【Sp!cemartゲームアプリ調査隊】原作再現度の高さで話題沸騰――大ヒット中『このファン』のゲーム内外施策を調査


スマートフォンゲームの日々の運用とその効果をリサーチし、ゲーム関連企業へマーケティングデータを提供するSp!cemart(スパイスマート)。ゲームアプリの運用情報をいつでもウォッチできる「Sp!cemartカレンダー」や、毎月発行しているレポートを提供している。
 

なかでもカレンダーは、セールスランキング上位のモバイルオンラインゲームのゲームシステム・運用施策をダッシュボード形式のWEBツールとして提供。ゲーム内プロモーション施策の効果測定やセールスランキングと運用効果の相関関係を時系列で分析できる。
 
本連載記事ではSp!cemart協力のもと、カレンダー機能を用いた、ランキング上位タイトルの直近のゲーム内施策を分析。今回はサムザップの
新作『この素晴らしい世界に祝福を!ファンタスティックデイズ』の施策をピックアップする。
 

Sp!cemart
カレンダー・レポート
お問い合わせ

 
(以下、Sp!cemartゲームアプリ調査隊より) 
 

■無料DL1位、セルラン最高4位と大ヒット中


 ■『この素晴らしい世界に祝福を!ファンタスティックデイズ』
提供:サムザップ
リリース日:2020年2月27日


シリーズ累計発行部数900万部を突破したライトノベル「この素晴らしい世界に祝福を!(以下、このすば)」初のスマートフォンゲーム『この素晴らしい世界に祝福を!ファンタスティックデイズ(以下、このファン)』がアプリストアのランキングで急上昇。

そもそも原作の「このすば」は、ライトノベルを皮切りに、漫画やドラマCD、TVアニメ(第1期・第2期)、果ては劇場版まで公開されるなど、メディアミックス展開が盛んなタイトルです。癖のある登場人物たちは数多くのファンからも支持されて、まさに異世界コメディの決定版として現在もなお人気を博しています。

一方『このファン』では、原作でお馴染みのカズマ、アクア、めぐみん、ダクネスなどが登場するほか、ストーリーは全編フルボイスの豪華仕様。RPGとして、バトルはシンプルかつ奥深いリアルタイムコマンドバトルを採用しています。バトル中はSDキャラがコミカルに動くほか、迫力のスキルアニメーションも見ものです。
 


開発を務めたサムザップは、これまでGvGを主軸とした『戦国炎舞 -KIZNA-』を、コミュニティに根差した運営方針のもと長年運営を続けてきました。そのほか、直近の新作では4vs4でエリアを取り合う新感覚マルチバトルアクションゲーム『リンクスリングス』をリリースするなど、運営・開発ともに多数の実績を持つ企業です。

さて、『このファン』はリリース早々、App Storeの無料ダウンロードランキングで1位を獲得したのち、セールスランキングでは最高4位にランクインしました。
本稿では、「Sp!cemartカレンダー」を用いたランキング推移の動向、マネタイズ、ゲーム内外の施策までを調査しました。まずはリリースまでの流れを見ていきましょう。

 

■怒涛のTwitter施策が奏功し、リリース前に25万フォロワー


【リリースまでの流れ】
■ 2019年826 初出及び事前登録開始。TVCMも放映開始
■ 2019年830 「映画このすば」上映前の予告でCM放映
■ 2019年913 声優陣のサイン入りポスターが当たるSNS施策を展開
■ 2019年918 PV公開及び公式Twitterのフォロー&RTキャンペーンを実施
■ 2019年118 ニコ生で特番を放送。フォロー&RTキャンペーンを実施
■ 2019年1128-122日 クローズドβテスト開始
■ 2019年1129 TVCMをTOKYO MXで放映開始
■ 2019年125 公式TwitterでダクネスTシャツのプレゼントキャンペーンを開催
■ 2019年1212 公式Twitterで「#このファン大喜利 キャンペーン」を開催
■ 2019年1219 公式Twitterで「アクシズ教に入信する?しない?キャンペーン!」を開催
■ 2019年1227日 秋葉原の駅広告展開。「野郎ラーメン」とのコラボ企画を開始
■ 2020年115 公式Twitterで原作を題材にしたイラストクイズを出題
■ 2020年123 公式Twitterで「#このファンキャラ診断」を開始
■ 2020年26日 踊り子ユニット「アクセルハーツ」サイン色紙プレゼント施策を開始
■ 2020年217日 ニコ生で配信直前特番を放送
■ 2020年218 「配信開始日決定記念!RT キャンペーン」を開始
■ 2020年227日 正式リリース

以上が『このファン』におけるリリースまでの主な流れです。大小さまざまな施策を展開していましたが、なかでも公式Twitterにおけるフォロー&リツイート施策の数が豊富でした。上記に書かれている以外にも、なにかの記念と称してTwitter施策を取り入れるなど、恐らく事前登録期間中はフォロー&リツイート施策が途切れることはなかったのではないでしょうか。

こうした運営側によるTwitterを舞台にした怒涛のマーケティング施策が功を奏してか、リリース前に25万フォロワーを突破するなど、タイトル認知・拡散につながっていました(2020年3月上旬現在は27万フォロワー)。

ここではTwitter施策を中心に紹介していきますが、ひとつずつピックアップすると大変なので、まずはおおまかな傾向から整理していきます。

【『このファン』公式Twitter施策の傾向】
・基本的に参加方法はフォロー&リツイート
・賞品は参加声優陣のサイン色紙が中心
・原作の世界観やエピソードを取り入れたキャンペーン内容

上記は多かれ少なかれ、IPタイトルのTwitter施策のひな型でもありますが、『このファン』はそれを一貫したコンセプトと物量で突き抜けた印象を持ちます。IPタイトルとはいえ、コンテンツの発信場所や世界観によってターゲットの層は異なります。たとえば、万人受けする有名漫画誌のタイトルであれば、キャラクターにちなんだグッズ、ひいては中の人(声優陣)のサイン色紙よりも、実用的で金額に結びつく家電製品、旅行券などをインセンティブに据えることが多々あります。



▲サイン色紙プレゼントキャンペーン


一方で「このすば」のように、若年層向けのライトノベルであれば、作品以上に個々のキャラクター(中の人とセット)を愛でたり、ファンになったりする傾向があるため、必然的に参加声優陣のサイン色紙をプレゼントするほうが訴求できるということになります(そのほか本作では、キャラクターが描かれたTシャツも賞品に)。

また、ユニークなのが「原作の世界観やエピソードを取り入れたキャンペーン内容」を心掛けていることです。たとえば、2019年12月19日に公式Twitterで実施された「アクシズ教に入信する?しない?キャンペーン!」では、「アクシズ教に入信する人」は該当ツイートをリツイート、「入信しない人」は該当ツイートにいいねをすることでキャンペーンに参加でき、入信する人には抽選で10名に「アクシズ教 石鹸」を、入信しない人には抽選で10名に別の賞品をプレゼントするもの。

……原作を知らない人にとっては「なにがなにやら」と思いますが、これが原作ファンにとっては大うけ。上記のキャンペーン内容に従い、1万リツイート、2万いいねが付くなど話題を呼びました。この「アクシズ教」とは、ヒロイン・女神アクアを崇める宗教として、本編ではその入信を巡る小ネタが随所に散りばめられており、これがキャンペーンでも採用された形です。なお、賞品の石鹸もエピソード内に登場するアイテムのひとつ。
 


▲「アクシズ教に入信する?しない
?キャンペーン!」一連のツイート


このように、原作ファンだけに理解できるエピソードをキャンペーン内容に盛り込むなど、『このファン』ではやや振り切った施策が見事ヒットした印象を持ちました。実際にキャンペーンの該当ツイートのリプライ(返信)欄には、大喜利とも言える数多くのユーザーの書き込みで賑わっていました。単純なフォロー&リツイートで一方的に賞品をプレゼントするのではなく、運営側とユーザー側のちょっとしたコミュニケーション、そして突っ込みの余白を残した施策のひとつになっていたのではないでしょうか。

繰り返しになりますが、こうした怒涛のSNS施策が功を奏してか、最終的に事前登録者数は90万人、公式Twitterのフォロワーは驚異の25万人を突破しました。

続いては、『このファン』のゲーム内施策やマネタイズを中心に「Sp!cemartカレンダー」で調べてみましょう。
 

■マネタイズは従来のスマホ向けRPGを踏襲


『このファン』の基本的なゲームサイクルは、クエスト→ストーリー→キャラクター・武器の強化など、いわゆる一般的なスマホ向けRPGのそれです。ストーリーは自分のタイミングであとから読むことができ、あくまでもクエスト進行と育成・強化に集中して進められるのが特徴です。

直近のスマホ向けRPGのバトルシステムは、通常攻撃が自動で、スキルを任意で発動させるスタイルが多く採用されていますが、本作のバトルはリアルタイムで進行します。ボタンを押さなければ通常攻撃は発動しないし、けれども敵は容赦なく攻撃してくるなど、「ファイナルファンタジー」シリーズのATB(アクティブタイムバトル)システムに似ているかもしれません。もちろん、オート機能や倍速機能も存在するため、サクサク進められるので安心です。

さて、本作のマネタイズは、有償アイテムのクオーツの販売です。クオーツは主にガチャやショップなどで使用します。クオーツのラインナップは以下の通り。

【クオーツのラインナップ】
・クオーツ110個(120円)<単価:1.09円/割引率:0.0%>
・クオーツ350個(370円)<単価:1.06円/割引率:2.8%>
・クオーツ950個(980円)<単価:1.03円/割引率:5.5%>
・クオーツ1800個(1,840円)<単価:1.02円/割引率:6.4%>
・クオーツ3060個(3,060円)<単価:1.00円/割引率:8.3%>
・クオーツ5000個(4,900円)<単価:0.98円/割引率:10.1%>
・クオーツ10500個(10,000円)<単価:0.95円/割引率:12.8%>
 


▲ショップでは多数のパック商品も販売


ガチャでは、バトルに参加できるキャラクターが排出されます。ガチャは1回でクオーツ300個(327円相当)、★3以上1人確定の10連で3000個(3,270円相当)必要となります。なお、期間限定ガチャでは1日1回有償クオーツ100個で引けます。

そのほか、天井施策としてガチャを引くことで増加する「ガチャチャージ」機能が採用されています。キャラクター1人獲得につきガチャチャージが1増加し、250に達すると「★4確定ガチャチケット」を獲得できます。単純計算で10連を25回、クオーツが75000個(81,750円相当)となります。

『この素晴らしい世界に祝福を!ファンタスティックデイズ』
【調査期間:2020年2月19日~3月9日】



▲Sp!cemartカレンダーより(画面上部はストアのランキング推移、下部はゲーム内施策を確認できる)

Sp!cemartカレンダーでは、リリースから直近の施策及びランキング推移として、2020年2月26日(水)~3月9日(月)を抜粋しました。ランキング推移を見て分かる通り、セールスランキング(オレンジ色)とダウンロードランキング(青色)が垂直立ち上がりを見せています。

無料ダウンロードランキングは1位を継続し、セールスランキングも右肩上がりで推移。なかでもセールスランキングでは、リリースから一度も20位以下に落ちることなく、好調に売上を伸ばしていることがうかがえます。

リリース当日の施策では、ゲーム内外含めて4つ展開。

【リリース記念キャンペーン内容】
・スタートダッシュログインボーナス(内容:クオーツ計1800個&★4確定ガチャチケ)
・スタートダッシュガチャ(内容:★4確定ガチャ※有償クオーツ限定)
・リリース記念ピックアップガチャ(内容:★4カズマ&4めぐみんの提供割合UP)
・スタートダッシュパック(内容:★4確定ガチャチケ&クオーツ3060&スキップチケット100枚)

「スタートダッシュ」を銘打っているだけに、最高レアリティの★4キャラクターが必ず手に入る施策を多数用意しています。

まずログボでは、ゲーム開始後6日間に「毎日300クオーツ(合計1800クオーツ)」を、7日目には「★4確定ガチャチケット」を受け取れます。そしてスタートダッシュガチャでは、有償クオーツかつ1回限定で★4メンバーが1人確定で出現、1人1回限定で購入できる「スタートダッシュパック(3,060円)」は★4確定ガチャチケットが含まれるお得なアイテムパックとなっています。


▲スタートダッシュ枠ではありませんが、リリース当日に開催されていた施策として「リリース記念ピックアップガチャ」も展開。★4[引きこもり転生者]カズマ、★4[ナイス爆裂!!]めぐみんのふたつの提供割合がUPしています(39日(月)14:59まで)

そのほかショップでは、複数のアイテムパックが販売されていましたが、クオーツに加えてスタミナ回復やスキップチケットが封入されている商品が多数存在。

スマホ向けゲームアプリのマネタイズの根幹は、レアリティの高い(もしくは好きな)キャラクターを手に入れるために、ガチャを引くことにあります。例に漏れず本作を含むスマホ向けRPGのマネタイズもそれですが、最終的にキャラクターや武器を育成・強化していくフェーズに差し掛かると、スタミナとスキップチケットが重宝されていきます。それぞれは少額ですが、安定して求められるアイテムのひとつでもあります。
 

■多少ゲームバランスが崩れても原作の再現度を優先

 
『このファン』は、従来のスマホ向けRPGのマネタイズ、及びゲームサイクルを踏襲する形でクオリティ実現に努めています。「そこに人気IPが乗っかったからヒットした」と短絡的な考えでは済ませられず、なかなか狂気(?)じみた原作の再現度を徹底したところもひとつのヒット要因になるのではないでしょうか。

原作を知らない人に向けて説明すると、たとえば両手剣の攻撃を当てられないほどの不器用なキャラクターであるダクネスは、なんとゲーム中でも極めて命中率が低い仕様になっています(本当に敵に攻撃が当たらない)。そのほか、めぐみんは爆裂魔法を使うと戦闘不能扱いに、ウィズは回復スキルでダメージを受けるなどなど……。

もちろん、原作再現に生じた“仕様”などは、キャラクターのステータスやスキルで上手く補えています(ダクネスは命中率が著しく低い代わりに、豊富な防御スキルで実質本作における壁役に)。

このように、多少のゲームバランスが崩れようともお構いなしに、「原作再現」を徹底した結果、実際にユーザーの手に触れるリリース当日には、前述したキャラクターたちの再現度にTwitter上では大きな話題となりました(リリース当日はトレンド入り)。


▲ゲーム中に時折入る「TVアニメ風アイキャッチ」。さまざまなバリエーションが存在し、多少ゲームテンポにも影響しそうですが、こうした細かい演出を取り入れたことが原作の雰囲気をより醸し出しているのかもしれません。

近年、クオリティの高いIPタイトルが矢継ぎ早にリリースされていますが、『このファン』はゲームの仕様に上手く絡ませながら原作の世界観やキャラクターの魅力を伝える数少ないタイトルのひとつかもしれません。
 

 
「Sp!cemartカレンダー」では、各ゲームのイベント情報をランキング推移と共に閲覧できます。自社はもとより、競合他社の施策一覧を取りまとめた分析などにもご活用できます。ぜひ、ご興味がある方はお問い合わせページからご連絡ください。
 

Sp!cemart
カレンダー・レポート
お問い合わせ

 

■執筆 <株式会社スパイスマート>
スマートフォンゲーム内運用に関する調査・分析を行うリサーチ事業とコンサルティング事業を展開しており、「Sp!cemart」というサービス名称で各種ソリューションを提供。

コーポレートサイト:http://corp.spicemart.jp/
Sp!cemart 商品に関する問合せ:info@spicemart.jp
 

■Sp!cemartゲームアプリ調査隊 バックナンバー

Vol.1 〜待望のシリーズ最新作『マリオカート ツアー』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜

Vol.2 〜新作リズムゲーム『欅坂46・日向坂46 UNI'S ON AIR』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜

Vol.3 〜初週で全世界1億DLを記録した『Call of Duty®: Mobile』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜

Vol.4 〜Riot Games大特集。新作『Team Fight Tactics』の概要から『LoL』の直近プロモ・e-Sports施策まで〜

Vol.5 流入から定着まで繋げた7つの施策…大ヒット中の『FFBE 幻影戦争』、事前登録からリリース直後の施策を総まとめ

Vol.6 事前プロモ(ほぼ)なし…突如配信された『ワールドフリッパー』ヒットの背景。リリース前後の施策を分析

Vol.7 運営7周年を迎えた長期運営タイトル『にゃんこ大戦争』…長く愛される理由をゲーム“内外”の施策から分析

Vol.8 好調なリスタートを切った『魔界戦記ディスガイアRPG』、リリース中断から再開までの8ヵ月間の動向を分析

Vol.9 大ヒット中の『デュエル・マスターズ プレイス』、売上ランキング2位の背景をIP×マネタイズの観点から分析

Vol.10 スマホ向けパズルゲームのトップを走る『ガーデンスケイプ』の施策とシリーズの強みを分析

Vol.11 海外発のストラテジーゲーム『Rise of Kingdoms -万国覚醒-』がヒットの兆し。リリース前後の施策を分析

Vol.12 ヒットを生み出し続けるYostar待望の新作『アークナイツ』を分析。リリース前施策からマネタイズまで

Vol.13 売上ランキングTOP10入りの『メダロットS』を分析。既存ファンに向けた「メダロット」ならではの露出も

Vol.14 ゲームはスローライフだが運営施策は挑戦的…『どうぶつの森 ポケットキャンプ』これまでの歩み

Vol.15 目指したのは「リアルなミニ四駆体験の追求」…『ミニ四駆 超速グランプリ』ヒットの背景を分析

Vol.16 『モンスト』×「鬼滅の刃」コラボを分析…IP頼りで終わらず、推奨行動など多様な施策で盛り上げる

Vol.17 放置ゲームの新たな形『ロストディケイド』の挑戦。“放置させない”循環や独自性の高いマネタイズも

Vol.18 『モンスターハンター ライダーズ』はゲーム系IP作の新境地。改めて考えるモンスターの価値と魅力
株式会社サムザップ
https://www.sumzap.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社サムザップ
設立
2009年5月
代表者
代表取締役 日高 裕介
決算期
9月
企業データを見る
株式会社スパイスマート
http://corp.spicemart.jp/

会社情報

会社名
株式会社スパイスマート
設立
2015年7月
代表者
代表取締役 久保 真澄
企業データを見る