日本経済団体連合会(経団連)は10月6日、クリエイティブエコノミー委員会エンターテインメント・コンテンツ産業部会として、日本のコンテンツ産業の振興に関する提言を発表した。海外市場で成長を続ける同産業の国際競争力強化に向け、政府に対し官民連携の推進や支援策の拡充を求めた。
経団連は現状について、コンテンツ産業が海外市場で大きく拡大し、政府も「新たなクールジャパン戦略」などで基幹産業に位置付けていると指摘。一方で国際競争が激化しており、さらなる成長には官民の協力体制が欠かせないとした。
政府への要請としては、複数年にわたる大規模で戦略的な支援を早急に実施するよう求めた。政府が掲げる「2033年に海外売上高20兆円」目標の達成には、司令塔機能の強化や税制優遇措置など、産業全体への支援拡充が不可欠と訴えている。
また、2024年度補正予算や2025年度当初予算のコンテンツ関連施策を前提に、以下の分野で追加的かつ大幅な拡充を求めた。
海賊版対策では、対策の強化に加え、複数ジャンルを対象とした啓発活動やキャンペーンの拡充を提案した。海外展開支援では、グローバル市場の調査・情報提供体制やローカライズ費用、プロモーション支援の強化を要望した。
人材育成・生産性向上の分野では、教育機能の強化によるクリエイター人材の育成・確保、地方在住クリエイターの活躍支援、制作現場のデジタル化推進(DX支援)を挙げた。
分野別では、マンガについて海賊版対策とローカライズ支援の強化を、アニメでは新人教育や採用イベント、デジタル技術投資、地方スタジオ開設支援を提案。ゲームはグローバルヒットを目指す新規タイトルの開発支援、実写・ドラマは制作現場の健全化やロケ誘致、国際共同製作の促進、大型スタジオ整備支援を要望した。音楽分野では海外ライブツアーやフェスティバルなどイベントへの支援を求めている。
経団連は、今後も官民の健全なパートナーシップ構築を通じて、コンテンツ産業の国際競争力強化に取り組む姿勢を示した。
(1)海賊版対策
① 海賊版対策の強化
② 複数ジャンルにまたがる啓蒙施策
③ 「STOP!海賊版」キャンペーンの強化
(2)海外展開支援
① グローバル市場調査・情報提供体制の強化
② グローバル展開作品へのローカライズ費用の支援強化
③ 重点IP等の海外向けプロモーション支援強化
(3)人材育成・生産性向上
① 教育機能の強化によるクリエイター人材の育成・確保
(高度専門人材・中核的専門人材等)
② 地方在住クリエイターの活躍の場の創出
③ 制作現場のDX推進支援強化
(4)分野別
【マンガ】
① 海賊版対策の強化(再掲)
② グローバル展開作品へのローカライズ費用の支援強化(再掲)
【アニメ】
① スタジオに対する新人教育支援、リクルートイベント開催支援
② スタジオに対するデジタル技術投資、インフラ設備投資支援
③ 地方アニメスタジオ開設支援
【ゲーム】
① グローバルヒットを目指す新規ゲームタイトルの企画・初期開発支援強化
② グローバルヒットを目指す新規ゲームタイトルの制作支援強化
【実写・ドラマ】
① 制作現場健全化のための支援
② ロケ誘致、国際共同製作に向けたインセンティブ強化
③ 大型スタジオ開発および既存スタジオへの設備投資支援
【音楽】
① 海外大型ライブツアー・フェス等イベントへの支援
■日本コンテンツ産業、政府支援の必要性 「放っておいても伸びた時代」と「今」の違い
近年、日本の漫画、アニメ、ゲームといったコンテンツ産業の政策支援を巡って、「政府は何もしなかったからこそ伸びた」という議論を耳にすることがある。しかし、この指摘は過去の成功体験に基づくもので、現状の市場環境とは大きく異なる。
1980年代から2000年代にかけては、国内市場が十分に大きく、家庭用ゲーム機やアニメ放映枠に支えられて比較的容易に事業を拡大できた。しかし現在の市場は、Netflixやテンセントなど世界規模で競争が繰り広げられるグローバル市場だ。国内だけで自力展開するのは難しくなっている。
加えて、制作費の高騰や人材流出、海賊版の蔓延、配信プラットフォームの寡占化など、当時には存在しなかった構造的課題も増えている。この状況下では、国家や業界団体による戦略的な支援なしに国際競争力を維持することは困難という認識がある。
経団連の提言は、こうした現場の限界と課題を反映したものである。業界関係者自身が、官民連携による支援や制度改善を求めているのだ。「自由放任で成長した時代」と「支援がなければ持続できない現代」を混同しては、現実の産業構造を見誤ることになる。
現状認識を誤らず、政府や業界が協力して持続可能な成長基盤を整えることこそ、今の日本コンテンツ産業に求められている課題であろう。