【NDC18】Pixelberryオリバー・ミャオ社長がネクソングループに入った理由を語る…北米のストーリージャンル市場についてもインタビュー

ネクソン<3659>連結子会社のNEXON Koreaは、4月24日~26日の3日間、韓国最大規模のゲーム開発者向けカンファレンス「Nexon Developers Conference 18(NDC18)」を開催した。
 
本稿では、本イベント期間中、日本メディア向けにPixelberry Studios エグゼクティブチームCEOのオリバー・ミャオ氏へインタビューする機会をいただけたので、その内容をお届けしていく。
 
なお、Pixelberry Studiosが提供するモバイル向けストーリーゲーム『Choices: Stories You Play』について、オリバー氏が講演したセッションについても別途、公開している。こちらの記事では、オリバー氏の経歴やPixelberry Studios設立の経緯についても語られているので、是非とも参考にしていただきたい。
 
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▲Pixelberry Studiosのオリバー・ミャオ氏。
 
インタビュー開始前には、オリバー氏からネクソングループに入ったきっかけが語られた。オリバー氏は、『Choices: Stories You Play』のヒットで多くのオファーがあった中から、ネクソンと一緒になろうと決めたのには3つの理由があると話す。
 
ひとつめは”働く人々”だ。ネクソンの方々は頭が良く、貪欲さがあるという。さらに、実際に触れ合ってみて非常に良い人たちだったことからこの先、何年も共に働いていきたいと思えたことが大きかったようだ。オリバー氏は、今後、Pixelberryを新しいメディアフォーマットにしていくためには少なくとも10年~20年かかると見ていると述べる。そうした理由から、長く働ける人たちと一緒になることが重要な要素のひとつであったことを明かした。
 
そして、2つ目は『メイプルストーリー』や『アラド戦記』など、ネクソンが10年以上続く長期運営タイトルを多数所持していたことだという。その中で何よりも凄いと感じているのは、売り上げの過去最高額が今であることだ。オリバー氏は、『Choices: Stories You Play』も長い間、ユーザーから愛されるタイトルであってほしいと願っているため、長期間売り上げを維持しながらユーザーに愛されているタイトルを持つネクソンに興味が湧き、ノウハウを学んでみたいと思えたのだと話した。
 
最後はネクソンがグローバルカンパニーであること。創立は韓国だが、本社は日本に置いている。さらに、現在の社長はアメリカ人であるオーウェン氏が務めているという経営体制から世界市場を見据えていることが伺えると語る。現段階で『Choices: Stories You Play』のアジア配信は未定だが、中長期的には配信されることを願っていると今後の展望を明かした。また、映画やテレビドラマを見ても分かるように良いストーリーは国境を超えて愛される。そして、その中枢にあるのは良いライターによって描かれたストーリーであるという。アジア配信が決まった際には、現地(ローカル)の方々に支持される内容にしていきたいと話した。一方で、どのようにすれば素晴らしいストーリーを描けるかという点についてはPixelberryから伝えられるところがあると自信を覗かせた。


 
以上のコメントも踏まえたうえで、ここからはオリバー氏へのインタビューをお届けしていく。

――:ネクソングループに入ってから何が変わりましたか?
 
我々は過去2回の買収を経験しています。そのため、ネクソングループに入るという決断には慎重な判断が求められました。ですが、ネクソングループに入るということに我々は現実的なイメージを持てたのです。小さな会社が大きな会社にマージすることは簡単ではなく、合流して4ヶ月が経ちましたが、その結果は想像を超えて良い内容となっています。
 
何よりも良いと感じるは、ネクソンが私たちのことをストーリージャンルのエキスパートと理解し、ネクソンにはないノウハウを持っていると自覚されていることです。なので、ネクソンから日々のオペレーションに対して細かい指示はなく、私たちの自主性に任せてくれています。しかし、一方で私たちは小さな会社なので大きな会社が持つリソースの提供が非常にありがたいのです。例えば、マーケティング面のサポートのおかげで売上ランキングの最高順位である8位を記録することができました。他にも、データを管理し、今後どのように活用していくかという点では多くのノウハウを得られています。

 
――:ネクソングループに入ったことで、どのような新しいことに挑戦できますか?
 
最初に背景からお話しさせていただきますと、ネクソン側が我々に興味を持ったのはストーリージャンルが持つ未来のビジョンを共有できていたという点があります。ネクソンの歴史を見ると、『カートライダー』のようにカジュアルなゲームから、『アラド戦記』のようにアクションが豊富なものまで、過去には様々なジャンルを展開しています。そういった意味では、我々が彼らのやったことのないジャンルを作っているという点が興味を持たれた理由だと思います。『Choices: Stories You Play』で新しいメディアフォーマットを実現するため、ネクソンは自らが持っているリソースを全て使って彼らが挑戦したことのないジャンルを育てていくことができるわけです。
 
なので、やはり究極の望みは我々がトップのニュープラットフォームになることです。より具体的に申し上げますと、先ほど申し上げた通りアジアマーケットへの理解を深めたいという点があります。ネクソングループに入ってから、中国・韓国・日本市場への知見は圧倒的に広がりました。将来的には、この3つの国でもスタジオをオープンし、現地の優秀なライターを採用したいと考えています。これは、ネクソンが『Choices: Stories You Play』をアジアマーケットに進出させてくれるというだけでなく、日本・中国・韓国で作ったコンテンツを逆に北米の方に持ち帰ることができます。アジアで作られたコンテンツは北米でも人気を博しておりますので、そういった意味でも非常に価値をもたらすことができるのではないかと思います。『Choices: Stories You Play』のプレイヤーはアニメが大好きですので、日本でアニメコンテンツを作って北米に持ち込むようなことができると嬉しいです。

 
――:そもそも何故ストーリージャンルのゲームを作ろうと考えられたのでしょうか。
 
理由のひとつは、当時、北米においてもモバイルゲーム市場の競争が激しくなっていたことが挙げられます。2004年なので今より小さな市場ではありますが、当時のベンチャーキャピタルから多くの投資をもらえた企業はありました。とにかく、より大きなブランドに対してのライセンシングが盛り上がった時期です。そんな中、小さな企業が大きな企業に勝つためには、他と違ったことをする必要がありました。
 
そこでビッグブランドに対してどのように差別化を図っていくかというと、まずひとつは内容がユニバーサルであるということ。どのような方にも同じように感じられるような内容であるということです。なので、我々は最初に高校をテーマにした『Surviving High School』を制作しました。高校をテーマにしたドラマや映画はアメリカにもたくさんありましたが、ゲームはあまり存在していませんでした。”高校”というのは、まだ高校に入っていない若い層にとっては憧れや願望があり、既に入学している者にとっても興味深いものだったと思います。また、高校を卒業している人にとっても、当時、こんなことができたら良かったということをゲームで実現できるかもしれません。そうした点から、高校というテーマは他の大企業との競争に勝つために非常に有効なジャンルだったと思います。
 
ただ、最初はストーリー中心ではなくRPGを想定していました。しかし、ゲーム開発を進めるうちに高校生活で何が肝になるかを考えたとき、戦いではなくストーリーであることに気付きました。例えば、ドキドキする入学初日や、新しい友人と出会ったり、体験をすることです。時にはいじわるな同級生への仕返しを考えたり、もちろんロマンスもあります。そうしたイベントを考えた際に、RPGではなくストーリージャンルにしようと思いました。結果として、最初に作った『Surviving High School』が成功を収めたことが、今もストーリージャンルを作り続けている理由になります。

 
――:日本でストーリージャンルを軸とした新作を作るとしたら、どのような点をフォーカスしますか?
 
その際には、日本拠点のスタジオをオープンして現地の人々を採用することが必須になります。既に私たちが展開しているものの一部は、日本のプレイヤーからも興味深いものになっているのではないでしょうか。もちろん、全てのストーリーがフィットするわけではないので、日本の環境に合わせる必要があります。その際には、日本の素晴らしいライターによって書かれたストーリーが日本のユーザーに受け入れられやすいと考えています。
 
――:Pixelberryでは、現在何名ほどのライターが在籍しているのでしょうか?
 
企業秘密に関わるので具体的な数字は明かせないのですが、世界的に見ても私たちほどライターを抱えている組織はないのではないでしょうか。
 
――:セッションではPixelberryからライターが流出することがないというお話もありましたが、職員にとって働きやすい職場環境を維持する秘訣は何だと思いますか?
 
特別なポリシーがあるわけではないのです。過去、共に困難を乗り越えて長く一緒に働いてきたということが秘訣ではないでしょうか。その中でも中心のメンバー同士は恋愛・結婚・出産など互いのことを全て知っているので深い絆が生まれます。人生の友と仕事をしているという感覚があります。こうした空気から生まれる身近な距離感は、新しく入ってきた人にとっても魅力的なものに感じられると思います。
 
もうひとつは、とにかく自分たちがしていることを楽しんでいるということです。私たちのCOO(最高執行責任者)は、出会ったときはジュニアライターでした。時が経つにつれ責任の大きなポジションに移っていきましたが、彼女にとってストーリーを書くことは何よりも好きなことなので、COOに就任した今も作業時間の半分はストーリーライティングに費やしています。ライターにとって、自ら書いたストーリーを伝えるというのは情熱を持って行える仕事です。

 
――:時代の変化に応じてライターになりたい人は増えてきたと感じますか? また、Pixelberryに入社したいという方も多いのではないでしょうか。
 
ここ数年で、間違いなくライターのクオリティが上がったと感じています。Pixelberryでは、ライターを1名募集したところ1000名以上の応募がありました。このことからも、10年前に比べて、ゲームジャンルでストーリーを描くことの地位が高くなったと感じています。今では、子供の頃から小説ではなくゲームのためにストーリーを描きたいという人もいるほどです。そんな中、私が最も嬉しかったのは『Choices: Stories You Play』のストーリーを描きたいと言って入社してくれた人です。従業員とも『Choices: Stories You Play』が好きという気持ちを共有できていると思います。これは、多彩なジャンルでストーリーを展開しているからこそ、ファンが生まれやすいのではないかと考えています。もしかしたら興味のないジャンルもあるかもしれませんが、何かひとつ惹かれるところがあるのではないでしょうか。
 
――:一方、読者については増えていると感じますか? また、好みの変化などはあるのでしょうか?
 
読者層に関しては増えていないと思います。ストーリーではなく本というジャンルで見るなら間違いなく縮小していますが、”読む”という行為に関しては10年前より今の方が多くの時間を費やしているのではないでしょうか。それは、スマホで”読む”ことが増加しているからです。それはニュースかもしれませんし、友人のSNSかもしれません。Web上で”読む”という行為は間違いなく増加しています。
 
また、プレイヤーからも同じようなコメントを得ています。彼らは、本を読むことは好きではないが、『Choices: Stories You Play』は好きだと言います。本を好きではない人も”読む”という行為を楽しんでいる、そこにはインタラクティブ性があります。グラフィックに惹かれてゲームを始めたユーザーにも同じことが言えるように、増えた、減ったというよりは”読む”姿勢が変わってきたのだと捉えています。

 
――:本日はありがとうございました。
 
 
 (取材・文 編集部:山岡広樹)



■関連サイト
 

NDC公式サイト(韓国語、英語のみ)

株式会社ネクソン
http://www.nexon.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社ネクソン
設立
2002年12月
代表者
代表取締役社長 イ・ジョンホン(李 政憲)/代表取締役CFO 植村 士朗
決算期
12月
直近業績
売上収益4233億5600万円、営業利益1347億4500万円、最終利益706億0900万円(2023年12月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3659
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NEXON Korea(ネクソンコリア)

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