【インタビュー】「Microsoft Azure」で実現するクラウドを活用したよりクリエイティブなゲームの開発環境とは…その可能性と未来を日本マイクロソフトの担当者に訊く


日本マイクロソフト(以下、日本MS)が提供するクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」(以下、Azure)。9月4日~6日、パシフィコ横浜で開催された「CEDEC 2019」で、同社によるAzureに関する講演が行われた。

ゲーム開発環境の最適化は日進月歩しており、クラウド化の導入も進んでいる。そうした中、同社はCEDEC 2019において、Azureのサービスと機能を活用した開発環境の未来について提示した。

本記事では、ゲーム開発におけるクラウド化に注力している背景やAzureの可能性について、日本MSの担当者にお話を伺った。



日本マイクロソフト株式会社
インテリジェントクラウド統括本部
Azure Specialist
廣瀬一海

ゲーム&エンターテイメント営業本部
Industry Technology Strategist
梅津寛子


――:まずは自己紹介をお願いいたします。

廣瀬一海(以下、廣瀬) Azureの技術専門家として、ゲーミングだけでなく銀行や医療機関など、Azureを使うお客様の設計支援を担当しています。元々はサーバーやネットワークのエンジニアをやっていまして、大量に人が集まるソーシャルゲームのインフラを担っていました。

梅津寛子(以下、梅津) ゲーム業界向けのエンジニアを担当しています。元々は大手ゲーム会社のインフラエンジニアをやっていましたが、マイクロソフトがゲームに注力するという話が上がった時期にお話があり入社しました。今は、ユーザー数の多いゲームだったり、突然のサーバー増設や障害の対応など、大手ゲーム会社時代のインフラで経験したノウハウを活かして、ゲーム会社様に向けてAzureを活用したゲームのシステムを提供しています。


――:CEDEC 2019でクラウドを使った開発環境について講演されましたが、その経緯についてお聞かせください。

梅津 今まではオンプレミスでサーバーを作って開発を行っていたけど、ゲームの大容量化によっていわゆるオンプレのサーバーだけで賄うことが難しくなっている、という話がお客様から出ています。

特に大手のゲーム会社さんは尚更で、ムービー部分もそうですし、ゲームの中身自体も大容量化しているものが増えています。会社がゲームを長く続ければ続けるほどデータ量も増えていきますし、捨てることもできない。そして、それを管理するとなった時に延々とサーバーを買い続けていくのか、という問題もあると思います。


――:ゲームの大容量化によってオンプレでの開発に限界が来ていると。

梅津 そういった状況の中で、ただクラウド化するだけでなく、そのメリットを享受できる形を私達から提供できないかと考えました。アセット管理やビルドなどクラウドを活用することで効率化、時短して、その分品質を上げる為の時間に費やしていきましょう、という提案をしていきたいというのが、今回のセッションのテーマです。

廣瀬 もう1つ、マイクロソフト自体がゲームに対して凄く力を入れ出しています。元々Xboxというプラットフォームがあるのでゲーム会社さんとのお付き合いはあって、クラウドを使ってくださるゲーム企業さんもいらっしゃいます。ただ、やはり今までのオンプレミスを継承した使い方が多いんです。昔ながらのサーバーを立てて、トラフィック時に一生懸命サーバーを展開するという。

我々はそこからもう一歩踏み込んで、ゲームを開発するためにマイクロソフト全体で提供している開発製品が実はたくさんあります。例えばVisual Studioのような開発製品もありますし、ソーシャルゲームに比較的向いているVisual Studio Codeというオープンソースの開発環境など、様々なものを提供しています。

以前、GitHubの買収という電撃的な発表もありましたが、今後も開発をされる方に寄り添って進めることができるようになってきています。クラウドを使うという角度だけではなく、全体を使う事によっていかにもっと楽に開発をして、より良いゲームを作っていく。その為にはどうしたら良いかを考えて注力していきたいと考えています。




――:そういう部分に力を入れ出したのはいつ頃からなんですか?

梅津 元々マイクロソフトとして色々な製品がたくさんあった中で、ゲーム業界向けにそれらをまとめてGame Stackという形でブランディングしたのが、今年の3月になってからです。

――:クラウドを活用してゲームを開発することの特徴やメリットを教えてください。

廣瀬 まず開発環境としてGitHub、ソースコード管理です。プログラミングしたソースコードをどこかに集約するわけですが、その履歴管理をGitHub上で行えることが1つ。これはエンタープライズ版が出ていますので、よくあるオープンソースのリポジトリであれば置くことができますよ、というものと違って、GitHub Enterpriseとゲームという組み合わせは比較的よく見かける構成です。まずはそこから入っていくところですね。

それと自動化。例えば普通にアプリケーションを開発して、プログラムコードを書いて、集める。そのあとテストするためにビルドをしないといけないのですが、ゲームのコンテンツは大きくなればなる程ビルドはとても大変なんです。ものによったら数時間、半日なんてこともあります。

梅津 帰る前に仕込んでおいたのに、うまくいかなくて翌朝出社したらエラーが起こっていた、みたいなことがあるとビルドが何も出来上がっていないという辛い状況になってしまう。

廣瀬 GitHubにはパイプラインの機能があって、それ使うとどういう風にビルドしますか? 何をコピーしますか? という所まで自動化することができるわけです。今まではビルド用のマシンがあって、オンプレミスでソースコードを集めて、ビルドが終わるのを待つという流れでしたが、それが常にビルドされたものが置かれている状況になるわけです。

そして、今度はそのビルドされたものを使って自動テストすることができます。自動テストの仕方は各々ありますが、例えばUnityで作ったアプリケーションであれば、ビルドが終わったらAzureのAppCenterを使ってスマホのエミュレーターで自動テストすることができます。今では端末を使ってテスターさんが頑張っていたわけですが、それを一回記録しておいて、あとは1000~2000機種分を自動でテストしてくれて、問題があれば自動的にスクリーンショットまで撮ってくれます。

そもそものビルドを早くするためのIncrediBuildさんのツールなどは、実はマイクロソフトの製品と非常に相性が良いんです。この複数のサーバーで分け合う分散ビルドは、1台ではなく複数台並べて一気にビルドを流すことができるので時間を短縮でき、テストも頻繁に行えます。




梅津 ビルドの回数が多くなってしまいオンプレだけだと賄えないという時にAzureを使っていただいて、Azure側のマシンパワーも使ってビルド時間をさらに短くするソリューションもあります。

廣瀬 ですから全部をクラウド化というわけではなく、オンプレとの連携も可能です。ビルドするときだけAzureでVMが立ち上がったり、IncrediBuildが入っていて分散ビルドという使い方もできるのですごく便利です。

梅津 今オンプレで開発されている方々も、徐々に、部分的にクラウド化するといった色々な取捨選択ができると思います。その会社にあった形の開発環境を選んで色々とやっていただけるような選択肢を私達から提示させていただくような形で考えています。

廣瀬 PlayFabを使う事でリアルタイムで分析し続けることもできます。

先ほどAppCenter、自動テストの話をしましたが、ユーザーさんの使っているプログラムが万が一落ちたときってわからないんです。いわゆるiPhoneだったりAndroidで、アプリが落ちる時っていきなりパッと落ちるだけ。開発側としては落ちたことを知りたいし、その原因も知りたい。そのことを開発者側に通知するようなクラッシュレポートという機能もあって、迅速に修正することができます。このように品質向上も視野に入っているサービスもたくさんあります。


――:先程ツールとの相性が良いというお話がありましたが、様々な製品との連動ができると。

廣瀬 そうですね。UnityやUnrealEngineを使っていても、大きな企業のベースフレームワーク上で開発されているものでも、ソーシャルゲームのようなWebスタイルのものでも大丈夫です。加えて開発言語も、マイクロソフトということで.Net、C♯というイメージですが、もう数年前からほぼオープンソースの企業に変わっています。特に言語も選びませんし、むしろ今Azureに関してはオープンソースのユーザーの方が多いです。

梅津 Windowsというイメージがすごく強いですが、今はオープンソースにも力を入れています。色々なツールとの連携という部分でもオープンソースであったり自由にできるような形になっています。そういった所で変わったマイクロソフトを皆様に知っていただきたいです。


――:Azureを活用してみようと考えている会社が実際に導入する際の注意点等はあるのでしょうか?

廣瀬 まずはお客様と私のようなエンジニアで相談しながら一番理想的なものをやっています。ゲーム会社さんも、扱っているプロダクトによって状況はそれぞれありますので、都度相談に乗りながらというところもあります。

例えばソースコードがクラウドにあったら流出するんじゃないかと心配する会社さんもあると思いますが、Azureは監査機能があって誰がアクセスしたかわかるんです。ログイン時も指紋認証が必要という仕組みで動きます。かつ、もちろん普通にIPを固定することもできますので、セキュリティ要件はさまざま。

そういったことを考えながら一つ一つ組んでいますし、その為に私のようなエンジニアがいるんです。

梅津 開発環境って会社それぞれに文化があって、それを変えるということも大変だと思います。開発環境を変えるというところでも、私達と話をさせていただいてどうやって最善の形で変えていくのかを考える。いきなり全部変えるのは難しいと思うので、どこからどうやって変えていくのが効率的か、というところを模索させていただくのが良いのかなと思います。

まずはご相談いただければ、その中で目から鱗な話もあるかもしれませんし、実はこのほうが効率的でもっと色々な事ができる可能性はあると思いますので、新しい目線で見ていただきたいです。




廣瀬 加えて、開発という流れの中で、やはり今までのやり方をどうしても踏襲してしまっているというケースもあります。それも悪くはありませんが、そこから便利なものが増えたんだなということをぜひ知っていただいて、必要な物から少しずつ取り入れてもらえればと思います。

――:マイクロソフトがクラウド化を推進しているのはどのような背景があるのですか?

廣瀬 私自身も経験があるのですが、オンプレミスでインフラを展開していると、ゲームがうまくいっているときは足りなくなる。けど、その逆だと減らすしかないわけですが買ったものはどうするという話になります。クラウドの良さは必要なものを必要な分だけその場で調達できる利便性ですから、そういった観点でのクラウドの良さ。

もう1つは、「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」というマイクロソフトのミッションですね。そこには当然ゲームのお客様も含まれていて、我々がテクノロジーとして提供する方法がクラウドだという形で進めています。Azureは世界中で54リージョンがあるんですけど、それに加えて元々マイクロソフトが持っていた回線といったものはゲームのお客様にはとても役に立つものです。

今まではユーザー増えるかもしれないから太い回線を引いておこうという発想でしたが、Azureなら世界中のどこにでもスムーズに配信できます。そういった所でクラウドに取り組んでいるということはあります。

梅津 今ゲーム業界に対して力を入れている部分に関しても、3つのC(コミュニケーション、コンテンツ、クラウド)というキーワードで、いつでもどこでも色々なデバイスでゲームができるようにしよう、という考えをMSとして持っています。そういう所からもクラウドをうまく活用して、色々な方々にリーチできるようなコンテンツをどんどん配信していきましょう、というのがコンセプトとしてあります。


――:グローバルで展開するゲーム市場の動きが激しいと、臨機応変に対応していくことが求められているわけですね。

廣瀬 ゲーム企業からすると、コンテンツを遊んでいただけるお客様は日本だけに止まらなくなっています。実際に海外でゲームを配信する場合、今までは現地でデータセンターを用意するなど中々難しかったですが、それがすぐにできるというのはクラウドの良さです。

――:クラウド化に向いているゲームは、どんなジャンルやフェーズのものなのでしょう?

梅津 ゲーム会社さんそれぞれの文化にあった形で、Azureの良い所をどんどん取り入れながら開発環境を変えていってもらえたらと思っています。どういったコンテンツ、どういったフェーズというよりは、その会社にあったものをうまくチョイスできるような形を私たちは提供していきたいです。

廣瀬 例えば UnrealEngineで作っているゲームをIncrediBuildで分散ビルドを同時に流しながら、時間を短縮する。分散ビルドを通した後、常にパッケージがある状態を作ったり、あと自動テストもできます。そういった意味で、3Dゲームでもソーシャルゲームでもスマホゲームでもどんなゲームでも向いています。

梅津 クラウド化でどんどん効率化して品質を上げる中で、また新たに別のゲームを考えるなど会社さんがよりクリエイティブな方向に動けるようになっていただければ良いと思っています。




――:ちなみに、いまクラウド化の導入を考えているゲーム企業からの問い合わせも多いのでしょうか?

梅津 そうですね。先日のCEDEC 2019の講演でご一緒したコナミデジタルエンタテインメント様とも、クラウドを活用したゲーム開発のビジョンについてお話をさせていただきましたが、今までサーバーやPCなど全て手元でやっていた物理的なものがどんどんデジタルな世界に流れている中で、やはりそれでは限界が来ていると感じている、とおっしゃっていました。

クラウドを活用したゲームの開発を、それこそ一緒になって、他人行儀ではなく本当の意味で一緒に作り、成功させるという熱い気持ちでやっていきましょうと両社で話しています。


――:今後Azureをどのように進化させたいとお考えですか?

廣瀬 自分自身が開発者、エンジニアでしたので、どちらかというと皆様に楽になってもらいたい、というのが理想です。開発の大変さは良く知っていますので、楽をしてもらうためにAzureを知ってもらいたいというのが一番ですね。

梅津 いかに楽に運用できるか、それをもっと違うクリエイティブな所に注力できるような形でサービスって作れるんだよというのをもっと知っていただきたいです。ただ楽するわけではなく、効率化で生まれた時間で新しいクリエイティブに目を向けてもらえたらと思っています。

廣瀬 今はAIやブロックチェーンなど、ゲームに使える新しいテクノロジーも出てきていますし、Azureで動いているブロックチェーンのゲームって結構あるんです。そういった新しいクリエイティブや今までに無かったものを生み出すのはゲームの本質だと思いますので、そこに注力できるようAzureにぜひ注目していただきたいです。


――:それでは最後に読者に向けてメッセージをお願いいたします。

廣瀬 Azureは日々進化し、年間600以上の機能追加があるほど劇的にできることが増えるサービスです。自分の中で少しでも使えるものがあるんじゃないか、と思ってAzureに興味を持ってみてください。

梅津 AI等、新しいテクノロジを活用して拡がるAzureの可能性は無限大だと考えています。実際Azureを使って頂いている方の声を参考にしていただきつつ、自社に置き換えて活用するとどのような更なる新しいゲームの未来を提供できるのかを考える1つのきっかけにしていただけたらと思います。

日本マイクロソフトとゲームビジネスの取り組みに興味を持った方はこちらまでご連絡ください。



 

■マイクロソフトクラウド環境 Cloud化のパートナー企業からのメッセージ


IncrediBuild

Q:ゲーム開発におけるマイクロソフト製品との連携におけるおすすめポイント
IncrediBuildは、マイクロソフトパートナーとして、2002年からVisual Studioでの開発の高速化を提供してきました。

IncrediBuildでは、ゲーム開発タスクを最大30倍加速できる上、処理の可視化が可能になります。Visual Studio標準のビルドシステムと連携し、時間のかかるタスクをローカルマシンだけでなく、ネットワーク上の他のマシンや仮想マシンに分散することで処理を高速にします。

また、Visual Studioとのシームレスな連携により、IncrediBuildのインストール、メンテナンス、専用ハードウェアは不要です。

2019年夏に発表された「IncrediBuild for Azure」では、クラウド上で柔軟にリソースを追加し、処理を分散できるため、開発ピーク時や製品のリリース時にも安定してタスクの高速化を行えるようになりました。

「IncrediBuild for Visual Studio」「IncrediBuild for Azure」で開発時間を大幅に短縮し、ストレスフリーなゲーム開発をお楽しみください!

Q:Incredibuildからゲーム開発者に向けて一言
IncrediBuildは20年近く、世界中のゲーム開発者のビルド高速化をお手伝いしてきました。「IncrediBuildで感動するくらいビルドが早くなった」「IncrediBuildがないと仕事にならない」という嬉しいお声をたくさんいただいています。

これまではオンプレでの高速化が中心でしたが、今後はクラウドの「IncrediBuild for Azure」の利用がどんどん増えていくと考えています。高速化で短縮できた時間で「どうやったらもっと楽しいゲームを作れるか、考える時間ができました」という声に集約されているように、IncrediBuildはゲーム開発にとって欠かせないツールです。ぜひ高速化を体感してください!

詳しくはこちら(https://www.incredibuild.co.jp/


GitHub

Q:ゲーム開発におけるマイクロソフト製品との連携におけるおすすめポイント
今日のゲーム開発においてオープンソースは必要不可欠であり、ゲーム開発の中心的なコンポーネ ントになっています。4,000万人にのぼるコミュニティが利用するGitHubを活用して、次世代のゲーム開発者が、どのようなものを構築していくのか大変楽しみにしています。GitHubとして、注目すべき点として、下記をお伝えします。

GitHubの年次レポート「The State of Octoverse」(オクトバース)では、同社のデータサイエンティストの分析に基づき、オープンソースコミュニティーの最新動向を公表しています。著しい成長を見せているオープンソースプロジェクトとして第3位にランクインしたのが、Godot Engineでした。

このGodotEngineは、統合されたインターフェイスから2Dおよび3Dゲームを作成するクロスプラットフォームゲームエンジンです。

https://github.com/godotengine/godot

サンフランシスコで毎年3月に開催されているGame Developers Conferenceでも、GoDotがいかに成功をしているオープンソースプロジェクトであるかも確認できます。

https://www.youtube.com/watch?v=C0szslgA8VY&feature=youtu.be&t=362 

【The State of Octoverse】
2018年版レポートの重要点は、こちらのニュースリリースからご確認ください。
https://digitalpr.jp/r/29715

レポート全体(英語のみ)については、下記をご確認ください。
https://octoverse.github.com/ 

Q:GitHubからゲーム開発者に向けて一言
GitHubは、ゲーム開発を含む独自のワークフローを常にサポートしています。オープンソ ースであるGitHub for Unityのエディターエクステンションでは、ゲーム開発チームに2つの重要な機能として、GitLFSを使用した大きなファイルのサポート、そしてファイルロッ クを導入しています。これらの機能により、Unity内でソースコードファイルを管理するのと同じ方法で、Gitを使用して大規模なアセットと重要なシーンファイルを管理できます。


 
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