カヤック<3904>は、2016年12月23日(金)~25日(日)、めぐろパーシモンホールにおいて、ゲーム音楽交響楽団「JAGMO」によるフルオーケストラ公演「英雄達の譚詩曲 ‐聖なる交響楽団‐」を開催した。
JAGMOは“ゲーム音楽を音楽史に残る文化に”というビジョンのもと、これまで高い芸術性を保持するオーケストラ公演を実施している。一方でカヤックは、去る2015年3月31日にJAGMOの全事業を譲受し、同社が持つコンテンツやクリエイティブの強みを活かして、JAGMOが開催した同年7月の夏公演をサポートし、満員御礼の大成功を収めた。本稿では、2016年12月公演であるフルオーケストラ公演「英雄達の譚詩曲 ‐聖なる交響楽団‐」の模様を取材。
「英雄達の譚詩曲 ‐聖なる交響楽団‐」公演プログラム
■『サクラ大戦』より
「檄!帝国華撃団」(サクラ大戦)
「御旗のもとに」(サクラ大戦3)
「地上の戦士」(サクラ大戦5)
■『ICO』より
「ICO-You were there-」
「Castle in the Mist」
■『ワンダと巨像』より
「プロローグ~古えの地へ~」
「黒い血」
「開かれる道~巨像との戦い~」
「荒ぶる邂逅~巨像との戦い~」
「蘇る力~巨像との戦い~」
「儀式の終焉 ~巨像との戦い~」
「陽のあたる大地」
■『MOTHER』シリーズより
「Eight Melodies」
「Pollyanna(I Believe in You)」
「Bein' Friends」
「Saturn Valley」
「摩天楼に抱かれて」
「SMILES and TEARS」
■『クロノ・クロス』シリーズより
「CHRONO CROSS ~時の傷痕~」
「疾風」
「死線」
「勝利 ~春の贈り物~」
「星を盗んだ少女」
「夢の岸辺に アナザー・ワールド」
「運命に囚われし者たち」
「龍神」
■『ワイルドアームズ』より
「荒野の果てへ」
「街」
■『アトリエ』シリーズより
「紫電清霜」(新・ロロナのアトリエ)
「Red Zone」「GO GO TOTORI」(トトリのアトリエ)
「雲雀東風」(ソフィーのアトリエ)
「小手鞠」(シャリーのアトリエ)
「Stella ~その2~」(シャリーのアトリエ)
「Sweep! ~その3~」(シャリーのアトリエ)
「雲烟飛動」(シャリーのアトリエ)
「疾翔」(フィリスのアトリエ)
■『俺の屍を越えてゆけ2』より
「序章」
「旅立ち」
「勝負」
「鬼神」
「阿部晴明」
「夜鳥子」
「鬼頭」
「晴明と式神」
「阿修羅」
「決戦 破」
「終結」
■『大神』より
「タイトル」
「プロローグ」
「オイラのテーマ」
「妖怪退治」
「ウシワカ演舞~ウシワカと遊ぶ」
「常闇ノ皇」
「Reset」
「太陽は昇る」
■聖夜に実現した意欲的なプログラムをフルオーケストラの演奏で
2015年2月に初のフルオーケストラ公演「伝説の交響楽団」、 同7月には戦闘曲を中心とした「伝説の戦闘組曲」、そして同10月には音楽祭をイメージした「伝説の音楽祭 - 勇者たちの響宴 -」を開催してきたJAGMO。季節毎にコンセプトを定めた”伝説”のフルオーケストラ公演だが、今回は祝日や聖夜を入れた3日間の開催。
さて、既存のフルオーケストラの形にとらわれないJAGMOは、オーディション形式で毎回選りすぐりの質の高いチームを作り、その確かな演奏力で、着実にリピーターを増やしている。また、ゲームユーザーが心躍るプログラム内容にも注目が集まっており、今回は過去に実施してきた公演のアンケートで「演奏して欲しいゲーム音楽リクエスト」の上位に名を連ねたタイトルがプログラムに。
開幕は、『サクラ大戦』より、オープニングテーマ「檄!帝国華撃団」(『1』『2』)、「御旗のもとに」(『3』)。前者は、軍楽団を思わせる強烈な打楽器と高らかな管楽器で、大正ロマンとスチームパンクの雰囲気の原作世界に誘ってくれた。一方後者は、ハイクオリティの映像美が印象深い『サクラ大戦3』のオープニングテーマ。こちらも、ふたつの曲を織り交ぜたリミックス調に演奏。実際に『サクラ大戦4』のオープニング「檄!帝〜最終章(フィナーレ)〜」では、ふたつの楽曲を組み合わせた内容なのだが、それに近い形で演奏を披露し、古参ファンも納得であろう内容を届けてくれた。
また、今回の公演では『サクラ大戦5』より「地上の戦士」も初演奏。ニューヨークが舞台の同作は、スウィング・ジャズを彷彿とさせる曲調に。まるでブロードウェイミュージカルのような勢いで、開幕から観客の心を鷲掴みにした。
続いてはゲームデザイナー・上田文人氏が手掛けた『ICO』。本作は少年イコを操作して、言葉の通じない少女ヨルダの手を取り、彼女を守りながら古城から脱出していくアクションアドベンチャーゲーム。当日は、同作の代名詞ともいえるエンディング曲「ICO-You were there-」が演奏された。ゲーム中はボーイソプラノグループ「libera」のSteven Geraghty氏がボーカルを担当。神秘的で透き通ったその歌声に、プレイヤーは少女ヨルダと困難を乗り越えた道中を、どこか寂しげに思い返すだろう。
このほか、セーブポイントの楽曲「Castle in the Mist」も演奏された。『ICO』では、少年イコと少女ヨルダのふたりが一緒にベンチに座ることでセーブできる。ほっと一息つく場面で、心癒される楽曲として思い出深いプレイヤーも多いのではないか。その後、再び「ICO-You were there-」に戻り、演奏の最後には微かに波の音が取り入れられた。限定的な演出ではあるが、クリアー済みのプレイヤーであれば、この波の音が意味することは分かるだろう。こうしたプレイヤー目線で粋な編曲ができるのもJAGMOならでは。
続く『ワンダと巨象』は、同じく上田文人氏が手掛けたアクションゲーム。プレイヤーは、主人公・ワンダとして魂を失った少女を救うために、世界から隔離された“いにしえの地”で、16体の巨象に挑んでいく。全7曲に及ぶ演奏は、オープニングを皮切りに、巨象が潜む地の侵入、巨象との対峙、そして反撃、ラストバトルにエンディングと、本作におけるすべてのゲームシーンを堪能できる至極のメドレーとなった。
『MOTHER』シリーズでは、6曲を演奏。ユニークな試みとして、演奏中に一部楽器だけで“とある一節”を奏でるシーンが随所に入っていたのだが、すべては「SMILES and TEARS」への付箋でもあった。というのも、『MOTHER 1』『2』ではメロディを集めていくゲーム展開があるように、それらの演出を実際に演奏中でも表現したのだ。その大胆な演出は、新進気鋭の音楽交響楽団JAGMOならでは、あるいはゲーム本編を知っている人だからこそできる芸当だろう。また、過去公演でも好評を博した『クロノ・クロス』の壮大なメドレー。大海原の心地よい風を感じさせるオープニングテーマ「時の傷痕」から始まり、美しい音色で観客を魅了した。そして、間髪入れずボス戦の曲「死線」に繋げて、フルオーケストラでしか味わえない力強い演奏力を披露。
今回の公演では、意欲的なタイトルが続く。プレイステーションの名作RPG『ワイルドアームズ』もそのひとつ。口笛のメロディが印象的な「荒野の果てへ」と「街」の2曲を披露。風が吹き荒れる荒野を歩く道中、街に到着したかのようにガラリと演奏が切り替わる。そして、なかなかオーケストラで耳にすることの出来ない『アトリエ』シリーズの演奏も大ボリュームだ。当日は『新・ロロナのアトリエ』『トトリのアトリエ』『ソフィーのアトリエ』『シャリーのアトリエ』の選りすぐりの名曲に加え、最新作『フィリスのアトリエ』の楽曲も加えたスペシャルメドレーを展開。木琴など打楽器の力強いメロディのなかにも、ギリシャや西ヨーロッパの港町を連想とさせる『アトリエ』シリーズ独特の世界観に包まれる演奏となった。
『俺の屍を超えてゆけ2』では、オーケストラに和楽器を取り入れたJAGMOだけの特別な編成で展開。物語のテーマにもある“一族の血を絶やさず”と、一曲一曲ただ真っ直ぐにオープニングからエンディングまでを含む全11曲を披露した。最後の演奏となる『大神』では、引き続き和楽器を主体として演奏。太鼓の「ドドンッ」というリズムとともに、女の子の声で「おおかみ」というタイトルコールで始まる部分も完全再現した。「プロローグ」では、津軽三味線のソロで観客を魅了し、通常戦闘曲の「妖怪退治」では左右中央と計3カ所より和太鼓の轟音が、ホール全体に響き渡った。そんな荒々しい楽曲が続いた最後には、「Reset」「太陽は昇る」と感動の名シーンで流れる2曲で締めくくられた。
そしてアンコールでは、クリスマスシーズンということで、まさかの定番クリスマスソングと先ほどの『大神』より「太陽は昇る」のリミックスナンバー。湿っぽさを一気に吹き飛ばすハツラツとした曲調は、ついさっきまで目に涙を浮かべていた観客も思わず笑顔に。和風テイストの『大神』の楽曲が、ハンドベルなどの演奏で聖夜に溶け込むさまは、意外にもピッタリ。白狼の姿をした主人公のアマテラスが、まるでサンタ帽をかぶりながらソリを引っ張っている姿が目に浮かんだ。こうして最後のアンコール演出で綺麗にフィナーレを迎えた。
観客と同じ視点に立って旋律を奏でてくれる数少ない交響楽団「JAGMO」。次回開催は2017年3月24日(金)25日(土) 文京シビックホールにて単独公演、そして2017年5月3日(土)@東京オペラシティにて東方Project第3弾公演を予定している。
▲当日は「JAGMOクエスト 〜 聖夜のイラストコンテスト 〜」の応募上位3作品も決定。本企画は、JAGMO公式キャラクター「ジャグモ君」を使ったクリスマスイラストを描くもの。最優秀イラストは、クリアファイルをはじめ、オリジナルグッズがプレゼントされた。
▲「JAGMOパトロネージュプログラム」の受付。会員になることで、公演の優先購入権やオリジナルグッズなど、様々な特典を得られる。
▲ロビーでは、パンフレットや缶バッジなどを販売。
会社情報
- 会社名
- 株式会社カヤック
- 設立
- 2005年1月
- 代表者
- 代表取締役CEO 柳澤 大輔/代表取締役CTO 貝畑 政徳/代表取締役CBO 久場 智喜
- 決算期
- 12月
- 直近業績
- 売上高174億6700万円、営業利益10億2100万円、経常利益10億3800万円、最終利益5億1100万円(2023年12月期)
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 3904