分水嶺に立つモバイルゲーム業界 ゲーム展開を積極化するIPホルダーとの協業に活路 Web3やIPプロデュースを模索する動きも

アニメ製作会社や出版社といった、いわゆる「IPホルダー」が近年、モバイルゲームを含めたゲーム事業に進出する動きを強めている。大ヒットすれば大きな収益が発生するだけでなく、IP(知的財産権)それ自体の認知拡大につながることから、ゲーム会社と協業するケースが増えているという。ここ数年目立つようになったが、直近のゲームアプリでは、『takt op. 運命は真紅き旋律の街を』『ワールドダイスター 夢のステラリウム』『金色のガッシュベル!! 永遠の絆の仲間たち』などが該当するだろう。

IPホルダーは、かつてはゲーム会社に利用許諾を行うかわりに一定のライセンス料さえ受け取ればいいというスタンスの会社が少なくなかったといわれているが、その変化の契機となったのが『Fate/Grand Order(FGO)』の目覚ましい成功といわれる。

『FGO』の大ヒットにより、30億円台だったアニプレックスの最終利益は一時は10倍以上に急拡大した。「さすがに第2の『FGO』とまではいかないが、新しい収益源として期待されている」(ゲーム業界関係者)。そしてそれを可能にしたのがアニメ製作会社の収益の安定化だ。世界的に拡大する動画配信サービスに向けのアニメ配信権収益が大きく伸び、パッケージ売上に左右される不安定なビジネスから脱却した。

さらにモバイルゲームのヒットは、IPそのものの認知向上にもつながる。『Fate』は以前から人気はあった作品だが、『FGO』の大ヒットでファン層がさらに広がった。『FGO』以外にもモバイルゲームをきっかけとして、『ラブライブ!』や『アイドルマスター』などファン層の広がった作品は複数存在する。『ポケモン』も『ポケモンGO』をきっかけに、それまで馴染みのなかった中高年のファン層が増えたといわれる。

1人1台以上保有するスマホ向けに基本プレイ無料とする形態は、深夜アニメや家庭用ゲームと違った層にアプローチ可能になる。SNSとの相性もよく、ゲーム次第で爆発的に広がる。

一方、ゲーム会社にとっては、リスク分散が可能になる。市場の成熟化に伴い、開発費やマーケティング費用が高騰するなか、ソーシャルゲーム黎明期に数百万円で開発していた時期は完全に過去の話となった。いまや数十億円に膨れ上がったゲーム開発・販促資金を1社単独で捻出する経営上のリスクは決して小さくない。さらにゲーム内施策やプロモーションなどアニメ放送と連動した取り組みもスムーズになるなど開発・運営上のメリットも大きい。

IPを意識した動きをとるゲーム会社として、Aiming<3911>の活躍が目立つ。同社の椎葉忠志社長は、かつてはIPをあえて使わないと公言し、オリジナルのモバイルゲーム重視で取り組み、『剣と魔法のログレス』などヒットタイトルを輩出した。しかし、市場の成熟化や競争の激化などを背景に2015年頃から新作リリース時の集客が困難になってきたと判断し、それまでの考えを改めた。ゲームの魅力以外に「プラスアルファ」の要素が必要と感じていたという。

その「プラスアルファ」のひとつとして、見出したのがIPだった。近年の『ドラゴンクエストタクト』や『陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン』に加えて、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか バトル・クロニクル』が成功を収めた。アニメIPに関しては、ゲーム化のライセンス許諾を受けるだけではなく、アニメ製作委員会にも出資し積極的に作品展開にも関与することもある。

また、グリー<3632>も同様に、数年間にわたって多くのアニメ作品への出資を行ってきたが、『ヘブンバーンズレッド』の大ヒットをきっかけとして、様々なIPホルダーとの協業の相談の機会が増えていると明かした。ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>も『スラムダンク』のアプリを世界配信し、中国や台湾、韓国などで大ヒットに導いた。

アニメや漫画作品にはすでに一定のファンや認知が存在するため、IPタイトルはリリース初期においてはプロモーションで有利に働く。近年はさらに世界的なアニメ人気の拡大を背景にグローバル展開でも同様のメリットが生まれる可能性も出ている。『鬼滅の刃』の非公式アプリが記憶に新しい。放置ゲームにキャラクターを載せたものだったが、リリース後、瞬く間に台湾・香港・マカオで売上ランキング1位を獲得し、作品人気の高さを示した(著作権侵害でアプリは削除された)。

アニメ作品は動画配信サービスなどを通じて世界中で視聴されており、アニメファンは年々増えている。ゲーム化に最適な作品を選択してうまくゲーム化すれば、モバイルゲーム会社の長年の課題だった海外市場での収益獲得につながる。前出の椎葉社長は、予算規模が桁違いに大きい海外有力タイトルが増えていく中、日本のゲーム会社も日本ならではの強みを活かして世界で勝負しなければ生き残れないと危機感を持つ。

中国を中心とする海外ゲーム企業の台頭を受けて、国内企業の開発力の低下を懸念する業界関係者もいる。「カプコンや任天堂、コーエーテクモが増益を続けられるのはなぜか。それは開発に投資し続けているからだ。モバイルとはいえ、ゲーム会社である以上、競争力の源泉となる開発力を軽視してはならない」。他方、IPプロデュースやWeb3、コンソールゲームへの進出など新しい道を模索する会社もある。どれが正解かは結果でしか判断できない。モバイルゲーム業界はいま分水嶺に立っている。