【CEDEC2016】「有料ガチャ値下げ」「ソーシャルよりパーソナル」……『Fate/Grand Order』が業界で"非常識"な運営を続けられる理由とは
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一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が、8月24日~26日の期間、パシフィコ横浜にて開催している、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2016」(CEDEC 2016)。
本稿では、8月25日に実施された講演「Fate/Grand Orderを支える、”非常識”な企画術。」についてのレポートをお届けしていく。
本セッションでは、ディライトワークスの塩川洋介氏が登壇。TYPE-MOONの大人気RPG『Fate/Grand Order』(以下、『F/GO』)において今も試みられている、業界の常識を大胆に覆す”非常識”な企画・運営方針について話を展開した。
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▲ディライトワークスの塩川洋介氏。『F/GO』においては、プロジェクトの方向性を定めて進めていくのが主な役割となるFGO PROJECT クリエイティブディレクターを務めている。
まず塩川氏は、講演を始めるにあたって『F/GO』がどういったゲームであるかを紹介。
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『F/GO』は、TVアニメでもお馴染みの『Fate』シリーズを題材にしたスマホ向けRPGだ。2015年7月30日に配信が開始され、2016年8月までに600万ダウンロードを突破している。また、App StoreやGoogle Playのセールスランキングにおいて、たびたび1位を獲得しているのは、SGI読者にとってはもはや周知の事実であろう。さらに、「電撃オンラインアワード2015アプリ部門」で第1位を獲得したり、7月30日に開催された1周年イベントでは、会場となった秋葉原UDX史上最多の来場者数を記録するなど、その受賞歴や功績は1年で早くも輝かしいものとなっている。
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▲現在、ゲーム内にて開催中の最新イベントでは、過去最高のDAUを更新中だという。リリースから1年が経過した今もなおユーザーが増え続けており、その勢いはまだまだ留まるところを知らない。
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▲そのほか、海外展開についても、現在、事前登録受付が行われている中国語版の登録者数が既に110万件を突破しており好調とのこと。
本セッションのテーマは、「Fate/Grand Orderを支える、”非常識”な企画術」。リリース後から現在に至るまで『F/GO』を開発・運営するにあたって特に重要視している3つのワード紹介した。
①KPIより、TPI
KPIとは、ユーザーのプレイデータや課金動向を示した「重要業績評価指標」(Key Performance Indicatore)のこと。今、世に出ているスマホタイトルの多くでは、KPIを基に施策を検討したり、ユーザーの継続や課金に繋げる運営スタイルをとっているところが多いのではないかと塩川氏は語る。
では、こうしたKPIを気にも留めず、『F/GO』 がより重要視しているTPIとは何か? 塩川氏は、これは、
TYPE-MOON Performance Indicators(型月反応評価指標)
の略であると発表した。要は、『Fate』シリーズの原作者であるTYPE-MOONメンバーの反応を大事な指針にしているとのこと。その理由として、誰よりも「Fate」を愛する超コアなユーザーが盛り上がるコンテンツには、ユーザーも共感するに違いないという理念があるのだという。打ち合わせの中で盛り上がったり、納得感のある空気感になることが重要なのだとか。つまり、データという常識に判断基準を置かず、自分たちの感覚を基にユーザーファーストを最優先にしているのだと説明した。
そして、そうした考えのもと、実際に『F/GO』で直近に実施された3つの施策を具体例として紹介した。
【聖晶石召喚(有料ガチャ)を値下げ】
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まず始めに、1周年を機に有料ガチャを25%値下げしたことを発表。これについて塩川氏は、データや常識で考えればあり得ない選択だが、1周年の感謝の気持ちとしてユーザーを驚かすにはどうような方法をとるべきかをチーム内で考え抜いた結果の施策だと語る。
【「所持枠拡張」から課金要素を撤廃】
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続いて、所持枠拡張から課金要素を撤廃。それまでに枠拡張を増加していたユーザーには、消費した分の聖晶石をすべて返還したとのこと。この施策についても、データから導き出された答えではなく、単純にユーザーが喜びそうなポイントだったので実施されたと経緯を説明した。
【『F/GO』屈指の人気キャラを無料配布】
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最後に、現在開催中のイベントにて、『F/GO』オリジナルキャラの中でもユーザーからトップクラスの人気を誇る「スカサハ」をイベント限定の☆4サーヴァントとして無料配布していることを紹介。現実的に考えれば、このキャラをガチャで☆5 SSRとして導入すれば売り上げも飛躍的に向上するであろうことが予測できるが、むしろそれぐらいのキャラがもらえた方がユーザーは喜ぶだろうとの意見から即決されたという。
上記、3つの事例からも『F/GO』で行われる多くの企画方針が、どうすればユーザーがびっくりするぐらい盛り上がるかを優先して実施されているかが分かる。
逆に、優先していない項目として、
・KPIなどデータに基づく、意思決定
・他のゲームでの事例に基づく、意思決定
・採算性に基づく、意思決定
などが挙げられることについても言及した。
②ソーシャルより、パーソナル
続いて、ソーシャルゲームにも関わらずソーシャルを優先しない理由として、『F/GO』最大の魅力が、奈須きのこさんが描く世界観や物語、キャラクターといった作品性に集約されていることを挙げた。物語体験を最大化するために、作品世界により深く没頭できるパーソナルな要素を重視しているのだという。
また、感情移入や作品との繋がりを生むための工夫として、下記の4点を大切に開発を進めていることを明かした。
【全キャラクター、作り込む】
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『F/GO』では、レアリティや性別問わず、すべてのキャラクターにボイスが実装されている。また、必ず一定以上の工数をかけてカードのイラストやバトルキャラクターのバリエーションを作成し、全キャラクターを等しく作り込んでいるという。これには主に、プレイヤーごとに好きなキャラクターを見つけてもらいたいという想いがあるが、設定として好きなキャラクターを見つけても、ゲーム的に不遇すぎて好きになれないという事象を防ぐためであると塩川氏は説明した。
【全キャラクター、活躍できる】
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また、同様の理由から、本作ではレアリティを問わずバトルの中で活躍できるゲームバランスを目指しているとの話も。現状、まだそこまでのバランスには至れていないが、レアリティの低い☆1キャラクターを底上げするべく、2度ほど性能にテコ入れを実施したこともあるとのこと。パラメータはレアリティよって差が付いてしまうものの、役割としては等しくバランスが取れるよう調整しており、インフレで上書きするのではなく、プレイヤーが好きなキャラに対して、設定面だけでなくゲームとしても好きになれるよう調整を行うという方針があるため、既存キャラクターの魅力をどのように底上げしていくかに焦点を当てて運営が進められているという。
【コラボイベントは、TYPE-MOON作品】
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さらに、作品世界への没入感や感情移入を作るためのこだわりとして、世界観を壊さぬようコラボイベントについてはあえてTYPE-MOON作品を選択したことを明かした。
【TVCMも、作品世界】
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『F/GO』では、TVCMも作品世界のひとつとして捉えているため、必ずアニメで制作するよう心掛けられているという。また、ここでも『F/GO』ユーザーが視聴して嬉しいもの、とユーザーファーストを基準に考えている。
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ここでは、「一人で作品世界に浸るのに貢献ができること」を意思決定の重要な指針としているとまとめた。
逆に、優先しない案件としては、
・他人との深いかかわりを、強いる要素
※ランキング、ギルド、チャット、PvPなど
・世界観への没入を阻害する、コラボや宣伝
がある。
③継続運営より、新規開発
塩川氏は、これは、同じサービスを継続的に運用するのではなく、常に新しいものを創り出すことだと述べた。加えて、『F/GO』では作品世界を阻害する過剰な宣伝活動を行わないことは先述した通り。では、どのようにしてユーザーを獲得し、繋ぎ止めているのか。ひとつの解決策として、『F/GO』ユーザー内での反響とその伝播による”ネタの衝撃度合い”でユーザーを惹き付けるという方針があると説明した。
そのための施策として挙げられたのが、下記の2つ。
【毎イベントが、新作】
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運営が長く続くほど、イベントの内容がルーチン化・パターン化する傾向にあるが、こうなってしまうとユーザーに与えられる衝撃も少なくなってしまう。それに対して、『F/GO』では全く同じイベントを繰り返さないという方針をとっており、この1年、イベントを開催するたびに何かしら新規のゲーム性を取り入れることを実現してきた。これにより、ユーザーに新鮮な気持ちで遊んでもらえることはもちろん、次回のイベントがどのような形式かという話で毎回大きな話題作りに成功していることがメリットになっているという。それが、宣伝を行わずとも高い継続率を維持し続けられる理由であるとも語った。そのほか、多くのゲームでは規模の大きなイベントと小さいイベントを並走させていることがあるが、『F/GO』では真逆で、渾身の新規作品を目指して作っているので、すべてのユーザーの注目を一ヶ所に集めるために、あえてイベントの並走はしないようにしているという話もあった。
【毎アップデート、一石を投じる】
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『F/GO』の方針において、すべての考えは如何にして衝撃を生み出すかに行き着くことから、アップデートにおいても何かしらユーザーが驚く施策を盛り込むようにしているとのこと。直近では、「聖杯転臨」というシステムの導入により、作中に登場するすべてのキャラをレベル100まで育てられるようになったことを紹介。
塩川氏は、ユーザーの間で話題にしてもらうには、「え? 大丈夫なの?」と思うほどのことを実施しなければならないと続けた。そのため、『F/GO』ユーザー内で話題沸騰となり得る、ネタの衝撃度を意思決定の重要な指針としているとまとめた。
また、逆にここで優先しないこととして、
・定型化した、イベント内容
・定例化した、イベントスケジュール
・話題性の低い、無難な施策
を挙げた。
塩川氏は、『F/GO』がソーシャルゲーム業界で非常識とされる企画を実施できるのは、本作が「FateのIPを借りたソーシャルゲーム」ではなく、「TYPE-MOONが贈る、Fate新作RPG」からだという。本講演で紹介した3つのキーワードから、あくまでもどうすれば『F/GO』ユーザーが喜ぶかという観点で考えたとき、結果的に「KPI」「ソーシャル」「継続運営」といったソーシャルゲームの”常識”を『F/GO』において全否定することになってしまったと語る。最後に、塩川氏は全てのタイトルに通じて言えることとして「ただ純粋に、○○として面白いゲームを創ろう」という言葉を送り、セッションの締めとした。
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(取材・文:編集部 山岡広樹)
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会社情報
- 会社名
- ディライトワークス株式会社
- 設立
- 2014年1月
- 代表者
- 代表取締役 庄司 顕仁