
去る2025年9月、和歌山にて「Game Grove X」のキックオフイベントが開催された。
本プロジェクトは、和歌山県デジタル社会推進課を中心に、和歌山大学、トランスコスモス、関西を中心に活躍するゲーム企業等などが協力し、ゲームと人材育成、地域創生をつなぐ新たな取り組みとして立ち上がったものである。
キックオフイベントは、地域を拠点としながら全国・世界に開かれたコミュニティを目指す第一歩となった。本稿ではその模様を紹介していく。
主催者が語った課題意識と「Game Grove X」に込められた思い

オープニングでは、和歌山県デジタル社会推進課の宮本氏から挨拶と「Game Grove X」の立ち上げ経緯について語られた。現在、和歌山県が直面する課題として「若者の流出」「交流の場の不足」「デジタル社会への対応」「多様性社会への対応」を挙げた。

「若い世代が流出してしまう状況を打開し、和歌山をクリエイティブと挑戦の場として選んでもらうためには、新しい交流と活動の拠点が必要である。その起点としてゲームというコンテンツは最適」と語り、プロジェクトへの期待を示した。

「Game Grove X」という名称には“森のように人が集まり、成長し、実を結ぶ場”という思いが込められている。和歌山が「木の国」と呼ばれてきた歴史とも重なり、ロゴには「無限の可能性」と「継続的な成長」という意義が表現されていた。宮本氏は「ここで育ったクリエイターが全国、さらには世界へ羽ばたく拠点となることを願っている」と結んだ。
和歌山大学システム工学部の床井教授も登壇し、学生が自主的に学び、課題解決やゲーム制作に挑戦する教育環境を紹介。学内での研究活動と「Game Grove X」が連動することで、学びと実践を往復できる仕組みを築いていくと述べた。また、トランスコスモスの小林氏は「和歌山発の取り組みを支援できることは意義深い」と語り、今後の成果発表イベントにも期待を寄せた。
「Game Grove X」の4つの柱――コミュニティからショーケースへ

続いて、「Game Grove X」のコミュニティ運営を務めるディレクターズユニブ社の横田氏らからは、「Game Grove X」の全体像や構想について説明された。同プロジェクトは次の4つの柱から成り立っている。
- オンラインコミュニティ(Discord上での交流拠点)
- オンラインゲームジャム(約3か月にわたる制作活動)
- オンラインイベント(ツール講座やセミナー)
- ゲームズショーケース(成果発表イベント)
Discord上のコミュニティは、学生や現役クリエイター、人事担当者までもが参加する開かれた場である。自己紹介や質問、雑談、ツール紹介といったチャンネルが用意され、立場や経験を超えて交流できる設計になっている。「互いを尊重しながら学び合う空間にしたい」という横田氏の言葉には、単なる情報共有の場を超えたコミュニティ形成への強い意志が感じられた。

特徴的なのは、11月から3か月にわたって開催される「DGXオンラインゲームジャム」である。目的は「クリエイター育成」「人材交流」「就職支援」の3点に集約される。
- チーム制作を通じて実践的なスキルを習得する。
- 学生とプロクリエイターが混成チームで協働し、視野を広げる。
- 制作成果をポートフォリオ化し、就職活動に直結させる。
12月には中間発表会が予定され、2026年1月31日には和歌山城ホールで「GGX Games Show case」が開催予定だ。

ここでゲームジャムの成果が展示され、来場者は実際にプレイ可能となる。優秀作品にはアワードも用意され、若手クリエイターが業界に飛躍する契機となることが期待されている。

教育的効果とコミュニティの広がり――ゲームジャムセミナーの狙い

キックオフイベントの後半では「ゲームジャムを通したクリエイター人材交流」と題したセミナーが行われた。登壇したのはBitSummit Game Jam関係者や、過去の受賞クリエイターらである。

まず紹介されたのは、ゲームジャムが持つ教育的意義である。短期間でアイデアを形にする過程は、企画力や実装力、プレゼンテーション力を総合的に鍛える場となる。特に学生や若手クリエイターにとっては、技術習得だけでなくチームでの協働、意思疎通のスキルが磨かれる点が大きい。

さらに、ゲームジャムは単なる作品発表の場にとどまらない。参加者同士が自然に交流し、仲間やメンターを見つけるきっかけにもなる。セミナーでは「BitSummitのゲームジャムをきっかけにプロの現場へ進んだ」「チームメンバーとその後も制作を続け、インディー作品を発表した」といった具体的な成功事例も紹介され、会場の学生たちの関心を集めていた。

登壇者らは口を揃えて「失敗を恐れずに挑戦することが何より重要だ」と強調した。限られた時間で未完成の作品に終わることもあるが、その経験自体が貴重な財産となる。こうした経験を通じて次の挑戦へとつながり、やがて業界全体の人材層を厚くしていくのだ。
和歌山から始まる“ゲームクリエイターの森”の挑戦

今回のキックオフイベントには80名以上が参加し、学生や若手クリエイターが主体となって活発な交流が行われた。展示作品の試遊や立食形式でのネットワーキングも設けられ、現場は終始熱気に包まれていた。

セミナーで語られたように、ゲームジャムやコミュニティ活動には教育的・産業的な効果が期待される。人材育成、就職支援、企業とのマッチングといった側面が重なり、和歌山発の「Game Grove X」が業界に新しい流れをもたらす可能性は大きい。
また、コミュニティ運営が語った構想やロードマップ、セミナーで示された教育的意義。これらが合わさって「Game Grove X」は単なるイベントにとどまらず、和歌山を起点とする新しいゲーム文化の基盤として立ち上がったといえる。
なお、本イベントでは、インディーゲームに特化したゲームパブリッシャーとして人気インディーゲームブランド「ヨカゼ」を発信している株式会社room6代表取締役の木村氏と、「違う星のぼくら」などの人気ゲームを手掛けるインディークリエイターところにょり氏に対談も行われていた。そちらの内容はまた別途紹介予定となる。



