少しづつ近づく「ソードアート・オンライン」の世界 メタバース(仮想空間)の今とこれからをニュースと共に知る

メタバース(仮想空間)という言葉を最近よく耳にするのではないだろうか。「気にはなるけど、そもそもメタバースって何」という人もいれば、「メタバース?また、セカンドライフやるの?」なんてこれまでの歴史を見てきた人もいるだろう。「もういいよ」なんて思わないでほしい。いやいや今回はどうも状況が異なっている。

直近では Epic Gamesが10億ドル(約1097億円)もの資金調達時において、CEOが「弊社のメタバースのビジョンへのサポート」とコメントした。Facebookは、決算発表時にメタバースへの注力について高らかに宣言した。国内ではグリー<3632>が子会社のREALITYを中心として「メタバース事業」に参入を発表。今後2~3年で100億円規模の事業投資を行い、グローバルで数億ユーザーを目指すと高い目標を掲げた。kddiも9月にバーチャルシティ構想を発表している。

現状では各社の資金の投じ方が様子を見るレベルではない上、言葉の端々からその本気度が伺えるのである。

そこで本稿では、

・そもそもメタバースとは
・各社の動向をニュースと共に
・メタバースとブロックチェーンやNFTの関係

を軸にメタバースについてお届けする。


■そもそもメタバースってなんだろう。
「メタバース」の語源としては1992年までさかのぼり、ニール・スティーヴンスンによるSF小説「スノウ・クラッシュ」内で使われた造語に由来しているようだ。meta(超越)、universe(世界)が表すように新たな世界を指している。そのためVR・仮想空間上での環境全般として指すことが多いようだ。

VRや仮想空間というと、人気作品でVRMMORPGの世界を舞台にした「ソードアート・オンライン」、あるいは映画「レディ・プレイヤー1」のような特殊なゴーグルを装着し、その世界に没入するイメージを思い浮かべるだろう。ただし『フォートナイト』や『どうぶつの森』といったタイトルも仮想空間での営みを鑑みると、メタバースの対象とする意見も多いようだ。

なお経済産業省では(仮)であるものの、「1つの仮想空間において、様々な領域のサービスがコンテンツが生産者から消費者へ提供」とするものをメタバースの定義としている。

令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業)より。
https://www.meti.go.jp/press/2021/07/20210713001/20210713001.html




■Epic Games、Facebook、グリー。各社が巨額の資金を投入するメタバースの今

メタバースをめぐるニュースをもとに現在の状況を確認してみよう。

まず2021年にフォートナイトを開発するEpic GameはSONYからおよそ10億ドル(約1090億円)の資金調達を行っている。そのうちの2億ドル(約(218億円)はソニーが出資している。資金調達を受けた際に、EpicのCEOで創設者のティム・スウィニーは「Epicとメタバースに対する私たちのビジョンをサポートしてくれる新規および既存の投資家に感謝しています」と明確に今後のメタバースを押しすすめるコメントを発表している。

フォートナイトでは、2019年にDJマシュメロが、2020年には人気ラッパーのトラビス・スコット、2021年にアリアナ・グランデと超人気アーティストが、3D空間を駆使したライブを相次いで実施してきた経緯がある。イベントの同時接続数は、DJマシュメロは1100万人、トラヴィス・スコット1230万人と驚異的な記録だ。

※アリアナ・グランデは非公開。

フォートナイトではその他に、ゲーム内で映画やコンサートが楽しめるパーティーロイヤルモードでみんなで楽しめる空間を提供している。過去には米津玄師さんのコンサートやクリストファー・ノーラン監督の映画「インセプション」を上映するなど様々な取り組みが行われてきた。

知人の子供は学校から帰宅後に友人とフォートナイト内でゲームプレイに熱心に取り組むわけではなく、起動してボイスチャットを駆使してキャッキャして遊んでいるという。既に環境が整備されつつあり、そのメタバースの一端を体験するという意味では、無料でもあるフォートナイトはまさにうってつけだ。

同タイトルの売上の1つとしてキャラクターのスキンがある。Forbesによれば、NFLのスキンを販売した際には、この2ヶ月間スキン1つでおよそ5000万ドル(約54億円)の売上を上げたようだ。そしてこの額は歴代のスキンの中で3位だという。このことで様々な業界が目をつけ、9月21日さらにあのハイファッションブランド「バレンシアガ」とのコラボも発表している。つまり仮想空間上のデジタルファッション1つで数十億の売上が見込める世界が来ている状態だ。



またFACEBOOKもメタバースに注力すると宣言した。宣言は2021年7月29日の決算発表時(PDF)によるもので、同社のCEOマーク・ザッカーバーグ氏は、「クリエイターとコミュニティ、コマース、次のコンピューティング・プラットフォームの構築などの主要な取り組みが、メタバースのビジョンの実現に向けて一丸となっていることを嬉しく思います。」とコメント、同社の注力具合が見て取れる状況だ。

さらに先日の決算発表(PDF)では同分野についての言及した内容が多く、ザッカーバーグ氏は「次世代のインターネットであることに加えて、メタバースはFacebookにとって次の章となるだろう」「何億人もの人々にメタバースや新しいプラットフォームを利用してもらうことに注力する」「メタバースにおいても広告は重要な役割を果たすだろう」と明確なメッセージを発表している。

決算説明会では、同社のCFOであるDavid Wehnerが、メタバースへの投資額について問われた質問への回答で「メタバースだけではない」としながらも年間数十億単位での予算を見積もっていることも明らかになった。

2021年9月24日追記
Facebook、CTOにAR/VRチームリーダーが就任 メタバースに向け盤石の構え

sannak

▲Facebookは、8月末にバーチャルミーティングスペースをVRヘッドセット「Oculus」版を公開。将来的にはFacebookが想定するメタバースに組み込まれるかも?

2021年10月29日追記
Facebook、社名をMetaに変更しメタバースに注力 OculusブランドもMetaに

アメリカFacebookは、10月28日(現地時間)、社名をMetaに変更すると発表した。Metaは、メタバースを実現すること、そして人々が友達や家族とつながり、コミュニティに参加し、ビジネスを成長させることができるよう、注力するとしている。

またMetaの次期CTOに内定しているAndrew Bosworth氏によれば、今回の変更にあわせて、同社のVRブランドである「Oculus」は、Oculus QuestからMeta Quest、Oculus AppからMeta Quest Appへと移行していくという。時期は2022年初頭からとしているほか、Facebook Reality LabsもReality Labsへと名称変更を行う。





一方で国内ではグリーが子会社であるREALITYを主軸に今後2~3年で100億円規模の事業投資を行い、グローバルで数億ユーザーを目指すと発表している。

REALITYは元々スマートフォン向けバーチャルライブ配信アプリのサービスを展開していた。コロナ禍において世界中で生活のデジタルシフトが進んだことや、5GネットワークやVRデバイスの普及、ブロックチェーンをベースにした経済圏の拡大が加速している状況を鑑み、REALITYが展開してきたライブエンターテインメント事業をメタバース事業と再定義したそうだ。


元よりソーシャル・ネットワーキング・サービスから始まったグリーのコミュニティ育成の知見、3Dが当たり前になったモバイルゲームでの経験やREALITYの運営など、これらを自社で組み合わせられることは、メタバースにおいて非常に相性の良い状況に見える。


■NFTや仮想通貨(暗号資産)は最後のピース

ブロックチェーンや仮想通貨(暗号資産)、2021年上半期を騒がせたNFTという技術がある。詳細は以下に詳しいが、要するにデジタルデータに改ざんが非常に困難な証明書がつけられるようになり、データの売り買いが可能になったというものだ。筆者はこの技術が、メタバースに必要な最後のピースになったのではないかと考えている。

というもの、以前までデジタルデータはコピーし放題のため金銭価値としては高値が付けにくい状況だった。ただしブロックチェーンやNFTという改ざんしにくい技術が生まれたため、デジタル内の様々なデータが大きな価値を生む可能性が生まれている。もちろんメタバース内の日常で利用する様々な日常品などのアイテムなどにおいても、ブロックチェーンやNFTという技術によって信用が担保されるため、メタバース内の経済が大きく活性化するのではないかと考えているからだ。

ゲーム分野においても、ブロックチェーンやNFT利用したタイトルをプレイすることで金銭を稼げる「Play to earn」といった概念が生まれており、今ではオフラインの生活スタイルが一変しそうな下地ができている状況だ。



実際にメタバース上に”グローバル文化都市トーキョー”を創り出し、国内外の様々なクリエイター、パートナー企業と事業展開を行う世界初のプロジェクト「メタトーキョー」やイーサリアムブロックチェーン上に3D仮想世界を構築「Decentraland」(ディセントラランド)といったプロジェクトが始動している。「Decentraland」では、空間内にNFTを飾る機能を備えている。



さらにスクウェア・エニックスから出資を受けるブロックチェーンゲーム『The Sandbox』はゲーム内の建物やアバターなどデジタルアセットの空間を構築するために必要となる土地「LAND」の販売をNFTマーケットプレイス上で行うといったことも起こっている。

これらの様々なゲームやサービスがメタバース内で組み込まれることで、メタバース内で行動が労働を含めた経済として成り立り、オフラインとオンラインにおける生活時間の比率が変わってもおかしくないわけだ。

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■新たな世界メタバースに各技術の粋が集まった
これまでのことから、メタバースに必要な技術はひと通り揃ったというのが筆者の考えだ。元年を経てゆっくりと成長してきたVR、普及し始めた5G通信、これまでもゲームや建築など様々な領域で利用されてきた3D技術、そしてブロックチェーンをベースにした仮想通貨やNFTなど様々な技術が、これからメタバースに集約されていく。

メタバースは、今後数年でゲーム機でいうプレイステーション(1)やセガサターンのような状況が生まれ、10数年後にはさらなる進化を遂げているはずだ。そしてこれらの様々な技術がより進化した際、その状況が人間の生活をどれだけ変えるのか、とても楽しみにしている。