【セミナー】「世の中の女性を元気にしたい」…『夢王国と眠れる100人の王子様』のスタッフが語る女性向けゲームの世界観構築と今後について
クリーク・アンド・リバー社<4763>は、ゲームクリエイター向けセミナー「デザイン塾」を1月16日(土)に開催した。
今回開催された「デザイン塾」は、サイバーエージェントグループの女性向けゲーム開発専門組織「GG Studio」の人気コンテンツ『夢王国と眠れる100人の王子様』(以下夢100)の開発を行うプロデューサー、ディレクター、クリエイターによって、ゲーム仕様、世界観構築、ファンとの向き合い方など、ゲーム制作・運営について語られるというもの。「GG Studio」は、『ボーイフレンド(仮)』や『夢100』などを提供しており、「女性が本気で楽しめるゲームを創る」をコンセプトに、女性ゲームユーザー視点からのサービス開発を行っている。
人気コンテンツの製作者の生の声が聞けるということもあり、当日は多くのゲーム開発者、ゲーム業界を目指す学生の参加者が会場に足を運んだ。『夢100』が女性向けタイトルということもあり、参加者の9割が女性の参加者で占めていた。
今回のセミナーでは、主に開発のコンセプトや女性向けならではの、苦労や思想、また、女性向けゲームの今後についても語られた。
本稿では、そのセミナーの様子をお伝えしよう。
今回登壇したのは、『夢100』の企画・マーケティングを担当しているプロデューサーの三谷氏、レベルデザインを担当しているディレクターの清水氏、王子様のイラストを担当しているメインデザイナーのm/g氏だ。
■『夢100』の誕生秘話と目指したものとは
始めに、三谷氏から『夢100』の生まれた経緯について説明があった。社内で定期的に行われているゲーム企画プランコンテストにて、『夢100』が優勝企画だったという。そういったコンテストから始まった『夢100』は、スタッフの「好き」や「やりたい」といった気持ちを多く含んだタイトルとのことだ。
この頃から「王子様」というモチーフが決まっていたらしく、「女性向けにやり込めるゲームを作ろう」というコンセプトから始まった企画だという。
最初の企画段階では「新しい女性向けゲームとは?」という議論を重ねた。それに対して、もちろんストーリーだけでも楽しめるが、それ以外のやりごたえ、「プレイしている」という手応えを加えたいという意見が出た。だが、手応えは欲しいが難しくあってはいけないと考え、「簡単」「やり込める」「のめり込める」という3つのキーワードをいかに実現するかというところから開発がスタートした。
さらに、『夢100』の目指したコンセプトとして、もう1つ「女性に癒しを」というものがあったという。イケメンに萌えるという感情は、多くの女性が持っているものだと考え、その部分を信念として、先ほどの3つのキーワードに「女性に癒しを」という要素を加え、企画を進めていった。
そんな中、当時パズルゲームが女性に人気だったということもあり、パズルは女性にも受け入れられると考え、また、パズルはゲーム性を深堀りしやすいということもあり、パズルゲームにするという選択をしたという。
また、「やり込める」といった部分では、自分の好きな王子様を育てる「育成要素」を実装。さらに、しっかりとした共感できるストーリーを一人一人の王子様に付け、「のめり込める」要素を導入した。
■既存ユーザーからの『夢100』の評価 総合力
また、ゲーム開発・改善のために実施した『夢100』ユーザーアンケートの結果が提示された。いろいろな評価項目が存在しているが、どこか特定のものが突出しているわけでなく、全体的に高評価を得ている。チーム内でもこちらの要因を探ったところ、『夢100』の中には様々な既存のゲームにない新しい仕組みがあり、その1つ1つがまとまって評価を得ているのではないかと分析している。
■開発時の注力ポイント 〜パズルをどこまでつくり込むかの試行錯誤〜
続いて『夢100』の開発時の注力ポイントの説明があった。『夢100』は企画当初から「女性向け」ということを意識しているタイトルだが、パズル要素を入れる際に「女性はどこまでゲームをやりこむのだろうか?」というバランスの追求と課題があったという。
ここからはパズルと恋愛パートとのバランスについて、ディレクターの清水氏が説明をしてくれた。
恋愛要素が多いゲームで、パズルゲームをつくり込む必要性があるのか?といった面で、開発メンバー間で意見の食い違いが発生したと明かされた。そこに対して、パズル要素は『夢100』に対して、さらには「王子様」にのめり込んでもらうために重要な要素であると結論を出したという。
また、『夢100』の持つ恋愛要素を生かし、喜びポイントを意識して入れているという。「イケメンに褒められて嬉しくない女性はいない!」という考え方のもと、「パズルをしただけで褒めてくれる。」といった喜びポイント、ご褒美ポイントをふんだんにユーザーに与えられるようにした。
話題はパズル画面に移り、今現在の『夢100』のパズル画面に至るまで相当作り直されたことを明かした。『夢100』の開発時、世の中にはたくさんのパズルゲームが存在しており、そんな中、後出しのゲームが操作性がよくなければ、すぐにユーザーに見限られてしまう。パズル専属チームを組織し、なぞり方やフィーバーの仕方など、細かく分析をしながら開発を進めたという。
その結果『夢100』では、あまりゲームをやらない女性でもプレイできるものが出来上がっている。さらには、パズル中のチビキャラについても、演出のせいでパズルができないといった意見があったため、演出の秒数を調節し、また、フィーバーの仕様についてもリリースギリギリまで仕様を悩み、その結果、既存パズルゲームとの体験の違いがあまりないように調整したと語った。
■大量の王子様のキャラクターをぶれさせないグラフィック
次にメインデザイナーのm/g氏から、『夢100』に出てくる「王子様」のグラフィックについての制作秘話が明かされた。
『夢100』にはその名の通り、キャラクターである「王子様」が100人以上登場する。これだけの大量のキャラクターが登場するとなると、やはり製作者側にも性格やグラフィックについて、キャラブレが生じるという。そういった時は、「女性を癒す」や「王子様」といった原点に立ち返ったと話した。また、グラフィックを作る際に、「このキャラクターはどんな性格なのか?」といった部分を、キーワード化することが大事だったとのこと。
例として、「不思議の国のアリス」に登場する「マッドハッター」をモチーフにした「王子様」が挙げられた。ユーザーの期待するマッドハッターとして、「ひょうひょうとした胡散臭さ」があり、それをデザインで体現しつつ、『夢100』のマッドハッターはいい意味で、マッドハッター像を裏切るようなデザインにしている。このマッドハッターをモチーフにした「王子様」には「貴婦人」といったキーワードを付属し、『夢100』ならではの、期待を裏切らない、なおかつ良い意味で期待を裏切るキャラクターに仕上がっている。
このように、それぞれの「王子様」の個性を言語化して、チームメンバーや他のチームとも共有認識が生まれるようにしていたと明かした。
■女性を元気にするための世界観やストーリー
続いて、『夢100』の世界観やストーリーの制作について三谷氏から語られた。
そもそもの『夢100』のコンセプトとして、「女性を元気にするゲーム」を目指して開発が始まった経緯がある。これは三谷氏自身も、様々な女性向けゲームから元気をもらったからだと語った。
ここで、なぜ『夢100』では「王子様」というコンセプトを打ち出したかについて、「王子様」はすべての女性の憧れの存在であり、みんなが好きなモチーフだろうということと、『夢100』のチームメンバーに、ファンタジーの世界観が好きな人が多く、そういった要因から「王子様」がモチーフとなったという。
また、苦しいことがあっても希望が持てるように、「夢」というとっつき易いモチーフを採用した。
さらにキャラクターストーリーに関しては、恋愛に振り切り、プレイヤーがいかに共感できるか、さらにキャラクターがプレイヤーに語りかけているかを意識し、そして、100人の「王子様」を登場させ、いろいろな「萌え」や「欲求」に応えられるようにしたという。
このセミナーの事前アンケートでは、「どうやってキャラクターを作っているのか?」という質問が多く寄せられたというが、その質問に対して三谷氏は社内公募で行ったことを明かした。社内には「イケメン好き」が多く、こだわりが多く盛り込まれた思い入れのあるキャラクターが多く出来上がったという。今現在は、専門のチームがキャラクターを制作しているが、こういった「好き」という熱量は大事にしていきたいと語った。
■レビューを重要視する文化
次に、各マイルストーンに行われるレビューについての説明があった。
『夢100』では、各所からのレビューを重要視しており、同じサイバーエージェントグループの他社に、レビューを聞きに行くことなどもあるという。
開発当初ではだいぶ厳しいレビュー結果が出たこともあり、また、「これはもう直したくない!」と思ってしまうこともあったが、定期的にレビューをし、結果を受け止め、日々改善していくことが大事だと話した。
■女性向けならではの質問が飛び出したパネルディスカッション
今後の女性向けゲームについての話題も
講義のあとは、参加者から事前にとったアンケートを元にしたパネルディスカッションとそれに伴う質疑応答が実施された。ここでは様々な、女性向けコンテンツならではの質問事項やトピックスが紹介された。
最初の質問として、女性向けコンテンツならではの特有の工夫があるのか、というものが挙げられた。
ここで三谷氏は、女性向けという目線を忘れない、ゲームをやったことない人たちにもわかりやすいようにといったところを心がけたと語り、さらに、レベルデザインについては工夫の余地がたくさんあったと話した。
そのレベルデザインについては清水氏が開発当初のゲーム研究について語った。まず、開発の初期段階で、他アプリ数タイトルの研究を重ねたという。バランスをどう設計しているのか、またその思想等を考察した。ゲームの序盤は、プレイヤーに対して、達成感やご褒美ポイント、喜びポイントを多く与えたいと考え、こちらのポイントはより多くした。
イベントの設定では、ゲーム慣れしてない人には、労力にあった見返り(時間・お金)がないと不満がたまってしまうことを鑑みて、イベントなどでは、なるべく確定の報酬設定をしているという。
また、パズルの難易度について社内外で女性にとことんプレイをしてもらったという。ここではやはり、得手不得手が如実に現れ、苦手な人はどこまでうまくなれるかを研究して最低ラインを確認してからのパズル難易を設定した。
さらに、コンセプトについてはm/g氏が、最初は自分の中では世界観が決まっていたけれど、チームメンバーに対してそれを共有するのが難しかったと語った。世界観をイラストに起こしてみたりと、既存のイラストや写真等を元に熱意を込めて語り、共感してもらうということが大事だと話した。
次の質問として、キャラクター設定の作り方についてだった。多くのキャラクターの性格付けをどのようにして行っているのか? という質問に対してm/g氏は、今はグラフィックチームとシナリオチームの数人で制作していることを明かした。制作の際、どうしても独りよがりの設定になりがちだとし、チームメンバー全員で、「かっこいい」と思えるキャラクター設定を心がけているという。
また、各王子に細かい設定表があることを明かした。この設定表には年齢やポリシー、好き嫌いなどの表には出ないような項目が多く記されているという。そんな細かい設定表があるにもかかわらず、やはりイメージがバラバラでとりとめのないものになってしまうことが多々あったらしく、その際、シチュエーション別の各王子の行動などを新たに設定し、意識の統一を図ったという。
次は、乙女ゲームの今後の展開はどういったものになるか? という質問にに対し三谷氏は、女性の好みは多岐に渡っているので、属性やキャラクターに対し制限を設けないで、様々な展開をしていきたいと語った。また、市場全体に関しては、今後女性向けゲームはこれ以上難しくはならないと予想。ゲーム性に反し、グラフィックや世界観はよりリッチなものになっていき、プロモーション展開としてアプリの外へ向けた、メディアミックス作品が増えてくるのでは、と話した。
■『夢王国と眠れる100人の王子様』
©GCREST, Inc. All rights reserved.
©GG Studio. All rights reserved.
会社情報
- 会社名
- 株式会社クリーク・アンド・リバー社
- 設立
- 1990年3月
- 代表者
- 代表取締役会長CEO 井川 幸広/代表取締役社長COO 黒崎 淳
- 決算期
- 2月
- 直近業績
- 売上高497億9900万円、営業利益41億300万円、経常利益41億3700万円、最終利益26億5800万円(2024年2月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 4763
会社情報
- 会社名
- 株式会社ジークレスト
- 設立
- 2003年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 大辻 純平
- 決算期
- 9月