【連載】第2話「30代♀、幅広い業務をお任せされる」 - 3人のPMとそれぞれの違い
IT企業で働く30代女性(プロジェクトマネージャー職)の作者が、仕事におけるアレコレを語っていく連載記事「30代♀、東京のすみっこでさんかく座り」。女性目線ならではのキャリアアップや仕事上の立ち回りはもとより、ついつい職場で起こりがちな衝突や悩み、そして新たな気付きを赤裸々につづっていく。倒れては起き上がり、それでもひた向きにデスクへと向かう彼女の「仕事」との付き合い方を、少し覗いてみましょう。
■第2話「30代♀、幅広い業務をお任せされる」
こんにちは。原です。最近、ITセキュリティ分野でお仕事をさせていただいておりますが、来る6月22日(水)にセミナー『「組織」×「技術」でわかる!貴社に本当に必要なITセキュリティ」』を開催します。Windowsやメールにおける脅威と防衛法をレクチャーします。初心者大歓迎ですので、ぜひお越しください!(お申込みはこちら)
さて前回は、わたしの仕事であるプロジェクトマネジメントについて、書かせていただきました(関連記事)。今回は、プロジェクトを全滅させない方法についてお話ししていこうと思います。
全滅とは、一般的なゲームにあるように、これ以上継続不能な状態、あるいは、目標達成が不可能となった状態のことをいいます。要するにゲームオーバーです。
プロジェクトで言えば、時間、予算、人員などの不足によってこれ以上開発作業を進めることができない状況、あるいは、人員や予算を追加しても、価値のあるプロダクトを作り出せる見込みが全く無い状況ということになります。なかなか悲惨ですね…。
プロジェクトマネジメントでは、プロジェクトを無事に完了させるため、様々な工夫が研究されてきました。少し詳しい方なら、ウォーターフォールやアジャイルといった言葉をご存じでしょう。よく知らないな、という方は大きめの書店に行ってみてください。プロジェクトについて分厚い解説書がたくさん並んでいるはずです。前回も書きましたが、プロジェクトには必勝法がありません。状況を正しく判断し、適切なマネジメントを行えるようになるには豊富な知識と経験が必要なのです。
でも心配しないでください。確かに、適切なプロジェクトマネジメントは習得が難しいものです。ゲームで言えば、ベストスコアを叩き出す方法といったところでしょうか。マップの配置を覚え、敵の攻撃パターンを知り、正確な操作で必殺技を繰り出す。これには相当な練習が必要でしょう。
しかし、今日、わたしがお話しするのは「全滅しない方法」なのです。ゲームオーバーを避け、とりあえずプロジェクトメンバーみんなでステージクリアを目指す。ハイスコアではないかもしれませんが、どうでしょう、ステージクリアだけなら何とかなりそうな気がしませんか?
■言うは易く行うは難しの「生存戦略」
だれか一人でも生き残っていれば、全滅ではありません。
言葉遊びのようではありますが、どれほど開発作業が難航していたとしても、プロジェクトマネージャー自身が生き残っていれば、なんとかプロジェクトの体を成すことができます。全滅しない方法の極意は、実はここにあります。
つまり、プロジェクトマネージャー自身がプロジェクトマネジメントに専念できる、ということが最大の生存戦略なのです。ひるがえせば、プロジェクトマネージャーが本業から離れた途端に、プロジェクトは瓦解します。
工程(作業の順番)が不明瞭になり、プロジェクトメンバーたちは次に何をすればよいのか、自分の作業はどこに影響を及ぼすのかがわからなくなってしまいます。納期や品質についての責任も曖昧になり、ダラダラと作業を続けた結果、納期直前になって、「大変なことになったぞ」とやっと気付くわけです。このように、生存戦略の原理は非常にシンプルです。
しかし、プロジェクトマネジメントに専念するということは、意外にも現場では難しかったりします。
■3人の「PM」
専念するということは、すなわち、兼任しないということです。しかし、不思議なことに、誰も兼任させたとは思っていないし、プロジェクトマネージャー本人も兼任だとは思っていないのに、実質的には複数の職務を兼ねてしまっているということが起きているのです。この不可解な状況は、「3人のPM」を知ることで解明することができます。1つずつ解説していきましょう。
PMとはプロジェクトマネージャーの略称です。いえ、そう思われている、と言った方が良いかもしれません。しかし、プロジェクトには、仕事内容が異なる「3人のPM」が必要とされます。「3人のPM」とは、一人はもちろんプロジェクトマネージャー(Project Manager)、もう一人はプロダクトマネージャー(Prodcut Manager)、そして3人目はプロダクトマーケティングマネージャー(Product Marketing Manager)を指します。
役割は異なりますが、奇しくも、みな略称が「PM」です。 開発の現場では、各々のPMが明確に分担されていることは稀でしょう。なんとなく「PM」という言葉に集約された結果、一人の「PM」が全てを担うことになり、先ほどの不可解な兼任が発生してしまうわけです。
さて、それぞれのPMについて簡単に説明しておきましょう。
まず、プロダクトマネージャー(Product Manager)は、その名のとおり、プロダクト(サービスやアプリケーション)の責任者です。どんな人に、どんな価値(あるいは楽しみ)をもたらし、そのためにどんな機能(あるいは体験)を備えておくべきかという、いわゆる要件を定めることが主な仕事で、プロダクト全体の仕上がり具合に責任を持ちます。会社によっては「プロダクトオーナー」と呼んだり、ゲーム業界では「プランナー」とか「ディレクター」と呼ばれることもあるでしょう。実は、プロダクトマネージャーは必ずしも卓越したエンジニアやデザイナーである必要はありません。それよりも、徹底したユーザー目線で、新しい価値を生み出すアイディアを考え抜くことができる集中力と自信が不可欠です。
プロジェクトマネージャーは、わたしの仕事なので前回書いたとおりとなりますが、プロジェクトの円滑な運営について責任を持ちます。プロダクトマネージャーから提出された「要件」を元に、それを実現するために必要なリソース(スタッフ、資材、予算など)を準備し、進捗管理を行います。エンジニアだけでなく、デザイナー、法務担当者、経理担当者、外注先の担当者など、関係する人がとても多いポジションです。どの人とも正しく意思疎通ができるよう、広範な知識と交渉力を身につけておく必要があります。どの企業でも「プロジェクトマネージャー」と呼ばれることがほとんどですが、「ディレクター」や「プロデューサー」という人たちが実質的にこの役割を担っていることも多いようです。
プロダクトマーケティングマネージャーは、他のPMと異なり、「売る」ことに責任を持ちます。プロダクトを市場に投入し、ターゲットとする顧客層に届け、売上を創出することが仕事となります。「マーケティング」「プロモーション」「セールス」という語を含む部署の人にお願いすることが多いでしょう。
どのPMも、役割は責任重大でフルコミットが必要です。
とても兼任できるものではありません。
しかし、実際の現場では分担されていないため、ディレクターがプロモーション施策まで考えていたり、プランナーが進捗管理を担当していたりします。わたし自身、そのような役割分担がいびつな職場をいくつも見てきました。そういう職場の場合、着任初日にこう言われたりします。
「幅広く業務をお任せします」と。
■兼任が生む矛盾
たとえば、とあるディレクターが、プロダクトマネージャーとプロジェクトマネージャーを兼任することになったとします。
まずは、プロダクトマネージャーとして、どのようなプロダクトに仕上げるか、要件を積み上げていきます。ここまでは、きっと楽しい作業でしょう。しかし、要件が増えてくるとどうでしょうか。プロジェクトマネージャーとしての目線で見たとき、「今のリソースでこんなにたくさんの機能を実装できるのかな…」と心配になってくるかもしれません。
プロダクトの仕上がりを高めようとすると、プレッシャーというかたちで自分に跳ね返ってきてしまう。もし、それぞれ別の人が担当していたならば、二人で話し合い、実装すべき機能を絞り込むことができます。
一方、兼任の場合は、たった一人でこの矛盾と戦わなければなりません。ごく稀に、この矛盾を乗り越えることのできるスーパークリエイターがいるのは事実ですが、多くの場合、悩んで手が止まってしまうものです。手が止まれば進捗することはありません。時間だけが過ぎてしまい、導火線に火がつきます。そして、ついつい焦って、中途半端な要件にまとめてしまえば、今度はプロダクトの魅力が半減してしまいます。これでは本末転倒です。
世の中には、数多くの“ユーザーに愛されない”プロダクトがはびこっています。便利でもなく、楽しくもなく、バグだらけのプロダクト。ゲームで言えば「クソゲー」というものでしょう。その原因の1つが、この「不用意な兼任」によるものではないかと、わたしは思うのです。開発現場は選択の連続です。それぞれが責任を負い、厳しい目で最善の選択肢を選び取っていかなくてはなりません。
だからこそ役割分担は大切で、正しい役割分担なくして価値あるプロダクトは生まれないのです。
■あなたの目指す方角は?
もし専任で仕事を任されるとしたら、どのような仕事がしたいでしょうか。
便利なものを考えたり、ユーザー体験をデザインする仕事でしょうか。
地味ですが、関係者間を取り持つ仕事も大切なキャリアになるでしょう。
マーケティングは成果が目に見えやすく、やり応えがあるかもしれません。
いずれにせよ、大事なことは、あなたが今、やりたいことの方角を向いているかどうかです。今は兼任で仕事をせざるを得なかったとしても、これからどこに軸足を置きたいでしょうか。
自分にぴったりでちょうど望んでいた仕事が目の前に降ってくることは、悲しいことに、まずありません。進みたい方向を見定め、経路を確認し、仕事の道を切り開いていくのは、自分自身です。経験や知識が無いからと言って、あきらめることはありません。どんなに優れた人も「最初の一日」はあったはずなのですから。
この世の中、チャンスと情報はいくらでも手に入ります。でも、それをモノにできるか、はあなた次第です。不用意な兼任は、あなたの方向感覚を狂わせてしまうかもしれません。あなたは、キャリアの迷子になってしまってはいないでしょうか。
というわけで、次回は、キャリアの迷子脱出法を書きたいと思います。
それではまた!
著者:原美恵 (Twitterアカウント/Facebookアカウント)
1984年生まれ。NHN テコラス株式会社所属。 サービス企画、 プロジェクトマネージャーに従事。 ビジネスモデル立案、プロジェクトマネジメント全般が専門。アジャイルやDevOpsによる、“みんなが楽しくなるプロジェクト”を目標にしている。趣味はガンダム研究とゲーム全般。最近、『ドラクエヒーローズ2』をプレイ開始。現実でも「くじけぬこころ」がほしいと真剣に考える今日この頃。
イラスト:黒川依 (Twitterアカウント)
漫画家。代表作に『ひとり暮らしのOLを描きました』シリーズ(公式サイト)。コミックス最新第2巻は好評発売中。