
東映アニメーション<4816>は、人材戦略を経営戦略「IPを戦略の軸に据えたグローバル事業展開」の中核に位置付けている。背景には、世界的なアニメ需要の拡大と、産業構造そのものの変化がある。
かつてアニメ産業は、作品ごとの受託制作を中心としたハイリスク・ハイリターンの事業モデルが主流だった。制作会社は案件ごとに人材を集め、制作終了後は解散する「プロジェクト型」の色彩が強く、業務委託やフリーランスを活用する柔軟な雇用モデルが合理的だった。
しかし近年は、世界的な配信需要の拡大によって状況が変わりつつある。作品は放送終了後も配信を通じて視聴され続け、商品化やイベント、ライセンスビジネスへと展開されることで、長期にわたり収益を生み出すIP資産へと変貌している。安定した需要が見込めるようになったことで、制作能力そのものが競争力となり、「人を抱え、育てる」ことの重要性が高まっている。
東映アニメーションが打ち出した人材戦略は、こうした業界の転換点を象徴するものと言えそうだ。
■「次世代型クリエイター」と海外人材を育成
中期経営計画「VISION2030」では、「スタジオの進化」「IPの強化」「地域展開の強化」「顧客接点の拡大」を4つの成長戦略として掲げる。
同社が目指す人材像は、伝統的なアニメーション技術と最新テクノロジーを融合できる「次世代型クリエイター」と、海外市場で事業展開を担う「グローバルビジネスプロフェッショナル」が連携する組織である。
世界的なアニメ需要の増加によってクリエイター獲得競争は激化しており、東映アニメーションは2031年3月期までに海外売上比率60%を目標に掲げる中で、制作体制と海外事業人材の強化を進めている。
■作画アカデミーで「育てて採る」仕組みを構築
その中核となるのが、2023年4月に開講した「東映アニメーション作画アカデミー」だ。
同アカデミーでは受講料を無償化し、受講生には月額15万円の奨励金を支給。現役のトップアニメーターによる1年間の直接指導を経て、審査合格者は専属アニメーターとして採用される。
2026年3月期には修了者から7名を採用した。
優秀な人材を外部市場で獲得するだけでなく、自社で育成し、制作現場へ送り込む仕組みを整備している点は特徴的だ。
アニメ業界では長らく、クリエイターは個人事業主やフリーランスとして活動するケースが多かったが、近年は人材不足の深刻化を背景に、獲得競争が激化し、社員化や専属契約を進める企業も増えている。
東映アニメーションの取り組みは、人材を流動的なリソースではなく、長期的な競争力を支える資産として捉え始めていることを示している。
■大阪スタジオ設立で地域から人材を発掘
2026年5月には大阪スタジオを新設した。関西圏の教育機関と連携し、地域に根差したクリエイター育成を進めることで、東京への人材集中だけに依存しない制作基盤の構築を目指す。
同社は2031年3月期までに数百人規模の人員増強を計画しており、大阪スタジオやベトナムスタジオなどを含め、グローバルの映像制作能力を現在の約1.5倍に拡充する方針だ。
■社員クリエイターが新規IPを生み出す循環へ
東映アニメーションは育成だけでなく、クリエイターの挑戦機会の創出にも取り組む。製作部発のオリジナル短編企画「Pro, Pro, Pro!!」では、社内クリエイターからアイデアを募集し、選定された企画をパイロット映像として制作・公開している。
単なる教育制度ではなく、
「育成する」
↓
「制作現場で経験を積む」
↓
「オリジナル企画を生み出す」
↓
「新たなIPを創出する」
という循環を社内で完結させることを目指しているようにも見える。
■AIは「代替」ではなく創作支援
同社はAIなど次世代技術についても、「クリエイターの代替ではなく、創造的活動への集中を支援するもの」と位置付けている。
業務効率化を進めることで、クリエイターが本来の表現活動により多くの時間を割ける環境を整備し、「描きたいこと」「表現したいこと」に集中できる制作現場の実現を目指す。
■人材はコストではなく「IPへの先行投資」
東映アニメーションは、人件費やクリエイターへの報酬を短期的なコストではなく、「将来にわたって価値を生み出し続けるIPを形成するための先行投資」と明確に位置付けている。
評価制度でも単年度の成果だけではなく、作品品質への貢献、技術の継承、後進育成などを重視する。
世界的なアニメ需要の拡大を受け、アニメ産業は従来の「案件ごとに人を集める受託産業」から、「人的資本を蓄積しながらIPを育てる産業」へと変化しつつある。
東映アニメーションの人材戦略は、その転換を象徴する取り組みと言えそうだ。
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会社情報
- 会社名
- 東映アニメーション株式会社
- 設立
- 1948年1月
- 代表者
- 代表取締役会長 森下 孝三/代表取締役社長 高木 勝裕
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高936億6900万円、営業利益310億1800万円、経常利益334億6200万円、最終利益250億7000万円(2026年3月期)
- 上場区分
- 東証スタンダード
- 証券コード
- 4816
