【Sp!cemartゲームアプリ調査隊】リニューアルから早3ヵ月…『あんさんぶるスターズ!!Basic/Music』が示した共存共栄と5年間の厚み
スマートフォンゲームの日々の運用とその効果をリサーチし、ゲーム関連企業へマーケティングデータを提供するSp!cemart(スパイスマート)。ゲームアプリの運用情報をいつでもウォッチできる「Sp!cemartカレンダー」や、毎月発行しているレポートを提供している。
なかでもカレンダーは、セールスランキング上位のモバイルオンラインゲームのゲームシステム・運用施策をダッシュボード形式のWEBツールとして提供。ゲーム内プロモーション施策の効果測定やセールスランキングと運用効果の相関関係を時系列で分析できる。
(以下、Sp!cemartゲームアプリ調査隊より)
【調査箇所】異例の分割リニューアルから3ヶ月。現在の状況は
■『あんさんぶるスターズ!!Basic/Music』
提供:Happy Elements(開発:カカリアスタジオ)
リリース日:2020年3月15日
【調査箇所:2020年6月1日〜6月30日】
▲『あんさんぶるスターズ!!Basic』
▲『あんさんぶるスターズ!! Music』
大人気アイドル育成ゲーム『あんさんぶるスターズ!(以下、あんスタ)』が2020年3月15日にリニューアルして早3ヵ月経ちました。
同作は、新作として『あんさんぶるスターズ!! Music(以下、Music)』をリリースしましたが、実は既存アプリの『あんスタ』は『あんさんぶるスターズ!!Basic(以下、Basic)』として大型アップデート及びリニューアルを実施するという、一風変わった打ち出し方をしています。
▲従来の『Basic』は、これまでの『あんスタ』がより使いやすく手軽に楽しめるアプリにアップデートし、引き続き豊富なストーリーとコンテンツを届けるとしています。一方で新作の『Music』は、豊富な楽曲とハイクオリティな3DCGを駆使したキャラクターのライブシーンをバックにプレイできるリズムゲームとして打ち出しています。
▲[既存アプリ] 『あんさんぶるスターズ!!Basic』。ストーリーとカード集めを中心に、手軽にゲームを楽しみたい方向け。「!!」で追加されるストーリーやコンテンツはもちろん、「!」のストーリーやコンテンツも楽しめます。
▲[新作アプリ] 『あんさんぶるスターズ!!Music』。3DダンスMV(ミュージックビデオ)やリズムゲームなどで「あんスタ」の世界を楽しみたい方向け。様々なインテリアを配置してオフィスを作ることも可能。
■『Basic』と『Music』の主な違い
※公式サイトの情報を基に作成
※どちらのアプリでプレイしてもストーリーやイラストは『Basic』と『Music』で同じものを追加。
※『あんさんぶるスターズ!!』以降の追加分のみ。
※Basic/Music間でのデータ引き継ぎやデータ連動機能はなし。
一般的に既存アプリ(及びシリーズ)の新作タイトルを出す際には、2や3などナンバリングタイトルを付けて既存アプリの大型アップデートを行うタイプと、新規にアプリをリリースして、ユーザーや運営工数を含めて移行するふたつのタイプがあると思います。
しかし、同作では『Basic(旧作)』『Music(新作)』というふたつのアプリで打ち出し、共存共栄のスタイルを貫きました。そして現在、実際にふたつのアプリは共存できているのでしょうか。
Sp!cemartでは、「Sp!cemartカレンダー」を用いたランキング推移の動向、ゲーム内施策、マネタイズにフォーカスをあてて、『Basic』『Music』の足元の状況を調査しました(調査箇所: 2020年6月1日~6月30日)
【機能追加】5年間の歩みでアイドル育成ゲームを確立
そもそも『あんスタ』は、2015年4月にリリースされたスマホ向けアイドル育成ゲームです。同作はリリースされるやいなや大ヒットを記録し、現在もなおアプリストアのセールスランキングで上位に位置するHappy Elementsの代表作です。これまでの同作のメディアミックス展開は、TVアニメを皮切りに、CD、グッズ販売、舞台など枚挙に暇がないほどです。
一方でリリースから5年間が経過した長期運営タイトルという顔も持っています。ゲームアプリは、新規要素の追加や既存コンテンツの改修といったアップデートを実施し、ユーザーの離脱率や飽和状態を防がなければなりません。実際に、今回のリニューアルも『あんスタ』における大型アップデートの側面を持ち合わせています。
直近のゲーム内施策調査の前に、『あんスタ』5年間における歴史のなかで、これまでどのようなアップデートを施し、コンテンツを成長させたのかを分析していきたいと思います。なお、この内容はSp!cemartがゲーム企業向けに提供している「日本マーケットトレンドレポート(2020年4月号)」における、「アップデート調査 第2弾」から抜粋しています。
■『あんスタ』主要なアップデートをピックアップ
・「あいさつ機能」追加(アップデート日:2017/12/23 - リリースから2年7ヵ月で実装)
・「写真撮影機能」追加(アップデート日:2018/5/14 - リリースから3年で実装)
・「イラストシート機能」追加(アップデート日:2018/11/21 - リリースから3年6ヵ月で実装)
・「ユーザーの誕生日のお祝い機能」追加(アップデート日:2018/12/1 - リリースから3年7ヵ月で実装)
▲実際のレポート内容。1タイトルに対して、リリースから現在に至るまでの主要アップデート内容を時系列順に精査しているほか、それぞれがどのようにゲーム上で寄与して、実際にユーザーからどういうコメントが寄せられたのかまで、細かく調査しています。ぜひ、ご興味がある方はお問い合わせページからご連絡ください。
さて、上記のアップデートで追加された機能は、どのようにゲームへと寄与してきたのでしょうか。
まず「あいさつ機能」について。これはホーム画面に設定したキャラクターへあいさつ(=タップ)すると、一定の確率でアイテムの獲得や親密度が上昇するイベントが発生するというものです。
多くのユーザーは推しキャラをホーム画面に設定していると思われ、例えイベントが発生せずとも「あいさつして、その反応を得られる」ということが嬉しいというユーザーもいることでしょう。実際に定性コメントを調べたところ「推しキャラに挨拶できるのは本当に嬉しい!」「推し以外のキャラクターの反応も気になる」というポジティブな面が多く占めました。
「写真撮影機能」は、現実の風景を背景にキャラクターを撮影できるモード。このとき、キャラクターをタップすると表情やポーズが変化し、スライドさせることで位置を調整することも可能です。推しキャラとのツーショットも撮影でき、ユーザーの満足度を高める狙いとしては、優れた施策であるように思えます。
▲2018年11月19日には、縦画面に対応するよう改修されています。
「イラストシート機能」は、任意のフレームを選択後、所持カードを自由に配置してオリジナルのイラストを作成できるもの。自分だけのオリジナルの一枚絵を作成できるため、ユーザーの満足度を高めることが狙いと思われます。実際、Twitterなどでは「神機能!」と本機能を称える声も多く見られました。
そして「ユーザーの誕生日のお祝い機能」では、設定した誕生日を迎えるとアイドルにお祝いされるほか、4種の特典が得られます。キャラから「誕生日をお祝いされる」施策は珍しく、Twitterなどを見る限りユーザーの評価も高いように見受けられました。
■誕生日特典
このように『あんスタ』では、リリースから5年間でさまざまなアップデートを経て、ユーザーの利便性を上げるだけではなく、モチベーション、キャラクター愛着度の向上につながる機能を、随時追加してきました。同作が長期運営タイトルである背景にも、こうした機能改修・追加によるアップデートが寄与していることは明白でしょう。
そして、今回の『Basic』と『Music』も大型リニューアルとはいえ、広い意味ではアップデートの一種です。実際にふたつのアプリに分かれるという未曽有のアップデート(取り組み)では、どのような作用が生まれているのでしょうか。ここからはゲーム内施策について覗いてみます。
【ゲーム内施策】『Basic』と『Music』の施策内容は同じ?
ふたつのアプリで分かれたことで最も気になるのは、『Basic』と『Music』が共存共栄できるかどうか。つまり、新作『Music』にユーザーが大量に移行し、『Basic』が急落するのではないかという心配が頭をよぎります。
ただ、実際に蓋を開けてみると、新作『Music』並ではありませんが、『Basic』がセールスランキングで急落している印象はありません。そういう意味では、まだリニューアルから3ヵ月ほどですが、現時点では共存共栄が出来ていると言えると思います。
【調査箇所:2020年6月10日~7月1日】
※期間限定セールイベント、ガチャイベントのみを抜粋
上記は、「Sp!cemartカレンダー」を用いて『Basic』と『Music』のランキング推移と、時系列ごとに施策を並べた画像となります。なお、上記の画像では、マネタイズ(及びセールスランキング)に寄与したであろう期間限定セールイベント、ガチャイベントのみを抜粋しています。
各画像の下半分の施策一覧を見て分かる通り、『Basic』と『Music』は同じタイミングに同じ施策を展開しています。また、足元のセールスランキングでは、ふたつとも期間限定セールイベント(ピンク色の施策)の実施後に、同じように急浮上しています。ここのタイミングでは、『Music』が最高3位、『Basic』が最高36位と成果は異なりますが、全く同じ施策を展開している旧作『Basic』のなかでは及第点といえるでしょう。
一方『Basic』と『Music』で異なる点といえば、『Basic』のガチャイベントにおいて、10連の場合はピックアップ対象のカードが5枚以上確定になるなど、旧作ならではの恩恵や救済措置で一定のバランスを取っている点です。ゲーム仕様やコンテンツも異なるとはいえ、『Basic』を変わらず続けているユーザーに対してのひとつの配慮ともいえます。
▲『Basic』ガチャによる10連ピックアップ対象のカードが5枚以上確定
そのほか、ゲーム内イベントやその他施策に関しても、おおむね『Basic』と『Music』で変わりはありません。
【今後】事業的観点からも新しい試み
大型リニューアルから3ヵ月経過したなかで、改めて『Basic』と『Music』のゲーム内施策を調査したところ、ゲーム内施策はほぼ同じであることが分かりました。それらは、実際にセールスランキングにも色濃く反映されており、『Music』がTOP10に急上昇している同タイミングには、『Basic』も後を追うように急浮上しています。
あくまで事業的観点から見ると、ゲーム内施策を考えるというひとつのリソースをふたつのアプリで展開することを実現しています。当然、育成カードゲームとリズムゲームでは、工数の関わり方も異なりますが、一部クリエイティブやイベントのテーマなどは、ひとつで2タイトルに展開できることが言えます。
また、企業としての収益面で考えれば、ユーザーがふたつのアプリを同時にプレイしているケースも少なからずあるでしょう。そういう意味では、複数の収益構造を得ていますし、仮に『Basic』と『Music』で異なる施策を展開すれば、「ふたつのアプリを同時にプレイする」というきっかけ作りを担うこともできるのではないかと思います。
あまり収益的な面で物事を考えるのはユーザーが良く思わないかもしれませんが、今後も『Basic』と『Music』で共存共栄をはかるのであれば、工数が倍になってでも双方で独自の世界観と価値を提供するのもまたひとつの手なのかもしれません(『Basic』には旧作ストーリーの閲覧や旧作コンテンツの獲得がありますが)。
なかなか出来ることではありませんが、せっかく『Basic』と『Music』というふたつのアプリがあるのであれば、これらの相乗効果を事業・組織とは異なるシーンで打ち出していき、『あんスタ』シリーズの裾野を広げる新たなきっかけに昇華するのも面白いのではないかと思います。
「Sp!cemartカレンダー」では、各ゲームのイベント情報をランキング推移と共に閲覧できます。自社はもとより、競合他社の施策一覧を取りまとめた分析などにもご活用できます。ぜひ、ご興味がある方はお問い合わせページからご連絡ください。
スマートフォンゲーム内運用に関する調査・分析を行うリサーチ事業とコンサルティング事業を展開しており、「Sp!cemart」というサービス名称で各種ソリューションを提供。
コーポレートサイト:http://corp.spicemart.jp/
Sp!cemart 商品に関する問合せ:info@spicemart.jp
■Sp!cemartゲームアプリ調査隊 バックナンバー
■Vol.1 〜待望のシリーズ最新作『マリオカート ツアー』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜
■Vol.2 〜新作リズムゲーム『欅坂46・日向坂46 UNI'S ON AIR』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜
■Vol.3 〜初週で全世界1億DLを記録した『Call of Duty®: Mobile』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜
■Vol.4 〜Riot Games大特集。新作『Team Fight Tactics』の概要から『LoL』の直近プロモ・e-Sports施策まで〜
■Vol.5 流入から定着まで繋げた7つの施策…大ヒット中の『FFBE 幻影戦争』、事前登録からリリース直後の施策を総まとめ
■Vol.6 事前プロモ(ほぼ)なし…突如配信された『ワールドフリッパー』ヒットの背景。リリース前後の施策を分析
■Vol.7 運営7周年を迎えた長期運営タイトル『にゃんこ大戦争』…長く愛される理由をゲーム“内外”の施策から分析
■Vol.8 好調なリスタートを切った『魔界戦記ディスガイアRPG』、リリース中断から再開までの8ヵ月間の動向を分析
■Vol.9 大ヒット中の『デュエル・マスターズ プレイス』、売上ランキング2位の背景をIP×マネタイズの観点から分析
■Vol.10 スマホ向けパズルゲームのトップを走る『ガーデンスケイプ』の施策とシリーズの強みを分析
■Vol.11 海外発のストラテジーゲーム『Rise of Kingdoms -万国覚醒-』がヒットの兆し。リリース前後の施策を分析
■Vol.12 ヒットを生み出し続けるYostar待望の新作『アークナイツ』を分析。リリース前施策からマネタイズまで
■Vol.13 売上ランキングTOP10入りの『メダロットS』を分析。既存ファンに向けた「メダロット」ならではの露出も
■Vol.14 ゲームはスローライフだが運営施策は挑戦的…『どうぶつの森 ポケットキャンプ』これまでの歩み
■Vol.15 目指したのは「リアルなミニ四駆体験の追求」…『ミニ四駆 超速グランプリ』ヒットの背景を分析
■Vol.16 『モンスト』×「鬼滅の刃」コラボを分析…IP頼りで終わらず、推奨行動など多様な施策で盛り上げる
■Vol.17 放置ゲームの新たな形『ロストディケイド』の挑戦。“放置させない”循環や独自性の高いマネタイズも
■Vol.19 原作再現度の高さで話題沸騰――大ヒット中『このファン』のゲーム内外施策を調査
■Vol.20 新旧ではなく共存共栄――『あんさんぶるスターズ!!Basic&Music』リリース前後のゲーム内外施策を調査
■Vol.21 周年施策から辿る『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』大ヒットの背景。1・2・3周年でなにが起こったのか
■Vol.22 原作の裾野を広げる『ヒプノシスマイクARB』。話題沸騰の「ヒプマイ」ゲームアプリのリリース前後施策を分析
■Vol.23 『ディズニーツイステッドワンダーランド』TOP3入りの背景。ゲーム内外の演出と注目ポイントを分析
■Vol.24 無料DL・セルラン共に急上昇――最新作『あつ森』発売後、『どうぶつの森 ポケットキャンプ』で何が起こったのか
■Vol.25 中国テンセントゲームズが放つ近未来MMORPG『コード:ドラゴンブラッド』が大ヒット。国内ユーザーに響いた理由を探る
■Vol.26 セルラン首位を2度獲得した『FFBE 幻影戦争』。該当期間にフォーカスして徹底分析
■Vol.27 放置ゲームの新たなヒット作『魔剣伝説』。“縦画面のMMORPG”を謳った功罪からゲーム概要まで
■Vol.28 『Ash Tale~風の大陸~』が1周年。人気を継続する背景をゲーム内施策から紐解く
■Vol.29 原作と二次創作へのリスペクトに満ち溢れた『東方LostWord』。大ヒット中の東方×スマホゲームの施策を分析
■Vol.30 勢いが止まらない『ディズニー ツイステッドワンダーランド』…ランキング上位を維持する背景とその魅力
■Vol.31 最近話題の「ハイパーカジュアルゲーム」。人気タイトル3本のマネタイズと画面UIを徹底分析
■Vol.32 硬派な海外IPタイトルでも中身は日本人好み…『Fallout Shelter Online』国内ヒットの背景を分析
■Vol.33 『白猫プロジェクト』×「鬼滅の刃」コラボを分析…新規・休眠復帰ユーザーの流入にも大きく貢献
■Vol.34 間もなく夏本番。長期間展開する「夏休み施策」で各社どのような取り組みを行っているのか
会社情報
- 会社名
- 株式会社スパイスマート
- 設立
- 2015年7月
- 代表者
- 代表取締役 久保 真澄