
ブシロード<7803>のグループ内のデータ分析組織「アニメデータインサイトラボ」は、「2026年アニメ業界トレンド予測」を公開した。
はじめに
2025年のアニメ業界は、大きな変化の年でした。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』が圧倒的な強さで年間グランプリを獲得し、『タコピーの原罪』が幅広い層へ話題を広げました。一方で、初速は低調だった『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』が口コミで20倍以上に成長し、ダークホース賞を受賞するなど、「初速だけが全てではない」ことが明確になった年でした。
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では、2026年はどうなるのか?
本記事では、これまでアニメデータインサイトラボにて調査レポートを提供してきた、エンタメデータ分析の専門家・湯通堂圭祐(株式会社SevenDayDreamers代表)と、エンタメビジネスプロデューサーの大貫佑介(株式会社ブシロードムーブ・ゲームビズ代表)が、それぞれの視点で2026年のトレンドを予測します。
【プロフィール】
株式会社SevenDayDreamers
湯通堂 圭祐
株式会社マクロミルでデータサイエンティストとして複数の新規事業を立ち上げ、その後、FiNC Technologiesにてデータ分析、グロースハック、プロダクト開発、経営企画、人事の責任者を歴任。現在は、株式会社SevenDayDreamersを創業し、データとAIを活用してコンテンツIPの価値最大化に取り組む。
アニメデータインサイトラボ
代表:大貫 佑介
コンテンツ・IPビジネスプロデューサー。 株式会社ブシロードメディアコンテンツユニット副ユニット長、株式会社ブシロードムーブ代表取締役社長、株式会社ゲームビズ代表取締役社長、新日本プロレスリング株式会社の社外取締役も務める。ブシロードグループ内でアニメ・ゲーム・音楽のメディアミックス展開を統括している。
エンタメデータアナリスト湯通堂が選ぶ
4つのトレンド(データ分析視点)
考察前提作品が増える
2025年は考察要素がある作品が話題になりました。『いいこと悪いこと(テレビドラマ)』『タコピーの原罪』といった作品では、SNS上で考察が盛り上がり、視聴者が増え続けました。データで見ると、こうした作品の維持率は高く、他作品を大きく上回りました。
これまではライトに視聴できる異世界系アニメがトレンドでしたが、徐々に考察作品は増え始めています。いかにユーザーを巻き込み発信してもらうか?が大事な現在のアニメ市場において、考察が盛り上がる作品は、広告費をかけなくても視聴者が増え続ける構造です。2026年は、こうした作品がさらに増えるでしょう。
90年代〜2000年代アニメのリメイクが増える
2025年、『地獄先生ぬ〜べ〜』『キャッツ♥アイ』『YAIBA』といった90年代〜2000年代作品のリメイクが話題になりました。これらの作品が成立する背景には、『30-40代の購買力』×『配信環境の整備』という構造があります。
かつてアニメを見ていた世代が消費者として成熟し、購買力を持つようになりました。加えて、配信プラットフォームの充実により、リアルタイム視聴以外でも作品を楽しめる環境が整いました。
2026年は、この流れがさらに加速します。既に『魔法騎士レイアース』『ハイスクール!奇面組』といった作品のリメイクが発表されており、90年代後半〜2000年代前半の作品が続々と復活するでしょう。
楽曲を軸に広がる作品が増える
2025年、楽曲や映像がきっかけでアニメが発見される現象が加速しました。『転生おじさん』の「マツケンサンバ」、『野原ひろし 昼メシの流儀』、『黒岩メダカに私の可愛いが通じない』などが代表例です。従来は「アニメが人気 → 楽曲が注目される」でしたが、今は「楽曲が拡散 → アニメが発見される」に逆転しています。
注目すべきは、バズの経路が二極化している点です。
ニコニコ動画発X行きのバズ: 30代以降の男性層を中心に、考察や感想を文字ベースで共有。『野原ひろし 昼メシの流儀』『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』がこのパターンです。
TikTok発YouTube行きのバズ: 10〜20代の女性層を中心に、印象的なシーンやダンス、音楽の切り抜き動画が拡散。『えぶりでいホスト』『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』がこのパターンです。
特にTikTok型のバズでは、『見たいシーン』を起点とした一気見視聴が加速しています。2026年は、この流れがさらに加速するでしょう。
放送中7週目以降に伸びる作品が増える
2025年、もっとも印象的だったのは『銀河特急ミルキー☆サブウェイ』です。初速は270作品中で下位クラスでしたが、YouTube全話公開+ショート形式で2025年を代表するアニメとなりました。
『羅小黒戦記』も同様に、初速は圏外だったのに、8週目に維持率400%を記録。劇場版2公開というトリガーがありました。『えぶりでいホスト』は、楽曲がTikTokでバズり、一気に拡散しました。
これら3作品の共通点は、配信プラットフォームや外部トリガーを活用した拡散です。『えぶりでいホスト』『銀河特急ミルキー☆サブウェイ』は前述のTikTok型バズで、印象的なシーンや楽曲が話題になり視聴者を集めました。『羅小黒戦記』は劇場版公開という別のトリガーでしたが、いずれも配信環境の充実が後伸びを支えています。こうしたダークホース作品は2026年にも出るでしょう。
エンタメビジネスプロデューサー大貫が選ぶ
4つのトレンド(マーケティング・現場視点)
2期や3期、過去の名作のリメイクの発表が増える!
アニメデータインサイトラボでも毎クールたくさんの作品を紹介していますが、どんどんアニメ化が出来る原作が枯渇しています。
一方でアニメビジネスへの参入企業が増えていて、国家的な戦略も後押しし、日本のアニメの世界出荷が増えると予想されます。そうすると、「アニメ化をするために」原作がどんどん必要になります。
企業はアニメ化に際して「何万PV読まれた」とか「原作がどれくらい売れた」という情報をもとにアニメ化の企画を通します。「わかりやすい実績がある原作」ばかりアニメ化していくので、そういった原作は枯渇していきます。そうなると売上が、予算がと会社から上司からプレッシャーが掛かります。アニメPはアニメ化をしなければ売上は作れませんからね。
そこで、「過去にある程度実績があったもの」が再注目されるでしょう。
オリジナル原作が増えるのでは?という見方もあると思いますし、その通りです。
ですが、残念ながら人間は「得体のしれない新規コンテンツ」より「過去の実績があったコンテンツ」を信用する傾向がある生き物です。オリジナルの企画よりも「わかりやすい実績の作品」のほうが圧倒的に企画が通ります。その人間のアルゴリズムの産物として、オリジナルより続編やリメイクが増えるわけです。
この流れは2026年は序章にすぎず、今後2~3年は続くでしょう。これを読んで頂いているビジネスパーソンの皆様なら容易に想像がつくかと思いますが会社が本格参入しはじめた分野は簡単に撤退とはなりません。
余談ですが、「原作なんてまだまだいっぱいあるじゃん。」と思われる方も多いかと思いますが今アニメ化出来るのは海外で値が付く(海外の配信サイトで高く購入される)作品です。一時期の日本のアニメがDVDが売れる作品が主流だったように、商売のトレンドに合わせてアニメ化する作品は変わってくるのです。
個人的には、海外で値段がつきやすい原作以外もビジネス化出来るように頑張りたいと思います。そうすればアニメ化のアルゴリズムに新しい流れが作れます。結果的に新作も増えると思いますので…。
「アニメ」よりも「現実」が「コンテンツとして成立」してしまう。
「現実が面白すぎるんだよ!最近!!」
今年当グループの代表である木谷高明が私とアニメ宣伝に関して議論をしていた際に発した言葉です。正確にはこのあとに「面白すぎる現実が手軽にどんどん供給されていくから中途半端なアニメだと手数で負けちゃう」的なコメントが続いたんですが、この「現実が面白すぎる」と「手軽にどんどん供給される」は私の中でもやもやと考えていたことがピンポイントに言語化されてとても気持ちよく印象に残っています。
苦労して作って、話題化を考えたアニメの情報解禁や宣伝施策より、政治、有名人・一般人の不祥事、SNS上での珍事のほうがトレンドに上がる昨今。
テレビなどのマスメディアの報道、SNS上のトレンド、天候の話題などありとあらゆるものがメディアミックスされて「現実がコンテンツ化」します。
現実のコンテンツ化で、一番わかりやすいのが「リアリティ系コンテンツ」の流行でしょう。配信プラットフォームでも再生数などを見る限り伸びてきており、アニメ業界全体としては競合が増えてしまうことになります。
そもそも国内をビジネスのメインターゲットに据えていない今のアニメ業界が国内で苦戦するのはそりゃそうだろうとご指摘を頂くと思いますし、そりゃそうだろうと私も思いますが、今後国内アニメはより「コンテンツ化した現実」やその延長上にある「リアリティ系コンテンツ」と戦うことになっていくでしょう。
やだなあ。アニメプロデューサーになって好きなアニメと仕事していたはずなのに、結局現実が襲い掛かってくる(笑)
若者のアニメ離れ(みたいなこという人が出てくる)
○○離れって業界人がいうと魅力的な○○がないのが悪いのに若者のせいにするな!とお叱りを受けそうなので保険を掛けると、そもそも国内ではアニメブームなんて起きてないので別に若者がアニメから離れてなんていない!と私は思ってます。安定して好きな人は好きな作品を見ていますし、変わらずアニメは愛されると思います。
ただそういうことを言う偉い人は出てくる気がします。(笑)
この記事の冒頭で、軽く触れましたが現在、アニメ化作品はかなり似たようなジャンルの作品です。(転生や成り上がり、バトルものなどが主流)これらは日本人の方々向けではなく海外向けビジネスとしてアニメ化しています。日本人向けに作品を作ってもビジネスとして成立しにくい場合が多いのです。
今の日本アニメでは海外の配信プラットフォームの売上が制作費の7割以上を賄っていることがほとんどです。下手すると8割以上かもしれません。それだけ売れるならアニメいっぱい作りますよね。ここ最近はその海外向けアニメを日本でも放送していたので、アニメがめっちゃブームになったように見えてました。鬼滅とかのブームもありましたしね。
若者はアニメから離れてはいないんですが、昔よりたくさん供給されてたから見ていたアニメに飽きた。だって同じようなものが多いし!ってことです。
ところが内情がよくわかっていない人などが、国内の視聴が落ちてきたことや、一部の同じようなものをばっかりで飽きたという事象を組み合わせて「若者のアニメ離れ」とかいうんだろうな、と思った。ということです!
個人的にはちゃんと国内でもビジネスになるようなモデルにしていきたなあとは思います。海外のアニメ離れが起きないことを願いながら(笑)
冒頭に見せ場がMAXな切り抜きや広告が増えていく
アニメの宣伝プロデューサーをしていて、最近手ごたえがある広告のクリエイティブはほとんど「冒頭がセンセーショナル」で賛否両論で「議論を呼ぶ」ものです。
いま、コンテンツはすぐに飽きられてしまうので一瞬で目を奪い時間を奪えるものにどんどん特化しており、その流れはさらに加速すると考えています。
アニメ宣伝を行っていても、効果があるクリエイティブはだいたい議論を呼ぶものか冒頭がクライマックスなもの。あとはその作品を最も象徴するシーンのある場面です。
ネタバレを気にするのはファンの方々。そういう方々以外の新規層を取るためには残念ながら「クライマックスのダイジェスト化」が避けられません。皆さんにも身に覚えがあるのではないかと思うのですが、今この先面白くなるのかもわからないコンテンツ、長く見られなくなったのではありませんか?
私も、新しいアニメを見るのと昔のアニメを見るのでは心的なハードルがかなり違います。どんどんどんどんこの風潮に自分もならされているなあと思い、戦慄しました。
この流れ、止めること出来るんでしょうか…。
まとめ
データアナリストとマーケターが選んだ、合計8つのトレンド予測。
湯通堂氏は「考察前提」「ノスタルジー」「楽曲軸」「後伸び型」というデータから見える構造変化を指摘しました。
大貫氏は「原作枯渇」「現実のコンテンツ化」「若者のアニメ離れ」「センセーショナルな広告」という現場の肌感覚から、業界構造の変化を語りました。
両者に共通するのは、「初速依存からの脱却」「長期的な視聴者関係の重視」という方向性です。2026年のアニメ業界は、短期的な話題性だけでなく、コアファンとの深い関係性を築く方向にシフトしていくでしょう。
答え合わせは、2026年末に!
【2025年調査レポートアーカイブ】
https://gamebiz.jp/news/tag/23237
(C)️Anime Data Insight Lab
会社情報
- 会社名
- 株式会社ブシロード
- 設立
- 2007年5月
- 代表者
- 代表取締役社長 木谷 高明
- 決算期
- 6月
- 直近業績
- 売上高561億7500万円、営業利益48億6800万円、経常利益48億4400万円、最終利益34億1800万円(2025年6月期)
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 7803