【レビュー】『ATRI』の制作タッグが贈るフロントウィングの新作ノベルゲーム『GINKA』プレイレポート この世のノスタルジーを全て凝縮したひと夏の物語がここに


フロントウイングは、1026日、PC向けタイトル『GINKA(ギンカ)』をリリースした。価格は、3,278[税込]

本作は、『グリザイア』シリーズなどを手掛けたことで知られるフロントウイングの最新作となるノベルゲーム。本島から離れた「ひめ島」を舞台に、5年前、“神隠し”にあって消えてしまった幼馴染の少女「銀花」との淡くも切ない恋愛模様が描かれる。

また、制作スタッフには『ATRI -My Dear Moments-』の紺野アスタ氏が企画・シナリオで、ゆさの氏が原画・キャラクターデザインで参画。本稿では、そんな『GINKA』の魅力に迫るレビューをお届けしていく。



■小さな島で生活を営む個性豊かな人々

まずは、本作に登場する個性豊かなキャラクターたちを紹介していこう。

●青羽 流星(主人公)
少年期にひめ島で暮らしていた主人公の青年。銀花が“神隠し”にあった後、家庭の事情で本島へ移り住むこととなった。それから5年後、高校生となった彼は夏休みで島に帰郷したことをきっかけに不思議な体験をすることとなる。

●ギンカ(CV:長谷川育美)
ひめ島に帰ってきた流星の前に現れた少女。5年前、“神隠し”にあって消えてしまった銀花とそっくりな容姿をしており、まるで時間の経過を感じさせない姿をしている。出会った当初は自身の名前すら忘れている状態だったが、流星への好意だけは覚えているようで……。



●海野 ひまわり(CV:長縄まりあ)
都会への憧れを抱いた島育ちの少女。流星の妹分的な存在で、子供の頃によく流星に遊んでもらったことから「リュウにぃ」と呼ぶほど慕っている。常に明るいムードメーカーで、流星との軽快なやり取りはいつまででも見ていられる。厳格な漁師の父親がいる。



●荒羅伎 なずな(CV:安済知佳)
ひめ島にある小学校の教師で、流星の担任でもあった女性。流星が帰郷した際には、しばらく住めるところを探してくれるなど何かと面倒を見てくれる。おっとりした性格だが古武術の達人でもあり、護身術を取り入れた一風変わったラジオ体操を学校で行っている。



●涼代 リン(CV:伊藤彩沙)
流星の2つ年上で、島の子供たちのまとめ役として皆のお姉さん的なポジションでもあるリン。島の友達の輪に馴染めずにいた流星を誘ってくれた人物でもある。運動神経が抜群で、小学生の頃は島の武術大会で負けなしという記録を誇っていた。



●七守 草二(CV:森嶋秀太)
流星の同級生で、子供の頃から何かと彼をライバル視してきた。生真面目な性格で、流星が帰郷した頃にはリンと共に島の子供たちの面倒を見ていた。寂れゆく島の行く末を案じており、いつも行き当たりばったりな考えの流星とは常に衝突が絶えない。



●謎の少女(CV:???)
突如、島に現れた謎の少女。見慣れない制服を着ており、腰に刀を提げていることから、島内でも噂になっていた。髪色を始め、容姿や仕草など、どことなく銀花に似た雰囲気を漂わせている。




■銀花の消失は“夢”か、はたまた“現実”か

次に、物語の掴みの部分だけでも知りたい、引きがほしいという方のために物語冒頭のあらすじを紹介していく。ここまでで既に物語に興味が沸いてきて、プロローグから自身の手で読み進めたいという方は、ぜひ今すぐこのページを閉じてゲームをプレイし始めてほしい。

まず始めに、そもそも、なぜ銀花はいなくなってしまったのかを説明しておこう。

本島から離れたひめ島では、村社会よろしくな独特で古風な文化が根付いており、夏祭りの日には願い事を書いて折った「カタシロ」を神様のもとへ届けるという行事が行われていた。カタシロを届けるのは巫女の役目であると決まっており、これを行っていたのが銀花の生まれた四ノ宮家であった。

幼い頃から学校にも行けず巫女としての鍛錬に明け暮れていた銀花だったが、些細なきっかけから流星と出会い、仲を深めていく。夏祭りの夜、儀式が終わったらりんご飴を食べようと約束していた二人だったが、一人で海に出て社をくぐり、その先の島にいる神様のもとへと向かった銀花は“神隠し”にあい、戻ってくることはなかった……。



そうした前日譚があった中、物語は主人公の青羽流星がひめ島に帰郷するためにフェリーに乗っているところから始まる。5年前、“神隠し”により幼馴染の銀花を失ってしまった流星だったが、その後、すぐに本島へと引っ越してしまったこともあり、「もしかしたら、その後、銀花は戻ってきて今は何事もなく島で暮らしているのではないか……」、そんな淡い期待を抱いての帰郷であった。



島に到着した流星は、後輩である海野ひまわりや、元担任の荒羅伎なずなとの再会を果たし、昔話に花を咲かせる。“神隠し”の件について中々口にできない流星だったが、なずなから銀花はあの時から行方知れずのままだと聞かされる。淡い期待に裏切られ、3日後に来るフェリーで本島へ帰ろうと考えていた流星だったが、そこに現れたのが、あの頃の銀花にそっくりな美しい銀髪の少女だった。



自分の名前さえ忘れてしまった少女(ギンカ)が覚えていたのは、「リュウセイ」の名前と彼を好きであるという恋心だけ……。

ギンカは、なぜ当時のままの姿をしているのか、彼女の正体は……さらに不思議なことに、流星の前に現れた直後のギンカは流星にしか見えていないようだった。しかし、あるタイミングを境に周りの人からも認知される存在になる。なぜこのようなことが起こったのか、原因が非常に気になるところだが、謎は解けないまま次々と新たな問題も起きたことでこの謎は棚上げにされていく。

ここから、この穏やかな時間が流れる小さな島で、“神隠し”から帰ってきた当時のままの姿をした少女「ギンカ」との不思議なひと夏の物語が始まる。



物語の中核は流星とギンカの恋模様が描かれているものの、そのシチュエーションはかなりファンタジーに寄っており、次々と不可思議な現象も起こるためミステリー的な要素も強い。5年の歳月を経て少し大人になった流星と、5年前のままの無邪気なギンカ、二人の凸凹な関係や、久々に会う島民たちとのコミュニケーション。恋愛アドベンチャーだけには留まらず、物語として世界観を昇華し、各人物の人間模様を細かく描いているのが本作の魅力だと感じた。


▲なお、本作は要所で選択肢が出現する場面も。直後の展開が軽く変化するものだけでなく、中には物語の結末を左右するものもあるため、緊迫した状況での選択肢はその後の展開を予測して慎重に選びたい。流星とギンカの物語を悔いのないエンドへと導こう。

この先の真相に関しては、ぜひ自分の目で確認してほしい。


■随所に見惚れてしまうイラストの数々

さらに『GINKA』の魅力を語るうえで外せないと感じたのは、物語の随所に思わず見惚れてしまう美麗なイラストの数々が挟み込まれているという点だ。特に、ギンカを描いた一枚絵は神々しくもあり、作中で現実味のない幻想的なことが起きたとしても、その事象を包括して納得させてくれるような迫力がある。


▲物語の中核に迫るシリアスなシーンでは眩いほど美しく、日常を描いたシーンでは各キャラの細かな所作まで刻まれた繊細なイラストが描かれている。

また、キャラクターだけでなく風景描写も非常に繊細で「こんな綺麗な場所があるなら行ってみたい」、「実際に住んでみたい」と思うほどだ。物語の情景がよりリアルに想像できるため、イラストの力で話の説得力が増していることも間違いない。



さらに、美しいだけでなくコミカルなシーンでは、ちびキャラの可愛いイラストが差し込まれるのもポイントのひとつ。本作では、物語の大筋がミステリーに寄っているため基本はシリアスな展開が続くのだが、キャラ同士の掛け合いがある日常パートではボケやツッコミが飛び交うシーンも多い。



謎が解明されて核心に迫った際の緊迫感を増長させてくれる美麗なイラストと、張り詰めた空気を和ませてくれるちびキャライラスト、対極にある2種のイラストを使い分けた緊張と緩和があるおかげで、シナリオに緩急が生まれていつまでも読み進めてしまう。ゲームの辞め時を見失い、つい夜更かししてしまうこともしばしば。


最後に、今回『GINKA』をプレイした総括を述べていく。ちなみに、筆者はゲームの中でもノベルゲームが特に好きではあるが、フロントウイングの作品をプレイしたのは今回が初めて。その目線から感じたのは、『GINKA』は「とことん感傷に浸れる作品である」ということ。離島の田舎町という舞台設定に含まれるノスタルジックな雰囲気の中に、懐かしさや切なさ、心がギュッと掴まれるような感覚があらゆる角度から詰め込まれている。

個人的に、ゲームをプレイする際にはどのジャンルでもシナリオの要素を重めに見ているのだが、その観点からも『GINKA』は2023年の新作で上位にランキングできる満足度があったと断言しておきたい。安直に言えば「感動」を得たい、物語を読んで泣きたいという方にオススメの一本であることは間違いないし、それでなくとも何処か心が揺さぶられるような作品に出合いたいという方には、ぜひともプレイしてほしい。


(文 編集部:山岡広樹)


■『GINKA』


©Frontwing

株式会社ブシロード
http://bushiroad.com/
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会社情報

会社名
株式会社ブシロード
設立
2007年5月
代表者
代表取締役社長 木谷 高明
決算期
6月
直近業績
売上高462億6200万円、営業利益8億8200万円、経常利益18億9800万円、最終利益8億400万円(2024年6月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
7803
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株式会社フロントウイングラボ
https://lab.frontwing.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社フロントウイングラボ
設立
2018年9月
代表者
代表取締役社長 山川 竜一郎
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フロントウイング

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フロントウイング
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