるとのことだ。この部分の重要さはグラフィックを落としてでも突き詰めたほうが良いと解説していた。
BNAMは、「さあ取り乱せ」という点にフォーカスして開発を行っているが、感情を引き出せるのはエンターテインメントにとって最高の評価だと考えているのだそう。VRはそのための今一番面白い手段で、体験者に感情を爆発させるという点に目を向けて、自分が作るものを考えてみるといいのではと聴講者に投げかけ、我々もそんなコンテンツを体験したいセミナーを締めくくった。
本稿では4月4日に行われたセミナー「娯楽を解放しよう!VR ZONEで見えてきたVRの可能性」についてレポートをお届けする。本セミナーでは株式会社バンダイナムアミューズメントの小山順一郎氏(コヤ所長)と田宮幸治氏(タミヤ室長)が登壇、エンターテインメント施設「VR ZONE」を運営していく中で培ってきた知見を紹介した。
バンダイナムコアミューズメント(以下、BNAM)は、ナムコの商号を変更、従来より展開するアミューズメント施設の企画運営に加え、バンダイナムコエンターテインメントのアミューズメント機器事業部門も引き継いでいる。VRへの知見はナムコ時代から含めると1990年代から今に至るまで25年にも及ぶ知見と技術と接客のノウハウがあり、まさにリアルエンターテインメントユニットの主幹会社といえる。
ここ数年では、2016年のお台場「VR ZONE」や2017年にオープンした「VR ZONE SHINJUKU」は一部のアーリーアダプタが楽しんでいたVRを、より幅広い層が楽しめる上質なエンターテインメント施設として、体験の普及に大きく貢献することとなった。
そんな同社が、「VRがエンターテインメントにもたらしたもの」として挙げたのが以下の2つだ。
・インタフェースにおける2つの技術革新
・従来のエンタメコンテンツとの違い
まずはインターフェースだ。VRでの体験の際のインタフェースの1つとして、VRヘッドマウントディスプレイ(以下、VR HMD)がある。1990年代にあったものと比べて大きく性能が上がり、時間・空間・虚実を超えて本当にその場にいるかのような体験ができるようになった。視覚的なインパクトもあり非常にわかりやすい点だろう。
ただ同社がより注目したのはもう1つの「ハンドコントローラー」だったそうだ。今までゲーム機で使っていた両手で1つのコントローラー持つスタイルとは異なり、実際に手を動かし物を掴んでいるような感覚で操作は、格段に進歩した点だったという。これは既存のゲームと異なり説明せずとも直感的な操作ができる点で、小山氏曰く、「”体験”そのものができるようになった」ということだ。
現実の世界同様、世界の中で体験したことから、さらに創造の余地が生まれるようになり、その結果みることができる。そんな体験をデジタルで表現できるようになったのが非常に大きいのだという。
ではVRと従来のエンタメコンテンツとの違いはなんだろうか。TV番組でハワイの特集が多いが、番組を見たとしても行きたいという気持ちには変わりがない。「そこには共感と実感の近いがあるからではないか」というのがその見解だ。TV越しで体験するエンターテインメントは、TVの向こうの人の感情に自分が共感する。ただ「共感」よりも「実感」するほうが感動も大きく、その図式はゲームとVRの違いがそのまま当てはまる。
従来の客観エンターテインメント(映画、演技、アニメなど)は物語を取り入れることで主人公に自分の気持ちを置き換えて感情移入をしている。しかし、これが主観になると途端に今までのルールが通じなくなってしまう。そのため今までとは異なる新たな様式を生み出す必要性が出てきたのが現在の状況だ。ただこの部分に関してはどのクリエイターも苦労している部分でもあるようだ。
では、VRを活かすエンターテインメントはどのように作っていけばいいだろうか。BNAMが挙げた重要な点は3つある。1つ目は「テーマ選び」だ。VR HMDを装着した体験は、他人にはなかなか魅力が伝わりにくく、やらないとわからないという点がある。その状態から体験したいと思わせるには非常に難しい。このトピックに対して田宮氏は「VRエンターテインメントはテーマ選びで勝負は決まる」ことを強調した。例として1つのビジュアル、1キャッチコピー、プレーする人の姿、これだけで体験したいと思わせることができないと開発がしにくいとのことだ。
そのため実際に開発するものは設定の振り幅が極端な内容を選ぶ事が多いのだとか。開発にあたってまずはVRかどうかを脇におき、説明をするだけでやってみたいと思うかどうかを重要なポイントとして挙げていた。
2点目は「パフォーマンス開発」だ。VRでの体験では期待通り予想以上というの体験が生まれる。やってみたいという期待を裏切らず、その体験をやってみたらわかった発見があるかという点だ。例えば、エヴァンゲリオンの監督である庵野秀明氏が『エヴァンゲリオンVR The 魂の座』を体験した際に、エヴァのコクピットから見た光景は、エヴァの腕の長さなど、コックピットに乗った体験をすることでしか実感できない内容が多くあったそうだ。これがまさに予想以上というポイントだ。想像した通りの体験をしているが、そこに予想以上の情報が上乗せされる。本当に体験したその感動がVRでは大事で、BNAMはその部分を突き詰めているとのことだ。
3点目は「さあ取り乱せ」だ。施設のテーマでもある「さあ取り乱せ」だが、なぜ体験中に悲鳴が上がるのか。その理由として、人を叫ばせるような結果にすることでリアリティを感じ、リアリティが凄いから叫ぶわけではないのだそう。
例えば最初に本物の体験だと信じさせるのは、身体に訴えかけてから脳に知覚させるという方法をとる。VRは主観で体験となるので、今までの実経験などから身体が先に反応し、その後に感情が理屈をつけるという見解を持っているそうだ。そのため、VR体験の際には予めネタバレをしていくことで安心してスリルや恐怖を感じることができる。またそういう経験をするんだという前知識がリアリティを産む仕組みなのだそうだ。
殺人鬼におそわれるかもしれないというネタバレによる恐怖の植え付けがあれば、暗闇を進んでいくことで身構えるようになるというのも、その一例だろう。VRだから所詮仮想空間だと脳が判断する前に反射行動を引き起こしておけば、後は開発者のやりたい放題になるという。一回信じることで、その場に居るという実感の質が全く異なってくるというのも非常におもしろい点だ。
さらなる例として当初「ハネチャリ」というVRアクティビティで空を自由に飛べるようになる仕様にしたが、体験としてつまらなかったのだという。なぜつまらないかを掘り下げていった際に「空を飛びたい」というのは顕在化していることで、そこには潜在ニーズとして「飛べないので空を飛びたい」という想いがあるのではないかと考えた。そして人は飛べないので、その認識をVRでは大事にする必要があると気付いたという。
そのため「ハネチャリ」では地上を走らせた後に一回落ちるような仕組みを取り入れている。このことで人間は飛べないと身体を反応させることで、ちょっと風が吹いてフワッと浮くだけど感情を取り乱すようになったとのことだ。
ゲームを作る際には、色々なルールを提供したくなるがそれをこらえ実在感が高まりそうなテーマにフォーカスし、その要点をまず体験者に伝えて反射行動を引き起こすことが重要であるとした。そしてそれがVRとしてのリアリティを生む仕組みになるとのことだ。この部分の重要さはグラフィックを落としてでも突き詰めたほうが良いと解説していた。
BNAMは、「さあ取り乱せ」という点にフォーカスして開発を行っているが、感情を引き出せるのはエンターテインメントにとって最高の評価だと考えているのだそう。VRはそのための今一番面白い手段で、体験者に感情を爆発させるという点に目を向けて、自分が作るものを考えてみるといいのではと聴講者に投げかけ、我々もそんなコンテンツを体験したいセミナーを締めくくった。
会社情報
- 会社名
- 株式会社バンダイナムコアミューズメント
- 設立
- 2006年3月
- 代表者
- 代表取締役社長 川﨑 寛
- 決算期
- 3月