【セミナー】レベルファイブのデザイナーが語るクリエイティブの最前線…物語が生まれるコンセプトアートと「コマさん」誕生秘話



レベルファイブは、2017年2月に「大学・短大・専門学校生向け“クリエイターを目指す者たちへのカンファレンス” 」を東京・大阪・福岡の3都市にて開催した。
 
カンファレンス当日は「イナズマイレブン」「二ノ国」「妖怪ウォッチ」各シリーズなど人気作品を多数生み出してきた同社のクリエイター陣が、ゲーム業界へ就職を希望している学生に向け、ゲーム制作現場における取り組みを語った。
 
本稿では、2月26日(日)に実施された東京会場の講演から、「コンセプトアートに込められた物語性」「愛されるキャラクターデザインとは」を取材。なお、カンファレンスはゲーム業界を志す“大学・短大・専門学校生向け”の講演となった。

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■にじみ出る生活感…コンセプトアートに込められた物語性とは


「コンセプトアートに込められた物語性」をテーマに、梁井信之氏と東村有里氏による講演が行われた。梁井氏は「二ノ国」「妖怪ウォッチ」各シリーズなどを手掛けたベテランのアートディレクターで、両作品の世界の創造主とも呼ばれる存在だ。その梁井氏の下で、東村氏は背景、キャラクター、イラストなど幅広くデザインを担当している。上司と部下という関係の二人だが、軽妙な寸劇を交えつつ、背景原画の役割と面白さを語った。
 
講演の冒頭で、梁井氏は東村氏に「『妖怪ウォッチ』~クマの部屋をデザインせよ」という架空のミッションを与えた。クマは「妖怪ウォッチ」のキャラクターで、主人公ケータの友達でガキ大将的存在だ。
 


彼の自室をデザインすることとなった東村氏は「大丈夫、余裕です!」と応え、早速、1つ目の作品を提出する。



しかし、梁井氏に「全然ダメ!」と、すぐにリテイクを出されてしまう。


 
東村氏は悩みながらも、「クマのキャラクターのイメージを入れ込んでみました」と、2つ目の作品を制作。クマのメインカラーである青色が随所に使われているほか、「勉強は苦手」というイメージから漫画が置かれている。また、クマの家は古い住宅街にあるというゲーム内の設定を活かして、畳敷きの部屋に変更された。
 


これを見た梁井氏は、「キャラクター性は出ている気がする」としつつも、「イメージと違う」と二度目のリテイク。東村氏はショックのあまり、「ただのしかばね」になってしまったようだ。
 
なぜ2枚ともリテイクとなってしまったのか。梁井氏は、その理由を解説した。まず1枚目の作品は、「誰の部屋なのか、全然分からない」と一刀両断。個性の乏しい部屋であるため、主人公のケータや友達のカンチの部屋としても通用してしまう点が問題だったのだ。今回に限らず、背景原画には性格、趣味、体格など、キャラクターに見合ったデザインが必要不可欠であり、「キャラクター性が伝わるように描くべし」と、梁井氏は強調した。
 


2枚目の作品は、クマらしさが盛り込まれているものの、「整然としすぎている」という。例えば、クマ一家の暮らし、住居の築年数、部屋に入ったときの匂いというような「にじみ出る生活感」が描かれていないのだ。梁井氏は、キャラクターの生活感をイメージするには「そのキャラクターになりきることが大切」だといい、「独自のストーリーが展開し、結果的に物語性が生まれる」ような背景が必要だと語った。

 

梁井氏のアドバイスを受け、東村氏は3枚目の作品を披露した。


 


クマの大雑把な性格を反映し、かなり散らかった部屋となった。東村氏は「布団の上でポテチを食べながらゲームをしていて、そのまま遊びに出掛けた」というシーンを想像しながら制作したと話し、梁井氏も「(クマは)勉強してない感じがする」「野球ばっかりやってそう」と、その出来映えに大満足していた。
 
レベルファイブが本社を置く福岡には、「妖怪ウォッチ」の公式ショップ「ヨロズマート 福岡総本店」という実店舗がある。店舗の内装は、劇場版第2弾『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』のビジュアルを基に、妖怪たちの世界「妖魔界」の様子がそのまま再現された非常に凝った造りとなっている。

普段は目立たない背景が注目されたことに、梁井氏は「背景をやってて良かった」と、仕事のやり甲斐を語った。コンセプトアートがここまで実店舗に反映されるケースは珍しく、クロスメディアに強いレベルファイブならではの取り組みと言えるだろう。




 
コンセプトアート(背景原画)はキャラクターデザインに比べると、脚光を浴びる機会は多くない。しかし、キャラクターの個性を引き立たせ、様々な物語を演出する大切な要素だ。東村氏はコンセプトアートのデザインを「歴史と文化を考える仕事」だといい、その重要性と奥深さを語った。
 
最後に、梁井氏は「上手な絵を描くことではなく、独創的な想像力を大事にしてほしい。技術は後から付いてくる」と、未来のゲームクリエイターたちにエールを送り、講演を締めくくった。
 


 
 

■「コマさん」誕生秘話…ポイントは顔のカタチ


次のセッションでは、「愛されるキャラクターデザインとは」と題して、レベルファイブの人気キャラクターを生み出した長野拓造氏(写真中央)と田中美穂氏(写真右)、そして、モデレーターとして代表取締役社長/CEOの日野晃博氏(写真左)が登壇した。
 

まずは、長野氏への質問からセッションが始まった。長野氏は、社内でも評判になるほど「描くのが早い」という。デザインを早く仕上げるための秘訣とはどのようなものなのだろうか。

長野氏の回答はシンプルだ。普段から多くの人と関わりながら仕事をしているため、関係者を待たせないためにも「早く仕上げることを心掛けている」とのこと。時間を無駄にしないように、「決めたら、まず描いて」しまい、早い段階でフィードバックをもらう。フィードバックを重ねるうちに、OKをもらえる勘所が身につき、「描くスピードがさらに上がった」と話す。可愛らしいキャラクターも、ストイックな仕事ぶりから生まれているようだ。

長野氏は、「レイトン」「イナズマイレブン」「妖怪ウォッチ」各シリーズなど、多数のタイトルにキャラクターデザイナーとして参加してきた。かなりデフォルメが効いたデザインから、等身の高い格好良いキャラクターまで、同じ人物によるデザインとは思えないほどバラエティに富んでいる。この点について、日野氏から「どうやって作品ごとに頭を切り替えているのか」という質問があった。


 
長野氏は、まず主人公のデザインから始めるという。その際、作品を遊んでくれる人の年代を考慮し、年齢に合わせた情報量となるように「線の多さ、図形の複雑さ、等身」などを調整する。例えば、「イナズマイレブン」シリーズのキャラクターは、小学中学年~高学年の男子をメインターゲットに意識して、デザインされているのだそうだ。主人公のデザインができた後、他のキャラクターは主人公のテイストに沿ってデザインが行われていくこととなる。

続いて、田中氏にも質問が向けられた。田中氏はレベルファイブ設立時からデザイナーとして参加し、現在は「妖怪ウォッチ」のキャラクターデザインを担当している。あの人気キャラクター「コマさん」の生みの親でもある。「コマさん」はどのような経緯で生まれ、あのデザインとなったのだろうか。
 
「コマさん」誕生のきっかけは、「ジバニャンの隣に並ぶ、友達のような妖怪をデザインしたい」という田中氏のアイディアだったという。「赤い猫」であるジバニャンに対し、「白い犬(狛犬)」というイメージが浮かび、コマさんの着想に至ったのだそうだ。

デザインにおいては、「顔の形がポイント」となっており、丸形のジバニャンに比べ、扁平な円(豆型)のシルエットが盛り込まれている。目の形も豆型で、「とろっとした円」によって、おっとりしたコマさんの性格が表現されていることがわかる。


 


次に、日野氏から二人へ「キャラクターデザインをしていて一番嬉しかったことは?」と質問があった。両氏は、「スタッフロールに自分の名前が載ったこと」を挙げた。また、田中氏は次世代ワールドホビーフェアでのエピソードに触れ、「お客さんの喜ぶ顔を直接見たときは本当に感動でした」と、感慨深く語った。



最後に、キャラクターデザイナーという仕事について、長野氏は「作品の世界観の入り口に立つ人」だといい、「最初は悩むこともあるかもしれないが、デザイナーになりたいという気持ちを持ち続けてほしい」と語った。

自分が生み出したキャラクターは、デザイナーの手を離れた後もグッズやアニメとして影響を与え続け、作品に関わり続けることができる。これが、キャラクターデザイナーならではのやり甲斐となっているのだろう。続いて田中氏は、デザイナーを志望する学生に向け、「いつか同じところで働けることを楽しみにしています」と応援のメッセージを送った。
 
(取材・文:Pick UPs! 神谷美恵<Twitter>)
 
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株式会社レベルファイブ
http://www.level5.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社レベルファイブ
設立
1998年10月
代表者
代表者 日野 晃博
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