
東京都競馬<9672>は本日9月30日、大井競馬場の再整備に向け、約1600億円(超概算)を投じる大型投資を行うと発表した。千葉県市原市に新たなトレーニングセンターを新設し、競走馬の調教・厩舎機能の一部を場外へ移転する一方、大井競馬場では入場エリアや駐車場などの整備、老朽化施設の更新を進める。着工は市原トレーニングセンターが2028年、大井競馬場側が2027年を予定し、いずれも2033年の工事完了を目指す。
今回の計画は、単なる競馬場の建て替えではない。競走馬を育てる環境と、ファンが競馬を楽しむ空間の双方を再構築することで、2030年代に向けて大井競馬そのものの競争力を高めようとする大型投資といえる。整備に充てる資金は自己資金および借入金などで充当する。
■市原に1,200馬房のトレーニングセンター
今回新設する「市原トレーニングセンター(仮称)」は、千葉県市原市に整備する。施設には1,600mと1,450mの調教コースに加え、全長1,000m、計測区間800mの坂路を設ける。定期貸付厩舎は合計1,200馬房を予定しており、待機厩舎や馬運車駐車場なども整備する。
ここで重要なのは、大井競馬が今回初めて場外の調教拠点を整備するわけではないことだ。東京都競馬は千葉県印西市に「小林牧場」を保有している。小林牧場は1965年に競走馬の育成と休養を目的として建設され、現在も競走馬の育成・休養を担う施設として機能している。面積は約51万㎡に及び、調教用坂路も備える。
この坂路も、もともと「強い馬づくり」を目的として整備されたものだ。2008年には小林分厩舎に新たな調教コースを建設すると発表し、「強い馬づくり」を目指して調教環境の改善・強化を図るとしていた。2010年には全長1,050mのニューポリトラック坂路が完成している。
つまり今回の市原トレーニングセンターは、ゼロから始める取り組みではない。半世紀以上にわたって続けてきた場外での馬づくりを、さらに大規模な施設へと発展させる取り組みと見ることができる。
東京都競馬の長期ビジョンでも、大井競馬のさらなる振興に向けた将来価値への投資として、「強い馬づくりに資する、主催者と連携した小林牧場・分厩舎の充実と大井競馬場内の再整備」を掲げている。
今回の市原への投資は、この方向性をさらに一段進めるものといえそうだ。

■なぜ今、「強い馬づくり」なのか
地方競馬を取り巻く環境を見ると、中央競馬との交流は現在ではすっかり定着している。地方競馬の有力馬が中央所属馬と競う交流重賞は、地方競馬の馬にとって実力を示す舞台であると同時に、地方競馬そのものの存在感を示す場でもある。
その中で大井は、地方競馬を代表する競馬場の一つだ。かつては大井から中央競馬へ移籍し、中央のトップクラスで活躍した馬もいた。あるいは大井競馬に在籍しながら中央との重賞で活躍した馬もいた。
現在の競馬環境は当時とは大きく異なるものの、地方から中央のトップレベルへ挑戦するという構図そのものは、交流競走の拡大によって現在にもつながっている。
だからこそ、大井競馬にとって「強い馬をつくる」ことは、競馬場の設備を新しくすることとは別の意味を持つ。強い馬がいるからこそレースが面白くなり、強い馬が中央との交流の舞台で活躍すれば、大井競馬そのものの価値も高まる。
今回のトレーニングセンター新設は、そうした競走面の基盤を強化するための投資と見ることができる。
■大井競馬場は「馬を育てる場所」から「競馬を楽しむ場所」へ
一方で、大井競馬場そのものも大きく変わる。現在、大井競馬場には競走馬の調教・厩舎機能が存在するが、今回の計画ではその一部を市原へ移転。そのうえで大井競馬場には、立体駐車場や入場エリアなどを新設するとともに、老朽化した施設を更新する。これは、競馬場の限られた敷地を、より効率的に使うという意味も持つ。
東京都競馬が長期ビジョンで掲げるのは、「オンリーワンの都心型エンターテインメント競馬場」の実現だ。競馬そのものだけでなく、ファンが訪れたくなる空間、競馬文化や馬事文化を発信する場所として大井競馬場を再構築する方向性が示されている。
今回の再整備は、こうした構想を具体的な施設に落とし込んでいくものでもある。
つまり、市原では「強い馬をつくる」、そして大井では「その馬が走る競馬を楽しんでもらう」。競走馬の育成機能と観客向け機能を分け、それぞれを強化することで、大井競馬全体の魅力を高めようとしている。

■約1600億円で大井競馬を次のステージへ
約1600億円という投資額だけを見ると、非常に大規模な施設投資に映る。
しかし、その中身を見ると、単なる老朽化対策ではない。1965年に開設した小林牧場、2009年に完成した坂路など、これまで大井が積み重ねてきた「強い馬づくり」の取り組みを、1,200馬房規模の新たなトレーニングセンターへと発展させる。
同時に、大井競馬場から調教・厩舎機能の一部を移すことで、都心にある競馬場の空間を観客やエンターテインメントのために再構築する。
「強い馬を育てる」と「競馬を楽しむ場所をつくる」―――今回の投資は、この2つを同時に進めることで、大井競馬を次の時代につなげようとするものといえる。
2027年から順次着工し、2033年の完成を目指す長期プロジェクト。その先に、大井から再び中央の大舞台でも存在感を示すような馬が生まれるのか。そして、強い馬たちが走る大井競馬場が、どのようなエンターテインメント空間へ変わるのか。
今回の約1600億円の投資は、その両面から注目したい計画になりそうだ。
なお、2026年12月期の業績への影響は軽微で、設備投資に伴う諸費用の多くは将来的に発生する見込みとしている。
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