サービス開始から4周年を迎え、国内ユーザー数1300万人を突破するスマートフォン向けリズムゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!(以下、ガルパ)』。
“長く愛されるコンテンツ開発・運営の秘訣”というテーマで『ガルパ』開発のキーマンが語るオンラインセミナーが開催された。
本セミナーは『ガルパ』のプロデューサーを務める湯田雅氏とマーケティング責任者である齋藤隼一氏が登壇。モデレーターは株式会社MOTTOの代表取締役である佐藤基氏が務める。
長期運営のノウハウやマーケティング戦略など、本セミナーの内容についてレポートをお届けしていく。
【登壇者】
●株式会社Craft Egg
『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』プロデューサー
湯田雅氏
2012年にサイバーエージェントに入社後、ゲーム部門のエンジニアとして配属。1年後には新規ゲームタイトルの立ち上げとともに企画職へ転身。株式会社Craft Eggへ異動後に『ガルパ』のメインプランナーからプロデューサーに就任。
●株式会社Craft Egg
マーケティング責任者
齋藤隼一氏
2008年にサイバーエージェントに入社後、インターネット広告事業部門でマーケティングプランナーを務める。宣伝本部のゲームプロモーション室室長を務めたあと、2018年に株式会社Craft Eggに出向し現職に就く。
【モデレーター】
●株式会社MOTTO
代表取締役
佐藤基氏
株式会社ディー・エヌ・エーにて、黎明期から現在までスマホゲームのマーケティングを約10年に渡って経験。2018年に独立し、株式会社MOTTOを設立。主にゲームやアプリのマーケティング戦略の立案と実行を支援している。
■2020年の『ガルパ』とコロナ禍で生まれたイベント
はじめに湯田氏から2020年に行ってきた『ガルパ』での運営施策が紹介された。
2020年3月の3周年のタイミングではゲームオリジナルとなる新バンド“Morfonica”の追加され、その3ヶ月後にはアニメに登場していたバンド“RAISE A SUILEN(RAS)”も追加された。
他にも、『とある科学の超電磁砲T』など人気IPとの大型コラボも実現した。「『ガルパ』ではバンドごとに作品とコラボする形を取っており、『ガルパ』とコラボ先IPのどちらのファンにも楽しんでもらえるようなイベントづくりを心がけている」と湯田氏は話す。
コラボといえばゲームタイトル全体で実施することが基本だが、『ガルパ』はそういった手法は取っていない珍しいケースと言える。それぞれのバンドと親和性の高いコラボ先IPの候補を開発チームで協議して出しているそうだ。
2020年はコロナの影響を受けて見送ったイベントもあった。
オフラインで開催予定としていた新バンド“Morfonica”のデビューイベントや、IP初の全バンドが集結するライブイベントが中止や延期となってしまった。
セミナー後に行われた質疑応答の際には「ライブイベントの効果は?」という問いに対して、湯田氏は「お客さまの直接的な熱量を感じられるプロジェクトの起爆剤のようなもの。」と答えている。それゆえにオフラインイベントの中止や延期は運営的に大きなダメージだったと話す。
しかし、コロナ禍だからこそ工夫して実施したイベントもあった。
2020年8月には会場が野外のライブイベントを開催し、12月にはサウンドオンリーライブとして音楽だけのライブイベントも初めて開催された。
『ガルパ』における7バンドのうち3バンドは、ライブイベントなどでのリアルのバンドとしての演奏を行っていない。しかし、 “Sound Only”だからこそ表現できる3バンドのライブを実現した。コロナ禍ということもあって、ユーザーにも好評だったようだ。湯田氏は「コロナの影響でこういった取り組みができたことはお客さまに大きな反響を与えることができた」と語る。
2021年になってからは政府が提示する新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針を遵守し、横浜アリーナでオフラインのライブイベントを開催するにいたった。
■2020年はマーケティング戦略の転換期
続いて、マーケティング責任者の齋藤隼一氏から『ガルパ』における2020年のマーケティング戦略について語られた。2020年マーケティングチームとして大事にしていたことは以下のふたつ。
・ユーザーファースト/顧客理解の徹底
・スピード感を持って柔軟に動ける体制作り
運営が長くなってきたり、組織の人数が増えたり、担当者が変わったりといった変化の中で、つねに安定したサービスを提供し続けるために、暗黙知を可視化する必要性を感じたそうだ。
そこで取り入れたのが“9segs®”だ。
※9segs®はStrategy Partnersの商標であり、M-Force社に独占使用が認められています。
9segs®とは自社ブランドや競合ブランドを9つの主要な顧客セグメントに分解して、顧客情報を戦略的に分析するビジネス手法のひとつ。
「スマホゲームにおいては、自社のゲームを最も優先度高くプレイしてくれる積極的なロイヤルユーザーをいかに増やしていくかが大事ですが、母数として多くなるのは他のゲームも並行で比較的優先度高く遊んでいる、ロイヤルユーザーです」と齋藤氏は話す。
のちの質疑応答で「9segs®を実施してみて発見したことは?」との問いに、「積極的なロイヤルユーザーに分類される方以外にも『ガルパ』をお気に入りのゲームとして優先度高く遊んでくれている方が多かったり、多くの学生の方々がどのように楽しまれているかを改めて把握できたり、と様々な発見があった」と語る。
そのようなユーザーに『ガルパ』をもっと楽しんでもらうためには何ができるか、また、優先度が下がらないようにするにはどうしたらいいか、などと議論が生まれたそうだ。
また、ゲーム内アンケートの質問項目に大きな手を加えたという。
従来のアンケートだとサービスの現状を把握するために「好きなメンバーは?」や「好きな楽曲は?」などといった質問を行っていた。しかし、「こういうガチャが出たらどうですか?」や「こういうイベント内容はどうですか?」といった、今後の運営に活かされるような具体的な質問まで踏み込んだという。
現状を把握する質問をベースとしつつも今後の運営を左右するような質問の比率を増やし、マーケティングチームから開発チームに伝えることで今後のサービスに活かしてもらうといった取り組みを行ったそうだ。
“9segs®”とゲーム内アンケートの結果から、顧客理解の事例として2021年1月に受験生応援キャンペーンが挙げられた。このキャンペーンは、『ガルパ』には学生のユーザーが多く、勉強のためにゲームを一時的に離れなければいけないという声が多いことから、マーケティングチームが企画したものだ。
テストや受験で長期間プレイできないユーザーに向けて、応援メッセージ入りの描き下ろし壁紙や受験生のやる気がアップするプレイリストを各種音楽配信サービスで公開。ゲームができない期間でも身近に感じてもらうように行った施策のひとつであった。
■コロナの影響はマーケティングにも……
「マーケティング施策においてもコロナの影響を感じた1年だった」と齋藤氏は語る。
働きかたの変化や競合タイトルのリリースもあって、期待以上のスピード感での対応が必要だととくに感じたそうだ。スピード感を早めるために、Web出稿にいたっては8割を自社で取り仕切ることにし、ステイホームの流れを汲み取ってTVCMの数を増やした。
さらにスピード対応の事例として、緊急事態宣言中にはステイホームをユーザーに描き下ろしイラストで啓蒙し、ゲーム内アイテムをプレゼントしたり、緊急事態宣言明けには無観客花火大会を実施したりした。すこしでも世の中を明るくするために『ガルパ』でできることはないかとチームで模索した結果だ。
コロナ禍のなかで広告予算の内訳にも変化があった。その資料はセミナー参加者だけに公開されていた資料になるためここでお見せすることはできないが、特筆すべきは運営3年目(コロナ前)と4年目(コロナ禍)の交通広告とTVCMの比率の変化だ。世間のステイホームの流れを汲んで、交通広告の量が減りTVCMの量が倍近くに増えているのだ。スピード感を持って柔軟に対応できる体制作りの変化の成果と言える。
それでも交通広告をやる理由としては「流行ってる感を出すため」と齋藤氏は言う。「交通広告はアンケートやデータ、数字にはやはり反映されにくいものである」と認識しつつも、「Web広告よりも強く印象に残るため効果的である」と話す。
スマホゲームにおいては新規ユーザーを獲得することに目がいきがちではあるが、いま遊んでくれているユーザーをもっとも大切にしなければいけないということは9segs®の結果からも判明しているそうだ。ゲーム内アンケートでも、口コミや友人の紹介から『ガルパ』を始める人が多く、そのキッカケとなる既存ユーザーへのプロモーションを早い段階から重視していた。
「交通広告とTVCMは既存のお客さまへのアプローチにも一役買っている」と齋藤氏は考えている。現在のマーケティングのチーム体制も既存ユーザーに向けた施策を担当するチームにもっとも人員を割いているようだ。
■これからの『ガルパ』
2021年2月には『バンドリ!』プロジェクト6周年を記念して、今後の展開をユーザーに発表するイベントが行われた。『ガルパ』としてはリリースから4周年という節目を迎えるタイミング。湯田氏は「まだまだ止まらない、私たちのバンド活動!」を5年目以降のプロジェクトメッセージとして発表。今後も大きな展開を仕掛けていくと語った。
『ガルパ』の大きな展開として、実際のアーティストと『ガルパ』のメンバーが一緒に歌う楽曲“エクストラ”の実装や、リズムアクションのゲーム部分に新しい要素を加えるなどしてユーザーを驚かせた。
さらに、Nintendo Switch版の『ガルパ』も発表された。大きな画面でプレイしたいという声も多く、まだスマホを持っていない若い世代のユーザーでも遊べるようにと制作が決定したという。発表した際はSNSでもトレンド入りするほどの反響を呼んだ。現在2021年内配信を目標に鋭意開発中だそうだ。
■Craft Eggについて
最後に湯田氏からCraft Eggについての紹介がされた。
サイバーエージェントグループのゲーム&エンターテイメント事業部“SGE”に所属するCraft Eggが掲げるミッションは「人生を豊かにするコンテンツをつくる」こと。
「ゲームタイトルを展開する上でもこのミッションが軸になっている。『ガルパ』を通じてお客さまの人生が豊かになるきっかけになれば」と湯田氏は話す。
そして、マーケティングの話にもあったように 「ユーザーファースト」という思想を大事にしている。
「会社である以上、事業としてゲームを運営していかなければならないが、それはお客さまあってのもの」と湯田氏。世界でいちばんユーザーファーストなものづくりは、結果的に事業に直結してくると語った。普段のプロジェクト運営でもつねにこの思想があり、「本当にお客さまのための施策であるか?」という言葉が行き交うほどスタッフの間でも根付いているそうだ。
「Craft Eggは誰かひとりのワンマンでものづくりをしない」と説明する湯田氏。誰かひとりがいまの市場変化のスピードや多岐に渡るゲームを分析して判断していくことはむずかしいとした上で、チームでプロジェクトを動かしたり、運営していくことでチームワークを発揮することが、結果的に“ユーザーファースト”にもつながってくるという。「Craft Eggに天才はいない」という言葉に、コンテンツは「みんなでつくる」ものだという想いを感じた。
■質疑応答
セミナーの最後のパートでは視聴者からの質問に答える時間が設けられていた。以下では、質疑応答の模様を一部お伝えする。
Q.『バンドリ!』においての『ガルパ』の立ち位置はなんだと思いますか?
湯田氏:お客さまの輪を広げる大きなツールだと思っています。アニメだけでは語られなかった作品の設定をファンに連続的に届けられること、つねに接点を持てることが大きいですね。あとは『バンドリ!』プロジェクトとして、ゲームはやはり大きな収益源にもなっています。
Q.アニメとゲームのコンテンツの出し方について、心がけていることはありますか?
湯田氏:3周年のタイミングで実装した新バンド“Morfonica”はかなり悩みました。2年ほど前から実装の計画はしていたのですが、同時期に放送していたアニメではRASのことが描かれていたので、お客さまが混乱しないか心配していました。結果的に、Morfonicaは3周年で実装し、RASはアニメの物語が終わった後が良いと考えました。
Q.ライブ以外のオフラインイベントは何か考えていますか?
湯田氏:“ガルパーティ!”というオフラインイベントがありまして、Craft Eggの社員たちが実際にスタッフとして物販などのレジ打ちや列の整備などをしていました。2020年はコロナの影響でできなかったので、今後ブシロードさんと一緒にやり方を検討していきたいです。
Q.なぜ9segs®を始めたのか?
齋藤氏:『ガルパ』はたくさんのお客さまに遊んでもらっており、全体像を把握したかったので導入してみました。もともとある程度チームでどんなユーザー属性かは想定していたんですけど、実際にデータや数字にしてみたかったんですよね。その結果から、仮説を立証して可視化を行うことができました。
Q.TVCMはどういったときにどういった目的でやっていますか?
齋藤氏:新規のお客さまへのアプローチと流行っている感を出すために実施していることがほとんどです。いまは東京や大阪といった都市部よりも、地方でのCMを増やしています。その理由としてはコスト面での効率がいいからです。
Q.インハウスのクリエイティブも社内でやっていますか?
齋藤氏:モノによりけりですが、基本的には社内でクリエイティブのディレクションをして外部のデザイナーさんに発注することが多いです。
■採用情報
Craft Eggのメンバーは2021年2月時点でおよそ180名。平均年齢は30代前半と若いが、コンシューマゲーム開発の出身やベテランメンバーも多いとのこと。
現在一緒に働く仲間を募集中とのことなので、興味のある人は下記URLから採用情報をチェックしてほしい。
<Wantedly採用ページ>
・ディレクター
・ゲームプランナー
・プロモーションプランナー
その他募集中の職種については、下記Craft Egg公式サイト内の「採用情報」ページよりご確認ください。