
1980年代に人気を博したゲームブックを、現代のデジタルゲームとしてよみがえらせた"読書型"ファンタジーアドベンチャー『ヴェリタステイルズ:暗黒城の魔女』。プレイヤーは本を読み進めながら選択を重ね、時にはサイコロを振って運命を委ね、自分だけの物語を紡いでいく"ヴァーチャル・アドベンチャー・ブック"だ。
本作をプレイして真っ先に感じたのは、「これは一人で遊べるTRPGだ」ということだった。プレイヤーが下す一つひとつの選択と、サイコロが導く偶然。その積み重ねによって紡がれる冒険は、まるで自分自身が物語の登場人物になったかのような没入感を与えてくれた。
テーブルトークRPG(TRPG)は、本来であればゲームマスター(GM)と複数人のプレイヤーが集まり、会話やサイコロを通じて物語を進めていく遊びだ。本作では、その進行役をゲームが担うことで、TRPGならではの自由度や偶然性を、一人で好きな時間に楽しめる体験へと昇華している。ゲームブックへのリスペクトと、デジタルゲームならではの遊びやすさを融合させた本作は、懐かしさだけに頼らない、新たな冒険体験を生み出していた。
本稿では、実際にプレイした体験をもとに、本作ならではの魅力を紹介していく。
■まるでGM付きTRPGを一人で遊んでいるような感覚 選択とダイスが物語を動かす
ゲームを開始して最初に驚かされたのは、本作が一般的なファンタジーRPGとはまったく異なる形で物語を語り始めたことだ。
プレイヤーを待っているのは、キャラクターを直接操作してフィールドを冒険するファンタジーRPGではない。机の上に開かれた一冊の本、その傍らにはサイコロや鉛筆、コインが置かれ、魔法使いの老人がプレイヤーを物語へと誘う。ゲームを遊び始めたというよりも、まるで誰かが用意したゲームブックを広げ、冒険の準備を始めたような感覚だ。
ゲーム内では魔法使いの老人が語り部となって物語を読み進め、プレイヤーはその内容を聞きながらページをめくり、次の行動を選択していく。さらに登場人物にはボイスが用意されているため、「物語を読む」というより、「GMが進行するセッションへ参加している」という印象を受けた。
▲物語の語り部を務める魔法使いの老人。
ページをめくり、語り部の言葉に耳を傾け、現れた選択肢に悩む。その繰り返しが続くうちに、不思議と「ゲームを遊んでいる」という意識より、「誰かが進行するTRPGの卓に参加している」という実感の方が強くなっていった。 
▲本作では、戦士の「ハヴェロック」と魔法使いの「パネリ」のどちらかを主人公として選択できる。今回はパネリ編をプレイした。
主人公のひとりであるパネリは、過去の記憶を失い、ホルム修道院で魔術や医術を学びながら穏やかな日々を送っていた。しかし、恩師である修道院長が王都エリシングへ向かったまま消息を絶ったことで、自らも王都へ旅立つことになる。
物語の導入自体は王道ファンタジーRPGらしい。しかし、その先に待っている体験は大きく異なる。
プレイヤーが担当するのは、あくまでも主人公の意思決定だ。敵と戦うのか、それとも交渉を試みるのか。危険を承知で先へ進むのか、あるいは引き返して別の道を探すのか。その都度表示される選択肢を自ら選び、その結果を受け止めながら物語を進めていく。
だからこそ、プレイ時間を重ねるほど「パネリを操作している」という感覚は薄れ、「もし自分がこの場にいたらどうするか」を自然と考えるようになる。選択肢を選ぶたびに、自分自身がパネリとして冒険しているような感覚が芽生えていく。
実際、筆者が「これは一人で遊べるTRPGだ」と感じたのも、この没入感によるところが大きい。ゲームマスターが物語を語り、プレイヤーが自ら判断して物語を動かしていく――そんなTRPGならではの体験を、本作はデジタルゲームとして見事に再現していた。
もちろん、TRPGの魅力は自由な選択だけではない。「思い通りにならないこと」もまた、大きな魅力のひとつだ。
本作では、その役割をサイコロが担っている。どれだけ慎重に考えて選択しても、最後はダイスの出目によって運命が左右されることもある。その理不尽さすら含めて、「自分だけの冒険」へと変わっていく。
ダイスの出目に一喜一憂し、自分の判断を何度も悔やみながら、それでもページをめくる手は止まらない。そんな体験こそ、本作を「一人で遊べるTRPG」だと感じた最大の理由だった。
■ゲームブックを現代によみがえらせた"ヴァーチャル・アドベンチャー・ブック"
『ヴェリタステイルズ:暗黒城の魔女』が掲げる"ヴァーチャル・アドベンチャー・ブック"というコンセプトは、本作を語るうえで欠かせない要素だ。
ゲームブックとは、読者が物語を読み進めながら選択肢を選び、その結果によって物語が分岐していく書籍のこと。時にはサイコロを振って判定を行い、能力値や所持品を管理しながら冒険を進めていく、読書とゲームが融合した娯楽として親しまれてきた。
本作は、その魅力を忠実に受け継ぎながらも、アナログ時代に手間だった部分をデジタルゲームとして丁寧に整理している。
ページをめくる動作や、机の上に置かれた鉛筆やサイコロ、コインなどは、ゲームブックを実際に遊んでいるような雰囲気を演出。一方で、能力値や所持品の管理、ダイス判定の計算といった煩雑な処理はすべてゲーム側が担当してくれる。数値を書き間違えたり、計算を間違えたりする心配もなく、プレイヤーは目の前の選択と物語だけに集中できた。
GM役となる語り部も、テンポ良く物語を進行してくれる。アナログのTRPGやゲームブックのように進行が止まることがなく、遊びたい時にすぐ冒険へ没頭できるのも、デジタル作品ならではの利点だと感じた。
▲レベルアップした時やダメージを受けた時には数値を消しゴムで消して書き直してくれるなど、“机の上で遊んでいる感”を最大限に演出してくれる。
ゲームブックを遊んだ経験がある人にとっては、懐かしい遊びを現代的な操作性で楽しめる作品になるだろう。一方で、ゲームブックに触れたことがない人でも、面倒な管理に煩わされることなく、その面白さだけを味わえる。本作は、過去の文化を再現するだけではなく、現代のプレイヤーへ向けてアップデートした作品だと感じた。
■ダイスが生み出す緊張感 失敗すら物語になる絶妙なゲームバランス
プレイしていて特に印象的だったのは、「失敗すること」がきちんとゲーム体験として成立していることだ。
王都エリシングへ到着したパネリを待っていたのは、人気のない静まり返った街だった。異臭が立ち込める不穏な空気の中を進んでいくと、生ける屍との戦闘が発生する。
序盤の敵ということもあり、最初はそこまで苦戦しないだろうと考えていた。しかし、その油断はすぐに打ち砕かれた。
▲戦闘では、敵味方がそれぞれ2個のダイスを振り、出目の合計にレベルを加えた「行動値」を競うというルールになっている。行動値が上回れば敵からの攻撃は受けず、一方的にダメージを与えられるが、下回った時はその逆で、敵からの一撃は非常に強力。
何とか敵を退けたと思ったのも束の間、今度は大量の敵に囲まれてしまう。王都へ入る前に合流したハヴェロックとも散り散りになり、逃げ道を探して街中を駆け回ることになるのだが、ここで選択を誤ると、あっさりゲームオーバーになってしまう。
最近のRPGでは、多少危険な選択をしても救済される場面は少なくない。しかし本作では、プレイヤーの判断がそのまま結果へとつながる。「そんなところでゲームオーバーになるのか」と驚かされた一方で、その容赦のなさこそがゲームブックやTRPGらしい魅力だと感じた。ただし、ゲームオーバー後は最初からやり直すだけでなく、直前まで時間を巻き戻して再挑戦することも可能。緊張感を保ちながらも、現代向けの遊びやすさはしっかり確保されていた。
また、戦闘の勝敗を左右するのはダイスだけではない。武器や防具には使用回数が設定されている。0になると消失してしまうほか、スキルを使うたびにその回数も大きく減少する。そのため、「今ここでスキルを使うべきか、それとも温存するべきか」という判断が常に求められる。
筆者も「序盤だから節約しよう」とスキルの使用を控えた結果、余計なダメージを受けてしまい、結果的に回復アイテムを多く消費することになった。目先のリソースを惜しんだ判断が、後々まで響くのである。
ここぞという場面で思い切ってスキルを使えば、危機を切り抜けられることもある。しかし、その代償として装備の消耗は進み、次の戦いが苦しくなるかもしれない。
▲パネリのスキル「魔法の矢」で敵の急所を突くことができれば大きなダメージを与えられる。しかし、魔導書の使用回数を大きく消費するため乱発はできない。
運だけではなく、プレイヤー自身の判断もまた結果を左右する。この絶妙な駆け引きがあるからこそ、一つひとつの戦闘や選択に自然と力が入る。成功も失敗も含めて、すべてが自分だけの冒険譚として積み重なっていく。この感覚は、一般的なRPGやアドベンチャーゲームでは味わえない、本作ならではの魅力だ。
■王道だからこそ引き込まれるダークファンタジー
システム面ばかりに注目してきたが、本作を最後まで遊びたくなる理由は、それだけではない。プレイヤーを冒険へ引き込む、骨太なダークファンタジーの世界観もまた、大きな魅力だ。
舞台となるのは、ユラン国の王都エリシング。おとぎ話にも登場する魔女・イヌボーグが宮廷魔術師として迎えられたことをきっかけに、王都では流行り病や不気味な噂が広がり始める。「魔女イヌボーグは国を滅ぼす悪鬼だ」。救国の英雄として迎えられたはずの彼女は、やがて民衆から恐れられる存在へと変わっていく。
巨大な城壁に囲まれた王都や、小高い丘にそびえる城、王族を守る騎士団の存在、そしてパンやチーズといった食べ物が回復アイテムとして登場するなど、西洋ファンタジーらしい世界観も丁寧に描かれている。そこへ魔法や魔女という存在が自然に溶け込み、王道だからこそ入り込みやすい舞台が作り上げられていた。
実際に王都へ足を踏み入れると、街は人影も少なく、不穏な空気に包まれている。異臭が漂い、何が起きたのかも分からないまま探索を進めていく展開は、不安と好奇心を同時に刺激してくれた。「この街で何が起きているのか」「魔女イヌボーグは本当に悪なのか」「パネリの過去には何があるのか」。ページをめくるたびに新たな出来事や人物が現れ、自然と先の展開を追いたくなってしまう。
▲王都に到着した際、門の前に立ちふさがるゴーレムと戦闘するハヴェロックと出会う。もう一人の主人公であるということもあり、自然と信頼したくなる存在だった。
また、本作の魅力は主人公だけではない。旅の途中で出会う人物たちも、それぞれ事情や信念を抱えており、単なるイベント用NPCには収まらない存在感を放っている。中でも、ホルム修道院でパネリと4年間を共に過ごした修道女・ヒルレビは、初対面の人物ばかりが登場する物語の中で、数少ない安心して接することのできる存在だった。主人公だけでなく、彼ら一人ひとりがどんな結末を迎えるのかも気になってくる。
▲誰を信用していいのか分からない状況が続く中、ホルム修道院で4年間を共に過ごしたヒルレビの存在は、プレイヤーにとっても数少ない心の拠り所だった。占いが得意で、パネリが危機を乗り越えられるよう未来を見通して助けてくれる。
▲敵味方を問わず、それぞれの人物に事情や信念が感じられるため、「この人物は何を背負っているのか」と自然に背景まで想像したくなる。
さらに、物語が進むにつれて、記憶を失ったパネリ自身にも少しずつ謎が見え隠れし始める。断片的に明かされていく情報が、「彼女は何者なのか」という興味をかき立て、先を読み進める手を止めさせない。
▲ある場面では、限られた時間の中で失った荷物を探さなければならない。筆者は武器や回復アイテムの回収を狙ったものの、結果は空振り。思い通りにいかない展開も含めて、自分だけの冒険になっていく感覚が印象的だった。
王道のダークファンタジーだからこそ世界へ入り込みやすく、ゲームブックという形式だからこそ主人公の立場で物語を体験できる。システムだけでなく、ストーリーそのものにも惹き込まれ、気付けば「あと1ページだけ」と思いながら、さらにその先へと手を伸ばしていた。
■300枚超の手描きイラストが物語に命を吹き込む
ゲームシステムやシナリオと並んで印象的だったのが、美麗なアートワークだ。ページをめくるたびに現れるイラストは、物語への没入感を何度も高めてくれた。
▲安全地帯となっている街を探索する場面。手描きならではの温かみを感じる街並みを眺めながら、次の目的地を選んでいく時間も楽しい。
本作に登場する300枚を超えるイラストは、ヴァニラウェアで『オーディンスフィア』や『ドラゴンズクラウン』などに携わった西村芳雄氏が、自ら描き上げたもの。キャラクターだけでなく、背景やイベントシーンに至るまで丁寧に描かれており、場面が切り替わるたびに物語の世界へ引き込まれていく。
特に印象的なのは、イラストが単なる挿絵に留まっていないことだ。ゲームブックは読者の想像力を刺激する媒体だが、本作では要所で印象的なビジュアルが挿入されることで、想像と映像が心地よく補完し合う。テキスト主体の作品でありながら、プレイ中に物足りなさを感じることはほとんどなかった。
▲柔らかな色使いや温かみのある筆致からは、ヴァニラウェア作品らしい空気感も感じられた。
約300枚に及ぶイラストがすべて手作業で描かれていると知ると、一枚一枚に宿る熱量にも自然と目が向く。ゲーム業界で30年以上のキャリアを積んだ西村氏が約6年をかけて一人で描き上げたからこそ、そのこだわりが作品全体から伝わってきた。
▲特に印象に残ったのが、暗黒城の図書室で出会う、翼の生えた犬の姿をした悪魔「マルコシアス」だ。愛らしい見た目と繊細なイラストが相まって、自然と愛着が湧いてくる。文章だけでは伝わりにくいキャラクターの魅力も、一枚絵があることでより強く印象に残った。
ゲームブックというアナログな遊びを現代へよみがえらせるうえで、この温もりあるアートワークは欠かせない存在だった。
イラストだけでなく、音楽も世界観を支える重要な要素だ。ベイシスケイプの崎元仁氏による重厚でありながら幻想的な楽曲が、ダークファンタジーの世界観をより一層引き立てていた。
イラストや音楽を含め、作品全体からは制作者たちのこだわりが伝わってくる。インディーゲームだからこそ実現できた、手作りならではの温もりこそが、本作の大きな魅力の一つだ。
■総評 一人で遊べるTRPGという、新たな冒険体験
『ヴェリタステイルズ:暗黒城の魔女』は、ゲームブックという古典的な遊びを現代へよみがえらせながら、「一人で遊べるTRPG」という新たな体験へと昇華した作品だった。
プレイヤー自身が主人公として考え、選択し、ダイスに運命を委ねる。その積み重ねによって紡がれる物語は、誰かが用意したストーリーを追体験するのではなく、自分だけの冒険譚を歩んでいるという実感を与えてくれる。ゲームオーバーや失敗すら思い出として残る体験は、本作ならではの魅力と言えるだろう。
さらに、王道のダークファンタジーとして先の展開が気になるシナリオ、300枚を超える手描きイラスト、崎元仁氏による重厚な音楽が、その没入感をさらに高めている。ゲームブックへのリスペクトと、デジタルゲームならではの遊びやすさが高い次元で両立していたことも印象的だった。
アクションゲームのような爽快感や、テンポ良く進むRPGとは方向性が異なる。しかし、自分の選択で物語を動かし、偶然さえも冒険の一部として楽しみたい人には、ぜひ手に取ってほしい一本だ。ゲームブックを知る世代には懐かしく、初めて触れる世代には新鮮な体験として、『ヴェリタステイルズ:暗黒城の魔女』はきっと心に残る冒険を届けてくれるはずだ。
(文 編集部:山岡広樹)
ヴェリタステイルズ:暗黒城の魔女
ジャンル:“読書型”ファンタジーアドベンチャー
開発元:ジギタリス出版
販売元:15Industry
対応プラットフォーム:PC(Steam)
発売予定日:2026年7月9日
価格:1,980円
プレイ人数:1人
対応言語:日本語・中国語(簡体字)・英語