「人をその気にさせるには? ゲームにおける誘惑の技法」…ゲーム作家・文筆家の山本貴光氏が登壇した「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾」を取材


ディー・エヌ・エー<2432>(DeNA)は6月20日、渋谷ヒカリエ DeNA本社で「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾~未来を担う人に伝えたいこと~」を開催。13回目となる今回は、元コーエーでプログラムや企画でのゲーム制作をつとめ、現在はモブキャストとプランナー教育、新作企画などでプロ契約を結んでいる山本貴光氏が登壇した。

13回目のテーマは「人をその気にさせるには? ゲームにおける誘惑の技法」。ゲーム企画を練る際に陥りやすい罠、そして興味を引く企画書の作り方という、何千もの企画書を見てきた山本氏ならではの内容となった。

 


 

■「プレイヤーのやりたくなること」を学ぶ



▲山本貴光氏

まず山本氏は、例として格闘ゲームの操作法を書いた説明書 を見せた。膨大な数のコマンドがあり、複数のキャラクターが並ぶ。これは操作説明なので十分である。他方で、企画初心者がつくる格闘ゲームの企画書では、こうした操作説明に始終するものが多いという。だが企画書の場合、それでは足りない。これは、単純にゲームで出来ることを書いただけのものだからだと山本氏は語る。

では、ゲームの 企画書では何を伝えればよいのか。それを理解するために山本氏はフラッシュゲーム『Continuity』を紹介した。これは「矢印キー」と「SPACEキー」を使い、画面上のステージと、ステージ内にいる人を交互に操ってゴールを目指すゲームだ。このゲームにはプレイヤーに「鍵を取らせる」「ステージを動かせる」「ゴールへ移動させる」など、プレイヤーを行動や思考へと誘う場面がいくつもあり、“何かをしたい気持ち”にさせるように設計されているという。
 



http://continuitygame.com/playcontinuity.html

山本氏は「ゲームの仕組みはもちろん重要ですが、それを使って何かをしたいと思わせることはさらに重要です」と指摘した上で、「ゲームでできること」と「ゲームでしたいこと」の関係性を紐解いてくれた。というのもゲームプランナーが本当に作りたいのは、遊ぶ人の「心理の変化」だからだ。つまり、ゲームで遊んだプレイヤーが、楽しさを感じたり、先に進みたいと欲したりすることをプランナーは目指している。とはいえ、人の心理を直接変化させるわけにはいかない。そこでゲームを作って、遊ぶ人の心理を間接 的に変化させるわけである。次に山本氏は人間の心理に焦点をあてた。

心理はいろいろなとらえ方ができるものだが、例えば「知情意」という3分類で考えてみることができる。つまり、ゲーム中どうすべきかを考えて判断する「知能」、プレイ中に生じる「情緒(感情)」、何をしたいかという「意志」である。この3つ(知情意)の観点から「心理の変化」を考察することで、プレイヤーの心理 をマッピングできる。このようにして、ゲームで遊ぶ人が各場面や状況でどんな心理になるかを想像、理解することがプランナーとして非常に重要である。

つまり、格闘ゲームの企画書なら、キャラクターの持っている技を、プレイヤーがどんな場面で使いたくなるはずか、うまくプレイできたときや失敗したとき、どのように感じるはずか、ということを伝える必要がある、というわけだ。
 

 
 

■自身の「知情意」をマッピングしてみる


後半のワークショップでは「ダイスを振る場合」と「ババヌキで遊ぶ場合」という二つのケースについて、自分の心理を観察してマッピングするという課題にとりくんだ。どちらも前半で学んだ「知情意」を分析する課題である。「ダイスを振る場合」についてはそれ以外の条件が提示されていないこともあり、人それぞれの状況を想像したようだ。グループでのディスカッションでは、同じ「ダイスを振る」という行為に対して、人によって異なる知情意を考えたことも確認された。
 

二つ目の課題では、まずババヌキのプレイ中に人の心理がどのように変化するかをマッピングした。その上で、もともと偶然を楽しむ遊びであるババヌキに、プレイヤーがさらに考えて遊びたくなる要素を追加して、知情意がどのように変化するかを分析した。

ババヌキでは、隣の人の手札からカードを引く際、相手の表情やカードの持ち方ぐらいしか手がかりがない。参加者からは「引いたカードを宣言する」ルールなどのアイディアが出された。こうすることで、他のプレイヤーが持っているカードがわかり、それを覚えておこうと思ったり、手がかりとして考えたり、かけひきが生じたりするわけである。この工夫によって、ただの運任せではなく、プレイヤーがなにかをしたくなるゲームに変化する。

こうした課題を通じて、ゲームの企画において、ルールや仕組みを考えるだけでなく、それで遊ぶプレイヤーの心理がどのように変化するかを仮定し、意識してみること。山本氏は、これが今回の「座・芸夢」でお伝えしたいことであったと締めくくった。
 

最後にDeNAの馬場保仁氏は、「ゲームの仕組みは考えるだけでは成り立たない。特にユーザーは長い間ゲームをやっていると、ゲームを分かった気になって単調になってしまう。今回の講義ではユーザーの気持ちを『おおっ!?』と、させる瞬間、そしてその物事の考え方を理解できたと思います。また、ゲームの心理マップを分解、再構築して、なんでユーザーが遊ぼうと思うのか、引き続き考えて欲しい」とコメントし、講演を締めくくった。

 
(取材・文:ライター  間浩人)


 

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■祝1周年 登壇者からのメッセージ


今回で記念すべき1周年を迎えた「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾~未来を担う人に伝えたいこと~」。ここでは過去に登壇した方からのメッセージを紹介する。

【遠藤雅伸 氏】

◆座・芸夢という名の、若手がプランニングを学ぶという貴重な機会をどうおもうか?
ゲームデザインは勉強すれば面白いゲーム、売れるゲームが作れるようになるわけではありません。かといってゲームのゲの字も知らないようでは、ゲームとして成立するものすら作れません。ゲームデザインの基礎を勉強するには、ワークショップや演習で気付きを得るのが一番効果的です。その機会を自社以外にも与えている座・芸夢は、日本ゲームの将来を見据えたスケールの大きな社会活動で、志がある人に取っては参加しないと損なほどのイベントです。

◆学生に向けて一言
ゲーム制作は非常にクリエイティブで難易度が高いですが、多くの人に感動や思い出を与えることのできる、やりがいのある仕事です。ゲームが好きだからというのがキッカケでも構いませんが、ゲームで何を伝えたいか、どんな体験を与えたいかを自分の中に持たないと、一流にはなれません。是非、座・芸夢で自分の芯となる何かを見つけてください。


【簗瀨洋平 氏】

◆座・芸夢という名の、若手がプランニングを学ぶという貴重な機会をどうおもうか?
座・芸夢の講師のラインナップにはそれこそ夢のような面々が揃っていますが、何より大切なのは良い内容の講義を受けてそれで満足してしまわない事です。講義の内容が物作りに活かされてこそ登壇した意味があったと思えます。

◆学生に向けて一言
座学で身につく事は限られています。講義を受けるときは質問する、それ以外の時は手を動かして自分のゲームやコンテンツを作る。そのために学生のうちに様々なことを学というのが大切です。


【中村隆之 氏】

◆座・芸夢という名の、若手がプランニングを学ぶという貴重な機会をどうおもうか?
エンジニア職やデザイナ職は比較的、セミナーや書籍等で学ぶ機会が多くありますが、特にゲームデザインについて学ぶ機会は殆どなく、基調な機会であると思います。
(自分が受けたいが、日程合わず見学も出来なかったのが悔しい位です)

◆学生に向けて一言
ゲームデザインを教えられて学ぶという機会に参加できた方は確かにラッキーですが、教えられた事に満足しないで欲しいです。
普段の仕事や生活の中でさらに気付き、学び、行動、そして振り返るという事も、職種を問わずですが、特にプランナー職を目指す人には求められる事だと思います。
自分で成長できるエンジンを持った人材がこれから育ってくれる事を願っています。


【塩川洋介 氏】

◆座・芸夢という名の、若手がプランニングを学ぶという貴重な機会をどうおもうか?
プランナーは他職種と比較してノウハウや学習方法の体系化が進んでおらず、業界にとっての大きな課題の一つと感じていました。そうした状況に一石を投じる試みとして、座・芸夢は大変素晴らしい取り組みだと思います。また、この取り組みに携わる機会を通じて、私自身にも大きな学びがありました。どうかこの先、最低でも十周年くらいまでは続けてください!

◆学生に向けて一言
就職すること自体を目標とせず、その先どうなりたいかまで見据えて動くとよいと思います。一緒に仕事する機会を、楽しみにしています。


【山本貴光 氏】

◆座・芸夢という名の、若手がプランニングを学ぶという貴重な機会をどうおもうか?
プランニング(企画)は、ゲーム制作の要でありながら、これまで知識や技術として伝えられることの少ないものでした。無理もありません。アイディアを出すだけでなく、ルールや各種データを構想して設計図を描き、多様な要素をまとめあげながら一つのゲームの世界をつくり 、そして最終的にはそのゲームで遊んだ人の心身を動かそうというわけですから、どこから手をつけたらよいかと迷うほどです。そう、プランニングは、いまだに教えるのも学ぶのもなかなか大変で難しい仕事のひとつなのです。

座・芸夢は、それ自体がひとつの壮大な実験といってもよいでしょう。そんなプランニングを共に学ぼうというのですから。この座に集うみなさんが、さまざまな課題に挑戦して試行錯誤にとりくみ議論することは、それ自体がおおいなる創造の冒険です。また、冒険には失敗がつきものです。うまく行かないことも多々あるでしょう。しかし、挑戦と失敗の繰り返しこそが腕を磨くなによりの道であることを、ゲームに親しんでこられた皆さんならご存じだと思います。

座・芸夢での経験は、プランニングという芸を磨き、まだ誰も見たことのない遊びを夢見るための、なによりの刺激と手がかりになるに違いありません。こうした場を企画・運営するDeNAとスタッフのみなさんの志とご尽力に敬意を表しつつ、さらなる継続と展開を期待しています。1周年、おめでとうございます。

◆学生に向けて一言
「人生は短く、術の道は長い」というのは、古代ギリシアの医師ヒポクラテスの言葉。この場合の「術」とは医術のことですが、私たちの場合なら「ゲームを創造する術」と読み替えてよいでしょう。では、どうしたらこの術を極められるか。

基本は、考えて、つくり、試して、また考えること。「座・芸夢」とは、まさにそのために用意された場です。そこでは、人類が少なくとも五千年の間、手放さず遊んできたゲームというものについて、根本から、実践的に考えるまたとない機会を得られるでしょう。創造の可能性を広げ、深めるために、未知の遊びを発見するために、ご一緒に手と頭を動かしてみましょう。


【馬場保仁 氏】

◆座・芸夢という名の、若手がプランニングを学ぶという貴重な機会をどうおもうか?

座・芸夢は、参加者、講師の方々がいてくださって、成り立っている「ゲーム業界の未来を担う人」たちを育成するためのイベントです。1年もの間、毎月実施できてきたのも、ひとえに意識の高い皆さんと講師の方々のご協力あってのことです。この場をお借りして感謝いたします。

先人たちのノウハウがともすれば企業の中にだけ蓄積され、なかなか表にでてこない、プランニング、プロデュースワークに関して座・芸夢はおしげもなく、これでもか!と毎回展開しております。実際に、座・芸夢に参加していた学生さんから、数多の業界就職者で誕生し、社会人になっても参加してくださっている方々がいらっしゃる、未来につなぐ第一歩が始まっているな、とこのイベントの意義を肌で感じているところです。

我々ベテランもですが、1度でも参加した皆さんは、周囲の人や後輩たちにぜひ「つないで」いってください!!

◆学生に向けて一言
「心ここに在らざれば、視れども見えず、聴けども聞こえず、食らえども其の味を知らず」

これは、「大学」にある有名な一篇ですが、ある意味、精神論であると同時に、我々エンタテインメントに携わる人間にとっては、「如何にして対象と向き合い考えるか?」がない限り、なにものも生み出さないことを物語るこの一篇には共感できるところが多いように感じます。

何事も、表層をなぜるのではなく、特にプランニングするにいたっては、事象の更に奥底や、その向こう側にあるものにまで思考が及ぶ必要があり、多くの知見・体験・教養が求められます。

それらにきっかけになれるよう、座・芸夢もこれからも運営してまいりますので、ふるってご参加ください!

 

■次回の「座・芸夢」



■日程: 2016年7月20日(水)19:30 - 21:30  ※入場受付:19:00から
■講師: 遠藤 雅伸 氏 ゲームの神様
■モデレーター: 馬場 保仁 氏 DeNA プロデューサー 兼 採用担当
■会場: 渋谷ヒカリエ21F DeNAオフィス

◆日程:2017年7月20日(水)19:30 - 21:30  ※入場受付:19:00から

◆会場:渋谷ヒカリエ21F DeNAオフィス(東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ)

◆参加資格: 
・ゲーム企画職(ディレクター、リードプランナー、プランナー)を目指す学生 ※高校生以下は参加できません
・若手のゲーム企画職の方 ※32歳以下

◆参加費:無料

◆プログラム
【第1部】講演 
・アイディアの寄せ集めから企画は生まれない-コンセプトとコンテクスト-

【第2部】演習 
・当日をお楽しみにお待ちください。

【登壇者】遠藤 雅伸 様 ゲームの神様
ゲーム作家、ゲーム研究者。'59年東京生。'82年より各種ゲームを作っている。詳しくはhttp://evezoo.net 東京工芸大学教授、日本デジタルゲーム学会理事研究委員長、宮城大学客員教授、Japan Game Music Orchestra(JAGMO)名誉会長、CEDEC運営委員、文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業アドバイザー

【モデレーター】馬場保仁 DeNA プロデューサー 兼 採用担当

 

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