【セミナー】ヨコオタロウ氏×加藤正人氏の対談が実現した「Flyers’ Lab #2」をレポート…"やりたくないことをやらない”ことが大切
グリー<3632>のアプリ開発スタジオ「Wright Flyer Studios」は、11月13日、業界交流イベント「Flyers’ Lab #2」を開催した。
第2回となる今回は、『ニーアシリーズ』『ドラッグ・オン・ドラグーンシリーズ』『SINoALICE』などを手掛けたことで知られる、ブッコロのヨコオタロウ氏を招き、『アナザーエデン 時空を超える猫』のメインシナリオを手掛けたWright Flyer Studiosの加藤正人氏と「ゲームの世界観」について自由に語り、考える会となっている。また、クリエイターたちの想いがゲームに宿るプロセス、瞬間について、ポケラボの前田翔悟氏やWright Flyer Studiosの古屋海斗氏ら実際の開発メンバーと共に当時の振り返りなどを行った。
本稿では、当日の様子をレポートしていく。
■「Flyers’ Lab」とは
■座談会I「ゲームの世界観」について
セミナーの前半では、ブッコロのヨコオタロウ氏、Wright Flyer Studiosの加藤正人氏、モデレーターを務める下田翔大氏の3名が登壇し、3つのテーマでゲームの世界観についての話を展開した。
●ヨコオタロウ氏
1994年にナムコ(現:バンダイナムコゲームス)にCGデザイナーとして入社後、ソニーコンピュータエンタテインメント、キャビア(現:マーベラス)、無職を経て現在はブッコロ代表取締役となってしまう。映像やゲームのディレクションを始め、世界観設定やシナリオ作成に携わる。代表作に『ニーアシリーズ』『ドラッグ・オン・ドラグーンシリーズ』『SINoALICE』。
※ヨコオ氏は写真NGのためエミールの姿で登壇。
●加藤正人氏
テクモ(現:コーエーテクモホールディングス)で『キャプテン翼(ファミコン版)』、『忍者龍剣伝』I~IIIでゲーム業界デビュー。以後、ガイナックスで『プリンセスメーカー2』、スクウェア(現:スクウェア・エニックス)で『クロノ・シリーズ』、『ゼノギアス』、フリーとなってから、『ファイナルファンタジーXI』、『バテン・カイトス』、『風来のシレン』3~5などのタイトルに、シナリオ・演出として参加。2015年にグリー入社し、『アナザーエデン 時空を超える猫』(以下、『アナザーエデン』)に携わる。
●下田翔大氏(モデレーター)
スクウェア・エニックスでのリードプランナー、ディレクターを経て、2012年よりグリーに入社。いくつかのアプリ開発に関わった後、Wright Flyer Studiosに立ち上げメンバーとして参画。『消滅都市』のシリーズディレクター。
1.創りあげてきた「世界観」の着想はどこからきているのか? アイデアの源泉は?
こちらのテーマについては、まず加藤氏が「ものを作ることはその人の全て」だと答える。「それまでの人生で何を見て、何を聞き、何を感じたか。自分の中にあるものを、時間をかけてスープをぐつぐつと煮込むようにして、そのとき出来上がったものを提出している」と語った。そのため、特定のものからヒントを得たり、普段からネタ帳を作っているということはなく、自分が生きてきたことの証として作品を差し出しているとの話だった。
一方、クリエイターを目指すきっかけを問われたヨコオ氏は、子供の頃からゲーム作りに携わりたいと考えてはいたものの、大きな決め手となったのは大学時代に読んだ小説からだと答える。新しいビジョンを示せることが素晴らしいと思いクリエイターの道に踏み出したとの経緯が聞けた。また、もの作りに際しては”新しい体験”というところにはこだわりを持って制作しており、ゴールにある新しさが大事だと続けた。
これまでヨコオ氏が手掛けた作品をプレイして「心を揺さぶられる感覚を得た」という下田氏に対しても「(自身の作品では)答えを提示することやこう思って欲しいということはなく、色々と感じられるものであって欲しいと思いながら作っています」とヨコオ氏は話した。受け取り手が感じる部分を任せるということについては加藤氏も同意なようで、『アナザーエデン』でも自分の作りたいものを本気で作るという気持ちで制作に取り組んでいるということだった。
ここで話は冒頭の「アイデアの源泉について」の話題に戻り、今度はヨコオ氏がこの質問に対して回答していく。まず「自分のアイデアに価値がないと思っている」と切り出したヨコオ氏は、資金や規模が重要で、「例えば3人しかいない中、巨大なRPG世界は作れない。予算や座組がどういったものかを確認してからがスタートだ」と話す。そのうえで、アイデア自体より、生まれてきたアイデアをどのように実現させるかという点にコストを割いていると説明した。
2.そもそもゲームの「世界観」とはご自身にとってどんなものか?
続く2つ目のテーマでは加藤氏が「最初にあるのは世界観やキャラではなく、”どんな面白い・新しいゲームができるか”ということから発想して考えていく」とコメント。あくまでもゲームが全ての根本にあり、ゲームの舞台としての世界という形で作り上げるので、世界観のみで考えることはないとのことだ。
そんな加藤氏は、キャラや風景、ダンジョンの落書きからスタートすることが多いとの話も。無から有が生み出せないように、何かをアウトプットするためには常にインプットが必要となるので、日頃から知識を蓄えておき、必要なときに自分の中から出せるようにしているのだと冒頭の話にも繋げた。
▲会場では実際に当時、加藤氏が描いたイラストや設定が公開された。
一方、先ほどの話にもあったように「最後にある感情のゴールを大事にしている」というヨコオ氏は、そのゴールに向かうために必要な情報は入れたいが、逆に必要のないものは極力入れないようにしていると話す。決まったリソースに対して何を作るかとなったとき、話の大筋に対して必要な世界はこういうものであるというのが逆に生まれてくるので、後から埋めていくようなイメージでもあるという。そうすることで、物語と世界が連動する意味も生まれるとのことだ。
その後ヨコオ氏は、そもそも作品として世界の中を彷徨うことそのものに喜びを見出せるようなタイトルであればこの限りではないが、自分の場合は人間同士の群像劇を描くことが多いので、そうした場合はユーザーが世界観を学ぶこと自体がコストになってしまうと理由を語った。
3.クリエイターとして、何を大切にしているか?
3つ目のテーマでは、先ほどの話にも繋がる形でヨコオ氏から話を展開。『ドラッグ オン ドラグーン』の地形を例に挙げ、開発当時、プロデューサーから「国や地形の名前を付けて世界観を作って欲しい」と言われたが、ユニークな名前を付けることでユーザーに覚えるコストをかけてもらいたくないとの想いから「森の国」「海の国」と分かりやすい形で表現し、作中で明確な国名を出さない方向に物語を転換させた経緯があると明かした。
こうした経験からヨコオ氏は”やりたくないことをやらない”ことをクリエイターとして大切にしていると話した。嫌だと思ったことを「嫌だ」と言い続けるのは凄く大変だが、言い続けることが大事とのことだ。その一方で、自分が関わっている範囲で嫌なことがあれば相手を説得して良いと思えるまで改善を重ねていくことが良い結果に繋がるとも説明した。
続いて、チームメンバーとのやり取りをどのように行っているか問われた加藤氏は、加藤氏の案を受け取ったメンバーが自分なりの手法で作り上げていくことの連続だと語る。その際には想像以上のものが返ってきて衝撃を受けることも少なくないようで、互いに全力を尽くしながらクリエイティブに励んでいるとの開発エピソードが聞けた。
▲実際に加藤氏が描いたダンジョンのラフ画。
また加藤氏は、作りたいものを提示するのが作り手の使命とする一方で、自分の作ったものにこだわらないともいう。これはチームの方向性と一定のクオリティさえ保たれていれば、基にあるグラフィックを忠実に再現する必要はなく、むしろより面白いものを提示して欲しいとのことだ。
▲『アナザーエデン』に登場する幻視胎は、元々加藤氏が「いつか物的な資源ではなく、霊的な資源で戦うゲームを作りたい」と抱いていたアイデアが基になったという裏話も。
そんな加藤氏は、クリエイティブにおいて”オリジナリティ”を大切にしていると続ける。今までは専門的な知識を持っていることで人々に驚きを与えることも可能だったが、昨今ではネットが普及し、誰もが簡単に情報を得ることが可能になったため、知識の蓄えのみでは戦い抜くことが厳しいという時代背景があるという。そのため、クリエイターとしては、与えられた資料を自分のものにしてアウトプットできるかが大事になると答えた。
■座談会II「世界観」がゲームに宿るまで
セミナーの後半では、ヨコオ氏と共に『SINoALICE』を開発・運営しているポケラボの前田翔悟氏、加藤氏と共に『アナザーエデン』を開発・運営するWright Flyer Studiosの古屋海斗氏を加え、さらに3つの質問にそれぞれ答えていく形となった。
●前田翔悟氏
新卒で日立システムズに入社。エンジニアとプロジェクトマネージャーを経験後、2012年よりポケラボに入社。会社の成長と共に複数タイトルのプロデューサーを経て、『SINoALICE』の企画からプロデューサーとしてサービスを立ち上げる。現在も同タイトルの運営全般を統括する。
●古屋海斗氏
2012年、新卒でグリーに入社。新規事業立ち上げや他社協業案件のプロジェクトマネージャーを経験後、新規タイトルの開発プランナーを経て、Wright Flyer Studiosにて『アナザーエデン 時空を超える猫』の立ち上げに関わる。現在は同コンテンツのディレクターとして、主に企画とシナリオ統括に従事。
1.『SINoALICE』と『アナザーエデン』、それぞれの世界観は実際にどのように作られたのか?
このテーマには、ソーシャルゲームを作り続けてきたポケラボの前田氏が、これまでコンシューマーゲームを作ってきたヨコオ氏との間に最初はギャップを感じたこともあると語る。しかし、その中でも世界観やシナリオはヨコオ氏を信頼して任せ、運営の部分をポケラボが担当することで上手く役割分担ができたのではないかと分析した。
『アナザーエデン』については、ゴールデンウィーク前に加藤氏にシナリオの構想を伝えたら休み明けにはワード100ページ分のデータが出来上がっており、その中には今の『アナザーエデン』の骨子となる世界観や大枠のシナリオがほぼ組み込まれていたと古屋氏が振り返った。
▲作中に登場するキャラ「魔獣王」の制作過程を紹介。先ほどの話にもあった通り、開発メンバーにも加藤氏から提案されたものに対して「想像を超えたもので返したい」との想いはしっかりと根付いているようだ。
チーム内でも、互いをリスペクトしながらもクリエイティブについては年齢や職種、立場など関係なく、同じ作り手としてとにかく面白いものが採用される環境が構築できているとの話だ。これまでの経験から加藤氏も、みんなで同じ方向を目指して全力疾走できているときはチームとしても勢いがあるときで、今はそういった状態にあると内情を明かした。
2.その世界観を実現する上での工夫(UIやデザイン等)とは?
ヨコオ氏との最初の打ち合わせで世界観だけでなくUIの話が多かったことに驚いたという前田氏は、UIデザインのやり取りの際にも、作ったものを見せながらヨコオ氏のイメージを徐々にチームに刷り合わせていったと話す。ヨコオ氏も最初は世界のトンマナや空気感、グラフィックの方向性について話すことは多かったが、一度決まってからはスムーズに進行するようになり、最近では一発OKも出るようになってきたという。
一方、『アナザーエデン』ではシステム的に新しいことに挑戦しているということもあり、UIは透明感があって冒険を阻害しないものに仕上げているとのこと。
ここで下田氏が、『アナザーエデン』開発の中盤でキャラの等身や背景の色味などデザインが全て変更になった経緯を問うと、古屋氏はリリース前の放送で発表したところユーザーに受け入れてもらえなかったこと、加藤氏の世界観ともそぐわなかったことが決め手となり変更に踏み切ったと答えた。
3.今回このチームでゲームを創ってどうでしたか?
最後のテーマではヨコオ氏が、「実際に触れ合う時間は短いものの、ポケラボさんの熱意や吸収力、あらゆる面で凄いスピード感をもって進化していることを実感しました」と話す。その中で、将来何か凄いものを作るのではないかという期待感も生まれたとのことだった。
その一方で前田氏としては、ヨコオ氏からポケラボの若手に対して教えていただける部分も多く、その教えがメンバーに浸透した結果、良い仕事ができたのではないかと語った。さらに、ヨコオ氏から言われたことをただ実行するのではなく、その言葉を自分なりに受け止めたうえでさらに良いものを作れたのではないかとまとめた。
Wright Flyer Studiosで『アナザーエデン』を作り上げた加藤氏は「昨今のコンシューマー開発の現場は大規模な組織での開発が前提となっているが、『アナザーエデン』では、ひとりひとりの作業を間近で見られるような規模となっていた。そのため、ファミコンやスーパーファミコンのソフトを作っていた頃の感覚に近い懐かしさを感じつつも、スマホという現代の最新技術を使っている感覚を味わえて楽しかった」と率直な感想を口にした。最後に、「好きなものを作って世に出した際、ユーザーから「面白いよ!」と言っていただければそれが作り手として1番幸せなことだと思うので、『アナザーエデン』に携われて良かったです」とまとめた。
今回も大好評となった「Flyers’ Lab」は、第3回の開催を12月18日に予定している。次回は、「運営」をテーマに、f4samuraiの最高マーケティング責任者である佐藤允紀氏、ディー・エヌ・エーで『逆転オセロニア』プロデューサーを務める香城卓氏、Wright Flyer Studiosで『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~メモリア・フレーゼ~』でプロデューサーを務める野澤武人氏の講演が行われるとのことだ。こちらの開催も、引き続き楽しみに待ちたい。
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(取材・文 編集部:山岡広樹)
会社情報
- 会社名
- 株式会社ポケラボ
- 設立
- 2007年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 前田 悠太
会社情報
- 会社名
- 株式会社WFS
- 設立
- 2014年2月
- 代表者
- 代表取締役社長 柳原 陽太