【Sp!cemartゲームアプリ調査隊】原作と二次創作へのリスペクトに満ち溢れた『東方LostWord』。大ヒット中の東方×スマホゲームの施策を分析


スマートフォンゲームの日々の運用とその効果をリサーチし、ゲーム関連企業へマーケティングデータを提供するSp!cemart(スパイスマート)。ゲームアプリの運用情報をいつでもウォッチできる「Sp!cemartカレンダー」や、毎月発行しているレポートを提供している。
 

なかでもカレンダーは、セールスランキング上位のモバイルオンラインゲームのゲームシステム・運用施策をダッシュボード形式のWEBツールとして提供。ゲーム内プロモーション施策の効果測定やセールスランキングと運用効果の相関関係を時系列で分析できる。
 

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本連載記事ではSp!cemart協力のもと、カレンダー機能を用いた、ランキング上位タイトルの直近のゲーム内施策を分析。今回はグッドスマイルカンパニーの『東方LostWord』の施策をピックアップする。
   
(以下、Sp!cemartゲームアプリ調査隊より) 
 

【調査箇所】『グラサマ』開発陣が手掛ける東方×スマホゲーム


■『東方LostWord』
提供:グッドスマイルカンパニー(開発:NextNinja)
リリース日:2020年4月30日

①【調査期間:2020年4月30日~5月20日】

▲Sp!cemartカレンダーより(画面上部はストアのランキング推移、下部はゲーム内施策を確認できる)

グッドスマイルカンパニーとNextNinjaの共同プロジェクトである、東方Project二次創作スマートフォン向けRPG『東方LostWord(とうほうロストワード)』が、スマッシュヒットを記録中です。

上記のApp Storeのランキング推移を見て分かる通り、2020430日(木)のリリース後、無料ダウンロードランキング1位を獲得し、その後はセールスランキングを安定してTOP50圏内をキープ。直近では、最高19位を記録するなど、TOP10圏内をとらえています。

本作は、「東方Project」のキャラクターたちが活躍する二次創作RPGです。プレイヤーはお気に入りのキャラクターを育成し、独自のスペルカードを駆使した弾幕バトルを楽しめます。チームに最大6キャラクターを設定できるほか、ボイスは1人に付き3タイプを用意。また、着替え機能で、キャラクターの衣装も変えられます。



そもそも「東方Project」は、ZUN氏が率いる同人サークル「上海アリス幻樂団」が手掛けたコンテンツ(同人作品)です。作品の発売は90年代後半からとその歴史は古く、弾幕系シューティングゲームを皮切りに、音楽・CDなどさまざまなメディアで展開。

硬派なゲーム内容はもとより、心躍るBGM(音楽)、魅力的なキャラクターと世界観で人気に火が付き、「東方Project」に関する二次創作は膨大な数に。動画投稿サイト「niconico」でも関連動画がいくつも投稿され、いまや一大同人作品のひとつとなります。

一方で本作の提供・開発を担当したグッドスマイルカンパニーとNextNinjaは、スマートフォン向けRPG『グランドサマナーズ(以下、グラサマ)』を手掛けたコンビ(2社)としても知られています(同作は株式会社アイディスも関わっています)。

『グラサマ』は、運営4年目を迎えている現在も好調に推移。ドット絵のちびキャラから繰り出されるエフェクトや演出は、遊んでいて爽快感を味わえます。こうしたバトルにおけるクオリティの高さや運用施策は、『東方LostWord』でも発揮されており、リリース直後からユーザーからの評価も高いです(App Store評価★4.5 – 5/20現在)。

本稿ではランキング推移とゲーム内施策を一覧で閲覧できる「Sp!cemartカレンダー」を用いり、『東方LostWord』のリリース前後の施策を中心に深掘りしていきます。まずはリリースまでの流れを見ていきましょう。
 

【事前プロモ】賞品総額100万円規模のSNSキャンペーン


【リリースまでの流れ】
■ 2019年71日 ディザーサイト開設(タイトル非公表)
■ 同年719 正式発表。公式サイト&公式Twitter開設。事前登録も開始
■ 同年106 東方Projectオンリー同人誌即売会「博麗神社例大祭」ステージ出展
■ 同年1228日~31 コミックマーケット97に出展(グッスマブース)
■ 2020年120 開発中のゲーム画面を初公開(事前登録30万人突破)
■ 同年331日 テーマ曲「ロストワードクロニカル」を配信開始
■ 同年41 TVCMTOKYO MX及びBS11にて放映開始
■ 同年43 参加声優24名を発表(事前登録40万人突破)
■ 同年430日 正式リリース

以上が『東方LostWord』におけるリリースまでの主な流れです(プレスリリースや公式Twitterの情報をもとに作成)。上記の施策以外にも、公式Twitterでキャラクター情報を公開したり、キャンペーンの達成状況を投稿したりと、さまざまなアクションが間接的に同作のプロモーションに寄与していました。

▲公式Twitterでは、開発中のバトル画面用キャラモーションや、ゲーム中で流れるBGMを公開。本格的にゲーム画面が公開されたのは20201月頃でしたが、小出しとはいえ、徐々に明らかになる東方題材のRPGに期待するユーザーも多かったのではないでしょうか。現にまだフォロワー数も少ない20199月時点に公開したキャラモーションでは、2000RTにも及ぶ反響がありました。

さて、デジタルマーケティングでは、Twitterの定番施策でもあるフォロー&RTキャンペーンを中心に展開。賞品総額100万円規模のキャンペーンを数回断続的に行い、認知度や公式Twitterのフォロワー数を集めていました。プレゼント内容には、Amazonギフト券やワイヤレスヘッドホン(イヤホン)、Nintendo Switch Liteなど、東方ファン=ゲーム好きに刺さるラインナップを用意。

▲フォロー&RTキャンペーンは、事前登録後はもちろん、「博麗神社例大祭」の前後、コミケ後のお正月期間、リリース直前など、プロモーション施策や大きな露出のタイミングに合わせて実施。

「東方Project」は同人作品ではありますが、有志によるイベント開催や作品発表が日々行われているコンテンツ、IPといっても過言ではありません。

それはリアルだけではなく、デジタルの世界でも同様で、イベントの話題に合わせて大きなキャンペーンを取り入れたり、楽しみにしているファンに向けて、たとえ小さな情報でも伝えたりする姿勢は、本作における事前プロモーション成功のきっかけになったのではないかと思います。

結果的に『東方LostWord』の事前登録者数は50万人を突破し、公式Twitterのフォロワー数は30万人(5/20現在)となりました。
 

 【リリース後施策】マネタイズとゲーム内施策


さて、ここからはリリース直後の施策について言及していきます。基本的なゲームの流れは、最大6キャラのチーム編成を経て、探索(クエスト)でバトルやストーリーを体験し、手に入れたアイテムなどを使用してキャラを強化するというもの。

そして本作のマネタイズは、有償アイテムの神結晶の販売です。神結晶は主にガチャやショップなどで使用します。神結晶のラインナップは以下の通り。

【神結晶のラインナップ】
・神結晶 有償24個(120円)<単価:5.00円/割引率:0.0%>
・神結晶 有償122個+無償12個(610円)<単価:4.55円/割引率:9.0%>
・神結晶 有償244個+無償60個(1,220円)<単価:4.01円/割引率:19.7%>
・神結晶 有償488個+無償144個(2,440円)<単価:3.86円/割引率:22.8%>
・神結晶 有償980個+無償352個(4,900円)<単価:3.68円/割引率:26.4%>
・神結晶 有償2000個+無償1000個(10,000円)<単価:3.33円/割引率:33.3%>
 

▲ショップでは、お得なアイテムパックも販売。スタートダッシュパックから育成パックなどその種類は多岐に渡り、十数個もの商品が並んでいます。

▲そのほか、ショップでは衣装も販売。それぞれ神結晶320個(1,600円相当)で購入できます。


ガチャ(おいのり)では、バトルで編成できる「キャラクター(仲間)」と、装備品の位置づけとなる「絵札」の2種類が排出されます。有償アイテムの神結晶を用いた場合は、600個(3,000円相当)で仲間1人確定の10連を利用できます。

そのほかは、ゲーム内通貨の賽銭と封結晶を用いて、1回・10連ガチャを利用可能。なお、封結晶は神結晶60個(300円相当)で封結晶5個と交換できます。

また、ガチャを引くたびに1Pを獲得でき、150P貯まると対象ラインナップから1人仲間できる、いわゆる天井施策も設けています。単純計算で10連ガチャ×15回で神結晶9000個(45,000円相当)が必要。

それでは、リリース直後の施策にフォーカスしてみます。

①【調査期間:2020年4月30日~5月20日】※再掲

▲Sp!cemartカレンダーより(画面上部はストアのランキング推移、下部はゲーム内施策を確認できる)


【リリース直後の施策(一部抜粋)】
・スタートダッシュログインボーナス(累計7日間ログインで東風谷早苗が獲得可能)
・リリース記念ログインボーナス(絵札や限界突破に使用できる人形代が獲得可能)
・期間限定ガチャで「八雲紫」「茨木華扇」が登場
・リリース記念パック

まずログインボーナスでは、報酬内容が異なるふたつの施策を同時に展開。

上記の通り、スタートダッシュログインボーナスでは累計7日間ログインで仲間キャラクター「東風谷早苗」が手に入り、リリース記念ログインボーナスでは絵札や限界突破に使用できる人形代が手に入りました。

なかでも仲間キャラクターの獲得は貴重のため、少しでも本作に興味がわいたユーザーは最低でも7日間は継続的にログインする可能性が高いため、新規ユーザーの定着につながる施策として寄与したと思います。

セールスランキング急上昇に貢献したのは、リリース記念パックと期間限定ガチャでしょう。それぞれ5月13日(水)までの実施でしたが、記念パックは強化アイテムが詰まったり、神結晶がお得に手に入ったりと、610円から10,000円までの計5種類を販売。金額が高くなるにつれて購入回数は少なくなり、スタートダッシュしたいユーザーにとってはこのタイミングで購入したことが考えられます。
 

【今後】原作と二次創作へのリスペクト


『東方LostWord』の今後は、直近ランキング推移と施策を見るなかでは、期間限定ガチャイベントの開催だけでランキングが上昇するほどの、ユーザー熱量とキャラクター価値が生まれているため、今後も安定して推移していくことが考えられます。

さて、「東方Project」を題材にしたゲームタイトルは、コンシューマをはじめ、PCやスマートフォン向けなどに、いくつも発売されてきました。超人気同人タイトルにもかかわらず、スマートフォンゲームで“スマッシュヒット級”は登場していませんでしたが、ここに来て『東方LostWord』がそれを担った形です。

さきに挙げた無料ダウンロードランキング(流入)やセールスランキング(売上)の順位は、プロモーションとゲーム内施策の妙が支えてくれていますが、それ以上に『東方LostWord』はゲーム自体の魅力と面白さを提供してくれています(クオリティの高さは、アプリストアの評価が物語っています)。

魅力の根源は、個人的に『東方LostWord』開発・運営チームによる原作と二次創作へのリスペクトにあります。たとえば、有名企業がオフィシャルに「東方Project」を題材にしたゲームを開発するとなると、恐らく豪華な座組と世界観が拡張されるなど、スケールの大きさが目に付くと思います。

一方で『東方LostWord』は、自らも「東方Project」の二次創作の1本として捉えており、原作の再現度はもとより、どこの要素を拡充して魅力を詰め込むのかを理解し、そこに注力している姿勢がうかがえます。

▲ゲーム起動時に自社のロゴより先に表示される原作表記。

▲仲間キャラクターのボイスは3種類から選べられるようになっています。ユーザーが抱くキャラクターボイスの印象(イメージ)は、それぞれ異なるものです。だからこそ、有名声優1人に絞らないほか、3種類から選ぶときも声優名ではなく、ボイスの印象から選択できるように配慮しています。

▲「東方Project」といえば、原作BGMのアレンジャーでしょう。ホーム画面からストーリー、そしてバトルにいたるまで、BGMが流れる瞬間には、必ず曲名とアレンジしたアーティスト名が表示されます。アーティストへのリスペクトはもちろん、なんの曲かを理解できるだけでもユーザーは楽しめます。

▲そして弾幕の美しさ。バトルではスペルカードを用いて、キャラクター特有のド派手な必殺技を放つことができます。この演出・エフェクトは、実際に原作の弾幕系シューティングゲームでも見られる内容であり、細かいところまでも再現されています。

IPタイトルは、ただキャラクターや世界観をゲームに反映して、豪華絢爛に作っても魅力的にはならず、原作の魅力を拡充させているかどうかが、カギを握ります。『東方LostWord』を遊んだあとに、原作ゲームに触れてみると、新しい発見と魅力の再確認ができると思います。

原作とIPタイトルは、どちらか一方に魅力が傾いても意味がなく、これらの要素が反復することでより強固なものになっていくと思います。そういう意味では『東方LostWord』は、原作と二次創作へのリスペクトに満ち溢れたタイトルでしょう。


「Sp!cemartカレンダー」では、各ゲームのイベント情報をランキング推移と共に閲覧できます。自社はもとより、競合他社の施策一覧を取りまとめた分析などにもご活用できます。ぜひ、ご興味がある方はお問い合わせページからご連絡ください。

 

 

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■執筆 <株式会社スパイスマート>
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http://corp.spicemart.jp/

会社情報

会社名
株式会社スパイスマート
設立
2015年7月
代表者
代表取締役 久保 真澄
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