リイカが手掛けるゲームアプリ『Q』が、空前の大ヒットを記録中。本作は、出題された「簡単なお願い」を画面内に何かを描くことで解決していくステージクリア型の物理演算パズルゲーム。しかし、その「簡単なお願い」は一見単純に見えて一筋縄ではいかないものとなっており、プレイヤーは想像力を張り巡らせ、創意工夫と試行錯誤を繰り返し、達成を目指すことになる。
完全オリジナル新作でありながら、斬新なゲーム性と熱中度が話題を呼び、2015年1月9日リリース開始からわずか6日間で100万ダウンロードを突破(3月3日に500万ダウンロード突破)。さらに、2015年1月のApp StoreとGoogle Playにおけるアプリ市場の動向をまとめた最新データ「App Annie Index」日本版・ゲーム編(提供:App Annie)では、ダウンロードランキングで月間1位を記録(関連記事)。2月27日からはテレビCMも放送開始し、引き続きダウンロード数を伸ばしている。
今回「Social Game Info」では、『Q』を手掛けたリイカの開発陣にインタビューを実施。開発経緯や今後の展望、そして幻のゲームアプリ『パイスラッシュ』にまつわる制作秘話など、バラエティに富んだ内容の記事をお届け。
■難問の数々もユーザーたちの知恵と交流と技術革新により…
株式会社リイカ 『Q』プロデューサー
栗田祐介 氏 (写真中央)
株式会社リイカ 『Q』プログラマー
武部佑 氏 (写真左)
株式会社リイカ ゲーム事業部 部門長
熊谷亮徳 氏 (写真右)
――:本日はよろしくお願いします。大ヒット中の『Q』ですが、はじめにみなさんのご担当と開発経緯について教えてください。
栗田祐介氏(以下、栗田):僕は『Q』のディレクションとプロデュースを担当し、武部がプログラマー、熊谷がリイカのゲーム事業部を統括する部門長となります。これまでも武部と一緒にカジュアルゲームを中心に手掛けていましたが、彼が次のプロジェクトが始まる前に「Unityで何か出来ないか」と色々実験していたところ、『Q』の原型となるお絵かきツールが完成しました。
武部佑氏(以下、武部):“書いたものが物理演算の法則に従って落ちる…”という内容は変わりませんが、まだ当時はシーソーを書いて小さいボールを飛ばす程度のものを面白がって遊んでいるだけでした。すると栗田のほうが、容器の中にボールを一個書いて、「これを出せるか」という問題を作りはじめたんです。それを周りのスタッフに触らせたらこれが意外と面白くて、少し簡単なセーブデータ機能を作って、栗田に一度持って帰ってもらうことにしました。
栗田:そこからは、容器の中からボールが出せたら、次はそのボールを左の壁に当ててみたり、逆にまた容器の中に入れたりと、ひたすら色々な問題を作っていったのですが、試行錯誤していくうちに「これは面白いぞ」と自分のなかでも確信が持てるようになったのです。
本来ゲームのプロジェクトを開始する際は、企画書を出して、会議でプレゼンして、色々な承認もらうという手順があると思いますが、『Q』に関してはもう実機で遊べるぐらいまで開発してしまい、そこまで出来た状態から会社のOKをいただきました(笑)。ちなみに、開発期間は武部が原型となるお絵描き物理演算ツールを作ったところから数えて約半年ですね。
――:なるほど。また『Q』というシンプルだけど、インパクトあるタイトルも印象的ですが、いくつか候補はあったのでしょうか。
栗田:じつは当初、物理演算を用いたゲームのため『フィジックス(physics – 物理学)』というタイトルを仮で付けていました。チーム内でも「これで行こう」となったのですが、これが検索すると海外のゲームアプリにすごい数があるんですよね(笑)。
そこで考えていたときに、弊社のサーバーエンジニアのひとりが「『Q』ってどうですか?」と提案してくれて、1文字のゲームタイトルも格好いいし、なおかつシンプルなゲーム要素ともバチッとはまるし、この『Q』を採用しました。
このほか『Q』にはクエスチョン(question – 疑問)、キュリオシティ(curiosity – 好奇心)という意味も込められています。また、解き方が複数存在するため、決まったアンサー(answer – 答え)が無い、言わばQ&Aの「&A」はユーザーさんに考えていただき、我々はあくまでも「Q」だけを提供するという意味合いがあります。……まあ、全部後付けで格好いい理由を考えたのですがね(笑)。
――:(笑)。でも今おっしゃったように、『Q』の面白さって答えが複数あることですよね。そのゲームの根幹となる問題部分ですが、こちらは栗田さんのほうで考えられたのですか。
栗田:そうです。まず僕が紙と鉛筆で絵コンテを書きます。書くときは、それが解けるかどうかは一切考えないで、とにかくシチュエーションだけを作りました。それをPhotoshopで図形にしてプログラマーの武部に渡します。その後は、重さなど細かい要素を武部がチューニングして、端末で遊べる状態となり、僕がいちプレイヤーとして触ります。そして、だいたい「こんなのクリアー出来るわけないだろ!」と、自分で考えておきながら苦情をぶちまけます(笑)。
一同:(笑)
――:まあ難しい問題は本当に難しいですからね。
栗田:ええ。また『Q』のなかで色々な技が編み出されていったのが、すごい楽しかったですね。たとえば、シリンダーのボールを出すステージ(PRIMARY 1 Q10)では、最終的にはシリンダーを倒すフックになるものと、支点のふたつを作る必要があるのですが、それに技術革新が起こり、ひっかけるフックの最後に支点となるも書くと、一手(一個のパーツ)でクリアーすることができるんですよ。
▲フックの下に重石を付け加えることで……
▲シリンダーが上向きに!
――:あれ普通にわざわざふたつ作っていました(苦笑)。
栗田:これが、人類における文明の発展です(笑)。
武部:ちなみに開発中は解き方のテクニックを発見した人が勝手に技名をつけて楽しんでました。たしか最初に技名が付いたのはティファールでしたよね。
栗田:そうそう。取っ手が取り外せるお鍋のティファールをモジって、その見た目通りに取っ手のついたお鍋の蓋を作り、その取っ手のところに重いものを落とすことで対象物を動かすことができるのです。社内でも同じやり方を発明している女性スタッフがいたのですが、彼女は缶切りって言っていましたが「いや違うから、これはもうティファール。俺が発明したやつだから」と謎の対抗意識を燃やすこともありました(笑)。
一同:(笑)
▲ティファールは、まず取っ手のついたお鍋のような蓋を作る。
▲そこから取っ手に目掛けて重石を落とす。
▲ほらね、簡単でしょ!
――:熊谷さんは当時の開発現場の様子を振り返っていかがでしたか。
熊谷亮徳氏(以下、熊谷):現場はとにかく賑やかでしたね。栗田が3手や4手かかっていた問題を「一手で解けた!」と嬉しそうに報告していたり、そのほか個人的に「ヒーローを右のコンテナに入れろ」(PRIMARY 1 Q17)を小さいパーツひとつでクリアーしたりしたときなんかは、僕自身もすごい感動しました。
終わったあとの画面をスクリーンショットで見せると「え、このパーツだけでクリアーしたの?」とみんなが驚いてました。開発メンバー限定の「LINE」グループでもみんなで自慢がてらクリア画像を送りあったりしたり、『Q』はどこか自慢したくなるゲームですよね。
▲これを……
▲こう!
▲こう!
栗田:そうですね。そのために、View切替えで、自分が解いた最少手数がステージ選択画面で確認できるようにもしています。そういうやり込みも開発中に楽しんでいました。
――:ちなみに開発者のみなさんでもクリアー出来ない問題があるとおっしゃっていましたけど……。
栗田:ええ。一番難しい問題は社内でも誰ひとりクリアーできなかったですね(笑)。
――:え、それでも問題として採用したんですか!?(笑)
栗田:採用しました! そっちのほうが面白いですよ(笑)。ゲームにおいて、開発者でもクリアーできない問題を、プレイヤーのみなさんにクリアーしてもらうなんて聞いたことないじゃないですか。とまあ、そんな難しい問題も結局クリアーされてしまったのですがね……。僕たち、調子こいて「ゲームデザイナーから全人類への挑戦状」とか言っていましたけど、これじゃあ全人類どころか日本人だけに敗北していることに(笑)。
一同:(笑)
――:そういえば『Q』の音楽も人気が高いですよね。
栗田:『Q』の音楽は贔屓にしている外部の優秀なサウンドクリエイターに制作してもらっているのですが、カジュアルゲームとは思えないほど、大量に音楽を発注しています。
武部:ちょっと前に14曲ぐらい発注していましたよね。
栗田:それを言うとどれだけ問題が追加されるかバレるだろう!(笑)
一同:(笑)
栗田:でも音楽には本当にこだわりがあって、じつは以前弊社でリリースしていた『パイスラッシュ』というカジュアルゲームの音楽も起用しているんです。
――:え、『パイスラッシュ』って……あの……あれですよね。
▲本作は、次々に出現する女の子のシルエットから例の場所を感じ取り、思い切ってスラッシュするだけのゲームアプリ。正解のスラッシュラインに近いほど高得点が得られる。
熊谷:はい。ストアでリジェクトされたあの『パイスラッシュ』です。一瞬の輝きがあった、まるで花火のようなアプリでした(笑)。
栗田:そうなんですよ。『パイスラ』がかわいそうだったので、じつは『Q』のPRIMARY 2の音楽に『パイスラ』の曲を起用しました。じつは、当時から『パイスラ』の音楽はすごい人気があって、ユーザーさんからも「あの曲は売ってないの?」「鼻歌を歌っている人見かけた!」などなど、多くの声が寄せられていたのです。いつか僕としてもあの曲にボーカルを入れたいと思っているぐらいです。
熊谷:『パイスラ』は自分が開発したのですが、当時開発中に「インパクトがなんか足りないよね…」という話になって、栗田に色々相談したところ、どうせなら見た目と音楽にこだわろうとなり、あれらの曲が生まれました。おかげさまでリリース後はポーンと人気も上昇して……まあ、過激にしすぎた為、ストア側からすぐに散らされてしまいました(笑)。
■アプリストアのスクリーンショットにもこだわり
――:問題を作り続ける開発側、そしてそれを解いていくユーザーさん側……。実際に会話はしていませんが、お互いの葛藤が見えるこのキャッチボールの感覚はいいですよね。ユーザーさんの反響もお聞きしたいのですが、リリース当初の肌感から順に追って教えていただけますか。
栗田:正式リリースしたのは、 2015年1月9日(金)のQ(きゅー)の日です。我々の部署は毎週金曜日の朝一に定例会議があるのですが、まだ配信して間もなかったので全然ダウンロード数もなく、リロードするたびに少しずつ増えていき「もっと増えるといいね」という会話をしていました。
昼食の時間になって、みんなでご飯を食べている間に「これ1000人届くんじゃない?」という話をして、プレスリリース配信後の夕方頃から色々な媒体さんに『Q』のリリース記事が掲載されてからは、もうグーンと伸びていきましたね。「これはすごいぞ、1万いくんじゃない?」と最初は規模の小さい話をしていましたけど、それが翌日にはApp Storeの無料ランキング(ゲームカテゴリー)1位になり、さらに翌朝の日曜日の朝には全カテゴリーで1位になっていました。
――:プロモーションはされましたか。
栗田:じつはブーストを少しだけやりました。でも、リリースからすぐにユーザーさんがゲーム画像をSNSに投稿し始めて、あとはクチコミと拡散ですごい勢いで伸びていきました。なかでもTwitterは本当に勢いがあり、当時はハッシュタグのついたツイートが1分に数十件も流れていましたね。
▲2015年2月27日(金)より、全国主要都市でテレビCMも開始
――:個人的に『Q』のヒット要因のひとつとして、ストア上に掲載されているスクリーンショットの内容とテンポがあるのかなと思っています。良い意味でプレイヤーを煽り、疑問を与え、そしてどういう結果になるのか見てみたいという欲求に繋がる。ここの部分は熟考されたのではないでしょうか。
栗田:たしかに全体的に意識はしましたが、なかでも細かい言葉使いですね。「自信があるなら挑戦を。」という言葉に至るまで何案も考えましたし、「コップからボールを出せますか?」というシュールな演出も気になるじゃないですか? すごい単純で簡単なことかもしれないですが、「きっとこのゲームのなかでは難しいことなのでは…」とユーザーさんがしっかり考えてくれるような、少ない言葉でユーザーさんの心をとらえるような内容をチョイスしたつもりです。ちなみに1枚目のスクリーンショットに写っているニヤけ顔のメガネキャラは武部ですね(笑)。
――:マネタイズは基本的に広告収入だと思いますが、今後何か別のことは考えていますか。
栗田:広告収入は今後も注力していきます。追加問題など別途料金は発生しますが、ソーシャルゲームではないので、あまりユーザーに課金を押し付けるような内容にはしません。売り上げとしては、さすがに課金メインの上位ソーシャルゲームほどではないですね。
――:大台の金額まで行ってたりしてるとか……。
熊谷:そのあたりはナイショでお願いします(苦笑)。
――:ちなみに『Q』は、海外でもダウンロードできるのでしょうか。
熊谷:できます。端末側のゲーム設定で言語を切り替えるだけで、英語でも楽しめます。ダウンロード数はまだまだですが、今後もっと多くの言語を入れる準備をしています。これから力を入れていくひとつとして、この海外展開が挙げられますね。
■ランキング機能やステージエディット機能なども計画中
――:企業についてもお聞きしています。御社では、おもにカジュアルゲームのタイトルが多いですが、何か意図があるのでしょうか。
熊谷:もともとソーシャルゲーム事業とダウンロードゲーム事業のふたつの部署がありましたが、現在はダウンロードゲーム事業でもソーシャル要素を入れたものを開発したりしてます。会社としては、流れの早いモバイル市場に打って出るため、開発工数が少なく、かつ迅速なマーケティングの実施、そしてユーザーさんの反応がすぐに見られることとして、カジュアルゲーム開発に注力していました。
社内では自分や栗田などのプロデューサーたちが、様々なカジュアルゲーム等をリリースしてきて、これがドカンと当たって現在の開発体制が確立されていきました。カジュアルゲームに関しては、本当にプロデューサーがやりたいことをやっていこうとする傾向が多く、自然と色々なジャンルが出てきましたね。もちろん今後ネイティブのソーシャルゲームの開発も予定してます。
栗田:リイカは、変なしがらみで動きにくいことがないのが特徴ですね。恐らく普通の企業であれば、『天空のやつ』や『泥だんご』『毎日の耳かき』など100%企画会議ではねられると思いますから。
――:何かカジュアルゲームの開発において、大切にされていることはありますか。
栗田:個人的には…突拍子のなさですね。とにかく“変なことなど誰もやっていないことをやる…”というのが僕のなかで柱としてあります。たぶん『泥だんご』もそうだし、熊谷の『毎日の耳かき』などもそうですが、そんなのをテーマにしているアプリは世界で唯一だと思いますよ(笑)。
――:『Q』の今後の展望について教えてください。
栗田:現在、問題数が220問あります。まだまだストックはありますし、僕としても早く次の問題を出したいと思っていますので、ぜひ楽しみにしてください。そのほか、ランキング機能やステージエディット機能なども計画しています。また、スマホ以外のハードにも出せたらいいなぁ……という話も出ています。
熊谷:海外プロモーションにも力を入れていきますが、やはり国内では横の広がりをもっと出ししていきたいと思っています。
武部:もちろん、『Q』以外にも引き続き新しいカジュアルゲームも開発していきます。
栗田:そうですね。今回本当に真面目で格好いいものを作りましたが、次はいい意味で凄くくだらない雰囲気をもったモノを出していきますので、期待してください。
――:楽しみにしております(笑)。それでは、最後に「Social Game Info」読者にメッセージをお願いします。
栗田:これから次々と新機能や新問題が追加されていくので、ぜひアプリを消さないで残しておいていただければ幸いです。また、『Q』では企業様とのコラボレーションを募集しています。商品・企業名にQが入っていたり、何かご提案があったりする方は、お声掛けいただければコラボ問題を作りますので、よろしくお願いします!
武部:『Q』の魅力は、自分が答えを知っているときに、知らない人に上から目線で教えられるときだと思います……が、逆にその人が別の解き方を編み出して、自分が面を食らうことまでも含めての面白さがあります。プログラマーとしては、まだまだ遊びにくいという声をちょくちょくいただいているので、引き続き対処していきたいと思います。ぜひ、引き続き楽しんでください。
熊谷:『Q』は多くのゲーム業界の方にも遊んでもらい、なおかつ宣伝もしてくれるなど、本当に大きなコンテンツになったかと思っています。今後も弊社は「リイカらしいよね!」と言われるような配信コンテンツを展開していきます。他社では出さないであろうタイトルを、今後もご期待ください。
――:ありがとうございました。
(取材・文:編集部 原孝則)
■『Q』
■リイカ