グリー<3632>の古森泰氏が「欧米ゲームのトレンドについて~深いゲーム経済をつくり効率的にマーケティングする方法」と題するセッションを8月25日の「CEDEC2016」で行ったので、今回はその模様をレポートしておこう。セッションでは、氏の米国子会社における業務経験から得た欧米のモバイルゲーム市場の特徴や最近のマーケティング手法の変化に関する知見を紹介するものだった。
セッションでは、まず、マーケティングとARPUの説明から始まった。考え方自体は、日本のそれと大きく変わるものではなく、CPI(インストール単価)がARPU(ユーザー一人あたりの売上高)を下回ればマーケティングコストが回収できる、というのは世界共通のモデルになっている。欧米ではCPIではなく、eCPI(オーガニックの数値込み)を使うところも多く、eCPIについては、180日で回収できるかどうか判断するところが多いという。
CPIについては、日本と同じく、タイトルやジャンルによって大きく変わる。CPIのレンジは、3~20ドルに収まることが多く、マス向けのタイトルになるほどCPIが低くなる一方、コアなゲームほどCPIが高くなる。タイトルによってはCPIが40ドルを超えるようなケースもあるそうだ。ゲーム内でのARPUも同じく、マス向けが低く、コア向けが高くなる傾向にある。
ただ、欧米市場は、日本と比べて自然流入などで大量に獲得できるそうだ。このため、日本市場とはまた異なるアプローチ方法が必要になるが、CPIを下げるか、いかにARPUを上げるかが基本戦略に変わりはない。また、CPIが上昇傾向にあるため、日本と同じくブランドマーケティングのような手法が徐々に広まっているそうだ。
続いて、欧米のゲームのトレンドに話が移った。ここでは3つのキーワードが重視されるという。「プレイヤー同士の競い合い」、いわゆるPvPやGvGが好まれているほか、「課金額やプレイ時間が多くなるほどユーザーの強さが保証される仕組み」、そして、どんなにプレイしてもあるいは課金しても突き詰められない「深い経済」だそうだ。ARPUについては素早く上昇することも重要だが、日数を重ねるごとに上がり続けることが重要と指摘した。ヒットしないものはすぐに頭打ちになるとのことだった。
課金額とプレイ時間の多さが強さを保証するというのは特に重要な要素と考えられているという。日本では一般的なガチャが欧米であまり見られないのはこの考え方からすると当然で、支払った額に対してこれだけのメリットが得られると保証する方が良いそうだ。また、コアなゲームというと、いわゆるアクションゲームのようなプレイヤーのスキルを重視するゲームになりがちだが、そういったものは「課金額とプレイ時間の多さが強さを保証する」とはまた異なるものであり、右肩上がりのARPUを目指すことが難しくなる。
最後に、トレンドとして、「伝統的」な手法が徐々に限界を迎えつつあるなか、昨今の発展を受けて機械学習を導入する動きが広がっているという。例えば、マーケティングに関しては、閲覧したメディアなど流入経路に合わせて最適なコンテンツを提供するだけでなく、マーケティングキャンペーンごとにCPIと収益を比較してBiddingの調整を行う、といったことを行っているそうだ。その前提として、ユーザーがどこから入って、どのくらいの消費を行っているのかを把握する必要があり、そのためのツールも提供されている。
流入経路別のコンテンツ提供とはどういうことか。これまではゲーム側では流入経路を問わず同じコンテンツを提供していた。しかし、いまではゲームメディア経由できた、ゲームに慣れているような人にはチュートリアルを飛ばせるようにしたり、慣れていない人には割安のスターターパックの提供などを行ったりしているという。PvEでもユーザーレベルに応じたボスの出現などを行うこともある。こうした機械学習を使った対応については、グリーではまだできていないとのこと。
「欧米のマーケットに進出しようとした時、現地でのトレンドに関する情報が少ないのが現状だ。グリー自身もまだ大きな成功を収めているとはいえないが、今回のセッションを通じて、自分なりに勉強してきたことをお伝えして、ここでお話したことがお役に立てれば幸い」と話していた。現在、氏は、GVRファンドの運営に携わっており、欧米のVR関連のスタートアップへの投資事業に従事しているそうだ。
(編集部 木村英彦)
会社情報
- 会社名
- グリー株式会社
- 設立
- 2004年12月
- 代表者
- 代表取締役会長兼社長 田中 良和
- 決算期
- 6月
- 直近業績
- 売上高613億900万円、営業利益59億8100万円、経常利益71億2300万円、最終利益46億3000万円(2024年6月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3632