Synphonieといえば、ソーシャルゲームに関わったことのある人ならば誰でも知っている会社だろう。「ぼくのレストラン」や「料理の鉄人forGREE 新たな挑戦者達」、「ガルショ☆」といったヒットアプリを多数輩出している。特に「GREE」ではゲームランキングの常連タイトルとなっている。今回のインタビューでは、Synphonieの創業期からの成長を支えてきた開発スタッフに話を聞いた。
■プロフィール
氏家 政彰 氏(ディレクター、中央): 2009年6月入社。「ぼくのレストラン」や「料理の鉄人」など人気タイトルのプロデュースを手がける。現在、新規アプリの企画を担当している。
仲江 謙仁 氏(リード・エンジニア、右): 2009年7月入社。インフラエンジニアとして、Synphonieのソーシャルゲーム全般のインフラやシステム構築などを担当している。
前田 博敏 氏(リード・エンジニア、左): 2009年11月入社。現在、エンジニアとしてアプリの開発に携わるとともに、ソフトウェアの開発基盤を開発している。
■ぼくのレストラン
「ぼくのレストラン」とは、Synphonieを代表するレストラン経営ゲーム。プレイヤーは、オーナーシェフとなって、他のオーナーシェフと協力しながら、1000種類を超える料理を作って接客したり、レストランを好きなようにデコレーションしたりして、お店を発展させていく。
---: 「ぼくのレストラン」は、2009年11月に「mixi」でリリースされました。会社の設立も2009年ですよね。もともと「mixiアプリ」でのリリースを検討していたのですか?
氏家氏: いえ、「ぼくのレストラン」は、いわゆる勝手サイトのゲームとして開発したもので、「mixi」のアプリとしてリリースすることは念頭に置いていませんでした。リリースした時期に、「mixiアプリ」のモバイルがオープン化され、数日で数十万人が集まったというニュースが伝わりましたので、これはチャンスと判断し、数日で作り替えて「mixi」でもリリースすることにしました。
---: 開発に携わるスタッフや開発期間はどの程度だったのでしょうか。
前田氏: その当時は開発期間が本当に短かったですね。開発期間は、2ヵ月程度で、しかも3人程度で作っていました。とりあえず作ったものをリリースして、すこしずつ改善を加えていく、といったことが可能でしたから。
---: 当時の「mixiアプリ」の盛り上がりはすごかったですよね。トラフィックをさばくのに大変だったんではないですか?
氏家氏: それはもう…。「mixi」アプリのリリース時の会員の流入は、勝手サイトでの新規リリースとは比べものにならないくらいのペースで会員が増えていきました。「ぼくのレストランmixi版」の登録会員数は13日で50万人となり、すぐに100万人を超えました。
---: インフラ関係が特に大変だったんじゃないですか。
仲江氏: 間違いなく、インフラが一番大変でしたね。どうやってトラフィックをさばいたらいいのか、四苦八苦していました。勝手サイトのときからある程度、トラフィックが伸びることを想定して、高負荷に耐える設計をしていたつもりだったのですが、それでもダメでした。ミクシィさんに相談して、グラフを提出して、トラフィックのさばき方に関してアドバイスをいただいたりしました。また、mixiエンジニアブログなどを参照して、そこに記載されている負荷軽減対策を全て実行する勢いで取り組みました。
氏家氏: 負荷対策をこなしつつ、他の部分の修正もしたりしていましたので、当時は皆で泊まりこんでいましたね。
仲江氏: 負荷対策は、2010年3月にはほぼ収束しました。サービスは当初、海外のデータセンターで運営したのですが、処理能力に大きな問題がありました。データセンターが海外にあったこともそうですし、そのデータセンター内部でもネットワークレイテンシやiowaitが問題になりました。そういった問題もあり、国内のデータセンターにデータを引っ越すことで問題を解決しました。この過程で学んだことはいまに生かされています。
氏家氏: 3人の前職はポータルサイトの運営会社でした。そこは組織も大きく、インフラ専門の部署があったので、インフラやチューニングの部分を意識しなくても運営できていました。しかし、会社を立ち上げてサービスを提供するとなると、これまで意識していなかった部分を勉強しながら作り上げていく必要があります。短期間で一気に構築したインフラや開発基盤が資産となって、いまに生きていると思います。
---: その当時、前田さんは何をなさっていたのですか?
前田氏: 私は当時はですね、「mixi」で開発した「ぼくのレストラン」を「モバゲータウン」(当時)や「GREE」などで展開する準備を行っていました。いわゆるフレームワークを構築することです。平行して、新規アプリの開発なども行なっていました。
---: フレームワークといいますと。
氏家氏: 1つのアプリを複数のプラットフォーム上でリリースしていますが、開発を支える基盤を作ったのが前田です。前田の開発したフレームワークを使うことで、「mixi」や「Mobage」、「GREE」、「ハンゲーム」などプラットフォームの違いを意識なくても開発できるようになっています。このフレームワークを作ったのがこの時期です。いまはフレームワークを使って1つのアプリを開発すると、他のプラットフォームでもすぐに出せるようになっています。
---: この時期に会社の基礎がつくられたわけですね。「ぼくのレストラン」が「2」に切り替わったのはいつ頃だったのでしょうか。
氏家氏: 「GREE」でのリリース時です。
---: 現在、「GREE」が主力になっているかと思いますが、長きにわたってヒットし続けている理由はどのあたりにあるのでしょうか? 正味2年以上になりますよね。
仲江氏: その点は、データを見て、ずっと改善し続けているところが大きいかと思います。「ぼくのレストラン2」は、リリース時と比較すると、全く違うゲームになっています。機能やイベントは常に改善を重ねながら、気がつくと大きく変っていました。本当に勉強させてもらっているアプリだと思います。「GREE」がオープン化して、お客さんの少ない時から提供してきました。プラットフォームが成長し、我々のアプリも大きくなってきました。
■運用面…データ分析について
---: 数字を見る時に気をつけていることはありますか?
氏家氏: DAUや継続率などのメジャーな数字はもちろんチェックしますが、それだけでは何となくしかわかりません。さらに掘り下げて、アクションの種類や頻度などすべてを分析する必要があります。メジャーな数字を上げるため、何をすればいいのかを仮説や道筋を立てる必要があるわけですが、データがあるとないとでは全く違います。ですから「これは使わないかも」というデータも含めて、網羅的にデータを取ってもらうようにしています。こういう仕組みにすると負荷をかけなくてもデータが取れるのではないか、といったところから工夫していますね。
---: 基本的なことで申し訳ないのですが、プラットフォームごとにデータのとり方は変えていたりはするのですか?
仲江氏: データについては、基本的にどのプラットフォームでも同じような形で収集して、出力されるようにしています。当社では、多いタイトルで4つのプラットフォームで提供していますが、たとえ、10、20になったとしても同じ形式でデータが出力されます。管理画面も統合し、プラットフォームごとの数字を比較したり、集計したり、運営上、かなり便利になっていると思いますね。もちろん、ゲームを企画する際、メインプラットフォームは意識していますよ。
前田氏: 全く同じアプリを複数のプラットフォームにリリースすると、各プラットフォームのユーザーの特徴が見えてきます。「ハンゲーム」や「GREE」、「Mobage」、「mixi」で、それぞれ全く違ったことになります。
---: なるほど。
氏家氏: プラットフォームごとに男女や年齢構成が変わりますし、ゲームへの登録から課金までの期間が長かったり、短かったりします。登録からこれくらい遊べばお金を使ってくれるのではないかと考えていたとしても、予想以上に長かったりすることがよくありました。逆に短かったりすることも多いです。例えば、「ハンゲーム」ですと、ゲーム開始から課金までも時間が他の比べて短いといった特徴があります。
■イベントの開催頻度は頻繁に
---: いつもアクセスするたびに思うのですが、「ぼくのレストラン2」はイベントが非常に頻繁に行われていて、活発な印象を受けますね。
氏家氏: 月に3-4回程度は行なっていますね。ガチャは月に5本程度リリースし、それに合わせてイベントも3タイプ実施しています。そのため、ログインするたびに、なにかやっているような雰囲気が感じられると思います。
前田氏: イベントの実装と運用については、最初から現在のような形になったわけではなく、KPIを見ながら最適なイベント頻度を探りつつ調整し、いまの形にしたわけです。当初は、ユーザーさんも大変ではないかと思って、イベントとイベントの間隔を開けたり、イベントの開催期間を長くしていたのですが、実際に運営してみると、頻度を高めたほうが、ユーザーさんにとっては遊びやすいと気づきました。逆に詰めすぎて、お客さまからお叱りを頂いたこともありました。
---: アップデートやイベントは全プラットフォームで同時にされているのですか?
前田氏: 基本的に平行して同時にやっています。プラットフォームによって仕様が変わりますし、禁止されている事項がありますから。その点については、いかに意識しないでできるように、システム面で対応しています。
---: フレームワークを構築される際も、その点は大分意識されるのですか?
前田氏: そうですね。細かく見ていくと仕様はプラットフォームによって、結構違います。例えば、各プラットフォームで「友だち」の呼び方も変わりますので、そういう点は定数で置き換わるようにしています。レギュレーションの変化に随時対応しつつ、少しずつ改善を加えています。
■グラフィックのテイストについて
---: 「ぼくのレストラン2」の人気となっている要因のひとつとして、グラフィックのクオリティの高さがあるかと思います。ゲームに登場する料理の絵は本当に綺麗ですね。とても美味しそうです。どういった経緯でこの路線にしたのでしょうか?
氏家氏: 当初、社内でも絵柄をリアルにするのか、デフォルメしたり可愛くしたりするのがいいのか、非常に迷っていました。議論と検討を重ねた結果、見た人が思わず食べたくなってしまうような、クオリティの高いグラフィックにすることにしました。料理の絵のリアルさは、なかなか真似できないようなものになっているという自負がありますね。
---: イラストは基本的に内製ですか?
氏家氏: イラストレーターが在籍していますので、それなりの量は描けますが、内製で賄えない部分については外注のイラストレーターさんにお願いしています。「ぼくのレストラン」ですと、毎月のイラストの数は相当なものになります。1回のイベントで料理の数も何十個も出てきますから。
仲江氏: 余談ですが、リアルさを追求した料理ゲームがヒットしたから、次もリアルで、というわけで、昆虫のゲーム「ムシカゴ」をリリースしたわけですが、あまりふるいませんでした。確かにリアルさを追求した昆虫ゲームということで、昆虫好きの方からはとても評価されたのですが、世の中には昆虫好きってそうは多くないですよね。むしろ少数派と言えます。
氏家氏: それに関連して、「ぼくのレストラン」に、むしとりゲームのバナーを掲載したことがありました。バナーに「ゲンゴロウ」の絵を載せておいたのですが、「レストランゲームにゴキブリを載せるのは何事か」とお叱りをいただきました。
---: そんなことがあったのですか。
氏家氏: 後から考えると、当たり前のように思えますが、こういうことも実際に経験しないとわからないものです。このアプリでは本当に多くのことを学ばせてもらいました。一緒にユーザーと良いゲームを作っていけたかと思います。女性ユーザーは、お叱りだけでなく、こうしたらどうかとご提案をいただくことも多く、非常に助かりましたね。本当にありがたいです。