カプコンのフォトリアル表現を支える技術と創造性…『プラグマタ』ディアナと『バイオハザード レクイエム』レオンの制作秘話

岸由真 gamebiz編集部
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2026年10月2日に開催された「CAPCOM オープンカンファレンス RE:2026」。本記事では、講演「Beyond Realism~RE ENGINEが挑むフォトリアルキャラクターの進化と創造」の模様をレポートする。


本講演は、最新タイトルにおけるキャラクター表現技術の進化と、カプコンが取り組んできた「魅力的キャラクター創出の考え方」を紹介する内容となっている。
登壇したのは、カプコンの地 宏之氏。地氏は、各タイトルが目指す表現や制作上の課題を整理し、RE ENGINEチームなどの技術開発陣と共有する役割を担っている。つまり、タイトルの「こうしたい」という要望と、それを「実現する技術」をつなぐ橋渡し役だ。

講演では、フォトリアルなキャラクター制作に関して、「どんなキャラクターを作りに行きたいのか」「その実現を技術がどう支えているのか」「実際のタイトル開発を通じ、技術の開発体制をどう進化させてきたのか」といったテーマが語られた。

地 宏之氏
地 宏之氏

これらを紐解くための最新事例として、立ち位置が大きく異なる2つのタイトルが紹介された。
ひとつは、約30年続くホラーゲームフランチャイズの最新作『バイオハザード レクイエム』。本作では、長い歴史を持つ主人公・レオンをいかに描くかがテーマとなった。
もうひとつは、完全新作となる『プラグマタ』。過去作がなく、キャラクターらしさの共通認識がない状態から、新たなキャラクターを組み立てていく必要があったという。

■技術よりも優先されるべき「創造性」

本講演は技術カンファレンスで行われたものだが、地氏はキャラクター表現において最も重要なのは技術ではないと断言する。

「私たちにとって一番大事なのは『創造性』、クリエイティビティです。何を作り出し、どんなキャラクターを届けたいのか、そこが起点です」と地氏は説明。

コンセプトアートから3Dモデルへと立体化していく過程では、絵と立体の違いから「思っていたのと違う」という壁に度々直面するという。
その際に立ち返るべき指標こそが、「どんなキャラクターにしたかったのか」という創造性とイメージなのだ。レオンであれば受け継いできた「らしさ」、ディアナであればこれから提示する「新しい魅力」。その核となるイメージを具現化するために、造形や質感だけでなく、光や動きなどゲーム内の様々な要素が調整されていく。創造性を実現するためにこそ、技術が必要になるという。

同社のフォトリアル表現において大きな転換点となったのは、2017年の『バイオハザード7 レジデント イービル』だ。RE ENGINEの開発と並行して社内に3Dスキャンスタジオを設立し、実在するものを高精度にゲーム内へ取り込む体制を整えた。

しかし、3Dスキャンはあくまでキャラクター制作のスタート地点に過ぎないという。スキャンで得られるのは表面的な形状情報のみであり、そこから微細な調整やアニメーションの付与、ライティングの確認など膨大な工程が待っている。

実在の人物をデジタル上で再現する「デジタルダブル」技術は、現実世界に明確な「正解」が存在し、それと比較しながら作り込んでいくことができる。しかし、レオンやディアナには絶対的な正解となるモデルが存在しない。

地氏はこのゲーム制作特有の難しさについて、「『正解が存在しないのに、正解に見えるものを作らなければならない』。ここがゲーム制作の難しいところであり、面白いところでもあります」と語った。

さらに、3Dスキャンでは解決できない課題もある。その最たる例が「髪の毛」だ。髪の形状や動き、光の透過はスキャンデータとしてそのまま取り込むことができない。

『プラグマタ』のディアナは、初期段階ではポリゴンベースで髪が表現されていたが、柔らかさや動きに限界があった。金髪で長髪、かつアクションを伴うという、極めて難易度の高い条件をクリアするために導入されたのが「ストランドヘア」という新技術だった。

未知数の技術であったストランドヘアだが、妥協なき探求の結果、2021年の『プラグマタ』発売延期告知映像で初披露。ただ、この技術が最初に製品化されたのは『プラグマタ』ではなく、2023年発売の『バイオハザード RE:4』のレオンの髪だったという。ディアナのために研究された技術が、髪質も全く異なるレオンへと応用された形だ。

「実際にタイトルに実装したことで、この先にやっていきたい挑戦がより具体的に見えてきました」と地氏は振り返った。


キャラクターのビジュアルを構成する要素の中でも、髪は面積が広く、全体の雰囲気に大きな影響を与える。地氏は「髪の技術は新しくなっても、髪そのものの見え方だけではなく、顔周り、またキャラクター全体の印象まで変わってきます」と指摘する。

『バイオハザード RE:4』では、プロジェクトの後期に従来のポリゴンヘアから、より高精細なストランドヘアへの移行を決断した。しかし、技術が向上すれば自動的に魅力的なキャラクターが出来上がるわけではない。高精細になった髪が、元々目指していたレオンのイメージと合致しているか、動かした際に自然に見えるかといった細かな調整が必要となった。

実際、ストランドヘアへの変更によって顔を含めたレオンの印象は大きく変化したという。開発陣は元々ポリゴンヘアで制作を進めていた経緯もあり、ストランドヘアを過剰に押し出すことはせず、ポリゴンヘア時代のレオンのイメージを維持する形で展開する決断を下した。

技術の移行に伴う課題は見た目だけにとどまらなかった。ストランドヘアは制作方法や物理的な制御がポリゴンヘアと異なるため、アーティストは新たなツールや調整方法に慣れる必要があった。さらに、髪型を保ちながら自然に揺らすための対応や、描画負荷の考慮など、解決すべき問題は山積みであった。

地氏は当時を振り返り、「技術としてできることが増えるのは我々にとっては非常にありがたいことですが、それを使って狙ったキャラクターに仕上げるためには多くの課題への対応が必要でした」と語った。エンジンチームと密に連携して技術やデータ、制作手法のすべてを改善していった経験の積み重ねが、後の『プラグマタ』や『バイオハザード レクイエム』におけるキャラクター表現へと繋がっているという。


■画面全体を一変させる「パストレーシング」という新たな波

『プラグマタ』や『レクイエム』の開発が進み、キャラクターの肌や目、ライティングなどを調整しながら目指していたビジュアルが形になりつつあった2022年の夏。カプコンの開発陣に新たな技術の波が押し寄せる。それが「パストレーシング」の導入である。

パストレーシングとは、光の回り込みや反射などを統一的に計算する新しいライティング手法だ。従来のリアルタイムレイトレーシングでは複数の手法を組み合わせて光を表現していたが、パストレーシングを用いることで現実の光の振る舞いをより忠実に再現でき、画面全体に一貫性のある自然な光や影を描き出すことが可能になる。

しかし、その導入ハードルは極めて高かった。地氏はライティングの重要性について「どこからどんな色の、どんな強さの光を当てるかによって、顔の印象はもちろん、その場の雰囲気が変わります」と話す。パストレーシングは光の計算方法そのものを根本から変えるため、キャラクターから背景まで、画面に映るほぼすべての要素が影響を受けてしまうのだ。

例えば、特定の「木」の表現を良くする技術であれば、その木と光の関係性だけを検証すれば済む。しかし、ライティングという根本的な技術を変更した場合は、光に照らされるすべてのものが検証対象となるため、検証範囲は圧倒的な広さになる。

開発チームは、まず新しい技術が正しく動作しているかを確認するという「最初の壁」に直面した。そして、正しく動作した上で、それが自分たちの狙った絵になっているかを確かめながら、画面全体を改めて仕上げ直す必要に迫られた。想定よりも早い技術導入となったが、開発陣は発売に向けて修正と調整を繰り返した。

■目指す姿へ近づくための飽くなき挑戦

「作りたい見た目があって、今の技術では届かないところに新しい技術を取り入れる。それでも足りないところややってみて分かった課題があればさらに開発や調整を進めていく」

地氏のこの言葉には、カプコンがキャラクター表現にかける情熱が凝縮されている。ストランドヘアやパストレーシングといった最先端技術は、導入すれば終わりという魔法の杖ではない。技術の進化を取り入れつつ、泥臭い検証と調整作業を繰り返すことによって初めて、目指すべきキャラクターの姿へと近づいていくのである。

講演の後半では、作り込まれたフォトリアルなキャラクター表現を、実際のゲームとしてプレイヤーに届けるための苦労と工夫が語られた。ゲームの画面内では、キャラクターだけでなく、敵や背景、エフェクトなど様々な要素が同時に動いている。これらすべてを限られた処理時間内に収め、なおかつ多様なハードウェアやPCのスペックに合わせて快適に動作させなければならない。

実際の開発画面では、髪の毛(ストランドヘア)だけでなく、肌や目の表現にも高い処理コストがかかっていることが示された。地氏は、「見せ場としてはすべてを最高の状態でお届けしたい気持ちもありますが、現実にはハードウェアごとに使える処理時間には限界があります」と述べ、計算方法やデータの作り方を見直し、見た目への影響を確認する作業をひたすら繰り返していることを明かした。

その具体例として紹介されたのが、髭のライティング処理の改善だ。実装方法やレンダリングアルゴリズムを見直すことで、見た目の印象を全く損なうことなく処理の最適化に成功したという。

■ 新技術が浮き彫りにした課題と「横断チーム」の設立


このような品質調整や最適化を進める中で、開発体制そのものにも課題が見えてきた。ストランドヘア技術を導入した当初は、エンジンチームが機能を開発し、各タイトルのアーティストがそれを使ってキャラクターを制作するという体制だった。しかし、従来のポリゴンヘアとは作り方が全く異なるため、「思っていた見た目にならない」「動かすと何かおかしい」といった問題が発生しても、それがエンジンの不具合なのか、アセットの作り方や設定が原因なのか、すぐに特定できないという事態に陥った。

そこでカプコンは開発体制を見直し、エンジンチームと各タイトル開発チームの間に、タイトル横断で技術検証と品質向上に取り組む専門チームを新設した。キャラクターアーティスト、テクニカルアーティスト(TA)、レンダリングエンジニアが集結し、実際のキャラクターを用いて検証を行う体制だ。髪の毛の表現に関しては、3DCG映画の制作経験者の知見が大きな助けになったという。

この新体制において、内製エンジンである「RE ENGINE」の強みがいかんなく発揮されている。技術的な問題が発生した際、画像だけで説明するのではなく、該当するシーンの実際のデータを丸ごと共有できるのだ。アーティストとエンジニアが同じ画面を見ながら検証を行うことで、問題解決までのスピードが圧倒的に早くなったという。

さらに、この横断チームには高い品質でアセットを制作し、その結果を正しく判断できる人材が配置されている。あるタイトルで直面し解決した問題や、確立した制作手法は、横断チームを通じて他のタイトルへ素早く共有される。地氏は、「全体を底上げすることを目的に横断的な配置を行っています」と、スタジオ全体の品質基準を引き上げる狙いがあることを強調した。

新しい表現への挑戦は、「深く狭く」追求するコンセプト実証から始まる。まずは特定のキャラクター(『プラグマタ』のディアナなど)を使い、コストがかかっても目標とする品質に到達できるかを実データで検証する。その後、実際のタイトルに導入しながら処理負荷や制作上の課題を解決し、最終的には他のタイトルでも取り入れやすいように機能やツールを整理する「標準化」を行う。

こうしたサイクルを回すことで、一つのタイトルで苦労して実現した技術がエンジンの機能として蓄積され、次のタイトルの開発では最初から高い水準でスタートできる仕組みが整っているのだ。


講演の終盤、地氏は今後の展望として、キャラクターの「動きや反応」のさらなる追求を掲げた。見た目の向上はもちろんのこと、ストーリー展開や状況に応じた振る舞い、汗などの反応、そして「このキャラクターならこうするだろう」と感じさせる個性を動きで表現していきたいという。

一方で、「自然な動きにこだわるあまり操作の反応が悪くなってしまうと本末転倒です。触っていて気持ちいい、そしてキャラクターらしく応答してくれる、そこを追求していきたい」と語気を強めた。

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株式会社カプコン
http://www.capcom.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社カプコン
設立
1983年6月
代表者
代表取締役会長 最高経営責任者(CEO) 辻本 憲三/代表取締役社長 最高執行責任者(COO) 辻本 春弘/代表取締役 副社長執行役員 兼 最高人事責任者(CHO) 宮崎 智史
決算期
3月
直近業績
売上高1953億6500万円、営業利益752億9500万円、経常利益741億3400万円、最終利益545億8700万円(2026年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
9697
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