【インタビュー】『ヴァルキリーアナトミア ‐ジ・オリジン‐』シリーズ初のスマホ化に際する着想と実装 タイトルに込められた意味とは?
4月28日より正式サービスを開始した、スクウェア・エニックスの『VALKYRIE ANATOMIA -THE ORIGIN-』(ヴァルキリーアナトミア ‐ジ・オリジン‐)(以下、『ヴァルキリーアナトミア』)。
本作は、北欧神話を舞台に、神々と人間が紡ぎだす重厚なストーリーを本格シナリオで読み解くファンタジーRPGとなっている。プロデューサー・山岸功典氏、音楽・桜庭統氏、シナリオ・藤沢文翁氏と豪華クリエイター陣が手がけており、そして、人気RPG『ヴァルキリープロファイル』シリーズの流れを汲む作品として、リリース前からシリーズ作品のファンを中心に期待を集めていた。
今回は、そんな『ヴァルキリーアナトミア』のプロデューサーである山岸功典氏と、アシスタントプロデューサーの木村和道氏にインタビューを実施。企画発端の経緯から、シリーズらしさを踏襲するための工夫、初のスマホ化に向けて行った施策などについて伺ってきた。
■音楽、システム、物語、どこを取っても『ヴァルキリー』にするために
株式会社スクウェア・エニックス
第11ビジネス・ディビジョン
『ヴァルキリーアナトミア ‐ジ・オリジン‐』プロデューサー
山岸功典氏(写真右)
株式会社スクウェア・エニックス
第11ビジネス・ディビジョン
『ヴァルキリーアナトミア ‐ジ・オリジン‐』アシスタントプロデューサー
木村和道氏(写真左)
――:まず始めに、お二人の経歴をお聞かせください。
山岸功典氏(以下、山岸):始めにアシスタントプロデューサーを務めたのは、『ドラゴンクエストV』でした。その後、『いただきストリート』の制作を経て、『ヴァルキリープロファイル』や『スターオーシャン』シリーズをプロデュースしてきたという流れです。ほかには、アクションシューティングの『マインドジャック』や、ソーシャル関連ではWebで『新星のグランドユニオン』を作ったりもしました。そこで、「いつか『ヴァルキリー』シリーズを作りたいね」という話があり、今回、『ヴァルキリーアナトミア』で自身初のスマホアプリ制作に取り組んだというわけです。
木村和道氏(以下、木村):私は元々デザイナーとして入社し、『ファイナルファンタジーXII』や『ファイナルファンタジーXIV』のキャラクターモデルを担当してきました。その後、ソーシャルゲームの制作に参加したいと思い、今回『ヴァルキリーアナトミア』に携わらせていただくことになりました。本作でも、最初はデザイナーとして参加していたのですが、作業を経るうち少しずつ山岸さんのアシスタントにシフトしていき、今はアシスタントプロデューサーを担当しております。
――これまでコンシューマーで出されていた『ヴァルキリー』シリーズをスマホアプリ化した経緯をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?
山岸:まず始めに、ユーザーさんに遊んでもらうなら「是非スマートフォンで!」という想いはありました。シリーズとして『ヴァルキリープロファイル2 -シルメリア-』(以下、『ヴァルキリープロファイル2』)を発売してから約10年が経っているので、最も素早くユーザーさんの手元に届けられる、スマートフォンのソーシャルゲームにしたかったという想いがあります。
私にとって『ヴァルキリープロファイル』シリーズは、思い入れの強いタイトルのひとつです。元々業界人をはじめ、一部で高い人気や好評価をいただいておりまして、今でもずっと好きでいてくださる根強いファンの方々もいらっしゃり最新作を望む声もたくさんいただいていました。前作から約10年以上たっている中、新作として届けるにあたっては、昔遊んでいただいたファンの方だけでなく、もっと多くの人に『ヴァルキリープロファイル』シリーズを体験してほしい、という思いがあり、スマートフォンのフリートゥプレイとしての提供を選びました。なので、改めて『ヴァルキリー』シリーズとしてのスタート地点と位置づけられるようなタイトルにしたい、という思いがあります。
――スマホ向けタイトルとして、『ヴァルキリー』シリーズの「らしさ」を踏襲するためにこだわったポイントを教えてください。
山岸:個人的にはサウンド(音楽や効果音など)です。やはりサウンドまで含めてひとつのゲームという概念は、昔から変わっていません。プレイしていただくと分かるのですが、今回は『ヴァルキリープロファイル』の楽曲を担当された桜庭統さんに、初代『ヴァルキリープロファイル』の曲を意識したアレンジで制作を依頼しています。旧来のシリーズファンにはドキッとする懐かしさ、これまでの『ヴァルキリー』シリーズを知らない方には、すぐに世界観が伝わるような曲に仕上がっています。
ボイスの面では、あえてフルボイスにしなかったという話があります。映画やアニメなど、フルモーションのコンテンツであればフルボイスが非常に効果的なのですが、本作のようなアドベンチャータイプならボイスもひとつの演出として取り入れた方が効果的だと判断しました。プレイヤーやキャラの感情の起伏があったときにボイスが入るという構造になっていて、例えば、真っ黒な背景の中に白字のテキストとボイスだけが入ることでユーザーさんにより物語やセリフひとつひとつが印象的に感じてもらえるような演出を狙っています。
――:あの演出は『ヴァルキリープロファイル』でも見られた手法だったので、凄くシリーズのらしさが出ていますよね。
山岸:この手法で、ユーザーさんが物語を読んでいるときの没入感を高めていただけると思ってます。あとは、あえて効果音だけで表現しているところもいくつかあります。物語の中で効果音を聞くことによって、プレイヤー自身に物語性を感じてもらえるだろうと考えてそういった作りにしました。これらの要素から、今回はサウンドを聞きながらプレイしてほしいという、強い想いがあります。
――:ちなみに、桜庭さんへの楽曲制作のリクエストはどのように行われていたのでしょうか?
山岸:「前作の曲で戦闘っぽく」とか「ボス戦のときに使うのでこの曲のアレンジで」、または「フィールドで使う曲を新作で」という形でオーダーしています。アレンジの詳細などに関しては桜庭さんにお任せしていて、どの曲も一度のリテイクも無しにOKだったんです。最初にお頼みしたときすぐに「分かりました」と受けていただけたので、桜庭さん自身、かなり『ヴァルキリー』シリーズがお好きでやっていただけていたのかなと思う節もあります。
――:木村さんとしては、過去の作品をスマホに踏襲するうえで守らなければいけないと感じた要素はどこになりますでしょうか?
木村:まずは、スマホ向けにしっかりと進化させたいというところ。キャラを3Dで動かしたいという想いは自分の中にありました。2Dのドット絵が好きだという方もおられるのですが、自分が元々3Dをやっていたので、派手に見せることを想定したうえで、どうすれば効率的に作れるかという部分を把握していたことも3Dにした大きな要因です。そのほか、デザイン面に関しては、『ヴァルキリープロファイル2』にも関わっていた方が開発におられるので、キャラクターや世界観などの監修をお任せしています。あとは、私の方でクオリティ的にどうか、ユーザーがどう思うかなどを考慮して判断しています。
――開発において最も苦労されたポイントをお聞かせください。
山岸:コンテンツの作り方やソーシャルの方式がコンシューマーでの作り方や方式とかなり異なるので、企画の段階でお手本として要求されたものをソーシャルに馴染ませる作業に1番苦労しました。ハードウェアの性能的には問題ないのですが、コンシューマーの作り方の約束事と、ソーシャルの作り方の約束事に相反するところがあるんですよね。具体例として、ダンジョン探索のパートについて、実は最初は『ヴァルキリープロファイル』のように、シンボルエンカウントで晶石アクションを使った横スクロールのものを考えていたのですが、難易度がかなり高くなってしまい断念しました。
――それは、ゲーム性がありながらも、ときにオート機能や簡単にタップするだけでスムーズに進行できるという点がソーシャルの利点ともなっているからでしょうか?
山岸:はい、面倒だと思うところを削りながら良いところを活かしていく作業ですね。ふたつを綺麗に融合させ、それでも『ヴァルキリー』シリーズだと感じさせるように作るのが難しかったです。
木村:自分たちの力量や期間の中でどれだけ『ヴァルキリー』らしさを出せるか、その再現が第1にあり、それをどういう風に構築するかが課題でした。常に開発と対話をして、高いテンションを維持しつつ完成までこぎつけたというところが苦労した点ですね。
――:配信前のプロモーションについてもお聞きしたいのですが、まず事前登録特典として『ヴァルキリープロファイル』版の「レナスF」(CV:冬間由美さん)を登場させたのには、どういった意図があったのでしょうか?
山岸:本作の物語は時代的に1番若い戦乙女になるので、「声が変わった理由も含め、ひとつのキーワード」として登場させたという部分があります。
木村:「戦乙女の素体」となっている人物が違うので声が異なったり、というのもポイントになるかもしれませんね。
▲正式サービス開始と共に開催された期間限定イベント「彼方よりの来訪者」をクリアすると手に入る「レナスF(future)」。
――:ティザーサイトでの三部作映像や一部楽曲の先行公開についての狙いをお聞かせください。
山岸:まず、三部作の映像ですが、スクウェア・エニックスの映像制作集団「ヴィジュアルワークス」の力を借りました。数々のハイクオリティな映像制作の実績を持つヴィジュアルワークの映像制作力と『ヴァルキリーアナトミア』の世界観を一瞬で感じ取れることのできる桜庭さんの音楽の力が融合することで、ゲームをはじめる前から映像と音楽のパワーで、ユーザーさんがヴァルキリーの世界を体感しながらサービス開始をお待ち頂ければいいなと考えました。改めて、その三部作の映像をご覧いただけると嬉しいです。
【三部作映像はコチラ】
・映像第一弾
・映像第二弾
・映像第三弾
<ヴィジュアルワークスURL>
http://visualworks.jp.square-enix.com/
山岸:映像公開の後には、音楽の公開にも踏み切りました。これは、やはり音楽がよい(笑)! これにつきます! そのため、早くユーザーさんにお聴かせしたいと思い、最新情報をいち早くお届けするためにTwitterを活用させていただき音楽の試聴もできるようにしました。映像も音楽もどちにも意識したのは、「ファンのみなさまを大事にしたい」です。この想いから少しずつのゲーム情報でも、ファンのみなさまが気になっているポイントをお届けすることをとても重要視しまして、Twitterを活用しつつ今作のよきポイントをご理解いただけるような情報展開を行ってきました。
――開発期間はどのくらいだったのでしょうか?
山岸:過去のヴァルキリーシリーズの制作期間からすると圧倒的に短い期間で制作しました。
木村:開発会社のドキドキグルーヴワークスさんとセブンスコードさんの熱量も高く、非常に優秀なチームでした。ディレクターの方が、自らリテイクやクオリティアップに関する意見を出してより良いものへブラッシュアップしていただけたおかげで今の段階まで作り込むことができました。
――配信後、ユーザーさんからの反響はいかがですか?
山岸:好評です。戦闘に関しては自分でも意識していたのですが、初代『ヴァルキリープロファイル』からの正当進化になっていて、ユーザー的にもそれを求められているのではないかと感じておりました。
――「オリジン」という名が付いている通り、まさに原点回帰ですね。
山岸:「オリジン」は元々そういった意味を込めて付けました。バイキングなど、当時の時代背景も考慮して登場させ、より北欧神話に近い形にしています。そのうえで『ヴァルキリープロファイル』からの正当進化。なので、ストーリーに関しても主にエインフェリアを中心に話が進行するようにしたのです。そのほか、タイトルに関して言うと、元々が「プロファイル」で「分析」という意味だったのに対して、「アナトミア」で「解剖」。レナスそのものを大元から解析するという意味合いが含まれております。
――先ほどお話にあった音楽や戦闘と同様に、各キャラの深い物語が丁寧に描かれているのも『ヴァルキリー』シリーズの魅力かと思いますし、その辺りの再現度も素晴らしいです。
山岸:そこはまさに我々が目指していたところです。本来は、過去作のような3D表現やキャラ劇のようにキャラを動かせれば良かったのですが、今回のようなアドベンチャー形式でも充分ユーザーに感情移入してもらえる話の作り方はできたかなと思っておりましたので。
――エインフェリアのシナリオはどのように作られているのでしょうか?
木村:まず物語の性質上、必ずその登場人物が死んでからエインフェリアになるので、それまでの過程をユーザーさんがどのように理解や認識をしていただけるかというシナリオの考え方ですね。そこから、シナリオに合うように悲しそうなキャラだったり、勝ち気だけど実は大変な苦労をしたキャラだったり、といった部分をデザインとして起こしていただいております。
山岸:シナリオを担当していただいた藤沢文翁さんの文章が非常にすばらしく、劇作家さんなので短いセンテンスの中に的確な言葉が綺麗にまとめられているんですよ。センテンスの送りだけで感動を引っ張り上げられる書き方ができる方なので、その文章が効果的に働き、グッとくる物語に仕上がりました。
――:スマホのゲームではテンポの良さも重視されるので、一言がずっしりと伝わってくるという部分でかなりゲームと調和されていると感じました。
山岸:今回、その部分が本当に上手くいったとこだと思っています。あとは、意外と気付かれないのですが、本作は第三者視点で物語が進行しているんです。神の目視点だと主人公を完全に分離できるので作りやすいんですよね。
――さらに、レナス自身もエインフェリアの会話劇を傍観するという構造ですからね。
山岸:物語はかなり広げやすいです。主人公視点だと、ストーリー上、必ず主人公を出して絡めないと話が進まないので。自由度が高い分、ドラマ的な展開でよりストーリーを面白くしていけるかなと。展開的には、元々海外ドラマっぽくしようという話もありました。続きが気になるよう、クリフハンガーという手法で謎を残したまま先に進めたり。伏線としては二重三重に張り巡らせています。数ヶ月したときに「え!?」と驚くこともあるかもしれません。
――最後に、今後の運営方針や読者へのメッセージをお願いいたします。
木村:毎月、ユーザーさんが飽きないような施策は考えております。リリース後の反響も良好ですし、進む方向としては間違っていなかったなと。実際に遊んでいただければ『ヴァルキリー』シリーズらしさが伝わるゲームになっておりますので、是非、手に取っていただきたいと思っております。
山岸:ストーリーベースのゲームなので、まずは話の展開を見てほしいという想いがあります。エインフェリアの物語を展開しつつも、オーディンのヴァルハラ再興というベースや、「レナスって何なの?」という謎が根底に流れているので、今後、そういった部分がどう展開していくかというところが見どころになっております。ゲームシステムとしても、驚きを提供できるようなものを考えておりますので、楽しみにお待ちいただければと思います。
(取材・文:編集部 山岡広樹)
(取材:編集部 原孝則)
(撮影:編集部 和田和也)
(取材:編集部 原孝則)
(撮影:編集部 和田和也)
■『VALKYRIE ANATOMIA -THE ORIGIN-』
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会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)