サイバーエージェント、投資局面から増収増益路線への大転換 ABEMA中心に拡大目指すがネット広告の収益改善とゲームの立て直しも注目ポイントに

 

「ネット広告とゲームで稼いでいるうちに新しい柱としてABEMAへの投資を十分に行って育てていく」―――これはサイバーエージェント<4751>の藤田晋社長が「ABEMA」への巨額の投資を開始して以来、決算説明会の場でたびたび話していたフレーズだ。今回の第3四半期決算の説明会で、「ABEMA」は投資フェーズから収益化フェーズに徐々に移行することを明言し、大きく下振れした2023年9月期の業績をボトムとして増収増益を追求する考えを示した。ABEMA開始以来の大きな転換点を迎えている。

同社の第3四半期(23年4月~23年6月)の連結決算は、売上高1717億3800万円(前年同期比0.2%減)、営業利益14億3500万円(同86.2%減)、経常利益15億6800万円(同85.1%減)、最終利益7億0300万円(同80.2%減)と大幅な減益となった。

・売上高:1717億3800万円(同0.2%減)
・営業利益:14億3500万円(同86.2%減)
・経常利益:15億6800万円(同85.1%減)
・最終利益:7億0300万円(同80.2%減)

藤田社長は「数字がよくない。メディア事業とネット広告事業は増収となったが、ゲームが想定を下回った。ゲーム事業では前四半期に周年イベントが重なったこともあり非常に良かったが、その反動が大きかった」と振り返った。

同時に2023年9月通期予想の下方修正を行った。「自社IPである『ウマ娘』の下がり度合いが読みづらい期でバッファをもった予想を行っていたが、残念ながら想定を上回る落ち方だった」とのこと。

ただ、今後の見通しは明るいとも述べた。「ABEMAへの先行投資が最終盤に入ってきており、経営陣としては今後はシンプルに増収増益にコミットする考え方になってきている」と、今期の業績をボトムとして売上と利益を伸ばしていく考えを示した。

 増益の根拠として、毎年200億円赤字を出していたABEMAの赤字が減っていく。赤字がゼロになるだけでも大きな増益効果が得られる。そして、FIFAワールドカップへの大型投資が当面なくなり適正規模に戻ること、ネット広告が創業以来増収トレンドを続けており、課題だった利益率改善への取り組みが表面化してくることをあげた(次回はやらないと明言したわけでないと解釈した)。

下方修正となったゲーム事業については、『ウマ娘』が人気タイトルとして定着し、アニメやコンソールゲームなど引き続き話題に事欠かない状況にあること、期待を寄せる「ファイナルファンタジー」と「呪術廻戦」の大型タイトルを2023年内にリリースする予定であることをあげた。

 

■ネット広告事業

・売上高:1054億5100万円(同5.9%増)
・営業利益:38億7800万円(同37.4%減)

過去最高の売上となったものの、新卒社員166名が入社したこともあり、営業利益は大きく減った。営業利益率がダウントレンドになっており、具体的な取り組みについては一切明言しなかったが、テコ入れを行っているという。これから徐々に効果が出てくるとのこと。 

 

トピックスとしては生成AIの利活用をあげた。バナー広告やテキスト広告を効果に応じてAIで変えていくもので、人の手を介すよりも大きな効果が得られるという。注目を集めている生成AIだが、「当社は実用化でも実績をあげている」。

  

■ゲーム事業

・売上高:337億4700万円(同27.0%減)
・営業損失:1億6100万円(同98億9800万円の利益)

周年イベントの多かった第2四半期から反動で売上が約半分に低下した。周年イベントは、年末年始などと並んで、1年間でも大きな売上が出る時期としてよく知られている。自社IPである『ウマ娘』の収益の低下が大きな要因だったとコメントした。

 

『ウマ娘』については、今後もクロスメディア展開を継続し、シーズン3のアニメが始まることや、コンソールゲームの発売を予定していることに加え、「ここではいえないような仕掛けを多数用意している」という。「一つ一つの仕込みに時間が掛かるものの、非常に良いものを作る会社だ。長く愛されるIPとして『ウマ娘』は定着している」とCygamesへの強い信頼を示した。

 

収益ドライバーとして期待される新作として、アプリボットが開発する『ファイナルファンタジーVII EVER CRISIS』と、サムザップの『呪術廻戦ファントムパレード』という大型タイトルを2023年内にリリースする予定だ。「これ以外にも未発表の大型タイトルが続々と控えている。長年にわたって仕込んできたゲームが日の目を見ることになる。こちらにも期待していただきたい」と述べた。

  

■メディア事業

・売上高:333億7500万円(同13.1%増)
・営業損失:15億0400万円(前年同期は39億7500万円の損失)

ABEMAが事業の中心だが、「毎四半期ごとのポンポン伸びるわけではないが、毎四半期ごとに地固めしながら伸びている。営業損益も回復局面にある」という。その売上高は同11.1%増の211億円となった。これで3四半期連続の200億円の大台超えだ。WINTICKETなどの周辺事業の収益が順調に推移しているという。WINTICKETは強く伸びており、ネット投票における市場シェアは34%から42%とさらに拡大した。 

売上のベースとなるユーザーの利用状況も上昇トレンドを続けている。FIFAワールドカップの放送で大きく伸び3409万と記録したが、その後もベースが上がっており、5月にはWAUが2071万、7月も2016万と高い水準をキープした。株式用語で言うところの、「下値を切り上げる」状況が続いている。

 

トピックスとして、KDDIとのパートナーシップの締結を紹介した。ABEMAではスポーツコンテンツの放送に力を入れているが、調達に多額の費用がかかること、そして多くの人に見てもらうことなどに課題があり、その面での協力が得られるという。引き続きアニメとともに強化していく考え。

 さらに6月に買収を発表したネルケプランニングについても言及し、「2.5次元ミュージカル業界でもトップ企業。クオリティの高い舞台制作ができ、業績的にも安定して高収益。非常にいい形でグループに参画してもらえた」とコメントした。

ネルケプランニングは、1994年に設立され、2003年に初演したミュージカル『テニスの王子様』のヒットを機に2.5次元ミュージカル市場を開拓し、現在も2.5次元ミュージカルのトップランナーとして業界をけん引している。ABEMAと俳優育成オーディションバトル「主役の椅子はオレの椅子」の配信や、オリジナル舞台『「青空ハイライト」~from主役の椅子はオレの椅子』の共同制作を行っているとのこと。

 

■投資育成

・売上高:13億6900万円(同8456.3%増)
・営業利益:10億8900万円(同1億8700万円の損失)

 

■その他事業

・売上高:67億2000万円(同5.8%増)
・営業利益:7300万円(同400万円の損失)

 

■2023年9月期第4四半期の業績見通し

続く第4四半期の業績は、売上高1850億2700万円(同5.0%増)、営業利益60億3400万円(同54.3%減)、経常利益55億4000万円(同58.0%減)、最終利益23億9800万円(同31.8%減)と増収・減益を見込む。前年同期比では減益となるものの、前四半期との比較では回復する見通しだ。

・売上高:1850億2700万円(同5.0%増)
・営業利益:60億3400万円(同54.3%減)
・経常利益:55億4000万円(同58.0%減)
・最終利益:23億9800万円(同31.8%減)

今期の業績をボトムとして増収増益トレンドに転換させていく考えだが、ABEMAの投資局面からの脱却とネット広告の利益率改善、そして新作のヒットなどゲーム事業の立て直しが当面の注目ポイントになりそうだ。ネット広告は具体的な施策が見えづらく、改善状況を見極めたい向きが強いし、ゲームについても新作は実際にリリースしてみないとわからないほど不確実な市場環境だ。決算発表以来、年初来安値を更新するなど下値模索の動きが続くサイバーエージェント株式だが、このような状況を鑑みると、株価については上がりづらい局面が当面続くかもしれない。

株式会社サイバーエージェント
http://www.cyberagent.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社サイバーエージェント
設立
1998年3月
代表者
代表取締役 藤田 晋
決算期
9月
直近業績
売上高7202億0700万円、営業利益245億5700万円、経常利益249億1500万円、最終利益53億3200万円(2023年9月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
4751
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