【Sp!cemartゲームアプリ調査隊】大ヒット中の『デュエル・マスターズ プレイス』、売上ランキング2位の背景をIP×マネタイズの観点から分析
スマートフォンゲームの日々の運用とその効果をリサーチし、ゲーム関連企業へマーケティングデータを提供するSp!cemart(スパイスマート)。ゲームアプリの運用情報をいつでもウォッチできる「Sp!cemartカレンダー」や、毎月発行しているレポートを提供している。
なかでもカレンダーは、セールスランキング上位のモバイルオンラインゲームのゲームシステム・運用施策をダッシュボード形式のWEBツールとして提供。ゲーム内プロモーション施策の効果測定やセールスランキングと運用効果の相関関係を時系列で分析できる。
本連載記事ではSp!cemart協力のもと、カレンダー機能を用いた、ランキング上位タイトルの直近のゲーム内施策を分析。今回はタカラトミーの新作『デュエル・マスターズ プレイス(以下、デュエプレ)』をピックアップする。
(以下、Sp!cemartゲームアプリ調査隊より)
■セールスランキング2位を記録した新作デジタルTCG
提供:タカラトミー(開発:タカラトミーとDeNAの共同)
リリース日:2019年12月18日
本作は、タカラトミーが2002年から発売し、累計発行枚数65億枚を超える人気トレーディングカードゲーム「デュエル・マスターズ」のモバイル向けカードゲームアプリです。ゲーム内には、「デュエル・マスターズ」発売初期のカードや懐かしの原作キャラクターなどが登場しています。
カード初心者から上級者、原作ファンなど“様々なプレイスタイルに合わせた遊び”=Play、“時間や場所を越えた新しい繋がりの場”=Placeを提供するという思いを込めて、ゲームタイトルには「PLAY’S(プレイス)」の言葉が添えられています。
タカラトミーといえば、これまで『WAR OF BRAINS』というスマホ向け対戦型カードゲームを展開していましたが(2018年9月にサービス終了)、ついに同社の看板商品である「デュエル・マスターズ」が待望のスマホゲーム化となりました。
2019年12月18日のリリース以降は、緊急メンテナンスに見舞われながらも、App Storeの無料ダウンロードランキングで1位、セールスランキングで2位という大ヒットを記録しています。最初に『デュエプレ』におけるリリース前の施策をまとめてみました。
【リリースまでの流れ】
■ 2019年9月19日にカウントダウンサイトを公開
■同年9月26日に正式タイトル公開・事前登録も開始
■同年9月26日に記者発表会を実施。各メディアでレポートが公開
■同年10月19日・20日に大阪と東京で先行体験会を実施
■同年10月31日よりクローズドβテストを実施。各メディアでレポートが公開
■同年11月15日に公式生放送を実施・テーマソング及びアニメPV公開
■同年12月16日にリリース日を告知。アプリの事前DLも開始
■同年12月18日に正式リリース
あまり奇をてらった施策は見受けられませんが、初出からリリースまでは約3ヵ月と比較的早い展開となりました。もちろん、上記以外にも公式Twitterではキャラクターやカードの情報を小出しにしてユーザーからの期待値を上げたり、「デュエル・マスターズ」の公式Twitterがリツイートしてくれたりと、SNS上の取り組みも寄与したことがうかがえます。
なかでも10月の公式生放送と併せて実施したTwitterのリツイートキャンペーンでは、1万以上ものリツイートを記録し、公式アカウントのフォローにもつながりました(現在公式Twitterは23万フォロワー・キャンペーンの詳細は後述)。
さて、リリース当初から大ヒットを記録した本作ですが、ひとえに『デュエプレ』が人気トレーディングカードゲーム(以下、TCG)を題材にしていることがひとつの要因とも言えます。「IPタイトルだから」という安直な答えに帰結するわけではありませんが、知っていると知らないでは大きな差がありますので、そもそも「デュエル・マスターズ」がどれほどの人気があるのかを一度整理しておきましょう。
■「デュエル・マスターズ」が持つIPの力
「デュエル・マスターズ」は、「マジック:ザ・ギャザリング」でお馴染みのアメリカ・ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社が開発した1対1対戦型トレーディングカードゲームです。日本では2002年にタカラトミー(旧:株式会社タカラ)が発売しています。
もともと「マジック:ザ・ギャザリング」の派生作品でしたが、日本では子ども向け漫画雑誌「コロコロコミック」やTVアニメなど、子どもから大人まで幅広い層に訴求したメディア展開でユーザー層を獲得していきました。TCG市場では「遊戯王OCG」に次ぐ、または同等の規模を誇ります。詳しいルールは下記の動画を見るのが一番でしょう。
自社の人気TCGをスマホゲーム化するうえで、『デュエプレ』は明確なポジショニングを行っています。たとえば、タカラトミーの決算資料によると、同社は「デュエル・マスターズ」と『デュエプレ』を下記のように差別化し、またシナジーが起こるような戦略を講じて展開しています。
【デュエル・マスターズ(TCG)】
・メインターゲット:小学生
・2002年から発売しているトレーディングカードゲーム(発売18年目)
・今では小学生~30歳以上の大人まで幅広い層に支持
【デュエル・マスターズ プレイス(スマホゲーム)】
・メインターゲット:10代後半~30代
・子どもの頃に遊んだ大人が、かつての記憶を呼び起こすようなプレイシーンを再現
アナログで実績のあるコンテンツをデジタル化した形ですが、18年の歳月という長期IPであることを鑑みて、『デュエプレ』は子どもの頃に遊んだ大人たちに向けたタイトルとして打ち出されました。そういう意味では、一見「デュエル・マスターズ」は子ども向けTCGと思われますが、年月が経つにつれて一定の大人のロイヤルユーザーを確保しており、今回のスマホゲーム版が熱を帯びるのはまさに必然だったと言えます。
スマホゲーム化に際して、開発を担当したDeNA側の役割も光ります。同社の具体的な役割には、ゲーム開発やプロデュースのサポートをはじめ、ゲームサイクル・課金設計のレビュー、KPI設計の支援、運営時の分析、デジタルマーケティングのサポートなどが挙げられ、『デュエプレ』のヒットに大きく関わっています。また、スマホアプリがPCで遊べる「AndApp」のサポートなど、TCGとの相性がいい環境も早くから展開できるのも強みのひとつかもしれません。
2019年12月27日SocialGameInfo追記
(※)ゲームの企画プロデュースはタカラトミーが行っている。
ここからは、『デュエプレ』のマネタイズやゲーム概要はもとより、直近におけるランキング推移と施策について、「Sp!cemartカレンダー」で覗いてみましょう。
■カード購入以外にサプライの販売を展開
『デュエプレ』では、基本的なゲームルールは「デュエル・マスターズ」を踏襲しているものの、ゲームアプリ用に一部調整されています。たとえば、手札上限は10枚、バトルゾーンに配置できるクリーチャー上限を7枚、そのほかゲームテンポを速くするためにマナのルールを一部変更するなど、スマホ用に最適化しています。
マネタイズは、有償アイテムのジェムの販売です。ジェムはカードやサプライの購入などに使用します。ジェムのラインナップは以下の通り。
【ジェムのラインナップ】
・ジェム100個(120円)
・ジェム620個<14円お得>(730円)
・ジェム1200個<100円お得>(1,340円)
・ジェム2500個<300円お得>(2,700円)
・ジェム5000個<860円お得>(5,140円)
・ジェム10000個<2,000円お得>(10,000円)
TCGのため、ガチャは「カード購入」という表現になりますが、1パック(5枚入り)ジェム150個(180円)必要です。1日1回限定にてジェム100個で購入できます。また、ゲーム内通貨のゴールド150枚でも購入可能。余談ですが、「デュエル・マスターズ」のカード1パックが160円(税抜き)で販売されていることから、IPにおける現実の購入体験も踏襲しており、デジタルでありながらも課金ハードルは低いものとも考えられます。
ちなみに排出率は、最高レアリティのスーパーレアが1.50%、ベリーリアが4.50%、レアが12.00%、アンコモンが30.00%、コモンが52.00%となっています。
そのほか『デュエプレ』では、カード購入以外にサプライの販売を展開しています。サプライでは、カードアクセサリーやキャラクター(アバター)パーツを販売。マネタイズにおいて主力とはなりませんが、カードアクセサリーでは期間限定商品を展開しているなど、今後の他社・自社IPとのコラボ施策でも影響していきそうです。
『デュエプレ』【調査期間:2019年12月18日~12月25日】
Sp!cemartカレンダーでは、リリースから現在までのランキング推移として、2019年12月18日(水)~12月25日(水)を抜粋しました。ランキング推移は、先ほど言及した通り、無料ダウンロードランキングで1位、セールスランキングで2位を記録するなど、大ヒットを記録。カレンダー上では、“リリースのタイミングにどのような施策を展開していたのか”にフォーカスをあてていきます。
【リリース直後の主な施策】
■ 事前登録30万人突破記念プレゼント(1月31日23:59まで)
■ 公式生放送Twitter RTキャンペーン(12月31日23:59まで)
■ リリース記念特別ログインボーナス(12月31日23:59まで)
■ ミッションイベント「戦いに備えろ!」(12月31日23:59まで)
■ SNSキャンペーン「#おれの切札」(12月22日23:59まで)
ポイントは、上から3つのプレゼント施策でしょう。まず事前登録30万人突破記念プレゼントでは、報酬として《コッコ・ルピア》×1、《バルキリー・ドラゴン》×1、《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》×1、「DMPP-01 超獣の始動パックチケット」×10がプレゼントされました。
さらに公式生放送Twitter RTキャンペーンでは、達成報酬として「DMPP-01 超獣の始動パックチケット」を8枚、さらに1万リツイートを超えたことに感謝を込めて、追加でもう2枚がプレゼント。強力なカードだけではなく、合計でカードパック×20(100枚獲得可能)を貰うことができ、これからゲームを始めるユーザーにとっては嬉しい特典となりました。また、ログインボーナスでも同様にカードパックを期間中に配布しており、新規ユーザーの定着率にも寄与したことでしょう。
また、ミッションイベントもゲーム内を活性化させる重要な施策となりました。主なミッションは下記の通り。
ランクマッチに関するミッションが豊富に用意されており、対人戦の魅力を間接的に伝えるほか、さまざまなカードデッキを利用してもらう意図から、文明を指定したミッション内容も見受けられます。なお、すべてのミッションを達成すると、150ゴールド、「DMPP-01 超獣の始動パックチケット」×2、「サプライチップ」×15、DMポイント250が獲得できました。
外部の施策では、SNSキャンペーン「#おれの切札」を展開。これは特設サイト(関連サイト)からお気に入りのクリーチャーや呪文を選択して、熱いコメントと共にTwitterでツイートするという内容で、ツイートが3万ツイート・5万ツイートを突破すると「DMPP-01 超獣の始動パックチケット」が全員にプレゼントされるものでした。
結果は、19,394ツイートで3万ツイートに遠く及びませんでしたが、結局「DMPP-01 超獣の始動パックチケット」×2が配布されました。また別のタイミングで同様の施策を展開した際には、キャンペーン設計の見直しを行えば脚光を浴びそうです。
一方でマネタイズの観点では、リリース直後には定番のスタートダッシュ向けのパック商品などは販売されていませんでした。そのため、セールスランキングが急上昇している背景には、ジェムの課金を通して、カードパックの購入に使われていることが考えられます。
■次のマネタイズにつながる施策のタイミングに注目
スマホゲームに満を持して登場した(アナログ)TCGのトップタイトルですが、リリース後すぐに想像以上の大ヒットを記録しました。タカラトミーが決算資料で説明している通り、アナログとデジタルで双方のターゲットは異なりますが、過去にアナログTCGを遊んでいた層に年月が経過したからこそ、きちんと訴求したのではないかと思います。
筆者は、今回のスマホゲーム版が「デュエル・マスターズ」初体験でしたが、シンプルながらも奥深いゲーム性に惹かれました。個人的には、戦局によってBGMのアレンジがシームレスに変化する点がお気に入り。シールド枚数の有利不利に応じて、BGMのアレンジが変化していくのはテンションが上がります。
リリース直後は度重なる緊急メンテナンスの影響で、アプリストアの評価が低下したり、ユーザーのフラストレーションも溜まったりしていますが、今後安定していくことで人気デジタルTCGのひとつとして成長していくことが予想されます。
他方、デジタルTCGの宿命でもありますが、コンスタントにガチャが更新される一般的なソーシャルゲームとは異なり、新しいカード(デッキ)の追加には長い時間を要する可能性もあります。そのため、これからセールスランキングは下降していくことが予想され、運営側はその間にユーザー層の拡充、ゲーム内外のイベント施策によるエンゲージメント向上などが求められます。
次のマネタイズにつながる施策のタイミングで、またどれだけのランキング上昇が見られるのかに注目です。
■執筆 <株式会社スパイスマート>
スマートフォンゲーム内運用に関する調査・分析を行うリサーチ事業とコンサルティング事業を展開しており、「Sp!cemart」というサービス名称で各種ソリューションを提供。
コーポレートサイト:http://corp.spicemart.jp/
Sp!cemart 商品に関する問合せ:info@spicemart.jp
■Sp!cemartゲームアプリ調査隊 バックナンバー
■Vol.1 〜待望のシリーズ最新作『マリオカート ツアー』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜
■Vol.2 〜新作リズムゲーム『欅坂46・日向坂46 UNI'S ON AIR』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜
■Vol.3 〜初週で全世界1億DLを記録した『Call of Duty®: Mobile』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜
■Vol.4 〜Riot Games大特集。新作『Team Fight Tactics』の概要から『LoL』の直近プロモ・e-Sports施策まで〜
■Vol.5 流入から定着まで繋げた7つの施策…大ヒット中の『FFBE 幻影戦争』、事前登録からリリース直後の施策を総まとめ
■Vol.6 事前プロモ(ほぼ)なし…突如配信された『ワールドフリッパー』ヒットの背景。リリース前後の施策を分析
■Vol.7 運営7周年を迎えた長期運営タイトル『にゃんこ大戦争』…長く愛される理由をゲーム“内外”の施策から分析
■Vol.8 好調なリスタートを切った『魔界戦記ディスガイアRPG』、リリース中断から再開までの8ヵ月間の動向を分析
会社情報
- 会社名
- 株式会社タカラトミー
- 設立
- 1953年1月
- 代表者
- 代表取締役会長CEO 富山 幹太郎/代表取締役社長COO 小島 一洋
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2083億2600万円、営業利益188億1800万円、経常利益178億700万円、最終利益98億800万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 7867
会社情報
- 会社名
- 株式会社スパイスマート
- 設立
- 2015年7月
- 代表者
- 代表取締役 久保 真澄