熱気を帯びた会場内で多くの人が開始を待つ中、モデレーターにTokyo VR Startup株式会社取締役の新清士氏、パネリストには株式会社バンダイナムコエンターテイメントAM事業部エグゼクティブプロデューサーの小山順一朗氏、同AM事業部VR部VRコンテンツ開発課マネージャーの田宮幸春氏、株式会社USJコンテンツ開発室室長の中嶋啓之氏、株式会社セガ・ライブクリエイション取締役施設事業推進部部長の速水和彦氏が登壇。早くからVRアトラクションに取り組んできた先駆者によるセッションは、高い濃度を保っていた。
■収益の話からIP使用についての話まで
▲モデレーターを務めた新清士氏。Tokyo VR Startupの取締役の他、
よむネコ代表やジャーナリストでもある。
速水氏は「想定の利用率より倍以上」としながらも、「ジョイポリスの中でやっているからこそ」だと慎重な構え。USJの中嶋氏は「テーマパーク中の1アトラクション、簡単に表すのは難しい」と語り、VRアトラクションの成功ではなく手段として「きゃりーぱみゅぱみゅXRライド」選んで成功したと続けた。また、AR、VRは新しいテクノロジー、意識したのは「エントリーユーザーを取り込みたい」という事。「家庭でのVR体験が競合になるのでは?」という意見もある中で、「広いスペースで行う、ものすごい体感を伴う体験ができるのがテーマパークのVR体験ではないか」と考えたそう。「興味はあるが機会がない方」への入り口、きっかけを意識して、誰に対して初めての体験を提示していくか、を常に考えているとも語った。
ここで小山氏から「IP目的で来る方と、VR目的で来る割合は?」という質問が。これに対し中嶋氏は「彼女(きゃりー)の世界観目当ての方がほとんどで、VRの新しい体験だと認知して来られた方は少ない」と発言。体験者の7割が女性で、半分がファンの方。半分がたまたま来たノーファンの方という構成だと聞けば、納得できる話だ。やはり彼女の女性人気と同様に、「○○だから来た」という客が大半という事だろう。
▲ユー・エス・ジェイ コンテンツ開発室 室長 中嶋 啓之氏
ジョイポリスの『ZERO LATENCY VR』はコンパクトにするために時間を短くして、敷地も当地に合わせて作り替え。集客については、VRに興味のある方、すでに楽しんでいる方から一般の方へ口コミが広がって拡散しているそう。今は狙い通りに物事が進んでいるという。現在VR体験のメイン層は男性だが、ホラーコンテンツ(『VR生き人形の間』)は女性が多いそうだ。
一方、小山氏は「VR ZONE」でのIP使用を止めようと考えていたらしく、その理由として「IPに興味があるのかVRに興味があるのか切り分けないと次に進めない」を挙げる。田宮氏も「VRだからという目新しさでお客さんを呼ぶのはもう終わっている」と考えていて、VRだからこれができる、というニーズや遊び方をストレートに伝えて、それが面白そうだから体験してみる、と考えてもらう事が重要だと語った。目下の課題として、小山氏は「VR体験に興味がない人達にアピールしないと意味がない」と言い、驚きを主軸に提案する形が望ましいとした。
例の「体験者がビビってる動画」については、「マジで取り乱すよ!」というところを前面に出し、「嘘だろこれ」と考える人達がそれを確かめにくる、という構図があったよう。ここは「過剰に表現して告知しても、実際の体験の方が上回る」VR体験ならではで、体験者のコメントが「予想以上だった」というところはいいネタ話である。
■VRアトラクションで見えた課題点について
▲バンダイナムコエンターテインメント AM事業部 エグゼクティブプロデューサー
小山 順一朗氏。通称コヤ所長。
子供向けIPを多く持つバンダイナムコの小山氏は、斜視についての論文にも言及。やはりかなりセンシティブな部分ではあるが、1980年代の論文を元にしたこの議論については、再考の余地がある。過去の事例と現代の機器・精度を元にトライアルを重ね、「今現在の情報」にアップデートしていく必要があるだろう。新しいものや体験に対する子供の反応はかなり強く、楽しみや喜びも大きい。だからこそ、登壇者の面々も業界全体でどうにかしたいという気持ちは共通して持っていたようだ。
▲バンダイナムコエンターテインメント AM事業部 VR部VRコンテンツ開発課 マネージャー
田宮 幸春氏。通称タミヤ室長。
もう一つ見えてきた課題に、安全についての考察がなされた。何かに驚いたり反射的に動いたりする行動は人間の本能に起因するものであり、現実空間とVR空間の差異に対する事故・物損につながる可能性があるのだ。そのような反射行動、例えば落下時や窓ガラスをぶち破って登場するゾンビドッグのようなものを楽しませる事はVR的に重要な要素であるが、よろめいたり転んだりする安全対策はしっかりとしておかないと危険。これに対し田宮氏は、「座れば安全だが、安易に座らせて解決したくない」と語った。
「お客さんに対して安全を確保する人間が必要になる」と言う中嶋氏は、運営の人数についての課題に触れる。USJならではだが、大量の人数をさばく事、コースターの清掃スタッフの人数、補助・サポートスタッフの数、それらの人件費だけでも数千万円かかるというから驚き……ではあろうが、あの規模なら納得の金額だろう。先ほどの100万人ショック同様、会場からも大きな驚きが漏れ聞こえる。人海戦術で凌ぐのにも限界があろうし、今後益々広がる課題としては重要な部分と言える。
■どこをどうすれば収益が上がる?
▲セガ・ライブクリエイション取締役 施設事業推進部 部長 速水 和彦氏
やはりアトラクションサイドからのセッションだけに、ここでも話題は収益へ。「最初から厳しい(安い)設定でやると後々上げられなくなる」と田宮氏。1プレイ100円のビジネスを続けてきた会社において、当初600円を設定した時に社内から「えっ?」という声が挙がったようだ。同氏は中国での成功例も挙げ、値段ではなく、価値や体験で勝負して欲しいと語る。これについて速水氏も参考にしたそうで、価格設定についてはちょっと高めかな、とも思える水準となっている。しかし一方でスペインでの『ZERO LATENCY』は6,000円と高く、むしろ日本がかなり安いのだとか。中嶋氏も「日本のテーマパークの価格が一番安い」と言い、値上げというリスクを背負ってでも、体験でアプローチしていく意思を語った。
■「次」はどうなる?
現在動いている企画については語れないものの、案の段階でなら話せる事もある。小山氏は「感動や驚きを中心にしたもの」を組み立てていて、田宮氏は「VRは体験、シミュレーションみたいなものは相性がいい」と言う。スポーツ同様練習して上手くなろうという感覚が起きるため、回数を重ねる事で上達の喜びを体で得られると言うのだ。これに対して速水氏はeスポ的な発展はするのかと田宮氏に投げかけ、「新しい競技に対して競技人口が少ないとやり込みも自慢もできない事と同様に、新ゲームに極めがいがないと言われる。だから実際にあるものを突き詰めた方がいい」との回答を得ていた。
今後求めるもの、期待する事に対しては、「デバイスメーカーの方に、皆さんがHMDをかけた状態で来てかけっぱなしで遊んで帰るもの」を期待すると小山・田宮両氏。中嶋氏は「音楽VRを見た時に実際のライブとどちらがいいかというと、やはり生の方がいい。そこで勝負せずに、VRならではできる事を求めていく」と言う。また、小山氏は「VRで酔いを止める機器ができたら相当儲かります!」と、会場にも来ているであろう機器メーカーに訴えかけていた。
「テーマパークは最終的に誰と行ってどう楽しかったのかが重要」と語る中嶋氏は、アトラクションの記憶ではなく、誰とどこに行って楽しかったという記憶は残ると解説。VRは一人での体験となってしまいがちだが、一緒の空間で体験を共有して楽しめる事が大切であり、収益的には1人より4人できてもらった方がビジネスは成り立つ、と締めた。
■20年後のアトラクションVRの形とは
20年後と言うととても遠く感じるが、己を振り返っての20年前はそう遠くない。そう考えるとどこまでブレイクスルーが起きるかにかかっていそうだが、各人のコメントを紹介する。速水氏は「VRだけに特化しているわけではないので、多人数できるものが沢山出てきていて、非日常を楽しめるものが周囲に溢れているようになってればいいですね」と回答。
中嶋氏は「他のコンテンツとの競争ではなく、体験の一つとして定着すればいいなあ」と語り、田宮氏は「VRは今までのメディアと違い、伝える、から、伝わる、になっている」と説明。「だからメディア側に今までのノウハウが通用しないという状態になっている」と続ける。そして今までにないものを作り出せる、そのポジションにいたいとの事だった。そして小山氏は技術革新によって代替されていった製品を挙げ、やがて他の製品がVRに代替されていくのではないかと言う。また、スポーツに関しても代替が起きるのではとも語り、いずれはVRが生活の必需品になっていくのではないかと、セッションを締めくくった。
( 取材・文:ライター 平工泰久)