【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第三十三回「小さな成功、大きな成功」


 
株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。 
 
 

■第三十三回「小さな成功、大きさ成功」




 
皆さま、あけまして、おめでとうございます。
松の内も明けた今頃、何を言ってるのだ?かもしれませんが、新年最初の活人研となります。
と、いうこともあるので、今回はテーマをややめでたいこと、ポジティヴなことに絞ってお話ししたいと思います。
 
人間学んでいくうえで、成長していくうえで、大切な要素があります。
それは、学ぶ姿勢に関してのモチベーションを維持できるか?です。
 
そもそも、どこに向かおうとしているのか?を明確にできていないと、頑張ることは難しいです。ゲームの開発もそうですが、GOALをイメージしないで「積み上げ型」の開発をしていくと正直、デスマーチだと思います。
 
GOALがない = 終わりがないからです
 
どうなったら、完成なのか?誰もわかっていないものが、完成できるわけありませんよね?
でも、なぜか、不思議なくらいにこの進行で進んでいるゲーム開発を目撃することがあります。もちろん、アマチュアの学生の開発で散見されるのは、仕方がないことですが、プロの開発現場でもよく目にします。
 
作っていて不安じゃないのかな?
 
と思うことがありますが、目先にこだわって、手は動かしているので、「何かをやっている感」が、あるからかもしれませんね。。。
 
そもそも、学生時代や、新人の時代に、
 
・ゲームの全体像をイメージする
・ゲームの一番大事な、面白い肝となるところを確定する
・ゲームの流れをイメージする
 ↑これらから、開発するための総タスクを洗い出す
・洗い出したタスクを並べ替えて工程表、ロードマップをつくる

 
という経験が少ないのかもしれません。
もし工程をイメージする経験があれば、そもそも、GOALが定められていない=総タスクが洗い出されていない工程に気持ち悪さを覚えるでしょうし、プロトタイプまでは作ることができるけど、そこで、見直し、GOALの存在を確認しなくてはいけません。そして、GOALを定めて(チームならばチーム全員で合意して)、再度工程を見直し、確定させることが大事でしょう。

もし、プロトタイプの段階で、危うさを感じたり、違和感を覚えるメンバーがいたら、やはり一度は見直した方がよいでしょう。(プロデューサー、ディレクターの判断で押し切ることもあるとは思いますけどね)
 
ただ、学校においては、案外、学びの早い段階からいきなりチーム制作に入ってしまうために、1人1人が、総タスクを洗い出したり、工程をイメージする段階がないのかもしれません。つまり、個人製作で、企画からデザイン、プログラム(Unityなどのゲームエンジンで動かすでOKですし、極論パワーポイントのアニメーションだけでつくってもいいと思います)の工程をふめば、なにをどの順番でつくっていかないといけないか?とか、そもそも、どうならないと「終わらないのか」を経験することができるでしょうから。自分1人ですべてをやらないといけないからこそ、いったんすべての工程を学ぶことができる、わけです。規模の大小は問わないので、小さなゲームでいいとは思います。
 
昨年のHEATの社長トーク!の時に、東京工芸大学の遠藤雅伸教授が、ご自身のゼミに入ってきた学生さんには最初、1人で全部つくることをやらせる!とおっしゃっていましたが、まさにこれだと思います。
 
こればかりは、逆にプロになってしまうと、なかなか難しいですからね。学生時代であるからこそ、できることではないか?と思います。もちろん、プロになっても、仕事でなく空いたプライベートの時間を使って、インディーズ活動なような感じでやることは可能だと思いますが、なかなか、そこまで意志が強い&そのプロダクトや工程自身を確認して、評価してもらうことが難しいので、かなり「がんばらないと」いけませんね。なので、学生のうちに、お金払って学校にいっているわけですから、最大限、学校を、先生を活用したいところです。
 
今の時代、コンシューマゲームなどで新卒ではいった場合、比較的末端仕事を2~5年くらい継続することも珍しくありませんで、あれば、自身の身を守るためにも、自分で自分の力をつけていくしかありません。そのためにも、自分で時間をつくっていきましょう!!
 
 

■小さな成功体験

 
今回のテーマは、「大きな成功」「小さな成功」というものですが、どういうことかと申しますと、
 
・大前提として、人間、学びの最中は、「成長」を実感したい
・短い期間で結果がでるものは、何度もトライできる
・長い期間かからないと結果がでないものは、教えるタイミングが大事になる
・成長を実感できないことを、繰り返すことができるのは、一部のストイックな人だけ

 
など、モチベーションを喚起し、維持し、継続するには少なからず成功体験がないと難しいのでは?ということですね。もちろん、成長の形やスピードはひとにより異なるので、反復の回数はかわることはあるでしょう。ですが、最初のころ、初動の慣れないうちほど、つまりは、
 
「まだ何も学ばずに考え方、やり方をほぼ知らないうち」
 
は、短期間で結果を出させてあげることが大事だと思います。努力する期間、作業をする時間が短いものがいいわけです。基礎に近いものは、とても大切なのですが、単純であったり、そのもの自体が、即面白いものになっていないこともまま、あります。また、シンプルに構造整理されたものは、ともすれば、
 
「そんなの当たり前のことじゃん」
 
とおもってしまう、コロンブスの卵のような状態で受け止められることもあると思います。そうなると、成長を体験しづらく継続のモチベーションを維持できません。教える側は、
 
・できるだけ短い期間で結果のでるもの
・できるだけ、座学で詰め込むだけでなく、教えたことを演習で体験させること
・体験させた後で、振り返ること
・振り返る時に、失敗を詰めるのではなく、ポテンシャルを探して承認すること
 →もちろん、誤りは誤りで指摘しますが「なんで、できない?」だけをいうのはNG
・振り返った後で、テーマを変えて同じものを何度か反復すること
 →そして、そのたびに、「評価→成長」を確認し、伝えてやること

 
を意識されることが大切だと思います。
また、その際には、余計な要素は極力排除したいです。たとえば、個人での演習をあまり体験することなく、いきなり、8人とか10人のグループワークや、チーム制作に入るのは、やや危険です。ものづくりの基礎を学ぶとき、また、ものづくりの工程を学ぶとき、に、その他の要素、つまりは、
 
・チームでやることで発生する課題
 →仕事の分担
 →責任の所在
 →各自の進捗の確認
など

 
本来、学んでほしいこと以外に、気を使わないといけないことが増えてしまいます。
もちろん、これらもいつか学ばないといけないのですが、まずは個人ワークができているうえで、でないと意味がないでしょう。実践の中からしか学べないことはあります。ですが、実践の場に飛びこみ前に「準備」をしなくてはいけないということです。
 
そのためには、できるだけ「個人」で、1日、1週間、くらいで終わるものをいくつか用意して、順にそれらを教え、手を動かし、体験させていくことが大事ではないでしょうか?そして、それを振り返り、また、繰りかえし実施するということです。

最初のうちはうまくいかなくても、しっかりやりきり、振り返れば、2周、3周する間に間違いなく「学習」して成長していくことだと思います。ここでその進度が遅いな?というのを感じた場合は、
 
・1回の授業で教えるものが多くないか?
・1回の教えるものに時間がかかりすぎてないか?

 
を再度見直し、教える側からも歩み寄る必要があるかと思います。そして、その体験をできるだけポジティヴに承認する部分をつくることで、成功体験となり、次へのモチベーションにつながっていくのだと思います。

 

■大きな成功

 
これに比して、大きな成功とはどんなものを指すでしょうか?
中期的なもの、長期的なもの、とで分けられると思います。2年制の学校ですと、就活までが10か月くらいしかないので、長期的なものはできて1回かもしれません。大きな成功を達成するためのロードマップは比較的長く、時間を使うからです。
 
上記の「小さな成功」を個人ワークで積み上げていくと、ようやく「教わる側=学生」の準備が整うことになります。つまり、一定以上の「プロに近づくこと」を学ぶには、そのための土台作り=準備期間を必要とするわけです。これは、学校側は上記の小さな個人ワークを反復して、刷り込んでいくと同時に、自身でも努力をした方がよいでしょうね。
わたしは、
 
中期的なもの:
 チームでの制作を経験し、ゲームを頭から、最後、完成させるまでやりきる経験
 
長期的なもの:
 考えぬく力をつける、ゲーム開発の本質に迫る経験
 
だと考えます。長期的なものは、プロでも非常に難しいことです。ただ、仕事なので、みな必死に考えているわけです。これまでの活人研でも「思考のスタミナ」の話をしてきました。考え抜くことは、非常に大変で、且つ、ストイックな一面も持ち合わせています。
なので、訓練しなくては、なかなか身に着けることができません。できるだけ、楽しんで反復できることで、身に着けやすくしたいとは考えるものの、結局は、どれだけ、
 
・多くの知識に関心持ってふれ
・知識だけにとどまらず関心持ったことを体験し
・体験の結果からそれを分析して、自分の言葉でまとめて、他者に伝えられえる
・そのうえで価値の多様性を認め、自分の核をもちつつも、他者を受容することができる

 
というところにつながってくると思います。これは、もうライフワークといってもいい、ゲームクリエイターであるならば、少なからず常時意識して、好奇心旺盛に行動していくことが求められるかと思います。もちろん、あらゆる事柄に対して、でなくてもよく、自身が関心をむけられることだけに、狭く絞ってもいいと思います。継続して、且つ、体験していることが大切なのです。
 
そのためには、中期的な、チーム制作での開発経験、とくに、個人の経験を活かし、最後まで「つくりきる」こと、そして、その後の振り返りをしっかりすること、そして、やはり、反復することが大事かと思います。このチーム制作も、反復を繰り返すごとにチームの人数が増えていくようにする方がいいと思います。8人から10人の組織を滞りなくまわすことができる!なんていう人は、プロにもそれほどおりませんで。まずは、集中力を削いだり、言い訳を許す余地を減らしていきましょう(笑)。
 
また、「思考のスタミナ」は技術だけではなく、体験からくる独自のノウハウが各々に備わることでできるようにもなります。最後にたどり着くのは、我流によるところが大きいと思いますので。それに対して、短期、中期は、ワークの単位はことなるものの、技術や知識を身に着けていくフェイズでもあります。つまりは、正解が用意されているものもあれば、比較的結果のでやすいものであることが言えるでしょう。

この「技術・知識」と「体験と思考のスタミナ」をどういった順序で、どのタイミングで、どういった割合で指導していくのがいいのか?というところを悩んで、皆さんカリキュラム設定をしたり、先生方のアサインをされていくとよいのではないでしょうか?
 
最後にまとめますと、

 
 
 

ということです。そのためにも、教える単位、順序、を間違えないように提示し、成功体験を積み上げ、導いてあげられるとよいのではないかと思います。
 
今回は以上です。
 
 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
 



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