(本記事はシンキングデータ社より提供されているレポートより一部抜粋して掲載しております)
シンキングデータ株式会社は、株式会社ゲームフリークとワンダープラネット株式会社共同開発による新作モバイル向けカジュアル海洋冒険譚RPG『パンドランド』にてデータ活用基盤としてThinkingDataを提供している。
今回は、2024年6月24日にリリースされた『パンドランド』にてリリース期においてどのようなデータ分析を行い、どのような意思決定がなされたのかを紹介する。
データドリブンなゲーム運営を目指す方々にも参考になるように配慮している。しかし、主としてモバイルゲーム企業のデータアナリスト向けに執筆しており、詳細な事柄も記載している。また記事中の各指標の計算ロジックや分析主体、ログ構成等は、あくまでパンドランドにおいて適当と考えられているものであり、一般化して他のゲームで適応できるわけではない。
シンキングデータでは、データ分析のプラットフォームを提供するだけではなく、指標をどのように整え、チーム内で流通させ、意思決定に関与できるかを支援するサービスを提供しているので本稿では、ゲームの運営や分析に従事する人の一助になれば幸いだ。
【目次】
- ThinkingDataとは?
- パンドランドとは?
- WHY | なぜデータ分析を重視するのか
- WHAT | 何を重視するのか
- HOW | 分析の主体を決める
- HOW | 各指標の計算ロジックを決める
-新規ユーザー継続率
-ある日は?
-アクティブとは?
-チュートリアル突破率
-チュートリアルの各ステップでの突破率を可視化する
-時間経過を理解しておく
ThinkingDataとは?
『ThinkingData』は、グローバルで1,200社、6,000アプリ以上に導入されているゲーム業界に特化した統合データソリューションです。ゲーム業界のデータ活用ニーズに合わせて、以下4つの機能・サービスを提供しています。
- ユーザー単位でデータを収集するデータマネジメント機能
- ノーコードで多種多様なデータ分析を実現するアナリティクス機能
- プッシュ通知やゲーム内ポップアップを配信しそれらを管理するエンゲージ機能
- データ活用におけるサポート・アドバイザリーサービス
これら4つを組み合わせてゲーム業界におけるデータ活用を支援してます。
パンドランドとは?
『パンドランド』は、株式会社ゲームフリークとワンダープラネット株式会社が共同開発したモバイル向けカジュアル海洋冒険譚RPGです。このゲームは、未開の地が広がる「パンドランド」と呼ばれる世界を舞台に、探検隊の隊長となって伝説のお宝を探す旅に出るというストーリーです。プレイヤーは広大な世界を冒険することで、まだ誰も見たことのないお宝を発見し、入手したお宝の地図を友達とシェアしながら、ワクワクする冒険を一緒に楽しむことができます。
WHY | なぜデータ分析を重視するのか
本タイトルでは、開発時点からデータ分析を重視することが決定されていた。それに伴って、リリース前から、どのような指標体系が求められるか、それらを計算するためにはどのような行動ログが必要なのかについて、慎重に議論が進められていた。まず、データ分析を重視する背景には、いくつかの要素がある。
1. 関係者間での共通言語として用いるため
本タイトルは、株式会社ゲームフリークとワンダープラネット株式会社を中心とした複数の関係者によって開発・運用されている。そのなかで開発・運用方針について、共通化された指標を目的とすることで、議論が建設的に発展させやすい。例えば、継続率をあげようとしたとしても、両者で継続率の捉え方が違っていれば、議論は空中戦になるだろう。そのために、継続率はどのようなことであるのかを共通言語化しておくことは重要だった。
2. 事実に基づいた適切な意思決定を行うため
本タイトルを含めた運用型タイトルにおいては、運営方法が多様化している。この背景には遊び方の多様化があるが、それらを事実として捉え、適切に運営方法に反映させることが重要だった。今までの勘と経験に基づいた意思決定では限界であるというのが両者の意見だった。
3. 仮説検証の速度と頻度を向上させるため
問題を発見する→仮説を立てる→仮説を検証する→問題を解決するという流れを全体のプロセスとした場合、仮説を立て、仮説を検証するというステップでは、分析それ自体がボトルネックになってしまうことがある。つまり、データの抽出や指標の計算ロジックを検討するのに、数日を要してしまったりすることもあるだろう。これらを取り除き、速度と頻度を向上させるために、指標体系の構築と精緻な行動ログの取得が前提として準備が進められた。
何よりもこれらを通じて、顧客満足度を向上させるためにデータ分析が重視している。プレイヤーの行動を深く理解することで、より魅力的なゲームコンテンツを提供できると考えられる。その中で、パーソナライズされた顧客接点を創出したり、運営キャンペーンを立案・実行することができるだろう。
WHAT | 何を重視するのか
リリース初期は、開発されたゲームが実際のプレイヤーが初めて接することになる。当然にゲームが彼らに受け入れられるかを観測することは重要である。また、改善すべきポイントがどこに存在するのかを検討する材料を指標として提供することが求められる。
パンドランドにおいても、よりスピーディに状況を把握し、改善のサイクルを回せることを目的として、リリース初期に重要視する指標をあらかじめ決定していた。主として以下のような指標を重要視している。これらはパンドランドに関わるプロデューサー、ディレクター、プランナーの同意を得ており、その目的意識も共有される必要があった。
- 新規ユーザー継続率
- チュートリアル突破率
- 友達招待率
データアナリストとしては、これらの指標がどのように計算され、指標の解釈に過ちが起こらないようにしなければならない。ワンダープラネット株式会社とシンキングデータ株式会社の両社アナリストは、この計算ロジックについての説明責任を帯びており、その解釈についてもより正確に説明しなければならない。
HOW | 分析の主体を決める
まず、ユーザーというものをどのように捉えるかを決めなければならない。往々にして曖昧になってしまうか、考慮されていないこともあるが、何をもって一人のユーザーとするかはほぼ全ての指標を計算するロジックに影響を与える。またDAUやMAUといった最上位の指標にも影響することから、曖昧であると適切な経営判断ができなくなってしまう。
よくある分析の主体であるユーザーは以下のようなものがある。
- アカウント単位
- デバイス単位
それぞれの主体においてもメリットとデメリットは当然存在している。さらに横断的に考慮しなければならないポイントの主要なものとして次のようなものがある。
- インストールからアカウントが発行される前の行動をどのようにそのアカウント単位に紐づけるか
- いわゆるリセマラをどのように捉えるか
- デバイスとアカウントが1:1ではない場合にどう捉えるか
a.同一デバイスで複数アカウントにログインできる場合(マルチアカウント)
b.同一アカウントを複数デバイスでログインした場合(機種変更)
本タイトルにおいては、ゲーム仕様上リセマラが発生するだろうと考えられていた。また仕様上、ゲームデータを移行することはできるため、厳密にはデバイスとアカウントは1:1の関係ではない。なお、インストールからアカウントが発行される前の行動は、シンキングデータのユーザー識別ルールに則り紐づくことができた。
結果として、新規ユーザーの継続率とインストール数、チュートリアル突破率に関しては、デバイス単位で捉え、それ以外のゲーム内行動の指標はアカウント単位で捉えることに決定した。
考えられるユーザーの行動に落とし込み、それぞれの分析主体で捉えてみると、以下のような形になる。
- 課題:リセマラは高頻度で発生するであろうと考えられる
- ゲーム仕様
〇インストール時にはアカウントIDは発行されていない
〇 ソフトリセマラ(アプリの再インストールなく、リセマラができる機能)は可能だが、多くのユーザーは再インストールすると思われる
上記のような場合において、インストール数というものを、アプリがデバイスにインストールした回数と捉えるか、インストールを行った一人の人間(と思われる)の人数と捉えるかで、選択される分析主体が異なるだろう。
また、新規ユーザーの継続率は、一般的に「インストールしたn日後にアクティブな割合」である。上記のような場合において、もし翌日にアクティブであったとしても、デバイス単位での新規ユーザーの継続率は100%になり、アカウント単位では33%となる。なぜなら、3つのアカウントが発行され、翌日にアクティブなのは1つであるからだ。
他方で、中長期的には、デバイスの変更に伴うアカウント移管が発生するだろう。以下のように捉えられる。
上記のような場合において、アクティブなユーザー数はデバイス単位では2になり、同一の人間(と思われる)であったとしても2になる。他方で、アカウント単位では1になる。
さらに例えば、デバイス変更後にランクアップなどの具体的なユーザー行動があったとして、その際にランクが100になったとしよう。その場合にはデバイスBという新しいユーザーであるのにその直後にランクが100になったと理解しなければならない。
また、課金をしたことがあるユーザーを捉えることは非常に多いが、この場合にはデバイス単位で捉えるのは適切ではない。なぜなら、同じユーザー、同じアカウントでも、過去に課金したことがあるが、機種変更した後に課金したことがなければ、デバイス単位では課金したことがないユーザーとして捉えられてしまうためだ。
HOW | 各指標の計算ロジックを決める
次に具体的な計算ロジックを検討しなければならない。一言に継続率やチュートリアル突破率といっても考慮しなければならないポイントは多い。
今回は本タイトルにおいても活用されている、新規ユーザー継続率とチュートリアル突破率を例に挙げる。そのどちらも比較的一般化しやすいものであろうと考えられる。
新規ユーザー継続率
他の分析ツールにおいても往々にして新規ユーザーの継続率は標準化されている。日本市場においては単に継続率やRRというと、この指標を指すことが多い。単純化すると以下のように捉えられる。
ある日にインストールしたユーザーがN日後にアクティブであった割合
検討すべき主なポイントは次の通りである。
● ある日は?
● アクティブとは?
前述の通りこの指標においては、デバイス単位を分析の主体とすることは決定している。また、本タイトルのリリースが日本のみであるため、時差を考慮して時間校正をする必要性は薄い。
ある日は?
リセマラを考慮した上で、そのデバイスにおいて新規登録したという日時はどのように捉えるべきであろうか。
例えば、20日23時に初めてインストールして、同じデバイスで21日1時にリセマラして再インストールした場合、そのデバイスのある日は20日だろうか?それとも21日だろうか?
本タイトルにおいては、リセマラを始めた日時として、そのデバイスにおいて初めてインストールして、登録を行った日時で捉えている。例でいえば20日としたことになる。
アクティブとは?
よくゲーム運営においてはアクティブという言葉を用いる。例えば、DAU(デイリー・アクティブ・ユーザー)であるが、何を持ってユーザーがアクティブであると捉えるべきであろうか。一般的には起動をしているか、として捉えることが多いがそれは適切であろうと考えられるだろうか。
例えば、その日に起動をしたが0.1秒でアプリを閉じた場合に、そのユーザーはアクティブと言えるだろうか。また、20日23:59に起動して、21日4:00までゲームを遊んだ場合に、そのユーザーは21日は起動を行っていないので、アクティブではなかったと捉えられるだろうか。
本タイトルにおいては、新規ユーザーの継続率を計算するにあたってのアクティブは、簡便に理解するために、起動で捉えることにした。
また、どのように表現しておくべきかも考慮しなければならない。よく存在するのはテーブルの形式で値を表示しておき、カラースケールで増減を捉えるものだ(1)。ただ主に確認したいのが、翌日の継続率である場合にはその値のみで折れ線グラフが適しているかもしれない(2)。または時間経過とともにどの程度で減衰しているのかを確認したい場合には、時間経過とともに右下がりになる折れ線グラフが適しているかもしれない(3)。
レポートを作成する際には、より直感的に事象を理解することができるように考慮しなければならない。
チュートリアル突破率
どの程度の割合のユーザーがチュートリアルを突破しているかはユーザーがゲーム性を理解して、楽しいと思えるか、を作り上げる非常に重要である。チュートリアルの各ステップ毎にどの程度の割合で離脱してしまっているのか、その原因はどこにあるのか、はリリース初期においては改善が図れるポイントだ。チュートリアル突破している割合と聞くと、以下のような単純な計算ロジックが思いつくかもしれない。
チュートリアルを突破したユーザー数 / インストールしたユーザー数
しかし、これはチュートリアルのどの地点で離脱しているのかが分からない。そのため各ステップ毎でそれぞれで集計すべきだ。また、時間経過も考慮されていない。例えば、たった今インストールしたユーザーは当然にチュートリアルを突破していないだろう。また、インストールして3日たってやっとチュートリアルを突破するユーザーもいるだろう。このインストールと各ステップまでの時間経過も考慮して突破率として捉えなければならない。
検討すべき主なポイントは次の通りである。
- チュートリアルの各ステップでの離脱率を可視化する
- 時間経過を理解しておく
再掲するが、前述の通りデバイス単位を分析の主体とすることは決定している。また、本タイトルのリリースは日本のみであるため、時差を考慮して時間校正をする必要性は薄い。
チュートリアルの各ステップでの離脱率を可視化する
ユーザー行動データの中には当然に、チュートリアルステップを識別する情報が必要である。分析の要件をほぼ網羅するデータのプランニングを事前に行い、それを開発スケジュールに加えておくことでそれを実現することができている。
では、リセマラを考慮した上で、デバイス単位でチュートリアルの各ステップの突破率をどのように捉えるべきであろうか。例えば、一つのデバイスで3回のリセマラを実行したとしよう。1回目と2回目にはチュートリアルステップ3まで到達していたとして、3回目はステップ2までしか突破せずに離脱したとする。この場合には、そのデバイスが突破したと言えるのは、2だろうか、3だろうか。
本タイトルにおいては、チュートリアルの途中でリセマラのポイントが存在していた。チュートリアル突破率という指標の目的意識は、あくまでゲーム性が理解しているか、であると立ち帰り、この場合では、デバイスでの最大到達ステップである3とすることにした。
時間経過を理解しておく
チュートリアルを突破していくのには時間がかかる。そのため時間経過を理解しておく必要がある。2つの時点からの時間範囲を検討しなければならない。
1つ目に、ステップ1からステップ2までに順当に進捗すれば5分ほどだとしても、一度アプリを閉じていれば、1日以上経過する可能性もある。この意味合いで、突破していくまでの時間範囲というポイントだ。
2つ目に、ステップ1をいつ行ったのかという起点としての時間範囲である。
ユーザーが行動することで、データは常に発生しており、当然に時間は経過している。これをある一定の制限をしなければ正しいチュートリアル突破率を計算することはできないだろう。
例えば、7/20から7/21にステップ1を行ったユーザーが対象であり、ステップ3までの突破までの時間範囲を2日としてみる。現在が7/22の午前9時であるとした場合、7/21 23:00にステップ1を行なったユーザーは10時間しか経過していないが、ステップ3まで実行していないと離脱と捉えられてしまう。
本タイトルにおいては、あくまでゲーム性を理解しているか、逆に分からないがないか存在していないかを観測するため、起点をインストールとしてリリースから全てを、突破していくのにかかる時間範囲をかなり広く設定した。これにより、突破しているかどうかに着目するというよりかは、離脱しているポイントを見出すことに着目している。
また、どのように表現しておくべきかも考慮しなければならない。チュートリアルのステップは大枠で30ほどあり、それぞれをファネルとして以下のように表現した。また総数というよりは、あくまで割合を観測するため、ステップ1を行なった全量に対する割合と、前のステップに対する割合を表現した。これによりどのステップで離脱しているか、それが全体に対してどの程度影響しているかを確認しやすくしている。
なお、シンキングデータでは9月17日発売のThinkingData Japan初の著書『ゲームデータアナリティクス ~より良い開発・運営に向けたデータ分析の教科書~』も刊行された。
本稿にて、データを駆使したゲームの未来に興味を持った方は、手にとってみてはいかがだろうか。
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会社情報
- 会社名
- ワンダープラネット株式会社
- 設立
- 2012年9月
- 代表者
- 代表取締役社長CEO 常川 友樹
- 決算期
- 8月
- 直近業績
- 売上高24億4900万円、営業利益1億2100万円、経常利益1億1300万円、最終利益9200万円(2024年8月期)
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 4199