【NDC17】Supercell流の開発体制をTimur Haussila氏が解説…グローバルなヒット作を生み出す秘訣は失敗を恐れない"リスクテイクの最大化"
ネクソン<3659>の連結子会社であるネクソンコリアが、4月25日~4月27日の期間、ネクソンコリアのオフィスおよび近隣施設にて、開催している韓国最大規模のゲーム開発者向けカンファレンス「Nexon Developers Conference 17(NDC17)」。
NDCは、世界中からゲーム開発者が集い、ゲーム開発に関するノウハウや経験の共有を目的に、2007年より開催されている。2011年に本格的に外部公開を開始して以来、近年では2万人を超える来場者と100以上の講演を誇る、韓国最大規模のゲーム開発者向けカンファレンスだ。
11年目を迎えるNDC17では、アート、ゲーム開発、マーケティング、キャリアなど、多岐にわたるテーマで計121の講演が開催される。ネクソンコリアのイ・ウンソク氏による基調講演を始め、モバイルゲームでは、『HIT』のグローバル展開における事後検証などの講演が実施された。
本稿では、SupercellのTimur Haussila氏による「”コントロールを最小に、そしてリスクを最大に” Supercellのゲーム開発におけるアプローチ」のセッションについてレポートをしていく。
▲SupercellのGame LeadであるTimur Haussila氏。『Hay Day』や『Boom Beach』など多数のプロジェクト開発を率いた経験を持つ。
本講演では、Supercellにおけるゲーム開発のアプローチについて、どのようにリスクテイクを最大化するか、どのように学び取っていくかといったノウハウについての話を展開した。
まずTimur氏は、開発体制に触れ、過去に自分が所属していた別業界の組織ではトップが決定権を持っている下図のような構図から成り立っていたことを紹介。
▲最終的な意思決定は経営陣が行う形の組織図。
これをゲーム業界に当てはめると、タイトルをリリースする前に市場調査を行い、企画意図などを記した100ページ越えの資料を準備し、自らが立てたビジネスプランを意思決定者にプレゼンしなければならないと説明した。そこで理解が得られなければ開発許可、いわゆるグリーンライトがもらえず、また一度ゴーサインが出たケースでもその後、問題が発生することもあるとのこと。
そこでSupercellでは、チームとして自由に開発をするということをコンセプトに、開発者が意思決定を行うという下図のような体制が取られているという。Timur氏は、小さなチームで開発を行うことで、よりスピーディに開発を進めることができていると話す。また、従来の体制であれば、タイトル数が増えることでコントロールが難しくなり、管理職の人員を増員しなければならず、徐々に当事者意識が薄れてしまうというデメリットについても言及した。
▲組織としてのリーダーは存在するものの、主な意思決定を行うのはデベロッパー。Timur氏は、開発チームをサポートする体制を構築することが必要だと話す。
そのため、Supercellでは自分で用意したドキュメントを提出して承認を求める形ではなく、自分自身でYes、Noを決められる環境を用意している。では、経営者は何をしているのか。Timur氏は、経営者の役割は”開発者が行っている業務内容を拡張する”ことにあると述べた。経営者が組織の管理に集中し、開発者が意思決定権を得ることでより質の高いタイトルが制作できるようになると解説した。
▲Supercellにとって最も大切なものを特定して育て、その価値に従って行動しているという。チームの形成法やアイデアの生み出し方についてはチーム単位で決まっている。
また、組織が大きくなるほど掛かる予算が膨大になり、問題に直面しないためにもリスクを取ることができなくなってしまう。あえて少人数のチームを構成することで、コストを抑え、しかし夢は大きく持ったプロジェクトを実現することができるとTimur氏は語る。
開発において立場やヒエラルキーを重要視しないSupercellでは、問題が発生した際に、疑問を感じたらどのような立場の社員でも報告を行うことを重視している。また、問題発生による罰則を設けないことにより、情報共有がスムーズに行えるよう配慮しているとのこと。Timur氏は、情報を共有することが責任のひとつであると説いた。
▲Timur氏は、Supercellのモデルが全てに適応できるわけではないが、自身で意思決定を行いたいと願っている人は多いはずだとコメント。
そうして同じ考え方の開発者が集い、環境を整えることができれば、良い文化ができあがるという。Supercellでは、今の体制に至るまで様々な社内アンケートやインタビューを繰り返し、現在の形が生み出されたが、これについては絶えず変化しているとのこと。例として、ミーティングは必要な時間だけ、思い付いたことを共有すれば良いというスタイルをとっているため、1時間予定のところ15分で終わることもあるとのこと。多忙な開発者を尊重し、理由があればより自由で効率的に業務を行える社風であることを明かした。
続いては、社内での優先事項について。Supercellでは、まず会社が第一、次にチーム、最後に個人という意思のもと業務を進めているという。ここでTimur氏はひとつの事例として、かつてSupercellがリリースした『Smash Land』というタイトルを挙げ「成功は収めていたものの、チームとして『Smash Land』がSupercellにとってコミットしたいリソースなのかを考えたときに有望ではないと判断したためサービス終了に至った」と話した。加えて先ほど話した通り、Supercellではここまでの流れを経営陣ではなく、開発者自らがチームとして決定を下しているとのこと。その後、『Smash Land』のサービスは終了したもののチームとしては継続したことで『クラッシュ・ロワイヤル』が生まれ昨年の大ヒットに繋がり、会社にとっても大きなインパクトを残すことに成功したと紹介した。
▲短期的な自分の夢を追うのではなく、別のことを優先することで最終的にSupercellの利益となり、個人にとってもプラスになる。
その後は、Supercellで開発許可が下りるまで(グリーンライトプロセス)について紹介。
ゲーム開発には、デベロッパーとしてゲームをデザインし、機能を実装し、ユーザーに向けてテストを行い、結果を分析するという流れがある。Supercellでは、ここまでの流れを行ったうえで開発を進めるか、中止するかの意思決定を行っている。ゲームを遊ばないと分からないことも多いため、複数の情報を得たうえでリスクと対価のバランスを考慮し判断しているとのことだ。
『Boom Beach』開発時には、人員が足りず苦戦していたが、良いゲームだという判断をしたため開発を続けリリースに至ったと紹介。また、『クラッシュ・オブ・クラン』においては、「止めるべきだ」という意見も挙がったが、止めた結果どういったノウハウが得られるかまで検討を重ね開発を続けたことが、後の大ヒットに繋がっている。さらに、『クラッシュ・ロワイヤル』では、最初のバージョンが出来上がった際に経営層から「モバイルでリアルタイムストラテジーなど誰も遊ばない」と一蹴されたが、チームとしては開発を続ける意思があったため、問題点を修正し最後には理解も得られたという。Timur氏は、これがSupercell流の組織体制だと紹介した。
Timur氏は、これまでに成功を収められたのは、失敗を重ねたことで積み重ねたノウハウがあったからだと話す。リスクを取って学ばなければ先へは進めないという。では、リスクを取ること、学習をすることにはどのような意味があるのか。Timur氏は、失敗を経験することは個人にとっても辛いことだが、会社としてのサポート体制が整っていれば、余裕が生まれ良い結果が得られると語った。
Supercellでは、日々多くのタイトルがリリースに至ることなく開発中止になっているという。どのゲームを生かし、どのゲームを潰すのかの選択は非常に難しい、とTimur氏は述べた。ミニプレイアブルを経てカンパニープレイアブルでフィードバックを取り、最終的にβ版に至るのはごく少数。今までに成功を収めたタイトルは『クラッシュ・オブ・クラン』、『Boom Beach』、『Hay Day』、『クラッシュ・ロワイヤル』と4つあるが、タイトル数の問題ではなく”グローバルに、何年も楽しめるゲームを作りたい”という想いを持って開発を行っているとコメントし、講演の締めとした。
▲Timur氏は、自分たちのために作られた組織で楽しんでゲームを作っているとアピールした。
(取材・文:編集部 山岡広樹)
会社情報
- 会社名
- 株式会社ネクソン
- 設立
- 2002年12月
- 代表者
- 代表取締役社長 イ・ジョンホン(李 政憲)/代表取締役CFO 植村 士朗
- 決算期
- 12月
- 直近業績
- 売上収益4233億5600万円、営業利益1347億4500万円、最終利益706億0900万円(2023年12月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3659
会社情報
- 会社名
- Supercell
会社情報
- 会社名
- NEXON Korea(ネクソンコリア)