【セミナーレポート】「画質向上だけではVR酔い対策にはならない」 早稲田大学の河合隆史教授が語る人間工学から見たVRコンテンツの課題


デジタルコンテンツ協会と早稲田大学 理工学研究所は、6月29日、東京ビッグサイトにて、セミナー「VRビジネスを始める前に押さえておくべき6つのポイント」を開催した。

登壇者には、

バンダイナムコエンターテインメント(以下、バンダイナムコ) 「サマーレッスン」プロデューサー/ディレクター 玉置絢氏
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE) ソフトウェアビジネス部 次長 秋山賢成氏
早稲田大学 基幹理工学部 表現工学科 教授 河合隆史氏
*登壇順

を迎え、これまでの経験や取り組みの事例と、そこから得られた知見についての紹介を行った。

本稿では、河合 隆史教授の講演の様子をお届けする。
 

■360度コンテンツ視聴体験における人間工学的評価



最後に登壇したのは河合 隆史教授だ。同教授は、早稲田大学の中の基幹理工学部に所属しており、人間工学をテーマにしている。

人間工学は、人とシステムのインタラクションに関する研究を行なっている。その中でも河合教授は、近未来のメディア環境を想定しており、バーチャルとの関係性をどう良好に築いていくかを研究テーマとしている。

VRを利用する上での課題は産学共通のようので、河合教授もVR酔いを重要な課題として挙げていた。

VR酔いに関しては、フライトシミュレーターなどで発生するシミュレーター酔いとVR酔いは少し違うという説もあると紹介したが、VR酔いに対して起きる考え方の枠組みとして、感覚不一致と言う点に関しては、非常に重要なポイントだと考えているという。

河合教授は、このメカニズムに関して詳しく説明してくれた。



まず人間は日常生活において、色々な感覚情報を統合してバランスなどを制御している。これが新しい空間、つまりは、VRという馴染みのない空間に置かれた際に、視覚などが感覚が今まで蓄積されているパターンと異なるため、それを再構築する必要がある。

その際に発生するギャップ、一種の不適合現象は、ある種の自傷行為の様な形で、自身に不快感をアラームとして出すような働きがあると考えているようだ。

「VR酔いに関しては100%説明できるわけではないが」と前置きした上で、 どうしてそうした不快感が起きるのか、慣れや個人差と言ったことに関しては、説明ができないだという。ただし、河合教授はVR酔いを抑制するのに非常に重要なコンセプトになりうるため、感覚不一致が重要であると強調した。

では感覚不一致という観点からどうやって酔いを軽減するのだろうか。まずはノンゲーム系とゲーム系にそれぞれの問題点を確認してみよう。



まずはVR動画などのノンゲームに関してだ。この分野での問題として挙げるのは、高画質化問題だ。Google Cardboard用のコンテンツをGearVRで体験すると、気持ち悪く感じる場合がある。

これは、視野や解像度の向上という単純にそのスペックが上がることがユーザー体験や Sense of Presence が比例的に向上するわけでは必ずしもないことを意味している。

目から入ってくる情報の質が向上するだけだと、「感覚不一致レベルが上がるだけではないか」というのが一つ目の問題だ。

次にVRゲームでの問題だ。この分野で問題として挙げているのは、自由度に関してだ。VRゲームでは"前後"、"左右”、”上下”の移動と回転ができる6軸の自由度がある。

この自由度に関して発生する、感覚の不一致は人間の身体的な構造上避けられない問題で、妖怪「ろくろ首」のような肉体構造が必要になるようだ。

そのため、これらの知見を収集して、蓄積していく取り組みが重要になってくる。

そこで、河合教授は、これまで取り組んだ人間工学的な評価事例について紹介してくれた。
 


 

これは体験者の行動、心理特性に関する実験で、コンテンツの内容の差と、環境要因として椅子の座面が回ることによる影響を調べたものだ。

実験の方法としては、360°映像を体験中の目の動き、人体の各部位の回転運動を計測。評価の指標として SSQの視覚情報によって生起される不快感と情動価と覚醒度からなる感情SAMこの二つを使って評価している。

その内容に関しては以下の図を確認してほしい。
 








 


■コンテンツや椅子の状況など、実験から通してわかった事とは?



結果としては、コンテンツ間で有意な差が見られたようだ。特にカメラの動きが顕著な場合、画面中央を注視することや、座面が回転することで垂直方向の注視範囲が減少する傾向にあることがわかった。

また、身体部位の回転運動は、画面の回転によって頭部の水平方向が回る動きが増進されるようだ。

さて、次はSSQによる不快感の評価だが、カメラの動きの影響を受けやすい傾向にあることがわかった。また座面が回転することで、眼疲労の上昇や、他の指標に比べて各個人の差が大きいという事も判明している。

結果としては、アイトラッキングや体の回転運動、コンテンツのコンテンツの差が見られた特にカメラの動きコメント画面中央重視する画面が回転することで垂直方向の移動が減少する。進退無音の回転運動が画面の回転によって東武の水平方向がぐるぐると回る頭の動きが大きく増進することもわかった。

VRの酔いの問題に関しては一度経験をしてしまうと、次の体験に関しては二の足を踏んでしまう事が多いだろう。このような結果の共有がされていくことは、今後の発展のための良い取り組みになるだろう。