カプコンのゲーム開発を支える「RE ENGINE」はどう進化するのか…新プロジェクト「REX」が目指す未来

カプコン<9697>は、本日10月2日、ゲーム開発技術に特化した自社テックカンファレンス「CAPCOM オープンカンファレンス RE:2026」を開催。本稿では、プログラマーとして活躍する石田智史氏が登壇した、「次世代に向けRE ENGINEをさらに進化させる『REX』プロジェクトの展望と未来」の内容を紹介する。

石田智史氏
石田智史氏

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カプコンの心臓部「RE ENGINE」

カプコンは「RE ENGINE(アールイーエンジン)」という、ゲーム開発の基本システムを自社で開発している。開発が始まったのは2014年で、2017年発売の『バイオハザード7』で初めて実用化された。それ以降、カプコンが発売した27以上の高品質なタイトルは、すべてこのエンジンで作られている。まさに同社のゲーム開発の心臓部といえる存在だ。しかし石田氏によると、しかし、8年以上使い続ける中で、いくつかの大きな課題が生まれてきたという。

1. ゲームの規模が巨大になりすぎた
近年のゲームは映像が美しくなり、データ量が以前とは比べ物にならないほど増えた。その結果、開発中に「少し修正して動きを確認する」といった作業の待ち時間が長くなり、開発スピードの低下を招いていた。

2. 使う人が増え、多様化した
現在、カプコンのほぼすべての開発者(2,000人以上)がこのエンジンを使っている。海外のスタッフや、他社で別のエンジンを使っていた経験者も増えた。そのため、誰もが使いやすく、多言語にも対応したシステムが求められるようになった。

3. AI技術の急激な進化
AI技術を開発の作業手順にうまく組み込むことが、今後の開発を効率化するための必須条件になってきた。

これらの壁を乗り越えるために立ち上がったのが「REX」プロジェクトだ。パフォーマンス、ツール、開発効率、QAなど多方面から改善するために開発しているシステムのひとつひとつに名前をつけ、それらを総称して「REX」と呼んでいる。

古くなったからといって、ゼロから新しいエンジンを作り直すわけではない。現在のRE ENGINEに「RE:〇〇」と名付けた新しい技術を段階的に追加し、次世代レベルへ引き上げていく計画だ。以下、講演で紹介された各システムを順に見ていく。

共通ルールでデータを高速処理する「RE:Dox」

ゲーム開発では、キャラクターの動き、画面の表示、設定の保存など、さまざまなデータを扱う。しかし従来は、データの種類ごとに処理の「ルール」がバラバラだった。そのためプログラムが複雑になり、処理が遅くなる原因になっていた。

そこで開発されたのが「RE:Dox」だ。どんな形式のデータでも共通のルールに翻訳し、高速に処理できる仕組みである。内部の構造を工夫することで、データを読み込む速度と、データを編集する手軽さが大幅に向上し、最高クラスのスピードを実現したという。

開発ツールをサクサク動かす「RE:UI」

ゲームの大規模化に伴い、開発に使う「道具(開発ツール)」も非常に複雑になっている。その画面を作る仕組みとして生み出されたのが「RE:UI(アールイー・ユーアイ)」である。

カプコンはこれまで、世の中で広く使われている標準的な仕組みで開発ツールを作ってきた。しかし、ツールが巨大化するにつれて、次のような問題が増えていた。

・動作が重く、よく固まる:画面上の部品が増えすぎると処理が追いつかず、ツールがフリーズする。
・ガーベージコレクションによる一時停止:メモリ(作業机のようなもの)がいっぱいになると、自動的に「お掃除」であるガーベージコレクションが始まり、その間は作業が止まってしまう。
・コード量が膨大:少しの変更でも、書かなければならないプログラムの量が多い。
・対応環境が限られる:Windows以外のパソコン(Macなど)では動かせない。

これに対してRE:UIは、無駄を徹底的に省き、ツールを軽く速く動かすために作られた。

① 「見た目」と「状態」を分けてメモリを節約
従来の仕組みでは、画面上にチェックボックスが100個あれば、100個それぞれが「自分の見た目」と「チェックされているかどうかの状態」をセットで持っていた。これではメモリを大量に消費してしまう。
RE:UIではこれを分離した。チェックボックスの見た目はシステム全体で1つだけ用意し、画面上の100カ所で使い回す。個別に管理するのは「チェックされているか」という状態だけだ。これにより、部品の生成と破棄が超高速になり、面倒な一時停止も起きなくなった。

② 連絡ルールを「一方通行」にして渋滞をなくす
ボタンを押したときなどには、内部のデータと画面表示を連動させる必要がある。従来は、データが変わるたびに画面側へ通知を送る仕組み(イベント駆動)が一般的だった。ところが規模が大きくなると通知が殺到し、処理の「渋滞」が起きていた。
RE:UIでは、データ側から画面側へ通知を送るのをやめ、連絡を一方通行にした。これにより渋滞を防ぎ、スムーズな処理を実現している。

③ 画面側から「見に行く」方式で無駄な書き換えを止める
②と連動して、RE:UIでは画面側が定期的に内部のデータを自分から見に行く方式(ビュー駆動モデル)を採用している。見に行った結果、前回から変化がなければ画面の書き換え(レンダリング)を行わない。変化がない状態が続けば、見に行く頻度自体も落としていく。

開発ツールは、操作せずに画面を見つめている時間も長い。そのため「変わったときだけ書き換える」この仕組みが、動作を劇的に軽くしたという。
新しい仕組みを作ると、既存のツールをすべて作り直さなければならないのではないかと心配になる。しかしRE:UIは、従来の仕組みの中に新しい部品を少しずつ混ぜて使える。無理なく段階的に移行できるわけだ。

また、RE:UIは特定の画面表示機能に依存していない。そのため、人間が画面を見て確認しなくても、裏側でプログラムが自動テストを行うことが非常に簡単になった。

記録と通信を根本から見直す「RE:Log」

ゲーム開発では、プログラムが正常に動いているか、どこでエラーが起きたかを確認するための「動作記録(ログ)」と、データをやり取りする「通信」が欠かせない。カプコンの開発現場には、「記録が多すぎて動作が重くなる、エラーを見落とす」「記録の変更に手間がかかる」「不具合の記録が集めにくい、通信がパンクする」といった悩みがあった。

これらを一気に解決するために作られたのが「RE:Log」で、3つの工夫が盛り込まれている。

① 文章ではなく「ID番号」で記録する
従来は「エラーが発生した」といった記録を、そのまま文章(テキスト)で出力していた。RE:Logでは、たとえば「001番」のような小さなデータだけを出力し、画面に表示するときにだけ別の場所から「001番=エラーA」という文章を引いてくる。
データサイズが小さくなって動作が軽くなるだけでなく、プログラムをいじらずに後から文章を修正できる。自動翻訳を使って、海外の開発者向けに多言語で表示することも可能になった。

② すべての記録を「中央の保管庫」に自動で集める
個人のパソコンに保存されていた記録を、インターネット経由で中央のサーバーにまとめて保存する。送信前には独自の技術でデータを極限まで圧縮するため、保管庫の容量も節約できる。開発メンバーの誰もが、いつでも過去の記録を検索・分析できるようになった。

③ 「通信」と「記録」の仕組みを統合する
従来は、通信と記録を別々の仕組みで行っていた。RE:Logではこれらを同じルール(プロトコル)で扱えるよう統一した。どこで通信が失敗したのかを記録として後から確認しやすくなり、複雑だった開発環境の裏側も整理された。

アイデアをすぐ形にできる「RE:Flows」

ゲームの動きやルールを作る作業を劇的に簡単にするのが「RE:Flows」だ。これまで、ゲームの複雑な仕組みを作るには難しいプログラムを書く必要があった。専門家でなければ、「こんな遊びを入れたい」というアイデアをすぐにゲーム上で試すのは難しかった。画面上でブロックをつなぎ合わせるような直感的なツールもあったが、複数人で同時に作業するとデータが衝突したり、エラーの発見や修正が難しかったりする弱点があった。

新しいRE:Flowsは、画面を直感的に操作してゲームの動きを作れる分かりやすさを持ちながら、裏側では自動的に世界標準の扱いやすいプログラム言語へ変換される。いいとこ取りのシステムだ。プログラマーだけでなく、ゲームの面白さを考えるデザイナーも自分たちで動きを作りやすくなり、複数人での作業やエラー修正もスムーズになった。

大量のキャラクターをサクサク動かす「RE:Runtime」

ゲームを動かす土台部分を刷新するのが「RE:Runtime」だ。最新のゲームでは、画面上に数え切れないほどのキャラクターやモノ(インスタンス)が同時に存在する。従来の仕組みではこれらを一つ一つバラバラに管理していたため、メモリの整理が追いつかず、動作が重くなる原因になっていた。また、開発現場では「人間が書きやすい言語」と「機械が速く処理できる言語」を混ぜて使っていたため、システムも複雑になっていた。

そこでカプコンは、人間が書きやすい言語で書いたプログラムを、機械が超高速で処理できるカプコン専用の言語「RE:C++」へ自動的に翻訳する仕組みを開発した。

メモリの管理方法も一新した。キャラクターやモノを一つ一つ処理するのではなく、一定サイズの「箱」にまとめて一括で処理・管理する。これにより、大量のキャラクターを非常にスピーディーにゲーム内へ読み込み、表示できるようになる。

目指すのは「AIと一緒にゲームを作る」未来

こうした技術的な進化は、最終的に「AI世代のゲームエンジン」への進化という大きな目標につながっていると石田氏はコメント。

REXプロジェクトでは、システム全体を世界で最も一般的なプログラム言語のルールで統一した。人間の開発者にとって使いやすいだけでなく、AIにとっても読んで理解しやすいという大きなメリットがある。ベースの言語が統一されたことで、将来的にはAIがプログラムを理解して自動で作成したり、テストプレイを行ってバグがないか自動でチェックしたりできるようになる。

さらにカプコンは、RE:DoxやRE:Logなど一部の技術を、誰でも見られる形でインターネット上に公開(オープンソース化)している。AIの学習に役立ててもらう狙いもあるとのことだ。

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株式会社カプコン
http://www.capcom.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社カプコン
設立
1983年6月
代表者
代表取締役会長 最高経営責任者(CEO) 辻本 憲三/代表取締役社長 最高執行責任者(COO) 辻本 春弘/代表取締役 副社長執行役員 兼 最高人事責任者(CHO) 宮崎 智史
決算期
3月
直近業績
売上高1953億6500万円、営業利益752億9500万円、経常利益741億3400万円、最終利益545億8700万円(2026年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
9697
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